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第三章)新たな輝星② 《迷宮》

 地方の主(エリアボス)である牛鬼人(ミノタウロス)討伐を果たし、報酬を受け取った僕達は、隣の区画にある武器ギルドへ向かう。

そろそろ注文しておいた装備も出来上がった頃だろう。


 あれから二年、僕達は強くなった。

ラケイン、リリィロッシュと冒険者パーティを組み、《反逆者(リベリオン)》の名前もそこそこ知れ渡るようになってきた。

パーティとしてはBランク(上級)になるが、僕達個人でもそれぞれが同ランク上位の実力を持っている。


 ラケインは、全身甲冑(フルプレートメイル)に防御を任せ、大振りの大剣を片手で振るう重量型(パワースタイル)の戦士だ。

その剣技は、さらに研ぎ澄まされ、普通のサイズの長剣を使ってでさえ、剣士としては学園の頂点に立っている。


 リリィロッシュは、特別担任という立場からパーティに加わっている。

親友の形見という魔鎧と半弧の大剣〈狐月大刀(シルバーテイル)〉はそのままに、しかし、近接主体の戦士から、広範囲高出力の魔導師へとその役割を変えた。

魔法を不得手としているリリィロッシュだが、魔族としてでなく、人間の冒険者として見ればその力はずば抜けている。

流石は高位魔族の面目躍如という事だ。


 そして僕も、ラケインにこそ剣の腕では勝てないが、並の戦士課の学生にならば遅れは取らない。

その上、奇襲用の魔弓〈時喰み(ゼロ)〉に加え、第四位階(高位級)の魔法まで使うことができるようになった。

このパーティにおける僕の役割は、前~中衛の魔法使い。

即ち魔法剣士だ。


 近接攻撃(アタッカー)兼、防御盾(タンク)役のラケイン。

近接攻撃(アタッカー)をサポートしつつ、中距離魔法(ミドルレンジ)での高速戦闘を得意とする僕。

広範囲魔法(オーバーレンジ)での対軍戦闘を得意とし、対人戦闘でも心強いリリィロッシュ。


 役に立たないが当たればでかい、と揶揄される魔法使いだが、僕たちのレベルともなれば完全に破壊兵器といえる。

高位の戦士が守り、タイプの違う魔法使いが二人もいるこのパーティは、自信過剰でもなく間違いなく強い。

自分たちのことながら恐ろしい限りだ。


 そういえば、Bランク(上級)といえば、かつてヒゲが登録されていたランクだが、やっぱりあいつ強かったんだなぁ。

自分のことも含まれるので幾分こそばゆいが、Bランクといえば、普段目にする冒険者の中では最精鋭と言って過言ではない。

一般的には、〈大隊級〉、数百人以上の兵士と同等の実力と言われている。

実際には、それほどの部隊なら、それこそBランク級の実力者が率いているだろうから、単純には換算出来ないが、もう人間としてどうなの、と思うほどには桁違いの実力者の集団だ。


 ちなみに、その上のAランクだと数千人規模の〈師団級〉。

最高ランクのSランクは、数万人規模の〈国家級〉と言われている。

ここまで来ると、吟遊詩人の詩歌となったり、おとぎ話の主人公になったりと、いわゆる英雄扱いされるようになる。

無論、僕の目指す『勇者』や『魔王』なんかは、Sランクに分類される。

まだまだ遠い道のりだ。




 そうしているうちに武器ギルドに到着する。

ギルドとは言うが、実際は商品の展示場だ。

秘匿する技術や個人主義の強い職人たちだ。

一人きりではなかなか商売として成立しない。

そこで、職人が自分の品を持ち寄って大勢のお客に展示する場。

それが武器ギルドだ。

大口の依頼の割り振りや在庫管理、品質管理など、顧客にもメリットがある一方、職人たちからすれば、他の職人の作った品を観察できるチャンスであり、売れ筋を確認することで収入を得やすくなったりと利点がかなりあるらしい。


 今日来ているのは、武器ギルド《迷宮(ラビリンス)》。

ここはノガルドどころか、世界的にも有数の規模を持つ上級ギルドだ。

大手、ではなく上級と名がつくのには訳がある。

職人といえば性格のクセが強いものなのだが、ここはギルドもクセが強すぎる。

見た目には、《砂漠の鼠デザート・チュウ》と同規模くらいの、まぁ言ってしまえば大きめの小屋程度の倉庫である。

それが一度中へ入ると、まさに〈迷宮〉と化す。


 ギルドへと入ると、展示フロアには、初心者用の装備がところ狭しと並べられている。

樽には新人の作だろう安い長剣(ブレードソード)が放り込まれ、同じく新人の物らしい槍が無造作に壁に立てかけられている。

鎧なども人形に飾られるようなことも無く、箱詰めにして一式まとめられているような状態だ。

だがそれらに混じって、これは、という一品も同様に投げ捨てられているのが恐ろしい。

これらは、名のある名工によるものではなく、才能ある若手の(スミス)による逸品だ。


 ここの職員たちはかなり性格が悪い。

見習いの品もこういう逸品もあえて分けずに無造作に展示してある。

流石に名工による目を引く逸品なんかは目立つように展示がしてあるが、十把一絡げの有象無象の中にも名作が埋もれているのだ。

つまり、客の見る目を試している。


 それでも本当のなまくらなんかは絶対に置いていないので、そこは安心していい。

職員たちの見る目もまた超一流だ。

最低でも、新人冒険者がちゃんと手入れすれば長く使える程度の価格と性能は保証されている。

それ以上の質を求めるなら、きちんと目を磨いてこい、という訳だ。


 しかも、これで終わらないのがこの《迷宮(ラビリンス)》だ。

よく見れば商品の山に隠されたように、下へ・・と続く階段があちこちに隠されている。

そう、このギルドは、地下へ広がっているのだ。


 実力のない客は、階段を降りることが出来ない。

いや、見つけることさえできない。

それはいかなる魔術か、実力のないものには決して見つからず、たとえ知っていたとしても、その階段は目に入らない。

しかし、力をつけると、ある日ふと気づけるようになるのだ。

そして階下へ進むほどに、売られる装備の質も値段も跳ね上がる。

噂では、世界中に《迷宮(ラビリンス)》は存在し、地下以降の店内は全て異空間魔法で繋がっているとも言われている。

しかし、大陸中を移動するような冒険者にはめったに出会わないため、噂だけが独り歩きしているとも考えられる。


 いずれにしろ、謎とロマンと、確かな品質をもつ最高の武器商店。

それがこの《迷宮(ラビリンス)》だ。




 店内へ入ると、三組程の新人冒険者が来ていた。

パーティで短剣を探しているようだったが、あぁ、それじゃない。

その横の赤い方が掘り出し物だよ、と心の中で叫びつつカウンターへ向かう。

そこには、機嫌の悪そうな老人が座っていた。


 イライラしていて、今にも怒鳴り散らしそうな顔。

どっかりと座りながら、肘をカウンターにつき頬杖(ほおづえ)をして店内を睨みつけている。

深い皺の奥にある瞳が、ギラっと光を放つ。

気難しい昔気質(むかしかたぎ)の職人とはまさにこの事か。


 しかし、実際のところこの老人、めちゃくちゃに親切なのだ。

変人ばかりのこのギルドの職員の中では、唯一と言っていいほどの常識人だ。

ラケインがおしゃべり好きか、と思えるほどに無口、いや、話したところを見たことがないし、いつも怒っていそうな顔でじろりと客を睨みつける。


 だが、新人が自分に合わない装備を手にすればその品は売らないし、使い方を尋ねれば、黙って実演してくれる。

目当てがある客には、ぶっきらぼうに指をさして案内する。

いつも店内を睨んでいるのは、新人が心配で見守ってくれているのだ。

顔が怖いだけで、親切と面倒見の塊のような人だ。


 もっとも、誰もまともに話したところを見たことがないので、名前すら知らない。

だから皆、〈迷宮の翁(巌窟王)〉と呼んでいる。


「こんにちは。アロウですけど頼んでいた装備は出来ていますか?」


 翁に極めて明るく訊ねる。

翁は、僕をジロリと睨みつけると、ムスッとした様子で階段の方へとアゴをやる。


「ありがとうございます!」


 このやり取りももう慣れたものだ。

僕たちの適正階数は地下三階。

黙って階段へ行ってもいいのだが、いつも人に怖がられる翁は、こうして挨拶するだけで、すごく喜ぶのだ。

不機嫌そうにするし、喜んだ素振りなど見えない。

だが、声をかけたその後は、ソワソワしてお節介に拍車がかかるのだ。

だからといって、商品を安くしてくれる訳では無いが、翁との付き合いももう長い。

喜んでくれるなら、こうして声をかけるのが礼儀というものだ。


 僕達は、地下三階の売り場へと移動する。

階段を降りる度に、商品の陳列は雑になり、いよいよ迷宮の様相になっていく。

目を見張るような値段の剣が、床に転がっていたり、精霊の祝福を受けた鎧が、壁ですらない岩肌に引っかかっていたりする。

目の前で岩に突き刺さっている大剣は、おそらく月銀鉱(ミスリル)製の魔剣だろう。

ゴロゴロと文字どおりに転がっている武器や鎧を物色しながら、カウンターへと向かう。

本物の迷宮と化しているこの洞窟では、カウンターを見つけるのも一苦労だ。


「おかえりー。そろそろ来る頃だと思っていたよ」


 地下三階の受付は、ドワーフの少女だ。

ちなみに地下一階と兼任しているらしい。

初めて地下三階を訪れた時にはびっくりしたものだ。

おそらく職員専用の通路でもあるのだろう。

三階へ降りた客がいると、さっとこちらへ移動するのだそう。

見た目には、僕達よりすこし若いくらいだが、人間の三倍という寿命を持つドワーフだ。

恐らくは歳上なのだろう。

聞いたことはないが、一階の翁もドワーフなのかもしれない。


「こんにちは。頼んでいたものを取りに来たんだけど」


 そう声を書けると、少女は、カウンターの奥から包みを四つ・・取り出す。


「はいっ。注文の品だよ。頼まれていた特徴はクリアさせてるけど、使用感に問題あったら調整するから言ってね」


 それでは、と手を伸ばすと、包みをスッと下げられる。


「いつもニコニコ現金払いで♪」


……そうだった。

この少女はことのほか、お金に厳しい。

もう何度も顔を合わせているのだから、多少信用してくれてもいいと思うのだが、この人は、支払い前の商品は絶対に手渡さない。

満面の笑顔なのだが、いつもその瞳にはG(ガウ)の文字が映っている気がしてならない。


「ごめんごめん、120万ガウだね。前払いの分を抜いて50万ガウ。銀貨だけど確認して」


 前払いの方が高いとは、初めての経験だよ、まったく。


「はぃ~、まいど♪ さぁさ、これが注文の品だよ~♪」


 再び包みがカウンターにのせられる。

これが僕達の新しい装備。

さぁ、肩慣らしにでも行くか。

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