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色とりどりの花束を  作者: 葵
3/8

バラ(赤)

今でも時々思い出すことがある。恋に夢中になってた学生時代。

キラキラとしていた気がする日々。



「聞いてよー!今日もね、」


私は元気に部室のドアを開けた。中には呆れた顔をした2人の後輩がいて、こちらを見ていた。


「また鈴木先輩の話ですか?」


飽き飽きした声で悠がそう言った。2人によると、私は何かある度にこうして話しているらしい。


「だって、今日もかっこよかったんだもん」


「部長、その調子だとまた子供っぽいって思われますよ」


う、と息が詰まる。平均より少し低めの身長に幼い顔立ち。さすがに中学生には間違えられなくなってきたけど、同級生と並んでみると幾らか幼く見られてしまう。

前に座っている青葉と悠の方が見ようによっては歳上に見られるだろう。

気を引き締めないと。


「それで、部長どうしたんですか?」


少し笑いながら青葉がそう言った。悠曰く、教室では無表情を貫いているらしい。想像できないけど。


「ど、どうって、」


「話したそうにウズウズしてるので」


「天真爛漫なとこも良いとこだし、私達もいつも通り話くらいは聞きますよ」


悠まで少し楽しそうにそう言った。ここの後輩たちは本当にいい子だと改めて思う。

私も頬が緩みながら話し始めた。


「それでね、本当に優しくてカッコイイなって」


自分で話しながら顔が赤くなっていくのがわかる。でも、それくらいこの気持ちは抑えられないのだ。


「青さん、鈴木先輩ってそんなにカッコイイっけ?」


「さあ?どんな人かは正直わからないけど部長がここまで言うならかっこいい人なんじゃない?」


悠は何も分かっていない気がする。確かに、鈴木君は見た目が派手なタイプじゃないし、自分から目立つようなタイプじゃない。だからこそ、だ。


「悠、鈴木君はね、優しくてかっこいいのよ。さり気ない優しさに紳士的な態度が素敵なの」


「そ、そうなんですか」


若干引かれてる気がする。でも、気にしない。誰がなんと言おうと私が好きなのは彼だから。

そう心の中で宣言しつつ2人を見ると部活の準備に取り掛かっていた。こうしちゃおれん。私も準備しなければ。


「2人は好きな人いないの?」


部活終わりに何気なく聞いた。私ばかり話すのも気が引けるのと純粋に興味があった。


「わ、私は特には、」


「あまり興味無いので」


悠は少し上擦った声で、青葉は悲しそうな顔をしてそう言った。

2人も好きな人がいる。そう確信した。その日から私は2人の観察を始めた。

とはいえ、学年が違うので機会は限られる。何気なく2人の教室の前を通ってみたり、廊下ですれ違ってみたりと色々と試した。

そんな日々が何日か続いた頃、昼休みに青葉が告白されているところに出くわしてしまった。それも偶然。そして、その様子を見守る悠の姿も見つけた。


「ごめんなさい、」


青葉はそう一言相手に告げてその場を去っていった。相手は顔を伏せたまま、その表情を伺うことは出来なかったが、去っていく時に見えた青葉とそれを見つめる悠の瞳は悲しそうだった。


「おつかれ!あれ?青葉は?」


「部長お疲れ様です。青さんなら今日は用事があるって言ってましたよ」


「用事?」


「何でも、また先生に呼び出されたみたいですよ。それと、ベタな放課後告白」


悠にしては珍しくつまらなそうな顔でそう言った。


「へー。青葉って割と呼び出されてるの?」


「結構な頻度ですよ」


何がとは言わないが、悠はやっぱりつまらなそうにそう言った。


「部長は部長会でしたよね?何かあったんですか?」


「ああ、えっと、学園祭のことでね」


「学園祭?」


「うん。展示やることは前に言ったわよね?会議中に急にテーマを思いついて」


「それ、話はちゃんと聞いてきました?」


「バッチリよ。それでテーマは愛の告白にしようと思います」


「、、、は?」


しばしの沈黙の後、悠がそう言った。まるで理解できないというような、頭大丈夫か?と言わんばかりの視線だ。だけど、私は折れない。


「だから、愛の告白だって」


もう一度そう言って様子を伺う。

今度は何も言わずに視線だけで抗議をしている。器用なことで。


「いいでしょ?私の勇気に巻き込まれてよ」


「完全に事故る気じゃないですか」


建前の理由を言うとそう突っ込まれた。失礼な。


「事故るって失礼なこと言わないでよ。本気なんだから」


本音を言うと、2人に素直になって欲しいと思ったからだ。いつまでも苦しい顔をしている2人を見ていられなかった。


「それに、対象はなんでもいいから。アニメキャラでもゲームキャラでも。一緒に愛を叫びましょう」


「部長が決めたら頑固なのは知ってるけど、」


悠は折れる気になったみたいだ。残るは青葉か。

そして意外にも青葉は悩みつつも了承したらしい。

どの花を使うか決めてから花を発注した。ここまでは順調だった。

そして、事件は起きた。

目の前に広がる色とりどりの綺麗なバラたち。青ざめる私の顔そして、真っ白になる私の頭。目の前には驚いた顔の後輩2人。


「発注数を間違えました。ごめんなさい」


部室に入ってきた2人に放った第一声はこれだった。部長の威厳はどこにもない。小言は全て聞いた。さすがに怒ってる、そう思って顔を上げると、青葉が何かを考えるような素振りをしていた。

たまに怖くなる後輩に怯えつつも、その言葉を待った。怒られる覚悟は出来ている。


「わかりました。予定を変更してバラも使いますよ。使いきれなかった分はジャムとかドライフラワーにして先生たちに売って部費の足しにすればいいんじゃないですか?」


怒りではなく、提案を先にされて少し驚く。いや、先に小言は言われたか。

せっかく代案を出してくれたのだからそれに見合う働きをしなければ部長の名が廃る。


「青葉、それは名案ね。それじゃあ、張り切っていきましょう」


空気を変えるように、自分自身を鼓舞するように私は高らかに宣言した。


結果、青葉の機転により、どうにかなる事となった。ジャムも先生たちに好評でレシピを調達してアイデアを生み出してくれた青葉には頭が上がらない。


「当日の当番なんだけど、」


「昼前までの当番やりますよ」


青葉は素早くそう言った。私としては異存はない。


「青さん、いいの?だって、」


「部長はその間に告白でも済ませてきてくださいよ」


悠の言葉をさえぎってそう言った。何がなんでもこの時間帯がいいみたいだ。


「わかったわ。1人で大変だと感じたらいつでもフォローするからね」


「はい。それで、部長はどうするんですか?」


「え?なにが?」


「告白に決まってますよ。ついでにデートしてきたらどうですか?昼頃からは私が当番しとくんで」


ニヤニヤしながら悠がそう言った。顔に熱が集まってくるのがわかる。


「回るとこは決めてた方がいいですよ。混みそうだし」


学園祭の大まかなマップを見ながら青葉がそう言った。所々印をつけてる。


「あ、青さんも何気に楽しみにしてる?部長、オススメは3年5組のお化け屋敷ですよ」


地図を示しながらオススメしてくるけど。2人は予定がないのだろうか。


「部長、せっかくだからオシャレもしましょうよ。余ったバラならあるんで」


「青さん乗り気だね。ついでにメイクも少しいつもと変えて」


「ちょっと、2人はその、」


「なんですか?」


「いや、なんでもない」


私は2人にも告白を進めることは出来なかった。なんとなく、ダメな気がしたから。



当日の朝、青葉と悠によってヘアメイクをされた私は急いで教室に行った。朝のHRをしてから私たちは自由行動が許される。模擬店をするクラスはシフトを組んでいるらしいけどうちのクラスは舞台発表で発表は2日目の午後。1日目は十分な時間がある。


「あれ、清水さんのヘアアレンジ可愛いね」


「本当だ。どうしたの?」


クラスの数人にそう声をかけられた。少し急ぐ気持ちを隠して笑顔で向き合う。


「余ったバラを使って後輩がしてくれたの。変かな?」


「ううん、似合ってるよ。華道部だもんね」


「うん、暇だったらぜひ見に来てね」


宣伝もしつつ会話を終え、鈴木君を探す。いつもなら教室でゆっくりしてるのに今日に限ってそうそうに移動したみたい。


「急がないと」


時間はあるのに早く探さないと話せなくなるかもしれない。

野外ステージではミスコンが行われている。人混みに巻き込まれないように外側を歩いていると目的の人がそこにいた。

声をかけようとして、思い止まった。

なんて、声をかけよう。すぐ近くにいるのに、声をかけることが出来ない。


「鈴木君、」


振り絞った声は歓声にかき消された。

もう一度、声を振り絞る。でも、その声も届かなかった。


「一旦、教室に戻ろう」


ぶつからないように慎重に場をくぐりぬける。誰も、私に気づくことは無かった。



屋上へ続く階段は誰もいなくて静か。遠くに喧騒が聞こえる。日常と非日常の間にこの場所があると錯覚できるくらいにここは周囲から切り取られていた。


「、、、はあ、」


思わずため息がこぼれる。

私は何も分かっていなかった。いざ覚悟を決めて話しかけようとするとこんなに緊張するだなんて思ってもいなかった。

鈴木君はただただ眩しい存在だった。

威勢よく告白だなんて言い出さなければよかった。きっと、2人も同じ気持ちだったんだろうな。それなのに、


「私、最低だな」


「そんな事ないですよ、部長」


「え、悠!?」


顔を上げると悠が立っていた。当番じゃないからいてもおかしくは無いけど。


「部長のおかげで勇気を貰えた人もいるんですよ」


「悠は、さ、好きな人がいて、自分とは違う存在だって気づいた時、どうする?」


「私なら、そうですね。告白なんて出来ないです」


「そう、よね」


私も、きっと鈴木君のことは憧れで済ませるべきなんだろうな。来週からはただのクラスメイトに戻れるようにしなきゃだな。


「でも、部長は違いますよね?」


「え、?」


「部長はそんなこと気にせずに突っ込んでいくと思います」


悠は真っ直ぐに私を見てそう言った。


「だって、部長は私と青さんが作っていた壁を簡単に壊したじゃないですか。そんな人がひよっててどうするんですか?」


悠は悔しそうに言った。


「部長なら出来ますよ。私や青さんには出来なくても部長には出来ます。だって、部長は優しくて強いから」


「悠、」


「私の恋は、叶わないんです。きっと青さんのも。だけど、部長には可能性があります。だから、諦める姿を私たちに見せないでください」


悠は見たことがないくらい真剣な顔で言った。そして、


「あ、ちなみにあと少しで鈴木先輩も来ますから」


大きな爆弾を落として去ろうとした。


「まって、どういうこと?」


「最後の最後で部長はひよるだろうなって青さんと話してたんです。だから、部長を見つけ次第、鈴木先輩が部長を探すようにしむけました。あとは頑張ってください」


笑顔で言われた。少なからず発注ミスの恨みも籠ってる気がする。

でも、2人は私にチャンスをくれた。それだけで勇気を貰えた気がした。


「清水さん、だよね?」


さっきまで悠がいた場所には鈴木君が立っていた。言わないと。思いを伝えないと。


「す、鈴木君、あの、」


「なんか、ここに行かないとまずいことが起こるって言われたんだけど、清水さんも?」


「まずいこと?」


「う、うん。清水さんは言われなかったの?」


恐らく悠が吹き込んだんだろうな。


「まずいことかどうかは鈴木君に判断して欲しいの」


「俺に?」


大丈夫。落ち着いてる。きっと、何があっても大丈夫な気がする。悠が緊張を解してくれたからかな。


「私、鈴木君にこれを見て欲しくて、」


私はスマホで撮った生け花の写真を見せた。


「綺麗だね。これ、清水さんが作ったの?」


「う、うん。その、鈴木君に受け取って欲しくて」


「俺に?LINEで写真送ってくれるかな?」


この反応、意味が通じていないのかもしれない。ダメだ。このままじゃきっと後悔する。悠の言った通り、突っ込め!私。


「鈴木君」


「何?清水さん」


「私、鈴木君のことが好きです」


「え?」


「私のこの気持ちを受け入れてくれるなら、生け花をもらってください」


その場に沈黙が訪れた。鈴木君は何も言わないし、私も何も言えない。


「あの、さ」


沈黙を破ったのは鈴木君だった。


「その、俺でいいなら、付き合おうか」


顔を赤くして鈴木君はそう言った。


「ほ、本当にいいの?」


「清水さんが言ってきたんだろ。俺も、清水さんの頑張り屋な所、いいなって思ってたし。よろしくお願いします」


お互い握手をして、鈴木君は部活の係があるとの事で戻って行った。


「え、?私、え、?」


嬉しさ半分恥ずかしさ半分の頭を何とか整理していく。

これは、夢ではない?


「とりあえず、2人には報告かな」


私は軽い足取りで部室へ向かった。



「上手くいかないのは、私たちだけだね」


ドアを開けようとしたところで悠のそんな声が聞こえた。きっと、2人は中で泣いているのだろう。

私の身勝手に突合せてしまったせいで。


「2人とも、ごめんね」


今は、入ってはダメだ。ドアに休憩中のプレートをかけて、私は2人の好きなジュースを買った。

いつも通りの私で行こう。そう決心してドアを開ける。


「2人とも、大丈夫?」


私は泣いて腫れた目に冷たい飲み物を当ててそう聞いた。そして、優しく2人を抱きしめた。


「部長、おめでとうございます」


ふいに青葉が言った。辛くて苦しいはずなのに、こうして祝福してくれるなんて思わなかった。


「青葉、ありがとう。青葉は伝えられた?」


できるだけ優しく聞いた。きっと、言葉で吐き出した方がいいから。


「伝えられませんでした。だって、」


青葉は言葉を詰まらせた。それでも、言いたいことは伝わった。不器用だけど、誰よりも優しいことを私も悠も知っていたから。


「伝えるのって難しいよね」


頭を優しく撫でながら私は子どもに言い聞かせるように話した。優しくて痛みを知っているこの子達ならきっと大丈夫。


「大丈夫。2人ならその痛みを乗り越えられるよ。相手を思えるふたりなら」


最後は私も涙声になってしまった。泣いてスッキリしたいのは2人の方なのに。



「遥、どうしたの?」


アルバムから顔を上げると夫がコーヒーを片手に隣に座っていた。


「ちょっと、昔のことを思い出していたの」


ほろ苦くて苦しい青春の痛み。それを味あわせてしまったのは紛れもなく私だった。


「懐かしいね。後輩2人は元気?」


「うん。来週ご飯に行く約束してるの」


「そっか。あ、くれぐれもまずいことが起こらないようにね」


夫は笑いながらそう言った。必死にチャンスを作ってくれた悠のことを言っているのだろう。それとも、作戦を立てた青葉の事かな。


「大丈夫。だって、2人は誰よりも優しくて強いから」


ひとしきり笑ったあと、あの時の生け花の写真を飾って私と夫は部屋を出た。

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