ss.わたしに好きな人ができた話
可奈視点です。
わたし、一ノ瀬可奈は昔から男の子に好意を向けられることが多かった。
中学生に入ってからは、自分の容姿が優れていることを自覚せざるを得ない程、男子からのアプローチは激化していた。
もちろん、下心の透けている彼らと交際するつもりなんてなかったので、その全てをお断りしていた。
そもそも、好きという気持ちすらその時はまだ知らなかった。
だけど、女子からの嫉妬はどう対応すればいいのか分からなかった。
わたしが男子に呼び出されるたびに、女の子達がコソコソし始めることに気づいたのはいつだっただろう。きっと、わたしの悪口を言っているんだな。
そう分かっても、わたしは女の子とお友達でいたかったから、何も言わなかった。
けれど、結局、友達と呼べるほどの存在ができる前に、わたしは高校生になってしまった。
今度こそ、たくさんお友達つくるぞっ!
そう意気込んで登校したのに、わたしの容姿だけを見て告白してくる男子達に囲まれてしまい、スタートダッシュを切り損ねてしまった。
女の子はすぐにグループ化するから、最初が大事なのに……。
でも、そんなわたしとも仲良くしてくれる3人組がいた。
井坂玲香ちゃん。
時任未来ちゃん。
松木亜美ちゃん。
この3人だ。
まだ出会ったばかりだけど、途中まで一緒に帰ったりして、楽しくお話しさせてもらった。
お友達になれたと思う。
わたしは初めての友達に浮かれていた。
でも違ったんだ。
ある日、れいかちゃん達に連れられて体育倉庫前までやってきたわたしは、そこで待ち伏せしていた同級生の男子に押し倒された。
突然のことですごく怖かった。
身体が動かなくって、もうダメだと思った。
助けを求めようと思ってれいかちゃんの方を見ると、れいかちゃんはわたしの姿を見て笑っていた。
結局、こうなっちゃうのか。
お友達にはなれなかったなぁ……。
わたしはれいかちゃん達が仕組んだことだと遅まきながらに悟った。
もはや抵抗する気力もなくなっていた。
目の前で瀬戸くんが気持ち悪くニヤけている。
やっぱり怖いよぅ、だれか、たすけて……
その時だった。
勢いよくドアを開ける音がしたと思ったら、男の人の怒鳴り声が聞こえた。
「てめぇら、何してんだよ!」
わたしにはその人がとても輝いて見えた。
名前は工藤将馬先輩と言うらしい。
わたしがお礼を言うと、何故か彼はすっきりしない顔をしていた。
てっきり、助けた見返りに交際でも迫られるかと思っていたのに。
それどころか彼はわたしに謝ってきたのだ。
どうやら彼は今日こうなることを知っていたらしい。
でも、だからってわたしがこの人に助けられたのは変わらないのに……。
なんか、今まで出会った男の子達とは違うなぁ。
それに、なんかわたし、ドキドキしてた?
とにかく、すぐに去ってしまった彼の背中を見て、明日ちゃんとお礼を言おうと思った。
「本当にありがとうございましたっ!」
そして次の日、わたしは工藤先輩にお礼を言うことができた。
昨日の夜、何故か先輩のことが頭から離れなくて、今日も先輩の教室まで行くのにすごく緊張したけど、ちゃんとお礼ができてよかったと思う。
だけど、先輩はむしろお詫びがしたいくらいだと言ってきた。
わたしはそれで突き放されたような気がした。
昨日からたくさん緊張して、何回も練習してやっと言えたお礼だったのに、受け取ってもらえなかったのが悲しかった。
子供みたいに拗ねて腹を立てたわたしは、本当にお詫びを要求してやろうと思った。
だけど、何を求めればいいか分からずに、焦ったわたしはなぜかこう言っていた。
「わたしの彼氏になってくださいっ!」
その言葉が口から出てきた時、わたしは気がついた。
そうか、わたしはこの人を好きになってしまったんだと。
自分でも分かるくらいにチョロいじゃん。
わたしは急に恥ずかしくなった。
だけど、先輩はその告白を素直に受け取ってくれなかった。
やっぱり唐突すぎたかなと、少し後悔する。
でも好きになってしまったのだ。
理由なんて自分でもよく分かってない。
でも先輩の彼女になってみたい。
だからわたしは先輩が納得しそうな理由をでっち上げた。
最初は偽物でもいい。
付き合ってるうちにわたしのことを好きになって貰えばいい。
そう思った。
そう思ったらワクワクしていることに気づいた。
今まで、こんなこと考えたこともなかったからだ。
わたしにとって男の子は向こうから勝手にやってくるものだった。
わたしから追いかけるなんて初めてだ。
だからまずは第一歩。
「しょーま先輩っ?」
わたしは慣れない上目遣いをして、先輩の名前を呼んだ。
先輩の少し照れたような顔を見て、生まれて初めて、自分の容姿が優れていることに感謝した。
その後、先輩が可奈って呼んでくれた時には思わず赤面してしまった。先輩にばれてないといいなぁ。
あ、そうだ。
明日はお弁当作っていこう。
ふと、そう思った。
そして翌日、わたしは先輩を連れ出して、お昼を一緒に食べた。
先輩が美味しそうに食べてくれると、作りがいがあるなぁとそう思う。
毎日作ってくれって言われた時はびっくりしちゃったけど、それで本当に毎日作っちゃってる自分にはもっとびっくりしている。
本当に好きなんだな。
そう再確認した。
それから2.3日した時、先輩からデートのお誘いが来た。
とっても嬉しかった。
楽しみで楽しみで、当日の朝は髪のセットと服を選ぶのに時間を使いすぎてしまった。
早めにいこうと思ってたのに……。
待ち合わせ場所に着くと、先輩は既に到着していて、わたしの姿を見ると、髪型とワンピースを褒めてくれた。
時間を費やしてまで選んでよかったっ!
わたしはニヤけている顔を先輩に見られていないか心配だった。
そう言えば目的地を聞いてなかったので、尋ねてみると、タピオカ屋さんについていた。
しょーま先輩ってタピオカ飲むの?
びっくりして聞いてみると、初めて来たと言う。
わざわざ、わたしに合わせてくれたのかな?
そう思っていると、先輩がただ飲んでみたかっただけだと言ってくれた。
その時に気づいた。
先輩はきっと、わたしがれいかちゃん達とタピオカを飲む約束をしたことを知っていたんだって。
わたしが寂しがっていると思って声をかけてくれたんだって、そう気づいたのだ。
優しい人だなぁ。
素直にそう思った。
その後、恋人ぽいかなと思って、タピオカを交換して飲んだりもした。
間接キスは少し緊張したけど、わたしの顔が赤くなっていたことにはたぶん先輩は気づいていない。
だって、先輩も顔真っ赤だったもんっ!
でも、帰り際、しょーま先輩が辛そうな表情をしていたのが気になる。
きっと、なにかに苦しんでいるんだろうとなんとなくそう思った。
いつか、先輩の悩みを聞いてあげられるようになりたいな。
わたしは大好きな先輩の横顔を見ながらそんなことを思った。
あ、それと次のデートこそは手を繋いで歩きたいな。
先輩との次の逢瀬を妄想しながら、わたしは家に帰るのだった。