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04.俺が彼女とタピオカを飲みに行く話

あれ以来、昼は可奈と一緒に過ごすようになった。帰り道も一緒に帰りはするのだが、俺と可奈は学校からすぐの例の信号でお別れだ。大した話をする程の時間はなかった。


ただ、進歩というか、特筆すべきことがあるとすれば、俺は可奈と連絡先を交換した。

人生初、ではないが、高校に入ってからは初めて女子と連絡先を交換したことになる。

それなりにテンションは上がった。


そしていま、まさに俺は可奈にどう連絡をしようか悩んでいた。

あくまでも仮の彼氏なので、帰宅後もやり取りをする必要はないのだが、俺には一つだけ引っかかってることがあったのだ。


それはタピオカ。


彼女が例の女子達と週末に行こうとしてたアレだ。

個人的に、もはや高校生の常識と化しているタピオカを知らないままでいるのに危機感を感じているというのもある。

ただ、それよりも、可奈が友達と行きたがってたところに、せめて、相手が俺だとしても連れて行ってやりたいと、そう思ってしまったのだ。


お節介だろうか。

もしかしたら嫌な経験を思い出させてしまうかもしれない。

でも、友達に酷い目に遭わされて、その上、一緒にタピオカを飲みに行く予定までなくなってしまうなんて、あまりにも理不尽ではないか。


あいつがタピオカを飲む予定を立ててたのを知っているのは俺だけ。可奈のケアをできるのは俺しかいないのだ。


でも、やっぱりお節介だろうか……。


そんなこんなでもう30分はスマホと睨めっこしている状態だ。


ってええい! 俺らしくないぞ。

嫌われたならそれでいいじゃないか。

元々、嫌われても傷つかない程度にしか距離を詰めていないだろう。

何のためにぼっちになったんだ俺は。


ならもう、やりたいようにやればいいじゃないか。


『週末、予定空いてるか?』


俺は意を決してそう送るのだった。

ピコンッ!

と、すぐに返信が返ってくる。


『はい! 空いてますっ! も、もしかしてこれって、デートのお誘い、ですか?』


『じゃあ、14時に駅で待ち合わせな。2人きりが嫌だったら断ってくれてもいいから』


『なに言ってるんですか! 彼氏と2人きりが嫌なわけないです! 行きますからっ』


そんなわけで、俺らは週末にデートすることが決まった。





「お待たせしましたっ!」


一応、待ち合わせより早く来ていた俺は、こちらへ向かってくる可奈に手を振る。


「ごめんなさい、結構待たせちゃいましたか?」

「いや、俺も今来たとこだよ。……あと、その髪型も似合ってる。ワンピースも」

「え、ほんとですかっ! やった!」


いつもはポニーテールな可奈だが、今日は髪を結えずに、肩くらいまで伸びる髪の毛に外巻きのパーマを軽くかけていた。

なんというか、普段より大人っぽく見える。


白地のワンピースも、彼女の美少女感をさらに際立たせていた。


「じゃあ、行こっか」


そう言って俺は歩き出す。


「あの、どこ行くんですか?」


歩きながら、可奈がそう聞いてきた。

だが、ちょうどいい。目的地に着いたところだった。


「ここだよ」

「え、ここって、タピオカ屋さん……?」

「うん、ごめんね、言うの忘れてて。タピオカ好き?」

「あ、はい。好きですっ」


そうして俺らは受付の列に並んだ。


「でも、先輩がタピオカ飲むなんてちょっと意外です」

「それがさ、実は俺初めてなんだよね……」

「あ、そうだったんですねっ! じゃあ、どうして?」

「まぁ、なんだ。飲んでみたかった。それだけじゃダメかな?」


あの女の子達が反故にした約束の埋め合わせ。

そんなことは言えなかった。

せっかくの楽しい雰囲気を台無しにしてしまう気がしたから。それに、嘘もついてないしな。


「ふふっ、しょーま先輩ってちょっと可愛いですね」

「なんだよ、それ」


そう言って笑い合っていると、俺らの順番がきた。

俺は黒糖ミルクティー、可奈はストロベリー味を頼む。


「じゃあ、先輩の初めてのタピオカに、かんぱ〜い!」


タピオカをもった瞬間はしゃぎだす可奈。

やっぱ、JKってこうじゃなきゃな。

ちょっぴり親目線でそんなことを思った。


「ん? 先輩タピオカ飲まないんですか? 感想、はやく聞きたいですっ」


と、はしゃぐ可奈に見惚れていると、不思議そうな目で見られてしまった。


それでは、味見といきますか。

ゴクリ。

太めのストローに口をつけ、吸い上げる。


「思ったよりも甘いんだな。でも、すごく美味しい」


素直にそう告げる。


「えへへっ、なんか先輩楽しそうでよかったですっ」

「なんだ、そう見えるか?」

「はいっ! ってあっ、こっちも飲んでみますか?」


ふと気づいたように、可奈が自分のカップを俺に突き出してくる。


え、これって間接キスってやつなのでは。

さすがにそれは俺も未経験だ。

どうしようか。


そんなふうに戸惑っていると、「えいっ!」と言って可奈が俺のもっていたタピオカを無理やりとってしまった。

そして、気づけば俺の手にストロベリー味のタピオカが収まっていた。


「交換こですっ!」


そう言って、俺の飲んでいたタピオカに口をつける可奈。

これは、俺もチキってる場合じゃないな。

むしろ、嫌がっていると思われた方が失礼だ。


一口、可奈のタピオカを飲ませてもらった。


「こっちはこっちでまた別の美味しさがあるな」

「でしょでしょ〜」


くしゃっと笑う可奈の笑顔を見て、まるで本当のカップルみたいだと、そう思う。

なんていうか、距離感も縮まってきたような気がするのだ。


そう思うと、急に怖くなった。

もし今後、可奈が俺との関係を切るようなことになったら、俺は耐えられるのだろうか。

この心地いい関係に依存してしまう前に、距離を取った方がいいのではないか。


つい、そんなことを考えてしまった。


「どうしたんですか? 先輩?」

「う、ううん、なんでもないよ。じゃあ、今日はそろそろ帰ろっか」

「まぁ、初デートですしね。無理して長居する必要はないですねっ」


そういうことで、俺達はそれぞれ帰路についた。


家でシャワーを浴びながら、1人考える。

樹の件があって以来、人との接し方に敏感になりすぎだ。

そもそも、樹の件と、可奈のことでは関係性が全く違うじゃないか。

なのに、どうしても可奈を1人の女の子として信用することが俺には難しかった。男避けという分かりやすい目的以外に、可奈が俺と一緒にいてくれる理由を見つけられないのだ。


結局、人間関係に臆病になっている部分が自分の中にあることを、俺は認めざるを得なかった。


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