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03.俺が彼女と弁当を食べる話

偽物の恋人ができた。

彼女は俺に対しておそらく恋愛感情はない。ただ、男避けとして俺を利用するだけだ。

だが、それでいい。むしろ、それがいい。

彼女にとって利用価値がある間は裏切られる心配はないってことだから。

友達とか、普通に恋愛して付き合った彼女とかよりよっぽど安心できる関係性だ。

俺にとっては。


とは言っても、可奈の恋人であることを周囲に示していかなければいけない訳だが、どうすればいいのだろう。


彼女はできたもののそれを自慢する友達がいないのだ。


うむむ、と悩んでいると、授業終了の鐘が鳴り、昼休みが始まった。途端にクラスが騒がしくなる。

まぁ、俺はその喧騒に混ざるつもりはないので、とりあえず、いつものように購買で軽食でも買ってくることにした。

すっと椅子を引いて立ち上がり、教室を出ようとしたその時、


「しょーま先輩っ! 一緒にお昼ご飯食べましょっ!」


俺の彼女が勢いよく現れたのだった。



「「「だからなんでぇぇぇーー!?」」」


思わず「お前ら息ぴったりだな」とツッコミたくなるほど、クラスメイト一同が一斉に俺らへ視線をやる。


「わたし達付き合ってるんですから、お昼休みくらい一緒に過ごしましょうよ? ねっ?」


クラスメイト同様、俺も突然の来訪に戸惑っていると、可奈がさらに追い討ちをしかけてきた。なんだこの上目遣い。あざとすぎるだろ。純粋無垢な頃の俺だったらイチコロだぞ……。


「てか、あいつ下の名前で呼ばれてなかった?」

「いやそんなことより、いま付き合ってるとか言ってたぞ?」

「は? お前難聴か? そんなわけねーだろ!」

「そ、そうだよな! わりぃわりぃ!」

「「あはははは」」

「はぁ、男子ってなんでこうなのかしら」

「ところで、『しょうま』なんて男子このクラスにいたかしら?」

「言われてみれば、そんな名前の男子知らないわ」


いや、ここにいます。俺です。

俺が『くどうしょうま』です……。

正直、男子にどう思われようと構わないのだが、女の子に認識すらされてないのはただただ辛い。頼むから名前くらい覚えててくれ……。


「って、しょーま先輩? どうしたんですか、そんな悲しそうな顔して」

「デジャヴか!」


思わずそうツッコミを入れてから、俺たちは昼を食べるべく、教室を去った。


「可奈は弁当?」

「はいっ、お弁当ですっ!」

「じゃあ、悪いけどちょっと待っててくれるか? 俺、飯買わなきゃだから」

「そんなことだろうと思って……」


可奈が突然、ぶら下げていた手提げ袋をゴソゴソし出す。


「じゃーんっ! 先輩の分のお弁当も用意してきましたっ!」


そう言って、可奈が掲げたのは、かわいいサイズのお弁当箱であった。


「え、もしかして、わざわざ作ってきてくれたのか?」

「えっへん!」


えっへん! って……。

でもまぁ、腰に手を当てて胸を張っている可奈はとてつもなくかわいかったです。


「ごちそうさま」


「え? まだ食べる前じゃないですかっ! 先輩なに言ってるんですかぁ、もうー」

「ごめんごめん、なんでもない。じゃあ、お言葉に甘えて今日は弁当いただくとするかな」

「はーい! じゃあ屋上いきましょっ、屋上!」


可奈がそう言うので、俺達は屋上へ向かった。

ちなみに、うちの学校は本来屋上出入り禁止なのだが、行ってみたら鍵がかかっている様子はなかった。相変わらずセキュリティがばがばだな。


そんなこんなで屋上へ行くと、既に何組か、カップル達が点在している様子が見てとれた。


「思ったより、気まずい雰囲気だな……」

「そうですか? わたし達もカップルになったって感じがしていいと思いますっ」

「ま、まぁ可奈がいいならいいんだけど……」


可奈は俺みたいなやつが彼氏で嫌ではないのだろうか。まぁ、可奈の目的は彼氏の存在を周知させることにあるんだから決して嫌々ってわけじゃないんだろうけど。

わざわざ俺みたいにぼっち認定されてる男を擬似彼氏に選ばなくても良かったんじゃないか、とは考えてしまう。


「先輩、どーぞめしあがれっ」


と、可奈が俺の分の弁当を手渡してくれた。

きちんと箸まで用意してくれている。

ちゃんと礼を言ってから、蓋を開けると、栄養バランスの良さそうな献立が箱に詰められていた。


「お、ハンバーグか」


そして、主菜は王道のハンバーグであった。

美少女が実は料理下手なんて設定をラノベなんかじゃよく見るが、献立がこれだけしっかりしてる以上、味も美味しいんだろう。

そう思って口にすると、実際は想像のさらに上をいく味だった。


「美味いな、これ!」


思わず、そう口にしてしまうほどに美味しい。


「ほんとですか! わたし、栄養士目指してるんですよ。だから、一応は自信あったんですけど、先輩のお口に合うかどうか不安で……」

「いや、本当に美味しいよこれ! 毎日食べたいくらいだ!」


あまりの美味しさにテンションが上がっていたのか、俺はそう言葉にしてしまう。


「ま、毎日、ですか?」

「あ……その、毎日作れって意味じゃ、ないから。ごめん、言い方悪かった、かも」


俺は即座に反省して謝る。

好意がない相手に毎日弁当作るとか、絶対無理だろ。変なこと言っちゃったなぁ。


「い、いえ、しょーま先輩が、よければ、わたしは毎日でもお弁当作ります、よ?」


え、いいの?

じゃあ作ってもらっちゃおうかな。美味いし。


ということで、俺はこれからもお弁当を作ってもらう約束をした。


「ふふっ、じゃあこれからは毎日お昼一緒に過ごせますねっ!」


ニコッと笑ってそう言う可奈はまるで天使のようだった。


これが本物の彼女なら良かったのに。

一瞬だけ、俺はそう思ってしまうのだった。

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