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02.俺に彼女ができた話

昼休み。

それはぼっちの俺にとっては好ましくない時間であった。まぁ、自ら友人を作ることを避けているので、そこまでぼっちでいることに引け目があるわけではないのだが、それでも、教室の隅、1人きりで飯を食べるというのは心にくるものがある。


そんな時だった。

突如、教室が騒がしくなる。


「おいおい、あの一ノ瀬さんがどうして俺らの教室に!?」

「もしかして小生に会いにきてくれたでござるか!」

「いや、それだけは絶対にない!」

「噂には聞いてたけどやっぱかわいいわねぇ〜」

「はぁ、男子達ってほんと顔しかみてないんだから……」


なんと、どうやらあの一ノ瀬さんが1人で2年生の教室までやってきたらしい。何の用だろうか。ぼーっと飯を食いながら考えていると、不意に一ノ瀬さんの声が聞こえた。


「あ、工藤先輩っ! このクラスにいたんですねっ!」


「「「えええええええーーーー!?」」」


「いや、なんでよりにもよって工藤なんだ?」

「工藤先輩って、あのぼっちの工藤のことだよな?」

「え、工藤くんなんてこのクラスにいたっけ?」

「ほ、ほら、あそこでぼっち飯してるやつだよ、たぶん……」


どうやら、一ノ瀬さんが探していたのは俺らしい。それにしても、クラスメイトに認識すらされてないって俺そんなに影薄かったか? これでも俺は元テニス部、趣味はギター、それにあの事件があるまでつるんでたのは陽キャどもだったんだぞ。いくら、自分から距離を置いていたとはいえ、流石に認知すらされていないのは傷つく。


「って、工藤先輩? どうしたんですか、そんな悲しそうな顔して」


気づけば、一ノ瀬さんは俺のすぐ近くまで来ていた。俺は慌ててなんでもないよとごまかすが、如何せん、ここは視線が多いな。少し場所を移すか。


俺はそう思って席を立ち上がると、一ノ瀬さんを連れて中庭まで歩いて行った。


「で、俺になんか用か?」

「そ、その、用事って程でもないんですけど、昨日のお礼言いたくって。まだ、ちゃんと言えてなかったので……」

「いや、お礼なら昨日言ってもらった気がするけど。それに、そもそも俺は礼なんて言われるほど大したことしてないぞ」


そう言うと、一ノ瀬さんは頬を膨らませて少し怒ったかのような顔をする。


「そんなことないですっ! わたしはあの時ものすごく怖くて、でも工藤先輩が来てくれた時、なんだか安心して、嬉しくて……」


そこで一ノ瀬さんと目があった。

しばらく目が離せないほど、綺麗で澄んだ瞳だった。


「だから、本当にありがとうございましたっ!」


そう言って頭を下げる一ノ瀬さんを見て、やはり俺は申し訳なくなってしまう。

結局、俺にとって、一ノ瀬さんに嫌な経験をさせてしまった、阻止できなかったという罪悪感は残ったままだから。


「お礼を言ってもらえるのは嬉しいんだけど、俺はむしろ罪悪感を感じてるんだ。元々計画を知っていたのに、実行される前に止めようとしなかったのは他でもない俺自身だから。むしろ、お詫びをしてもいいくらいなんだよ……」


つい、正直にそんなことを言ってしまった。女々しいかもしれないが、それが俺の本音だった。


すると、一ノ瀬さんはまた怒ったような顔をした。


「どうして先輩はそうやってわたしと距離を置こうとするんですか!」

「べ、別にそういうつもりじゃ」


それからしばらく一ノ瀬さんは俺をしかめっ面で見ていた。


「そこまで言うならお詫びしてもらいますよ!」


そして、俺と目が合うと、強い口調でそう言った。


もちろんだ。なんでも言え。そう返すと、彼女は少し嬉しそうな顔をして、じゃあ、と言葉を続ける。


「わたしの彼氏になってくださいっ!」



「……はい?」


「なんでも言えって言った先輩に拒否権はありませんからねっ!」





どうやら、俺に人生初の彼女ができたらしい。





「冗談、だよな?」

「冗談じゃありませんよ?」

「でも、どうしてだ? 何か理由があるんだろ?」


俺は一ノ瀬さんの言葉を素直な告白だとは思えなかった。あの高嶺の花、一ノ瀬可奈がたかだか1日の出来事で男に惚れるなんてことあるわけがないのだ。


「先輩、わたしが傷つくの止められなかったって言ってたじゃないですか?」

「そうだな」


と、観念したのか、一ノ瀬さんが語り出す。


「今回の原因って、わたしの人気の高さにあると思うんです」

「……自分がモテるって自覚はあるんだな」

「流石に、あれだけ告白されれば嫌でもわかります……」


まぁ、そりゃそうか。


「で、彼氏がいるってみんなに知れれば、男子からの告白も落ち着くんじゃないかなって思ったんです。そしたら、女の子ともまた仲良くできるかなって……」


俺はその言葉を聞いて、はっとさせられた。

この子は、あんな目にあった後でも、友達と仲良く過ごすことを求めているのだ。それは俺が逃げてしまった道。なんて心の強い子なんだろう。

正直、俺はもうこの子の助けになりたいという気持ちしかなかった。


「わかった。そういうことなら協力するよ」

「ほ、ほんとですかっ! やった!」


こんな可愛い子にそこまで喜ばれると、つい勘違いしてしまいそうになるな。落ち着け、俺。これは偽の告白、偽の恋人関係、俺はただ彼氏を装うだけだ……。


「しょーま先輩っ?」


俺が心を落ち着けようとしていると、首を傾げた一ノ瀬さんが上目遣いでそう言ってきた。

い、いきなり下の名前って……。

普段ならなんでもないことなのに、美少女に言われるとこんなに照れるのか。


「な、なんだ一ノ瀬さん?」

「……可奈」

「……え?」

「わ、わたしのことは可奈って呼んでください!」

「いや、それは流石に」

「ダメですっ! わたし達は付き合ってるんですからねっ!」


たしかに、彼女のことを名字で呼ぶ彼氏ってのも変だな。

じゃあ、


「か、可奈?」

「はいっ! しょーま先輩っ!」



どうやら、人生初の彼女は両想いで付き合ったとかそういう訳ではないらしい。


ただ一つ、俺の彼女はめちゃくちゃ可愛い。


それだけははっきりと分かった。


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