14.俺が超絶美少女の後輩と付き合うことになった話
「わたし、先輩のこと聞きました」
沈みかけた夕日を背に、可奈が語り出す。
「先輩、辛かったんですね……」
悲しそうに目を伏せる可奈を見て、俺は樹の件を知られてしまったのだと悟った。
「先輩は、まだ他人のことが信じられませんか?」
「……あぁ、まだ信じられない」
「やっぱり、そうですよね」
情けない反応に、失望されてしまっただろうか。
友達に裏切られた経験は可奈にだってあるはずなのに。
それでも前を向いている可奈が俺には眩しかった。
きっと、彼女からしたら過去の傷を未だに引きずっている俺は惨めに見えるだろう。
「わたしのことも信じられませんか?」
「可奈……」
だが、そんな俺に対しても、彼女は歩み寄ろうとしてくれる。
「愛情なら……」
「……え?」
「愛情なら信じられますか?」
可奈が放った言葉の意味を、俺はすぐには理解できなかった。
「先輩が信じられないのは友情ですよね。なら、愛情なら信じられませんか?」
縋るような表情で、可奈が俺に一歩近づく。
「しょーま先輩、わたし先輩のことが好きです」
そう言って、俺を見つめる可奈の顔は今までのどんな表情よりも輝いて見えた。
「なぁ、可奈」
だから、今度は俺が覚悟を出して言わなければいけない。
「俺さ、誰かと距離を縮めてしまうことに臆病になっていたんだ」
樹に騙されたと知ったあの日から、俺はずっと心を閉ざしていた。
「でもな、可奈と一緒にいると楽しいんだ。胸がドキドキして、もっと近くに行きたい、距離を縮めたいって思ってしまうんだ」
けれど、可奈に出会って俺は変わった。
傷つけられてしまうかもしれない恐怖よりも、一緒にいることの心地よさが上回るようになったんだ。
「今まで、この感情がなんなのか、考えることから逃げてきてしまっていたけど」
だから、俺にまた人と関わる勇気をくれた可奈には誠実に向き合わなければいけないと思う。
「やっと分かったんだ。自分の気持ちが」
告白という行為そのものへのトラウマは払拭できたわけではない。
足は震えるし、手汗は止まらない。
顔も強張っているだろう。
それでも言わなくてはいけない。
この思いの丈を。
「可奈」
そして俺は、大好きな人の名前を一度呼んでから、
「俺はお前が好きだ」
告白の言葉を告げた。
けれど、まだ終わりではない。
続く言葉は、今度こそ俺の方から言わせてほしいから。
「可奈、俺と付き合ってほしい」
一度は可奈が言ってくれた台詞。
だけど、今回は偽物だなんて思っちゃいない。
心から、愛してると思っての言葉だった。
そうして俺は頭を下げる。
と、突き出した片手に温かい感触が触れた。
「もちろんですっ」
震えた声でそう答えた可奈は、今にも泣きそうな顔をしていた。
俺は優しく微笑むと彼女の頭にぽんと手を乗せた。
「えへへっ、なんか懐かしいです、先輩に頭撫でてもらうの」
「そうだな、でもこれからはいつでもこうしていられる」
暖色の夕日を背景に、俺らはしばらく肌を寄せ合っていた。
それにしても。
帰り道、可奈と手を繋ぎながらふと想う。
まさか人間不信だった俺に、こんなかわいい彼女ができるなんてな。
周りの人から見たら、驚きの光景だろう。
だけど、可奈はただ美少女というだけではない。
彼女には人を信じられる強さがある。
俺はそんな彼女が隣にいたからこそ、自分の傷と向き合うことが出来たんだ。
「ありがとな、可奈」
お別れの信号にたどり着いた時、俺は無意識にそう口にしていた。
「なに言ってるんですか、先輩?」
と、可奈は茶化すように笑う。
こんな些細なやりとりでも俺は幸せだと感じた。
「じゃ、また明日な」
「はいっ! また明日っ」
信号が青に変わり、お別れの時間を告げる。
2人は繋いでいた手を離し、それぞれの帰路についた。
だけど、寂しいとは思わなかった。
また会えることを確信しているから。
いつまでも、可奈はそばにいてくれるって思えるのだ。
誰かの心を傷つけるのが人間であるならば、誰かの心を救えるのも人間。
俺は一度傷ついたけれど、こうして一度救われた。
最後に心に残ったこの温もりだけは絶対に離さない。
そう誓って、俺は一歩前に足を踏み出した。
〈完〉
最後まで読んでくださってありがとうございます。
拙い作品ではあったと思いますが、楽しんでくださった方がいらっしゃいましたら嬉しい限りです。




