13.俺が自分の気持ちに気づく話
「ねぇ、将馬くん。放課後、屋上に来て欲しいの」
可奈との関係を絶ってからしばらく経った頃、久しぶりに登校してきた姫廻にそう言われる。
「分かった」
とりあえずそう返して、俺は自分の席に着いた。
あの感じ、告白されるのだろうか。
相手は今や売れっ子女優。
であるのに、何故だか俺は気分がのらなかった。
午後の授業も適当に聞き流し、放課後、俺は1人屋上へ向かう。
「ありがとう、来てくれて」
そこには、姫廻1人だけが待っていた。
吹き抜けた風が彼女の髪を撫でる。
凛とした姿勢で立つ彼女の姿はとても美しく見えた。
「どうしたんだ? 急に」
俺は平静を装うように、そう問いかける。
「将馬くん、可奈ちゃんと別れたって聞いたから」
と、姫廻はそんなことを言った。
「あんなに仲良かったから、最初聞いた時は信じられなかったけど、でも本当なら私にもチャンスあるのかなって」
少し前までのように自信なさげに、でもそれでいて、どこか強い意志を秘めたような、そんな印象を今の姫廻からは感じる。
そして、姫廻はその言葉を告げた。
「将馬くんのことが好きです。付き合ってください」
初めてだった。
誰かに好きと言われるのは。
嬉しかった。
自分が認められたような気がして、心が満たされるようだった。
なのに。
どうして、俺の頭の中には可奈と過ごした日々のことが思い浮かんでいるんだろう。
今想像するべきは、姫廻と恋人になる未来であるはずなのに。
どうして。
「やっぱり、私じゃダメなのかな……」
黙ってしまった俺に、姫廻が落ち込んだ様子で尋ねる。
「ねぇ、将馬くん。今、誰のこと考えてた?」
「え……?」
不意にそう聞かれて、俺は間抜けな声を出してしまった。
「分かるの。私は将馬くんのことが好きだから、将馬くんが今、私じゃない女の子のこと考えてるって」
そんな俺に、姫廻は悲しそうな、しかし開き直ったような調子でそう言う。
「将馬くん、可奈ちゃんのこと考えてたんでしょ」
姫廻の言葉に、俺は何も言い返すことができなかった。
彼女の言う通りだったのだ。
誰かと手を繋ぐならそれは可奈がいい。
2人で昼ごはんを食べるのも、どこかへ出かけるのも、その相手は可奈であってほしい。
姫廻に告白された時、俺はそう思ってしまったのだ。
失礼なことなのかもしれない。
俺だって、姫廻と付き合った後のことを想像しようとしてみた。
でも、繋いだ手のその先にいたのは、姫廻じゃなくて、ましてや琴瑚でもなくて、可奈だったんだ。
「姫廻、ごめん。俺はお前の気持ちには答えられない」
だから、俺は彼女の告白にそう返事をした。
「そっか……残念、だな」
姫廻は努めて笑顔を保っていたが、声が震えているのは俺にも分かる。
「私、馬鹿だね。告白してるのに、他の女の子の背中押しちゃうなんて」
自嘲するように姫廻はそう言った。
「でもね、将馬くんには幸せになってほしいから。後悔してほしくないから、言ったんだよ」
姫廻は、本当に優しい女の子だ。
おかげで、俺は自分の気持ちに気づけた。
今まで、逃げてきた自分の想いにやっと向き合うことができた。
「ありがとな、姫廻」
だから俺は彼女にお礼を言わなければいけない。
「そんなありがとうは、できれば聞きたくなかったなぁ。でも、よかった。将馬くんが前を向けたなら」
「あぁ、姫廻のおかげだ」
その時、2人の間に、優しく風が吹き抜けた。
「ねぇ、将馬くん」
「なんだ?」
「私、彼女にはなれなかったけど、将馬くんにとって特別な存在にはなれたかな?」
不安げに、姫廻がそう聞いてくる。
「あぁ、姫廻は初めて俺に好きだって言ってくれたんだ。それだけでも特別に決まってる」
「そっか。じゃあ、告白してよかった」
姫廻の問いに、今度こそ俺は即答することができた。
そんな俺に姫廻は微笑みを返す。
「じゃあ、私はもう帰るね」
彼女はそう言って、屋上と校舎を繋ぐ扉へと歩いていった。
と、姫廻が突然声を上げる。
「か、可奈ちゃん! どうしてこんなとこに」
驚いたその声に振り向くと、扉から屋上へと1人の少女が出てきた。
「ごめんなさいっ、話を聞いていたわけではないんですけど……」
そう言って現れたのは他でもない、一ノ瀬可奈であった。
「その、しょーま先輩が屋上に行ったって聞いて、来てみたら、2人がいい感じだったから……」
可奈は姫廻と俺を交互に見て、俯く。
そんな可奈に姫廻が優しく声をかけた。
「可奈ちゃん違うの。私ね、今、将馬くんに振られちゃったんだ」
「えっ?」
「そうなの。だから、次は可奈ちゃんの番。何か伝えようと思って、将馬くん探してたんでしょ? なら、今しかないと思うよ」
姫廻は可奈にそう言うと、俺にウィンクをしてこの場を去っていった。
まったく、柄にもなく強がりやがって……。
でも、ありがとう姫廻。
おかげで、やっと気づけた自分の気持ちを告げることが出来る。
「なぁ、可奈」
「なんですか、しょーま先輩」
「お前に伝えたいことがある」
「わたしも、先輩に言わなくちゃいけないことがあります」
日の落ち始めた屋上で、2人の言葉が交差した。




