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ss.わたしが決心する話

「恋人のふりするの、もうやめにしよう」


先輩にそう言われた時、わたしは冗談だと思った。

でも、先輩の思い詰めたような表情を見て、本気で言ってるんだと悟った。


わたしといる時間を、楽しいって、言ってくれてたのに。


気づけばわたしは涙を流していた。


先輩はわたしの涙をみて申し訳そうな顔をしたけれど、「やっぱり嘘」なんてことは言ってくれなかった。


結局、一度も好きって言ってもらえなかった。

いや、それよりも。

一度も好きだと言えなかった自分が情けなかった。


こんなんじゃ先輩に見放されても仕方ない。

だって、先輩のことを好いている人は他にもいるから。

きっと、先輩も好きってちゃんと言ってくれる人の方がいいんだろう。


わたしは、臆病だったのだ。

告白した時から、好きって気持ちを言葉にできなかった。

彼氏のふりでもいいから、なんて、自分の気持ちを伝えることから逃げていたわたしがいけなかったのだ。


だから、最後の最後まで、先輩はわたしとの関係を偽の恋人だと思っていた。


あれから、しばらく時間が経った。

でもわたしは未だに先輩への想いを秘めたままだった。

伝えることすらしていないのに、捨てることなんてできなかった。


週末。

先輩との思い出をなぞるように、待ち合わせで使っていた駅に足を運んでいた。

デートに行けた回数は少ないけれど、わたしにとっては大切な思い出だった。


先輩に服を褒めてもらったこと。

手を繋いでもらったこと。

頭を撫でてもらったこと。


恋人として過ごした時間の色々が頭の中に浮かぶ。


ここに、先輩がいればなぁ。


そう思った時、改札から先輩が出てきたような気がした。


え?


そんなまさか。

わたしはすれ違ってしまった彼の姿を追う。

と、少し雰囲気は違うものの、先輩の後ろ姿がそこにあった。


「先輩っ!」


わたしはつい声をかけていた。


だが、彼はわたしに気づくと首を傾げる。


「君は、誰だい?」

「え……?」


わたしは先輩に忘れられていた。





「あははっ、で、君は将馬に忘れ去られてしまったと勘違いしたわけだ」

「そ、その恥ずかしいです……まさかお兄さんだったなんて」


駅前の喫茶店で、わたしはその人と2人で座っていた。


どうやら、さっきわたしが先輩と見間違えたのは、彼の双子のお兄さんだったらしい。


まったく、紛らわしいっ。


「でも、将馬のことこんなに想ってくれる人がいてよかったよ」

「え……?」


急にお兄さんがそんなことを言うので、わたしは戸惑ってしまう。


「おっと、もしかして知らなかったかな」


と、お兄さんは先輩の辛い過去の話をわたしにしてくれた。


「だから、あいつの閉じた心に寄り添ってくれそうな人がいてよかったな、って思ったんだ」


話し終えると、お兄さんはそう言ってわたしに微笑んだ。


先輩はそんな過去があったなんてわたしには一言も言ってくれなかった。

たしかに、たまに辛そうな顔をする時はあったけれど。


中学生なんて多感な時期にそんな経験したら、人のこと信じられなくなっちゃうよね。


きっと、わたしもどこかで距離を置かれていたんだ。


お兄さんの話を聞いてそう感じた。


「わたしも一線を引かれていた、なんて思っているのかい?」


わたしの心を読んだかのように、お兄さんが話す。


「君が付き合いだしたって言ってた頃からかな。将馬、昔みたいに楽しそうな顔するようになったんだ」


楽しそう、か。

たしかに、先輩がわたしといる時間を楽しいって言ってくれたあの言葉は、嘘がないように聞こえた。


「だから、将馬の心の壁を取り払うことができるのは、むしろ君しかいないって、僕は思うよ」

「お兄さん……」


その言葉にわたしは勇気が出た。


そうだ、どうせこの気持ちを伝えないままにはしておけない。

なら、もう一回告白して、そして今度は好きだってちゃんと伝えよう。


それに、しょーま先輩の心に寄り添ってあげるのは、わたしでありたい。

わがままにもそう思ってしまうのだ。


「ありがとうございますっ! お兄さん!」

「うん、力になれたなら嬉しいよ。将馬をよろしくね」

「はいっ!」


次に先輩に会えた時には、この気持ちを伝えよう。

2回目の告白をしよう。


青く晴れた空を見上げながら、わたしはそう心に決めるのだった。



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