11.俺が彼女と遊園地デートする話
「今日の服も可愛いな」
「えへへっ!」
週末、俺らは駅で待ち合わせをしていた。
可奈は白地の半袖カットソーを短めのデニムパンツにシャツインして着こなしている。太めの茶色ベルトがアクセントになって全体の色味をまとめていた。
シンプルながら可奈のビジュアルを引きたてる魅力的なファッションだと感じた。
「今日は遊園地行くんですよね?」
「あぁ、可奈行きたがってただろ?」
「はいっ! 楽しみですっ」
ということで、俺らは電車に乗り、遊園地のある場所まで向かった。
電車の中、自然と隣の座席に座ってしまうあたり、ずいぶん距離を縮めてしまったものだと思う。
可奈との会話はそれなりに盛り上がり、気がつけば遊園地のある駅についていた。
「わたし久しぶりですっ、遊園地っ!」
可奈がスキップしてはしゃぐ。
かくいう俺も遊園地なんて中1の時にクラスメイトと行った以来なので、それなりに高揚していた。
チケットを2人分購入し、入場する。
「先輩っ! まずはあれ乗りましょうっ!」
と、いきなり目の前にあったジェットコースターを指差す可奈。
走行中の高低差も激しく、かなり恐怖度の高そうなアトラクションだ。
「よし、じゃあ行ってみるか!」
久々のジェットコースターということで、俺もワクワクしながら列に並ぶ。
順番が回ってくると、俺たちは最前列の席に座ることができた。
「きゃあーーーーっ!」
ジェットコースターが加速し出すと、可奈が絶叫する。
俺はあまり声が出るタイプではないが、隣で可奈が叫んでるのを聞いて、テンションは上がってくる。
「ほら、見ろよ可奈。綺麗だぞ」
ジェットコースターが山の頂点に達する時、俺は可奈に景色を見てごらんと言う。
「うわっ! ほんとにきれいでってきゃあーーっ!」
可奈は俺の言葉に視線を上げるのだが、その瞬間ジェットコースターが急降下した。
「はははっ」
「もうっ! 先輩ひどいですっ」
ジェットコースターを降りた後、俺はそんな可奈がおかしくて思わず笑ってしまう。
可奈がペシペシと肩を叩いてくるが、可愛いものだ。
「にしてもお腹空いちゃったな」
「じゃあ何か食べますか?」
来たばかりではあるが、お昼時の時間ではあったので、俺たちは一度昼食をとることにした。
「そういや、可奈と弁当以外で昼食取るのも珍しいな」
「えへへっ、わたし本当に毎日お弁当作っちゃってますからね」
「いつもありがとうな」
日頃の感謝を伝えたりしながら、俺たちはレストランでの食事を楽しむ。
「次はどこ行きたい?」
食べながら、俺は可奈に尋ねる。
「うーん、明るいうちに絶叫系制覇しちゃいましょうっ!」
「りょーかい」
てなわけで、昼食後、俺たちは乗れる限りの絶叫系に乗りまくった。
特に垂直落下するアトラクションは肝が冷やされたな。
可奈も声を出す余裕すらなかったみたいだし。
そんなうちに日も落ちてきて、遊園地全体が夜のムードに包まれる。
「じゃあそろそろお化け屋敷行こうぜ」
「そ、そうです、ね」
そして、俺たちはいよいよ、お化け屋敷へと入っていった。
と、可奈が後ろから俺の袖を摘んでくる。
「その、わたしお化け苦手なんです。だ、だから、手繋いでてもらっても、いいですか……?」
いつもより近い距離での上目遣いに、思わずドキッとしてしまう。
「じゃあ、繋ぐか」
だからか、俺も緊張してしまって、手は繋いだものの、2人ともなにも喋らなくなってしまった。
沈黙の時間に、恥ずかしさが増す。
「なあっ」
「あのっ」
しかも喋り出しが被ってしまい、気まずい空気は余計に強くなる。
「先、進もうか」
「……はい」
やっとのことでお化け屋敷の中へ足を進めることができた。
真っ暗な空間の中で、繋いでる手の温もりがさらに強く感じられる。
だから可奈の手が震えているのもよく分かった。
一度立ち止まり、空いてる方の手を可奈の頭に乗せる。
「大丈夫だ、可奈。俺がついてる」
「せん、ぱいっ……」
それで勇気が出たのか、その後は立ち止まることもなく出口まで辿り着けた。
もちろん、途中泣きそうになるほど叫んでいた可奈だったが、終わった後は晴れやかな顔をしていた。
と、可奈が入り口でした時のように、再び俺を上目遣いで見る。
「しょーま先輩、手繋いだままでも、いいですか?」
澄んだ瞳でそんなことを言われては断ることなんてできなかった。
というか、少し嬉しいと思ってしまった。
夜の遊園地を、2人手を繋ぎながら歩く。
イルミネーションでライトアップされた園内はロマンチックなムードを醸し出していた。
お化け屋敷の入り口であったような緊張感が再び俺たちの間に広がる。
だが、今度は沈黙の時間が続く前に可奈が言葉を発した。
「わたし嬉しいです、先輩の彼女でいられて……」
少し震えた声で、可奈はそんなことを言った。
俺にはどういう意味で可奈がそう言ったのか分からなかった。
なぜなら俺は可奈の男避けのために彼氏を装っているだけの偽物の彼氏なのだから。
素直に彼氏としてその言葉を受け取ってしまってもいいものか、俺には分からなかったのだ。
「ふふっ、いいんです。しょーま先輩はそういう人だって分かってますからっ」
俺が何も言えないでいると、可奈が笑って一歩前へ出る。
「ほら、向こうでパレードやってますよっ」
気まずい雰囲気を紛らわすように可奈は俺の手を引く。
俺は可奈のことをどう思っているんだろう。
可奈は俺のことをどう思っているんだろう。
その答えはどちらも分からなかったけれど、今繋いでるこの手は離したくないなと、そう思った。
「パレード、終わっちゃいましたね」
どのくらい時間が経っただろうか。
気づけばパレードは終わり、閉園時間が迫っていた。
「最後に、観覧車だけ乗っていきましょうよ」
可奈がそうお願いしてきたので、俺たちは帰り際、観覧車に乗ることにした。
「きれいですねっ」
ライトアップされた遊園地を上から眺め、可奈はそう呟く。
一方の俺はそんな可奈にすっかり見惚れてしまっていた。
普段あれだけ近くにいるのに、いざ閉鎖空間に2人きりとなると、可奈の魅力がいつもよりすごく間近に感じられるのだ。
可愛いな。
そう思わずにはいられなかった。
「先輩? どうかしたんですか?」
と、可奈が不思議そうな顔でこっちを見てくる。
「い、いや、なんでもない」
慌ててそう言うと、可奈は軽く微笑んだ。
「わたしも、緊張してるんですよ?」
可奈はそう言って対面に座る俺の手に、自分の手を重ねる。
「ほら、緊張して体温上がっちゃってるんです」
「可奈……」
「でも緊張とかそーゆーの以上に、先輩と2人でこうやっていられることが嬉しいんです……」
観覧車ももう一周終わるかと言う時、可奈が俺の目を見つめる。
「先輩はわたしと一緒にいて楽しいですか?」
可奈は不安と期待が混ざったような目でそう尋ねた。
思えば、樹の件があって以来、誰かと一緒にいることを心の底から楽しいと思ったことはなかったかもしれない。
可奈の問いはそういう意味では答えに詰まるものであるはずだった。
そのはずなのに、
「楽しいよ。俺も可奈と一緒に過ごせる時間が好きだ」
気づけば俺はそんなことを言っていた。
2人きりの空間を、イルミネーションが間接照明のように淡く照らしていた。




