10.俺と女優のクラスメイトの話
少し短めです。
「将馬くん、おはよ!」
「……姫廻?」
次の日、姫廻はマスクも眼鏡もせずに登校してきた。
「え、あんな可愛い子うちのクラスにいたっけ?」
「まるで女優さんみたい……」
「もしかして、姫廻さんじゃない?」
「おいおいどーなってんだよ」
「工藤に続いて姫廻までイメチェンか?」
「小生の推し、姫川綾音ちゃんそっくりなのでござる」
隠されていたその美顔にクラス中が沸く。
ていうか、なんで俺に話しかけてきたんだ?
しかも今、下の名前で呼ばれた気がする……。
「将馬くんって呼ばれた方が嬉しいのかなって思って」
俺の戸惑いを感じたのか、姫廻がそう言う。
もしかして、昨日俺が語ったことを気にしてくれたのだろうか。
工藤兄弟の片割れとして扱われるのが嫌だったという話はした気がする。
その派生で、工藤と呼ばれるのを嫌っていたのは事実だ。
きっと、彼女なりに気を遣ってくれたのだろう。
ただ、そんなことよりも。
「姫廻、敬語はもう使わないのか?」
彼女は普通に話せていたのだ。
「うん! 今の私には将馬くんがいるから」
姫廻はそう言って弾けるような笑顔を見せる。
こんなに眩しいキャラだったか?
まるで別人のようだ。
でも、言葉の奥にみえる優しさとか、笑顔の裏にどこか怯えてるような表情が残っているあたりだとかは、やっぱり姫廻なんだなぁと思う。
「……私のこと見る目変わった?」
だから、不安げにそう聞いてきた姫廻にも俺は即座に答えられた。
「そんなことはない、姫廻は姫廻だ。マスク外したところで見方が変わるわけないだろ」
「将馬くん……!」
姫廻は俺の言葉に嬉しそうな顔をする。
さっきから騒いでるクラスメイトの声を聞く限り、姫廻は休業中の女優、姫川綾音で間違いないのだろう。
俺の記憶にある姫川綾音とも酷似しているしな。
だから姫廻が恐れているのは、俺が姫廻果帆としてでなく姫川綾音として彼女に接してしまうんじゃないかということだと思う。
そんなことないのにな。
だから俺はもう少し言葉を足す。
「もちろん、姫廻が今まで頑張ってきたことはすごいと思う。だけどその努力をしてきたのは姫川綾音じゃない。姫廻果帆なんだろ? だから俺はもっと自信もっていいと思うぞ」
「やっぱ気づかれちゃってたか。……でも嬉しい! ありがとう将馬くん」
どうやら、姫廻も踏ん切りがついたようだ。
昨日とは違って何かが晴れたような顔をしている。
その後、自分の席についた姫廻の周りには、たくさんのクラスメイトが押し寄せていた。
「しょーま先輩っ! わたしは怒っていますっ」
昼休み、屋上で可奈が唐突に指を突きつけてきた。
「浮気しないって言った次の日に他の女の子と噂になるってどーゆーことですかっ!」
ぷんぷんっ!
といった調子で可奈が頬を膨らませる。
どうやら、姫廻と俺が早速噂されているようなのだ。
「いや、姫廻とは本当に何もないから」
俺はなんとか可奈を宥めようとしてみるが、可奈はうーんと唸ったままだ。
え、なんで夫の浮気がバレた時の夫婦みたいになってるの?
俺浮気してないし。
そもそも、俺と可奈はファッションカップルなんじゃなかったのか……?
でも、なんでか可奈のこういう反応を嬉しいと思ってる自分もいるんだよな。
「……まぁ、その姫廻先輩もあんま学校来なくなるみたいですし、今回だけは許してあげます……」
そう、姫廻は女優業を再開することにしたようで、今後は仕事の関係で休みが取れた日にのみ登校することにしたそうだ。
何はともあれ可奈の許しを得られてほっとする。
「お嬢様の寛大な御心に感謝申し上げます……」
「うむ、よろしいっ」
少し茶化したようなやりとりに、思わず2人で笑ってしまった。
それを機に、場の空気も明るいものとなる。
なんだかんだ言って、可奈と一緒にいるのは楽しいんだよな。
2人の時間を大切にしたいと思い始めていることに、自分でも驚いた。
「でも、今回のお詫びとしてまたデート連れてってくださいっ!」
だから、可奈がそんなことを言ってきても、拒否する気になんてならなかった。
「あぁ、もちろんだ」
「えへへっ! やったっ!」
そうして週末、可奈と2回目のデートに行くことが決まった。




