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エンジェル・アーツ・プログレッシブ・ファンタジーエディション

僕は沢山悠人。

ロボゲーの大会で幾多の優勝経験がある末期のゲームオタクである。

近頃、VRのロボゲーなんかが普及して、余計に末期をこじらせた。十六歳で学校にもろくに通わず、ゲームの優勝賞金で好き放題する毎日である。


しかし、最後に出場したゲーム大会を皮切りに、僕は大好きなゲームさえするのがバカバカしくなり、こうして、ベッドの上でダラダラするばかりである。


最後のゲーム大会の優勝賞金がそれはそれは高額だったのもあり、親は何も言わないようになってしまった。

これは、もう二ヶ月も前のことである。


十六歳で数十億の金を掴んだら、働く意欲なんて湧きっこない。


もちろん、僕は僕なりに修羅場を経験したこともある。

最後のゲーム大会は本当に特殊な大会で、ともすれば命をかけざるを得ないものだったから。


『エンジェルアーツ・プログレッシブ』

僕はこの有名タイトルゲームで世界一位の腕前となった。

VRゴーグルと、衝撃体感スーツを組み合わせ、フルダイブに非常に近い感覚をプレイヤーに提供するこのゲームは世界中で大ヒット。

ロボットを本当に操縦しているような感覚と、ストーリーはプレイヤー自身で作り上げるという手法が話題になった。


初代王者の僕はそれはそれはちやほやされた。


けれど、フルダイブはつまり、装着者に限りなくリアルな体験を迫る。僕はゲームで負ければ本当に死んでしまうと錯覚しながら、取り組んだ。

事故で死んだプレイヤーもいた。


対価は大きかった。


僕はあれ以来、現実を生きている気分がしない……。



回想しつつ、

僕はベッドの上で、十二時の真昼間から、目を閉じた。


かち、かち、かち、時計が音を立てる。

段々と睡魔が僕を支配して、頭が蕩けそうになる。

その時、


『レイト少尉……任務が発令されました。これより、ブリーフィングを開始します』


意識が薄らぐと同時、無機質な女性の声が僕に語りかけた。


声に聞き覚えがあった。


まるで……。


「あれ?」


声の主を見ようと目を開けると、僕は見知らぬ街中に、突っ立っていた。


中世の街並みをそのまま切り抜いて貼ったような景色で、石造りの道が十字路を作っている。

路地裏なのか、薄暗く、ジメジメとしていた。


「風白レイト少尉、お久しぶりです」


僕を風白レイト少尉と呼ぶのは、エンジェル・アーツ・プログレッシブのメンバーだけだ。

一体なんだ。


振り返ると、女性が今の今まで、僕の斜め後ろで佇んでいたらしいことに気づいた。


僕の困惑をよそに、挨拶をした人物は続けた。


「お呼びだてして申し訳ございません。退役された御身を再び少尉とお呼びするのは心苦しいですが、緊急を要する重大任務がセフィロトより受注されました」


無機質に僕へと語りかける声。

見るからにアンドロイドと判る声質と肌の質感。

場違いな黒いメイド服。

呆れるほど整った顔。


エンジェル・アーツ・プログレッシブのナビゲーターNPC、ユーリだった。

そして、セフィロトとは、エンジェル・アーツ・プログレッシブで主人公が所属するギルドのような団体。


「ここは、魔導の国クリッド教国、魔導師が支配する国です。御身にはこれから、不当な罪で処刑にあう王女を助けていただきます」


ユーリは有無を言わさない口調で告げた後、左手をクイッとあげた。

手の平が、僕の右手側を指し示す。


そこには、大群衆と処刑台があった……。


ギロチン台には、少女が一人、頭を垂れて拘束されている。


「どういう、状況?」


僕は珍しい夢を見たなと思いながら、ユーリを振り返った。


ユーリはちらりと自分の手元を見た、そこには銀色の腕時計があった。


夢にしては、はっきりし過ぎている。


僕は漠然とそんなふうに思った。


「時間はありませんが、状況の説明をさせていただきます。

クリッド教国は、枢機卿が擁する教会権力と王侯貴族が擁する王権勢力が長きに渡り拮抗してきました。

十二年前に王女以外の王権所有者及びその候補が相次いで死去。

救出対象である王女が王権を所有しました。

名前はレイア・メルフィレム・キーター。

十二歳、女性。

レイア王女の治世は非常に合理的でしたが、それを妬んだ教会勢力より、あらぬ罪を着せられたようです」


長々と説明する中、ユーリは再び手元の時計をちらりと見た。


恐らく、これは夢だ。

しかも、中々覚めないし、結構楽しい夢だ。


せっかくだし……。


「メタトロンはどこ?」


僕は愛用機の名前を持ち出した。


すると、ユーリは唇をかすかに緩め、今度は右手を挙げた。


僕は右手の方向を見た。


よく見ると、路地裏のゴミ溜めに、大きな布がかけてあった。

しかも、山を作っている。


僕は迷わず布を取り去った。


全身白いアーマーで包まれた十六メートルの巨体が折りたたまれて置いてある。

顔は少し鋭く、猛禽類をイメージさせ、手足はやや細く、手指はシャープな構造。

右手にライフル、左手にはシールドが配置されている。

ライフルは、エーテル粒子増幅器『セラトン・インフュージョン』を内蔵した超高圧電磁砲。

シールドは、テレズマ粒子増幅器『セラトン・ヴェール』を内蔵したエナジーフィールド展開式。

背中に、翼を展開させるためのタキオン粒子増幅器『セラトン・レイズ』が配置されている。


うーむ、明らかにオーバーキル。

会場の人が刹那の瞬間に全滅しかねない武装である。


「拘束用のパラライズ弾の使用を許可されています。

 セーフティを解除しない限りは、生命の危険はありません」


ユーリは僕の思考を先回りしたように言った。


まあ、所詮は夢のことなのだから。


「じゃあ、行くよ」


僕は言いつつ、メタトロンを見上げた。


退屈凌ぎくらいにはなりそうだ。


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