ルトスvsコウ 決着
ここまでのあらすじ
ボルティスがコウの実力を測るために、街を訪れていたコウを訓練場へと連れてきた。
相手は以前街で戦闘した第6王子のルトス。
コウはある程度実力を隠しながらも、ルトスに1撃を与えた。
一方観覧席では
ルトスとコウの試合が始まり、3人は興味深そうにいくつかの視点が表示されたモニターに集中する。
ルトスが激しく飛び道具を飛ばすがコウはそれを上手くさばいていく。
「ルトス様なかなかやりますねぇ、速度差を使った攻撃としてはなかなかのものかと」
「最近はずいぶん熱心に訓練されていたようなので、その成果が出ているのでしょう」
トマクとメグロは、少しおだてるかのようにボルティスの息子を褒めたたえた。
2人はボルティスに対してそのようなおだてやゴマすりは通じないのはわかっていたが、あくまで思った以上に練習の成果が出ていると感じたので素直な感想を言ったまでだ。
だがボルティスは厳しい目でモニター越しに息子を見つめる。
「悪くはないが、コウに完全に対処されているな。しかも2セット目ではコウは威力を見切った上で無駄のない水属性の盾、あれは見た目以上に実力がありそうだ」
ボルティスは淡々とコウを褒めていたが内心はかなり驚いていた。
それもそのはず、コウの戦い方は誰が見たとしても1年目のものではなかった。
厳しく見積もっても4,5年目の経験をそれなりに積んだ才能のある者の戦い方だった。
「確かにあれはなかなかの魔法使いですね。俺がやり合って奴の実力を底の底まで引き出してみたいぜ」
トマクが嬉しそうに言いながらモニターを見つめていた。
その時、ほとんどの者を立ち入り禁止にしていた、この訓練場に繋がる扉が開く。
やってきたのは立ち入りを許可されていたコウの師匠、クエスだった。
クエスに気付いたトマクとメグロは一瞬姿勢を正し礼をする。
クエスはそれに対してお疲れ様とばかりに微笑むと、すぐにモニターを見つめ始めた。
「ボルティス様、この戦いは今始まったところ?」
「あぁ、というかまだ15分ほどしか経っていないと思うんだがもう来たのか?」
「別にこの戦いを見てはいけないなんて言われた覚えはないわよ」
そう言うとクエスはコウの動きを重点的に観察し始める。
トマクとメグロもかなりこの戦いに興味を持っっているので、クエスに礼をした後はすぐにモニターの方を向いていた。
「うーん、なかなかコウもいい動きをしているじゃない」
クエスが嬉しそうに呟いているのをボルティスが横目で見る。
1年目の魔法使いを即実戦投入できそうな水準まで育てておいてなかなか程度の評価とは、クエスの厳しい基準に呆れてボルティスは小さくため息をつく。
そんなボルティスの態度など気にならないと言わんばかりにクエスはコウの動きに注目し続けた。
そして状況が動いた。
コウがルトスの脇腹を軽く切り裂き、風爆弾の爆風によって両者は距離を取る。
状況で言えば、コウが1本先取といったところだった。
「ほほぅ、これはなかなかすごいな。ちょっと本気で試合がやりたくなってきたぜ」
さっきと同じように言いながらトマクが顔を上げるとクエスがかなり厳しい表情で睨みつけている。
それにしまったと思ったのだろう、トマクは思わず誤魔化す。
「いや、いつかですよ。こんなトリッキータイプはなかなかお目にかかれないですから」
「そう」
急に丁寧に話すトマクに対してクエスは表情を戻すとそっけなく答えた。
「どうしましょうか、ボルティス様。傷は深くはないですがルトス様負傷です」
訓練場の中はいったん訓練停止の表示が周囲に現れて、ルトスは<光の保護布>で傷を抑え2人共剣を下に向けたまま立って待機していた。
ボルティスは考える。
このまま続けてもコウが勝つのはほぼ確定だろう。
運悪くルトスの収束砲でもくらえば勝敗はわからないが、コウの攻撃のさばき方を見る限りその希望はほぼ無いに等しい。
だからと言ってここで終了すればこれ以上のコウの実力を見る事ができない。
それはそれで惜しい話だった。
「そうだな、1分後継続だ」
ボルティスの一言に訓練場内の表示がタイマーに変わる。
「ところでクエス」
ボルティスはクエスの方を振り向くと少しだけ緊張したかのようにして話し出す。
「彼の、コウの将来的な相手は誰か決まっているのか?」
今の戦いから見て、ボルティスはコウが精霊の御子、もしくはそれにぎりぎり及ばないものの風か水の才子であることは間違いないと考えた。
ならば出来るだけ一門内、欲を言えば自分の家で囲いたいと考えて、即結婚相手の状況を尋ねたのだった。
「別に」
クエスはボルティスの意図を見透かして少し不満そうに答える。
「そうか、ならば・・うちの第2王女ルルカはどうだ。少々気が強いがクエスほどではないし、色々な知識を身に着けているから彼の助けにもなるだろう」
ボルティスが娘の軽い紹介にとどまらずぐいぐいと押しているのを聞いて、トマクとメグロは驚いた顔をして固まってしまった。
ルルカは魔法の実力も高く交渉などの能力も高いことから、その実力を評価され継承2位の扱いとなっている。
いわば大切なギラフェット家の次世代当主候補であり、2位内であることから貴族内でもさらに格の高い王族の地位になっている。
そんな大事な娘を性格の固いボルティスが、クエスの弟子とは言えどこのだれかわからない者の伴侶に推薦するものだから、部下たちが固まるのも無理はなかった。
しかもトマクやメグロはコウのことを正確には知らないので、コウは魔法使いになって数年は経過していてそこそこ出来る程度のクエスの弟子という印象しかない。
そんな2人は我に返ると慌ててボルティスの言動を止めに入った。
「ボ、ボルティス様、一度も合わせることなくルルカ様の相手なんて話をしては、ルルカ様が強く反発しかねません」
「そ、そうです、ボルティス様。ルルカ様が不機嫌になったら俺たちも手を焼くんだから勘弁してくださいよ」
メグロとトマクの様子を横目で観察しつつクエスもボルティスに反発する。
「コウには教えることがまだまだあるの。余計な邪魔は入れないでくれませんか?」
「・・そうか。だが顔合わせくらいはいいだろう。間に合いそうなら呼んできてくれ」
周囲の反発にボルティスも妥協したのか、メグロに娘を呼びに行かせる。
一連の行動をクエスがじっと睨んで抗議するがボルティスは少し困った様子を見せつつも無視をした。
その様子を見てトマクはふと思った。
もしかしてあのコウという奴は今見せている以上の実力があるのではないかと。
思い返せば先ほどの戦いでも、ぎりぎりに見せながらもある程度余裕があるのでは思わせる部分はあった。
それに、次期当主の可能性のある者との結婚なんて誰であっても飛びつくほどの話だ。
それをやんわりと断るクエスも、ルトスに苦戦する程度の男に娘を紹介するボルティスも不自然極まりなかったからだ。
「これはますます一戦交えたくなったな」トマクはモニター越しにコウを見ながら小さくつぶやいた。
◆◇
1分後に訓練再開という表示を見てコウは気持ちを落ち着けながら先ほどまでのルトスの動きを振り返る。
前回街中で戦った時の感触からルトスの光LVを想定し、コウは十分に対処できる風と水をLV32くらいに抑えながら戦った。
これはクエス師匠から教わった慎重な戦い方に沿った行動だった。
とにかく底を簡単に見せるなというクエス師匠の教えにより、コウは相手の実力を見極めつつ自分の実力を見極めさせないという点に重きを置いて動いていた。
戦闘が長引いて疲労しやすいし、むやみに実力を抑えると自分が負傷しやすくなるデメリットもあるが、この戦い方にはそれなりにメリットもある。
1つ目は単純に相手が油断する。
相手側だってここまで慎重ではなくとも実力の見極めくらいは当然行う。
そこで相手が決めにかかった時に相手の想定の更に上をいけば、相手に負傷を負わせてそのまま有利な状況で畳みかけられる。
ただし当然の話だが、これは相手に自分の実力がはっきりとは知られていない時しか有効ではない。
2つ目は実戦で特に重要なことだが、正確な実力を知られてなければ例え相手に逃げられたとしても、次も相手の想定を上回れる可能性が高いことだ。
特に強力な奥の手がない場合は、相手の想定を上回れることを奥の手にする、これが戦場で長く生き残れる事にもつながるとクエスはコウに力説していた。
その教えを今回コウは忠実に実行していたのだ。
あくまで裏で話がついている実力検査ではあったが、この状況は実戦とも言える。
そんな状況の中、クエスの教え通り実力を抑えつつ相手の実力を見極めているコウを、途中から見ていたクエスは感心していた。
<光の保護布>で傷の部分を覆い止血しつつルトスはコウに話しかける。
「やるじゃないか、あの時はずいぶん手を抜いていたようで」
「いえ、あの時はこちらから失礼を働きましたので」
「なるほど。だが俺もこのままでは終わらせんぞ」
「はいっ」
コウの真っ直ぐな返事にルトスは少し調子が狂ったが、話しながら完成させた魔法の型をストックし
コウもまた、型をストックしつつ自分の後ろに魔核を散らせつつ型を準備する。
この1分間は相手に攻撃は出来ないが型を作ったり傷を癒したり自分に補助魔法を使うことは禁止されていない。
実戦で言うところの接敵直前の準備時間という扱いだ。
1分が経ち周囲の壁に複数表示してあったタイマーが消える。
それと同時にルトスは動き出す。コウは慣れていなかったからかワンテンポ遅れた。
ルトスの攻撃は先ほどと同じ3種の攻撃にさらに時々だが<百の光矢>を使いコウを中心とした周辺一帯に光の矢の雨を降らせる。
光の矢を受け立ち止まっている間に3種の攻撃を繰り出し、コウを押し込みつつ削り切る作戦だ。
コウは先ほどより厳しくなった攻撃を防ぎつつ距離を少し詰めていくが、それをあざ笑うかのようにルトスはコウの周囲を回りながら距離を詰めさせない。
「くっ、かなりきついなこれ」
「どうだ、俺もやるもんだろう。さっきのようにはいかないぞ」
ルトスはこのままなら勝てるかも、そう思い少し笑みがこぼれる。
コウはルトスの猛攻に対して何枚も水の強化盾を貼りつつルトスの出方を窺う。
先ほどルトスは魔核の多い型をストックしていた。
多分あれはルトスの決め技<収束砲>だろうとコウは予想している。
下手に突撃して決めの一撃を食らえばコウもただじゃ済まないので、空振りで撃たせつつその隙を狙うつもりだった。
そして互いにここだというタイミングが来た。
光の矢がまばらに降り注ぐ中、コウは目の前から飛んできた光の槍2本を水の強化盾で受け止める。
そしてぎりぎり魔法が届く範囲を見極めて、コウは<水の履物>をルトスの足元に使う。
ルトスの足が水で覆われ動きずらく、踏ん張りにくくなる。
「このタイミングでそんなもの、何の意味がある」
ルトスはコウからかけられた魔法を無視しストックから型を取り出すと、型の魔力を満たしつつ移動しようとするコウを妨害するように<光一閃>でレーザーを放ちコウを狙う。
「くっ、しつこいな」
コウはルトスの大型魔法が発動する少し前に<水霧>を発動。
訓練エリアがみるみる霧に覆われルトスはコウを見失ってしまう。
「くそっ、こざかしい真似をするじゃないか」
ルトスはそう吐き捨てるが、発動直前の収束砲をどこに放てばいいかわからなくなった。
魔法を放たずに維持することも可能だが、それに集中し続ければ他の魔法の型を組む余裕もなくるし
何より魔力を食い続けるので、魔法完成時に自分の周囲に展開してた魔力を消費したままの状態を維持してしまうので隙だらけになってしまう。
とにかくコウがいた方向から遠ざかろうとするが、足に水がへばりついて移動がおぼつかない。
その時ルトスはコウの魔力が密集した場所を感じた。
今のままでは自分の身が危険なので一か八かその濃い魔力の方へ<収束砲>を放つ。
高魔力の直径15cm程の光のビームが霧の中を貫き、その軌道部分と周辺は霧が晴れるがそこにコウの姿はなかった。
「今だ!」
コウはルトスの一撃が放たれた直後に収束砲が放たれた方向と別の方向から、疾風状態でルトスの伸ばした左腕に剣を向ける。
突っ込んでくるコウに気付いたルトスは慌てながらもとっさに残った魔力で<光の槍>をコウに向けて放つが
コウは周囲に展開した魔力障壁である程度相殺し、残りかすを食らいつつも狙っていたルトスの左腕に剣を突き刺して貫いた。
さらに同時に用意していた<空気砲>を自分の魔力をもつぎ込みながら即座に発動させた。
ルトスは対応する間もなく剣で刺され、咄嗟に自分とコウの間に<光の盾>を作るが、コウの空気砲による風の魔力の塊がその盾を砕き、ルトスはそのまま壁へと叩きつけられた。
ルトスは何とか周囲に展開していた魔力の残りカスで壁へ激突する衝撃を和らげたが、ルトスの目の前にある風の魔力が高圧の空気の塊となり
壁に密着した状態のルトスを瞬間的に先ほどよりさらに強力な力で壁へと押し込んだ。
2撃目までは防ぐ余力もなく衝撃をもろに体で受け止めルトスは吐血するが、コウはさらに追撃で<風刃>を2発ルトスに放つ。
コウが風の魔法を連発したせいもあって、この時までには訓練場内の霧はほとんどが晴れていた。
そして決着がついていることが周りも分かったからなのか、コウの風刃はルトスの前に突如現れた別の者が使った<光の集中盾>により防がれる。
横やりが入ったことから勝負が決着したとコウは理解し、剣を持ち軽く構えつつも立ったまま判定が下るのを待つことにした。
書いて、修正して、どんどん訳が分からなくなる戦闘シーン。
それなりに伝わっているかどうかが心配です。そこは自分の表現力の無さを恨むしかないか。
とは言え、今話も読んでいただきありがとうございます。
今週中もう1話上げたいです。
魔法紹介
<水の履物>水:相手の足に水を這わせて動きを鈍くしたり、踏ん張りにくくする魔法。一応この魔法で水の上に立てるようにはなる。
<水霧>水:エリア魔法。霧内では術者以外はわずかに動きにくくなり魔法の型も水以外少し作りにくくなる。当然視界も悪い。
修正履歴
19/08/02 指摘してもらった部分のルトス→トマクへ手修正




