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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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ギラフェット家会議:クエスのお願い

ここまでのあらすじ


クエスはコウの事や今後起きるトラブルのことを考え、一計を案じ一門のトップであるボルティスにお願いをしに行った。

ボルティスはとりあえずクエスの願いを聞くことにしたが、真意が掴めずメンバーを集めてその中で相談することにしたが・・


クエスが去って1時間程経った頃、小さめの会議室にギラフェット家の者達が集まった。

防音が施された部屋で大きめの丸テーブルを4人で囲んでいる。

メンバーは当主のボルティスを始め、メグロ、トマク、そしてボルティスが相談役として置いているルルフェリだ。


「急に集まってもらい悪いな。数日前に連絡があったクエスからのお願い事を、今さっき本人から聞いたが・・どうにも意図が掴めなくてな。そこで皆に相談したい」


「それで、どのような話だったのですか?」


トマクがかなりの興味を示す中、ルルフェリは落ち着いた様子で尋ねる。

ボルティスはルルフェリの方を一瞬見るとすぐに正面を向いて説明を始めた。


「クエスからのお願いは、弟子のコウ・アイリーシアが師匠になるに十分な実力があるということを、私が認めたという認定証を出して欲しいとのことだった」


ボルティスの発言に他の3人は首を傾げた。

3人ともクエスの性格は把握していて、そんなことを頼むような人物じゃないと思っていたからだ。

ルルフェリは深く腰掛け考え込み、メグロは黙って何かを考えている。


「一体なんですか?そのお願いは。箔をつける為ならクエス様自身の弟子だって言いふらした方が効果は高いでしょう。そもそも公表しなくたっていずればれるんだし」

トマクはあきれた様子で両手を大きく動かし、オーバーリアクションでボルティスの発言に疑問を呈する。


「トマク、それがわからないからここで考えているのでしょう?少し落ち着いて自分でも考えてみなさい」

ルルフェリはため息をついてトマクを注意する。


「いい、思ったことをすぐに言うトマクの意見も貴重だ」

「はっ、失礼しました」


ルルフェリは素直に謝罪した。


「私もクエスに同じことを言ったのだが、トラブル回避のためと言われた。以前のクエスの騒乱の件で私への報告が遅れたことを気にしての発言だったようだが」


「あれはクエス様が詳細を何も連絡しないものだから、こちらもフォローに四苦八苦させられたからなぁ」


「あの件の反省ということならありがたいことですが・・」


トマクとルルフェリはボルティスの言葉に反応したが、メグロだけは未だに黙って考え続けている。


「しかしもっとわからないのがその弟子だよな。クエス様の弟子になってはいるが何の実績もないどころか能力も未公表。なのに師となって弟子を募るとか意味わからんぜ」


「一応弟子は決まっているらしい。その辺の準備は怠っていないようだ」



ボルティスがそこまで説明すると、黙っていたメグロが何か思いついたかのように急に顔を上げる。

ボルティスが自分の方を向いたのを確認してメグロは手を挙げた。


「よろしいでしょうか」

「ああ、構わん」


黙っていたメグロが発言するので皆がその内容に注目する。


「まず私の記憶では、クエス様の弟子であるコウはあと2ヶ月後くらいにルーデンリアの貴族街に住むことになっていたはずです」

「ええ、そうよ」


ルルフェリがメグロの発言にすぐに反応する。ボルティスも遅れてわずかに頷く。


「その状況で師として活動しようということは、クエス様はコウを道場主としての師匠にするつもりだと思います」


「道場主としての師匠・・それに何か意味はあるのか?」

ボルティスは不思議そうに尋ねた。


ルルフェリは何か思い出そうとしていたが、トマクは何のことやらわかっていない様子だった。

貴族階級の者、特に重要な役職に就く貴族や王族は魔法使いになった時に師から指導を受けるが、あくまで師を城内に呼んでから指導を受ける形がほとんどなので

道場を持った師のいる場所へ出向くという形で指導を受けることは、ここにいるメグロ以外皆馴染みがなかった。


「そもそも道場って、傭兵どもがやっている手法だろう?」

トマクは大して興味なさそうに尋ねる。


「はい、そうです。ですがこの道場という仕組みでは傭兵と言えども優秀な師がいる場合は貴族が認定し、部外秘にする場合があります。優秀な指導者ともなればどの貴族も他家に介入されないように押さえて置きたいですから。

 その場合は他家の貴族と言えども簡単には中に入れなくなります」


「へぇ、そんなシステムがあったのか。知らんかったな」

トマクは感心しつつも軽く受け止めるが、ルルフェリとボルティスはそれを聞いて真剣な顔つきになる。


「もし、貴族が道場を持った師になった場合はどうなるか知ってるの?」

ルルフェリが慌てた口調でメグロに尋ねる。


「あまり例は耳に入ってきませんが、貴族の場合は道場は城内に作られ完全に部外秘となる事がほとんどだと聞いています。各貴族家特有の属性指導と似た感じになるんじゃないかと想定しています。

 わが家はほぼ光属性のみですので家特有の技術や属性は少ないですが、アイリーシア家ならそういった道場が知られていないだけで内部にあるかもしれません」


各貴族家の属性指導は、その家の独自の発展を遂げてきた物であり部外秘のものになるとレベルもかなり高く、一門の当主と言えども立ち入れない領域となる。

アイリーシア家で言えば転移門の技術指導所等がこれに該当し、貴族一家の生命線にもなりうるため、当然ボルティスと言えども立ち入れない領域と言うわけだ。


「おい、それはまずいぞ」

「ですね・・」


ボルティスとルルフェリは表情がこわばった。まるで危険物を発見したかのような顔つきだ。

それを見たメグロが慌てて訂正する。


「ボルティス様、あくまでこれは貴族家の領内での話であり、コウが住む予定のルーデンリア光国ではそれは通用しませんから・・あっ」


そこまで言い切った後にメグロも気づいてしまったようで、言葉を止めた後固まってしまう。

その状況についていけないトマクはきょろきょろと顔を動かして他の3名の表情を見て不思議そうにしていた。


「えっと、話を聞いていましたが何かまずい点でもありましたかね?ルーデンリア光国ではそのコウって奴は貴族街に住むんでしょ?ならそこまでの立ち入り制限はかからないでしょう」

気楽に語るトマクに対してボルティス一同は皆揃ってため息をついた。


「トマク、お前はルーデンリア光国の貴族街にある、領地を持つ貴族たちにだけ与えられる占有地のことを知らんのか」


ボルティスが一段と低い声で怒りとあきれをまぜながらトマクに指摘する。

そこでようやくトマクも理解したようだった。


「え、ちょ、ちょっと待ってください。そのコウってやつはその占有地に住むつもりなんですか?」


「それくらいは当然想定できる範囲でしょ。

 でも、いくら飛び地のアイリーシア家領とはいえ、客人として当主や上級貴族の面々が尋ねてくればそのコウとやらも面会せざるを得ないと考えていましたが・・」


「まずいですね。そこに道場を作るなどという発想は私にはありませんでした」


「別にメグロだけではない。私も、そしておおよそ他の当主たちもそんなことは想像もしていないだろう。

 そもそもあの占有地は貴族が闇との大戦で領地を失った場合に避難する土地だからな。道場を建てるなんて発想は選択肢の中に入ってすらいない」


これはどう考えても大きなトラブルになる、そう思いながらボルティスは話しつつ頭を抱えた。


ルーデンリア光国にある各貴族の占有地はルーデンリア光国から与えられた各貴族の領地となっている。

もちろん各貴族の領地なので、ルーデンリア光国の役人たちも簡単には立ち入り出来ないし女王といえ遠慮なく立ち入るのは難しい。


つまり占有地は地球における大使館ほどの強い排除制まではないものの、似た仕組みのものと言って差し支えない。


ここは自国が闇の軍勢に飲み込まれたときの貴族家の最終避難場所にもなっており、多くの貴族家ではミニサイズの城やそれに比類する立派な建物が作られており

普段はあまり使われないものの権威の象徴みたいになっている。


「これは誰もすぐに気づかなくても仕方あるまい。現に当主や女王、その配下も誰も気づいてないようだしな。気づいていれば今頃もっと騒ぎになっていただろう。

 それより確かアイリーシア家では、土地の1/5位を使ってそれなりの人数が住める大きな住居と簡単な兵舎があっただけだったな」


「ええ、以前私からミント様にもう少し色々と設備を整えた方が良いと進言した事がありますので間違いありませんね」

ルルフェリは気付かなかったことに少し悔しそうにしながらボルティスの話を肯定した。


「メグロ、もし占有地に道場が作られたらそこには誰が入れることになる?予想で構わんから述べよ」


「はっ、考えられるのは師であるボサツ様かクエス様、後はアイリーシア家のミント様と上層部の一部だけかと。

 あっ、それに女王様は立ち入り可能だと思います。他にはボルティス様が認定証を出せば・・認めた者といえなくもないので・・」


「ふぅ」


ボルティスの大きなため息にここにいる皆も思わず声が発せず黙ってしまった。

これがクエスなりの意趣返しなのは理解できるが、もちろん当主たちが黙ってこの状況を許容するとは思えないからだ。


「またあの娘はトラブルを引き起こすつもりですね」


だんだんイライラしてきたのか、怒りにより沈黙を破ったのはルルフェリだった。

クエスが色々とやらかす度にルルフェリは処置策を考えてきたのだから文句を言いたくなるのも当然だ。


「ルルフェリ、言いたいことはわかるがこれに気づかずに最高会議の場で了承した時点でクエスの勝ちだ。

 迷惑がかかるのはわかるがその怒りはしまっておけ」


「・・ぐ・・はい」


「実際クエスには世話になっている部分も多々ある。特にあいつのおかげで私の発言力が相当増したからな」


「まぁ、確かにそれはそうですなぁ」

あまり肯定したくない雰囲気でトマクも同意する。

メグロも黙ったままだが1度だけ頷いた。


「さて、ここまでわかったのならまずはアイリーシア家の占有地の様子を見に行って確認しておこう。ほぼ予想通りだろうが念のためだ。

 後はクエスのお願いは受けるしかないのでその方向で行く事にする。異議はないな」


「ええわかりました」

「了解しました」

「了解」


この場にいる全員が了解したものの、誰一人嬉しそうな表情をしたものはいなかった。

決を採った後に直ぐにトマクが軽く手を上げる。


「それでボルティス様、腕試しの相手はどうするんですか?適任が見つからないなら俺が相手してもいいですよ」


「それは駄目だ。半年前、私の息子のルトスが相手したが押されっぱなしの実力だったからな。お前が相手しては実力を探る前に試合が終わる」


「・・そんなんで師が務まるんですかね?」


「何を言っているの?師になれるんなら少なくとも何かの属性がLV30を超えているのは確かよ。条件はそれだけなのだから。

 今なら第6王子のルトス様でもいい勝負になるでしょう。私としてはルトス様が適任と言えます」


トマクのやる気のない声にルルフェリがその考えの過ちを指摘する。


「確かにな。以前との違いも見比べられるし、ここは適任だろう。私から言っておく。

 後はどうやってそのテストに誘うかだな」


「普通に誘えばいいんじゃないですか?クエス様から御墨付き出てるんですよね」

トマクの発言を聞いてボルティスは再びため息をつく。


「一応条件が付けられている。なんでも、クエスが許可したという言葉は使わないで欲しいらしい。

 おそらく弟子がどうやったら誘いに乗るのかも試したいのだろう。あいつは相変わらずひねくれている」

最後は愚痴るかのようにボルティスは説明した。


「えぇ、マジですか!?面倒くさいですね」


「しかしあの時、コウは1人で突っ走ったところが見られました。上手く動かす手はあると思います。

 さらにクエス様への忠義は結構厚いようなのでそこも利用すればいけるかと思います」


冷静に分析するメグロを嬉しく思いながらボルティスはメグロにコウをテストに引き込む言葉を数パターン用意させつつ

必要ならルルフェリにも手伝うように命令した。


これで終わりかというタイミングでトマクがボルティスに話をしたそうに目で訴える。

ボルティスは内容が読めていたが、仕方なく聞くことにした。


「ありがとうございます。それで、やっぱり俺もそのコウと1戦やってみたいんですよ。なんとか許可をもらえませんか?」


「ダメでしょう。少なくともLV30になった程度の相手とあんたがやったって一方的にぼこって終わるだけじゃないですか。

 何の参考にもなりませんよ」


「いやいや、ルルフェリ。俺は相手の力量を引き出す事には自信があるんだぜ。頼みます、ボルティス様」


トマクの必死の願いにボルティスは色々と思案するが、あまりよい結果が思い浮かばない。

確かにトマクは力量もあり、技術もあるので相手にあわせた戦い方は他の誰よりも上手いといっても過言ではない。


とはいえ今回はクエスの弟子という事もあり、万が一大怪我でも負わせたら大変な事になる。

ボルティスは今まで得た情報を再整理しつつ、コウが想定よりも強い可能性を考えた上で答えを出した。


「わかった、トマクがその場でコウやクエス、それにわたしも上手く納得させられるようにコウを戦いに誘えたら

 そのときは許可しよう。そこまで手伝う義理は我々にはないからな」


その言葉にルルフェリとメグロも軽く笑いつつ、必死に考えるトマクを残してこの場の会議は終了した。



久々の?1日空き更新となりました。

最近は2日空きが定番化していた気がしたので、自分への戒めも込めての更新です。


次回の更新も・・やっぱり日を開けさせてください・・。

ブクマや評価、感想など何か頂ければ幸いです。では、頑張ります。

魔法のネタを集めないとな・・

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