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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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周囲の支えを背に受けて

ここまでのあらすじ


コウは無事に実戦練習②を始めるにあたってのテストをクリアした。

だが精神的な負荷を負ってしまう。師であるボサツはコウを楽にしようと話しかけてくれる。


その後も少し話しを続けて気分がだいぶ楽になったので、俺は師匠と2人隠れ家へと戻り夕食にする事にした。

夕食後も俺の事が心配だったのか、師匠は色々と話しかけてくれた。


その話の中で勉強になったのは、やって来た相手を殺さず逃がすのと殺すののどちらが不利かという談議だった。

クエス師匠のときは状況に流された事もあって反論できなかったが、俺はもし相手を殺せばその仲間の多くが敵討ちに来るので危険じゃないかと思いボサツ師匠に聞いてみた。


だがボサツ師匠はそれに反論した。


「確かに敵討ちに来る場合もあります。ですが、逃がした場合と違って相手はコウの情報を詳しくは知りません。

 その場で殺せば、逃がした場合に比べてリスクはぐっと下がるのです」


「たしかに・・そう言われればそうですね。でも基本的な強さは周囲の人に聞いたり魔法協会で情報を取ることも出来ますよね?」


「ええ。ですがそれはあくまで基本情報です。相手がどんな武器を使って、どんな道具を持っていて、どんな奥の手があって

 そう言う諸々の情報が知られれば知られるほど危険になるというわけです」


「なるほど、理解しました」


「あと、敵討ちをするのにいきなりコウの周囲の者を狙おうなんて者は少ないです。そんなことをすれば必要以上に敵を増やし主目的を達成することが難しくなります。

 ある程度力のある魔法使いは、まず相手を狙うのが定石なのです」


言われてみればそうなのかもしれない。

こんな話をしていたからか、俺はふとクエス師匠のことを思い出した。


「すみません、クエス師匠は確か『一族殺し』とか呼ばれてましたよね」

「ええ」


「それって関係者に相当恨まれていますよね、たぶんですけど。その時はどうだったんですか?」


ボサツ師匠は、ああそれがあったかと相槌を打つと嬉しそうに話してくれた。

どこに嬉しそうにする部分があるのか、俺にはわからなかったが。


「貴族階級では貴族同士の殺し合いは基本的に禁じていますが、決闘を申し込んで了承されたときだけは許可されています」


「そんなシステムがあるんですね」


「まぁ、どうしてもって言うときの救済措置・・救済ではないと思いますがそういうものがあります」


「それでクエス師匠もバンバン決闘を申し込まれたのですか?」


「最初は確か2人が勢いよく申し込んだのですが、くーちゃんが瞬殺してしまって・・」


うわぁ、そんなんじゃもう挑戦者は出てこないよな。

さすがクエス師匠、半端ない。リアル触らぬ神にたたり無しだな。


「それで暫くは収まったのですが、その後1人だけルール違反を犯して傭兵を雇ってくーちゃんに不意打ちした者がいたんです」

師匠に不意打ちか、今の俺でもその選択肢は無いなとわかる。


最近はかなり強くなっていると言われる俺でも、クエス師匠には正直手も足も出ないからなぁ。

ふっと気を抜いた瞬間に不意打ちをしようとしても確実に返り討ちにあうんだから・・


「当然、その人たちは負けたんですよね」


「ええ、傭兵含め全員死亡しましたが当然ルール違反ということでくーちゃんが申請し、その犯人の家族内で魔法使いである者は連帯責任の処罰対象となりました。

 その処罰をくーちゃんが買って出て・・監督官が見ている前で強制決闘の上全員やっちゃったんですよ」


うわっ、悪魔かよ・・普段俺が見ているクエス師匠からはそこまでの残虐さは想像もつかない。

俺はすごく怖くなって寒気がした。


「お、俺、今日のこと恨まれてませんよね?」


「大丈夫ですよ、むしろ褒めてましたし誇らしげにしていましたから」


「あぁ、それなら・・良かったです」


口では良かったと言ったが、正直複雑な気分になった。

そもそも刺されたのに、その刺した弟子を誇らしく思うのは・・わからなくはないんだけどさ。


「結果的にその話しが広がって、周辺も含めてくーちゃんに手を出す者は全くいなくなりましたね」

「で、でしょうね」


「くーちゃんも『私の親や妹や親族を殺したり、生き残った者をきつく扱っていたくせにいざ自分の番になると不満を言うとか頭おかしいんじゃないの』

 なんて言っていましたし」


「あはは・・そう考えるとそうかもですね、あはは・・」

俺は笑うしかなかった。


確かにクエス師匠の言う通りなんだけどさ、まぁ容赦なく鬼になることで自分とその周囲も守ったと思えば

世間で言われる一族殺しという通称も、残虐さの象徴として揶揄すべきものではないと言えるかもなぁ。


たださっきの話を聞いた後では、今回の試験も悪魔からの愛の鞭みたいで素直な気持ちで感謝するもの何か違うような気持ちになってきた。


その後も他愛もない話を含め俺とボサツ師匠で色々と話した。

ボサツ師匠の狙い通りなのか俺は話に夢中になり、だんだんといつもの自分に戻ることができた。


師匠の話を聞きながら俺は思う。クエス師匠の悲惨な過去を。

どれだけ追い詰められれば、どれだけ自分を責めれば、唯一生き残った姉妹同士でお互いを刺し合い情を殺そうなんてなんて決心が付くのだろうか。


俺にそんな辛い経験をしてほしくない、そんなクエス師匠の思いを俺は今やっと実感できたのかもしれない。

あの時の怒った師匠の目はそれを伝えようとしてくれていたのだろうか。

別に悲しいことじゃないのに、気が付くと俺の目から一筋の涙がこぼれていた。


「どうしました、コウ?」

不安そうな表情でボサツ師匠が俺の隣に来て涙を拭いてくれる。


「あ、いや、クエス師匠の強い思いを、なんか今実感できた気がして」


「ゆっくり、ゆっくりでいいんです。コウはちゃんと前に進めています。安心してください」


その言葉に安心したのか、俺はまだどこか固かった緊張が抜けていき師匠の肩に寄り掛かった。

師匠はそれを何も言わずに受け止めてくれて、しばらくそのままにしてくれた。



夜、寝る時間になった。

クエス師匠はまだこの大部屋にやってこないことから、回復しきれないようだ。


ただボサツ師匠も『明日の朝頃には出てくると思いますよ』と言っていたので、今夜は早い回復を祈りつつ寝ることにするか。

普段は俺が準備する布団をボサツ師匠が用意してくれる。


少しまいっているとはいえ、何から何まで気を遣わせて本当に申し訳ない。

そう思っていると師匠がさっき敷かれた布団の横にもう一セット布団を十分している。


「あれ?それなんですか?」

「布団ですよ」


ボサツ師匠は何を当たり前のことを、と言わんばかりに答えてきた。

いやいや、そうじゃなくて・・。


「いや、二つもいらないと思うんですけど」


「さすがにいきなり同じ布団で寝るのはハードルが高いと思ったんです。1つでよかったですか?」


「え?誰がですか?」

「私がですよ」


思わず俺は笑みが漏れると同時に、「あはっ」とか変な声を出してしまう。

いやね、確かに俺は今日結構ショックを受けましたが・・夜中ずっとそばにいてもらわないとダメなほどの精神ダメージは受けてないと思いますよ。


「いやぁ、そこまで心配してもらわなくてもだいぶ良くなりましたから」


「いえいえ、私が心配なだけですから。コウは気にしなくていいんです」


そう言いながら師匠はすっかり準備を済ませて一瞬で服を着替えると、布団の中に入り俺のはこっちの布団ですよとポンポン叩いている。

うーん、まぁ、心配してくれているんだし無下にするわけにもいかないかと思って俺は師匠の横の布団に入った。


俺が布団に入るとすぐに師匠は手と手をつないでくる。

え?と思って師匠の方を見ると


「大丈夫ですからね、コウ。怖くなってもすぐに私が手をつないでいることを思い出してください」

そう言って優しく微笑んでくれた。


「いや、ありがたいんですけど・・緊張して眠れないと思います、これだと」


「そんな心配はいらないと思います。今は話に夢中で自覚できてないかもしれませんが、コウは今日相当神経をすり減らしたはずです。

 その疲れを受け入れたらすぐに眠ってしまいますよ」


確かに今日は精神的に相当疲れたのは確かだけど、さすがに師匠が横にいるとなると寝るどころじゃない。

師匠が寝るのを待って近づくべきか、いやそれはいくらなんでも消極的過ぎるか。


ならばこのまま師匠を引っ張り抱きしめるべきか・・それはいくら何でも師匠の優しさを踏みにじって欲丸出し過ぎるか

それなら俺から軽く近づきつつ、繋いでいる手を引き寄せ・・


色々と考えているうちに頭が次第に回らなくなり、そして俺は寝てしまった。


「やっぱり疲れていたようですね。今日はゆっくり休んでください」

ボサツはコウを見ながらそう言うと目を閉じた。




目をうっすら開けると周りが明るい。

朝なのかと思って周囲を確認すると一面ただ白い世界だった。


あぁ、いつものエリスさんがいる場所か、俺はそう思って周りを見渡し薄い青色の髪をした女性を探す。

探すと言っても一面白いだけの世界なので近くにいればすぐにわかるはずなんだがエリスさんは見つからない。


とはいえこれはいつもの事だった。しばらく周囲を見ていると彼女は突然近くに現れるのだ。

まだ来ないのかなと思い周囲を見渡していると、突然後ろから声をかけられる。


「いらっしゃい、コウ」

振り向くといつもの薄い青色の髪をした女性が白一色の服を着て笑顔で立っていた。


「エリスさん、1月ぶりくらいですかね」


「そう・・なるかな?ここでは時間がよくわからないから。それより今日はやり遂げたみたいね。見てたよ」


あぁ、クエス師匠を刺した件だろう。

やり遂げたと言われてもいまいちピンとこない。まぁ、個人的に頑張ったとは思ってるんだけど。


「そう・・ですね。でもエリスさんのお姉さんを傷つけてしまって・・すみません」


エリスさんの姉がクエス師匠だとわかっていたので、俺は申し訳なく思い謝罪した。

そしたらエリスさんは何かツボったのか、ふふっと笑った後押さえられなくなったのか、あははははと笑いだした。


「えっ、え!?」

「あぁ、ごめん。謝るところじゃないのに謝るんだもの。笑ってごめんなさい。立派だったわ」


「いえ、まだ割り切れて行動できたわけじゃないですから。次同じことをやれと言われてもできる自信はありません」


「そうかもね。でも、きっと大丈夫よ、コウなら。ずっと見ている私が言うんだから信じてよ」


エリスさんは俺の中にいて常に俺が見ている世界を見る事ができるらしい。

そんな彼女が言うんだから、ちょっとだけそうなのかなと思ってしまう。


「それに、私が一度死んだときの姉さんに比べればかなり立派よ。あ、これは内緒ね、姉さんに聞かれると怒りそうだから」


「もちろん言いませんよ、言ったら怒られるのはエリスさんじゃなくて俺なんですから」


エリスさんはそれもそうねと返して笑った。

その笑顔につられて俺も笑顔になった。


「それでもクエス師匠はすごいです。もちろんエリスさんもすごいですけど、師匠はまさか妹と刺し合って練習するだなんて・・」


それを聞いたエリスさんは感情を見せない表情で話し出す


「そうね。私も姉さんに『一族殺し』なんて二つ名がついてると聞いてびっくりしてたけど、まさかあの優しい姉さんがってね。

 だいぶ辛い思いをさせたなと思ったわ」


「でも、エリスさんはもう師匠の側に戻ってきましたから」


俺が励まそうとしたら、エリスは再び笑顔になって目を閉じながらうなずいた。


「そうそう、前から言おうと思っていたけどその『エリスさん』は止めて欲しい。ちょっと他人行儀っぽいじゃない」


そんなことを言われても、そう思いながら俺は悩む。

魔素体になってからは頻繁に会えるので、俺にとってのエリスさんの存在は時々話す近所のお姉さんといった感じだが

さすがに呼び捨てで呼べるほど親しいという感じもない。


そうだなぁ、そういやいろいろと氷の魔法を教えてもらったりしているし、その点で言えば師匠と言えるかもしれない。


「それならエリス師匠と呼ぶのはどうですか?」

「えっ、師匠?」


「はい、色々と氷の魔法を教わっていますし。お姉さんと一緒になってしまいますけど」

「そうね、まぁ、それでいいか。これからも頑張ってね」


あまり納得いかなさそうだったが、エリスは急に手を振ると消えてしまった。

エリスとの別れはいつもこんな感じだ。時間制限があるのかも知れないがいつも色々と聞きそびれるな。

そう思っているうちにだんだん意識が遠くなる。




夢の中のエリスと別れて再び寝たのか、直ぐの事なのかわからないが目が覚めたようなのでゆっくりと瞼を開く。

部屋は明るくなっていてどうやら朝になったようだ。


あっ、と思って左を見るとボサツ師匠はまだ隣で寝ていた。

俺の左手は変わらず握られていて、俺もだけど師匠も良く握ったまま寝る事ができたなとちょっと驚いた。


軽く師匠の手を揺さぶってみたが起きる気配がない。

俺は手を握ったまま布団からでて師匠に近づき、寝ている師匠を近くで見つめる。


やばい、かわいいな、ボサツ師匠。

そんなことを考えながら師匠の上で手を振ってみるが師匠は起きる様子を見せない。


起こさなきゃいけないなと思いつつ、俺は人差し指でボサツ師匠の唇に触れた。

軽く押すと柔らかい感触が指先に伝わる。俺の心臓がバクバクと鳴っていた。


その時扉が開く音がして俺はすぐにボサツ師匠の唇から指を離すと音がした方を振り向く。

そこにはクエス師匠がいて丸めた紙を投げようとしていた。


普段の修行の成果か、とっさに俺は魔力を展開して魔力障壁で飛んでくる物体を防ごうとする。が、紙にも魔力がこもっていたのだろう。

想像していたのよりも強い衝撃で丸めた紙の玉を頭に受け、魔力障壁で止められなかったことに驚きつつ「おうっ」と声を出してしまう。


「コウ、それはアウトだと思うわよ」

クエス師匠がそう言うと隣で寝ていたはずのボサツ師匠も起き上がっていて


「そうですね、でもコウはだいぶ我慢できた方だと思います」

そう言ってボサツ師匠は笑っていた。


まただ、またやられた。

正直このタイミングは酷いんじゃないかと思う。


俺が不満そうにしていると師匠たちは軽く謝りつつフォローしてくれた。

まぁこういうのに慣れるのは必要だとわかっているんだけど、今回みたいな時にやられればそりゃ引っかかるよ。


「弱っている時に親身になるのはハニートラップの基本だから」


「私はちゃんとコウを心配していたのですよ。くーちゃんは意地悪ですからね」


俺は師匠の言葉に拗ねて見せたが、ボサツ師匠が頭を撫でてくれたので少し納得いかなかったがすぐに機嫌を直してしまった。



クエス師匠を刺してしまったあの日から1週間後、今度はボサツ師匠を刺すことになった。


今回は腕でいいと言われたので少しホッとしたが、ボサツ師匠から2回突き刺し抜かないと治療もしないのでと言われて

結局クエス師匠の時と同じくらい精神的負担を感じた。


2回目を突き刺し剣を抜いた後、俺はボサツ師匠に必死に即止血を訴えたが、ボサツ師匠は血を流しながら

「大丈夫です。それよりコウがちゃんと前進していることを確認できてほっとしています」

なんて語りだすもんだから本当に精神的にまいらされた。


少しずつ相手が死に至るような攻撃をすることにも慣れた気がするが、やはり思ったよりは簡単にいかないと実感させられた。



「今後は毎週1日だけはその実戦用の武器を使った訓練をやっていくわよ」


ボサツ師匠の様子を見ながらも、クエス師匠は俺を見て強い口調で言ってくる。

今日の俺を見て何とかそう言うことができると判断されたということだろう。


「わかりました。よろしくお願いします」

俺がそう言うと


「気合いを入れといてね。今までと違ってコウが私たちを傷つけるのを戸惑えば私たちはその隙をついて容赦なく攻撃するわよ」

週1回とはいえこの切れ味のいい武器を使って練習するのだから気を抜くはずがない。


「もちろん気を抜くつもりはありません」


「そうね。でも少しでも攻撃するのを迷ったらコウは大怪我するわよ。カプセルに数日籠らされるかもね」

「えっ・・」


思わず俺は驚く。通常の魔法練習や新規習得する為の時間が無くなるということなのか・・。


「コウは判定の儀も終わったんだし、もう回復に時間をかけても問題ないからね」


そう言うとボサツ師匠を回復カプセルに連れて行くためにクエス師匠は隠れ家に入っていった。

クエス師匠の本気ぶりに俺は怖くなるが、クエス師匠が言っていたように実戦で力を振るえない事がいかに悲惨かを思い出す。


もうここまで来たのだから、この世界で生きていくのだから、後戻りなんてできやしない。

7日後のことを考え身震いしつつも、覚悟をしろと自分に言い聞かせながら俺は瞑想を始めた。


更新が2日も開いてしまいすみません。

次話でこの話も終わりになります。

今話も読んでいただきありがとうございました。

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