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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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実戦練習②、その必要性

ここまでのあらすじ


いよいよ実践練習②が始まった。だが、その前に越えなければいけないテストがあった。

それは師匠に剣を突き刺すことだった。

突然の理不尽な内容にコウは戸惑う。


俺の混乱したまま立ち尽くす様子を見かねて、ボサツ師匠が助け舟を出してくれる。


「くーちゃん、やはりコウは説明しないとこの壁は乗り越えられませんよ。コウの猪突猛進さを期待しても私たち相手ではブレーキがかかっているようです。ここはちゃんと話しましょう」


「はぁ・・・どうやらそうみたいね。でも話しても動けないのなら、2ヶ月あっても動けないわよ、きっと」


俺ってそんな猪突猛進タイプじゃないはずだけど。師匠の言葉にちょっと不満に思う。

何にせよ、わけもわからず師匠を刺すなんてできるわけないので、ここは俺からもお願いしてこの行為がなぜ必要なのかという説明を求めた。


そんな状況に押されてか、クエス師匠は仕方がないと言わんばかりに息を吐くと、自分で傷を治しながら俺に説明を始める。



「もしコウを貴族街に住ませるなら当然だけどコウが自分で様々なことに対応していかなければならなくなるわ、ここまではいい?」

「まぁ・・そうですね」


「もちろん私たちの師弟関係は続くんだけど、常に私たちが傍にいるわけにはいかなくなるでしょ。

 まぁ、今回がいいきっかけというだけであって、いつかは独り立ちできないとコウも私たちも困ることになるんだけどね」


師匠達も忙しい身なんだし俺もいつまでも子供みたいに師匠にべったりというのもまずいというのはわかる。


この世界では16歳がある程度独り立ちする目安の年齢らしいので、このままずるずると行くのは確かに良くない。

とはいえ、それがなんで師匠を突き刺さなければいけないのかに繋がるのかがさっぱりわからない。


俺の渋い顔を無視するようにクエス師匠は話を進める。


「魔法使いの独り立ちにとって大事なことは自分の力で自分の大切なものを守ることよ」


「はい、でもそれと師匠を傷つけるのは・・」

「まぁ、聞いて。これからのことを正直に話すわ」


クエス師匠がそう言ってボサツ師匠を見ると、ボサツ師匠はいつもの黒いパネル6枚が組み合わさった大きな四角のパネルに

どこかの街に建設中と思われる建物の映像を映し出した。


少し上から全体像が見えるように撮影されたその映像には結構広い敷地と、そこに基礎を作るかのような地下の掘り込みが映っている。


「かなり広い敷地ですね。建設中の建物ですか?」


「これはコウが住む予定の貴族街の建物です。ここでコウには師匠として弟子の育成をしてもらう予定になっています」


「えっ? 今なんて・・」

「コウがここで弟子を指導することになってます」


俺が聞き返したのでボサツ師匠はにっこりと笑って同じ言葉を繰り返す。

もちろんボサツ師匠の言葉が聞こえなかったわけではない。


半年ほど前にこの世界にやってきて魔法が俺にも使える?すげー!くらいに考えていた俺が師匠になって弟子を育成!?

無理無理無理、1ステップどころじゃない。どう考えても3ステップくらいはかっ飛ばしているとしか思えない話だった。


「ちょ、ちょっと待ってください、師匠。俺まだ半年くらいしか魔法を学んでいないんですよ?

 自分で言うのもなんですが、誰かに魔法を教えるというほどの経験があるとは思えません。それにほとんど公表していない俺に弟子なんてつくはずないですし」


「確かにコウは貴族街に行く時期まででも魔法に関して1年ほどの経験しかないことになりますが、コウは私が知っている他の誰よりも真剣に練習していますし

 暇があれば魔法書を読んで色々と勉強してるではないですか。自信を持っていいと思います」


確かに暇なときは魔法書を読んで色々と勉強してる。

だけどそれは師匠のために役立ちたいからというのもあるし、そもそもここに何の娯楽もないもんだからそれくらいしかやることが無いだけだ。


「それに安心して、コウにはちゃんと弟子を与えるよう手回しはしているから」


「ま、まじか・・」

思わずびっくりして俺は素で返事をしてしまった。


下準備は完璧ですという師匠の言葉に俺はもはや何も言えなかった。

いつから計画していたのか知らないが、師匠達は本当に・・良くも悪くも頼りになる・・本当に。


「私たちにとっては孫弟子になるんだから、私たちが師匠として無能と思われないようにコウにはしっかりしてもらわないとね」


クエス師匠が有無を言わせずに行動するのにもだいぶ慣れてきたと思っていたんだけど、今回のは思った以上だった。

だが、俺がどうしても1年で独り立ちしなきゃいけないのには疑問が残る。


年齢的には18にもなるんだしわかるんだけど、魔法使いを始めて1年で師匠として弟子に指導とかこの世界とは言えど無茶苦茶なはずだからだ。


「師匠、その、師匠たちと俺がそこに住んで俺が指導を受けるというのはダメなんですか?俺はまだまだこの世界の常識に疎いですし、下手すると問題を起こしかねないと思うんですが」

自分で問題を起こしかねないとか情けない発言だが、この急展開は言うべきことは言っておかないとより大変なことになると俺は感じていた。


「そうね。普通に考えればコウの言う通りよ。でも大丈夫、そこはちゃんとケアする予定よ」


「まだ本決定ではないので調整中ですが、その点はコウが安心できる環境を整えるつもりです」


どんな環境づくりをするのやら・・師匠たちのことだからどうせ抜かりはないんだろうけど、本当に用意周到のようだ。

せめて素直に喜べる話なら良かったんだけど。


「その、師匠達とはずっと離れ離れなんですか?」


「何?寂しいの?心配しなくても私たちも時々様子を見には行くわよ。だけどね、私たちがそこで常時指導しているとなると、そこは私たちの道場になってしまうのよ。

 そうなると私たちの役職上、他の当主とかお偉いさん方が見に来たときに訪問を拒否できなくなる。

 だけどコウが指導しているとなると、そこはコウの道場となってコウとそれなりの接点を持っている者でない限り大抵の相手はお断りできるわ。コウの弟子かコウの責任者なら別だけどね」


そういう・・ものなのだろうか。

偉い人が来たら俺でも拒否できないと思うんだけど。


「ですけど、偉い人が来て俺が追い返したら問題になりませんか?」


「大丈夫、追い返すのは弟子にやらせるようにすればいいわ。そして何かあればまず先に私達に話しを通す様にしておくから。

 コウが修行や弟子の指導に集中したいので挨拶なんかは断るように言ってた、とすれば押し通ってうちの家にケンカを売るつもりじゃない限り敷地には入れないわよ」


「これならちゃんとコウを貴族街に住まわせる約束も果たせますし、コウに接触するのも難しく出来ます」


「たとえコウとの接触のために弟子を潜り込ませようとしても、今は手がいっぱいで受け付けていませーんって言えば簡単に追い返せるし」


うわぁ、話を聞く限り師匠たちもなかなかえげつない作戦を組んでいるようだ。

師匠達がそう力説するのだから、本当にお偉いさんでも拒むことができるのだろう。


これが貴族たちの化かし合いというやつなのだろうか・・俺は関わり合いたくないなぁ。

いや関わるも何も今回の件は俺が中心だわ。


師匠達のどうよ!と言わんばかりの表情に俺はとりあえず納得するしかなかった。


「それで話を戻すわよ」

そう言うと二人とも真剣な表情に戻る。

俺も不安そうな気持ちを脱ぎ捨て真剣に師匠の話に向き合う。


「その為にはコウがある程度独り立ちを始められる心持ちが必要になるの。だから今回のようなテストをしているのよ」


今度は俺は真剣に考える。

さっきまでのような逃げられる理由を探すのではなく、これがそういう意味で本当に必要なのかを自分自身で理解するために。


「それでも・・師匠を刺さなければならない程とは俺は思えません。俺にとって師匠は最優先で守るべき人なのですから」


告白、とまではいかないがさっきの後ろ向きな気持ちではなく、はっきりと前を向いたうえで俺はこの試験に疑問をぶつけた。

クエス師匠もその言葉をまっすぐ受け止めるかのように俺の視線から避けようとせず俺を見返してくる。


「そうね・・普通の貴族ならここまではしないわね。でもコウは私の弟子だから」


少し申し訳なさそうにクエス師匠は俺にそう告げた。

そういう言い方をされると、正直言って反論のしようがないんだよなぁ。


「とは言っても無理やりは良くないわね。もっと詳しく説明するわ。話が長くなると思うけどちゃんと聞いてね」

「はい」


なんか俺が決心するためにクエス師匠を使っているみたいで、少し申し訳ない気持ちで俺は返事をした。




「コウは・・誰かを刺したり殺したりしたことある?」


ちょ、いきなり話を変えるにしても師匠は程度というものを考えていないのかよ。

そう思いながらも師匠の真面目な表情に冗談で返すわけにはいかず、真面目に答える。


「もちろんありません」


「動物とかでも」

「はい」


「なら、コウはいざという時その弟子を守るために相手をちゃんと攻撃して殺せる自信はある?」

そう言われると・・自信があるとは断言できない。


今までの訓練で相手が攻撃して来れば迷わず防御しそれなりに反撃する自信はあるが、殺せるかと言われると正直無理かもなと思う。

魔法が使えるようになり簡単に破壊的なことが出来るようになったが、だからと言って平然と人が殺せるようになったわけじゃない。


「今の段階では・・でも負傷させて撃退する覚悟くらいは持っています」

「そう、撃退ね」


そう言うとクエス師匠はため息をついた。


「どうしてもコウやコウの弟子を殺したい相手が侵入したのを撃退したとして、相手は生きているでしょ。その後はどうなると思う?」


「その後ですか・・とりあえず、またやってきても撃退できるよう鍛錬を怠らないようにしたいと思いますが」


「コウは相手がそのまま成長も対策もしないまま、また無策で攻めてくると思うの?」

「・・」

俺は言葉に詰まった。


「当たり前だけど、相手はコウの成長や更に護衛を増やした事を前提とした計画を立てるわ。それを撃退できたらならさらにもっと上を想定して動く。

 それでも無理となれば、コウやコウの弟子の関係者を次々と狙うわ。それをおとりにしてコウを不利な状況に置いたりもするでしょうね」


俺は何も言い返せなかった。確かに師匠の言う通りだ。

相手だって馬鹿じゃない。俺を本気で殺そうとする相手なら、やってきては失敗して帰るなんて行動を何度もとらないだろう。


だからと言って関係者全員を守るというのも現実的に不可能だろう。

師匠の言っていることは十分に理解した。つまりそんな奴は殺せるうちに殺しておけということなんだろう。

そしてそれを俺ができるかと・・聞いていたというわけか。


「コウを貴族街に住ませて他との接触を出来るだけ制限したとしても、ここにいる時よりもコウが接触する人は増えるでしょうね。

 今だってコウのことを調べて回っている者は結構いるのよ。これはコウが悪いわけじゃないから申し訳ない話だけど、私たちはそれなりに有名人だからね」


「いえ、俺は師匠たちに出会い指導してもらった幸運を心から感謝しています」


「ありがと。それで接触する者が増えれば、コウの味方になる者も増えるだろうけど、嫉妬したり敵になるものだって出てくるわ」


これは多分、俺が貴族街に行かずアイリーシア家で匿われたとしても同じだろう。

ここに居られない時点で接触する相手は増えていく。さすれば敵も自然と増えていく。


魔法使いは1人でもかなりの力がある存在だ。師匠なんてその典型例といってもいい。

そんな魔法使いを相手に殺さずなんてことをやっていたら、俺が多くのものを失うことになるのは、師匠の言う通り間違いないのだろう。


だから、必要なのか。

こんな訓練が、こんな・・。


今話も読んでいただきありがとうございます。

嬉しいことにここにきてブクマ50を超えました。本当に感謝です。

ということで、明日も更新予定です。頑張ります。

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