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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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実戦練習②、その前に

ここまでのあらすじ


コウが魔法使いになって半年、と一月が経ちました。

毎日未だに修行漬けの日々です。



あれから一月が経過した。


エリスとの分離に関しては俺もかなり協力させられるんだろうと覚悟していたが、一度詳細な魔力のデータを取られたものの、それ以降は拍子抜けするくらい何もない。

今は具体的に分離する方法を模索中らしくデータ集めくらいしかやることが無いらしい。ちょっとだけ拍子抜けだった。


そう言えばハニートラップ対策の練習が久しぶりにあった。

今回はこれはテストだなとすぐにわかったので、無の心で撥ね退けてやると意気込んだが、布団に潜り込まれての甘い言葉からボディータッチ

それを何とか離そうとしたときにうまく引き寄せられての密着で、顔真っ赤にして照れてしまい一発で陥落してしまった。


あの時のクエス師匠の呆れた目で1点と言われたのはずいぶんと心に刺さったものだ。

そもそも俺は師匠達に好意を持っているんだし・・こんなんどう抗えというんだよ。


それでも冷静に対応できないと罠にかかるわよと言われたが、そんな仙人みたいな人間に俺はなれそうにない。

結局いざとなったら俺の中にいるエリスに何とかしてもらうしかないのではということになった。みっともない話だがこの体たらくでは反論する権利もなかった。




そんなことがありながらも日々の修行を続けていたある日。


午前中、ボサツ師匠から俺の手持ちにある魔法の型の細かい指導を受けた後、いつもの大部屋に戻り昼食を取る前の事だった。

いつものように席に座るとクエス師匠が前に座って話しかけてきた。


「コウ、今日はいよいよ実戦練習②をやるから気合い入れてね」


おぉ、この半年間いつも実戦練習①をやっていたのでもしかして①しかないのでは?と思っていたが、ちゃんと②もあるようだ。

俺はクエス師匠の真剣なまなざしにちょっと緊張しつつ答える。


「は、はい。でも、どういう訓練になるんですか?今までも武器をもって魔法を使いながら戦闘をしてるし、これ以上の実戦へ向けての訓練というものは想像できないんですが」

俺の言葉にクエス師匠はしばらく考えると料理をしているボサツ師匠を見る。


「さっちゃん、手がすいたらちょっと来てもらえる?」

「ええ、今からでも構いませんよ」


ボサツ師匠はそう言うと魔法で物を動かし始め、昼食の用意を継続しながらこっちに来て席に座る。


「どうしたのですか?」


「いやね、そろそろ実戦練習②を始めようと思うのよ、それであと4ヶ月後の話もしようと思って」


「そうですね、頃合いだと思います。ならそこは私が話します」


そう言うとボサツ師匠は昼食の準備を一旦止めて椅子に座った。

わざわざ料理をする手を止めて・・いや手はほぼ使ってなかったけど、昼食の準備を止めてまでということは長い話なのだろうか?

俺はただ訓練内容を聞きたかっただけなのに・・


「聞いてください。突然の話になりますが、コウはあと4ヶ月ほど経ったらここへきて1年になります。そしたらいったんこの隠れ家を出て、光の連合の盟主国の首都ルーデンリアの貴族街でしばらく過ごしてもらうことになります」


え?俺はボサツ師匠の言っていることがいまいち掴めなかった。

俺が貴族街で過ごす?なんのために?そもそも俺って隠したい存在じゃなかったっけ?


この前はついに一人で街へ買い物に行ったけど、それでも正体を大っぴらにしているわけではない。

言動には気を付けるべきと、事前にかなりの注意事項を叩きこまれているくらいだ。


「いや、えっと、それって決定事項なんですか?ちょっといきなり過ぎて驚いているんですけど」

「ええ、コウが来てしばらくした頃に決まったことです」


「そんなに前から?」

「以前くーちゃんがごたごたに巻き込まれてコウの存在を知られたと言ったことがあったと思います。その時に当主全員が揃った場で決まったことなのです」


・・は?どういうこと?

というか俺が貴族街に住むことをどうして貴族たちのトップ達がそろいもそろって決めているんだ?


もしかして貴族入りしたらそういうことを決める制度が・・あるわけないか。各貴族にそういうことをしていたら議題が満載になるだろうし。

ボサツ師匠の話にどうにもついて行けず理解も納得も出来ないまま、俺はぽかんと口を開けたまま固まってしまった。


「来てすぐのコウにそう言う話をしても混乱するだけだと思い話していなかったのです。ごめんなさい」

ボサツ師匠がやんわりと状況を説明しながらも丁寧に謝ってくるので、俺は仕方なく納得せざるを得なかった。


「い、いえ、師匠たちが自主的に決めたわけじゃないんだし、そんな謝らないで下さい。とにかく俺が貴族街に住むことが決まっているのはわかりましたから」

「まぁ、私が悪いんだけどね」


クエス師匠はばつが悪そうにしながら割り込んできたが、すぐにボサツ師匠が話がそれないように説明を続ける。


「もちろんコウを貴族街に出さない方法もあります。ですがその方法は私たちの師弟関係を断つことなのです」

「え、いや・・それは・・」


今の俺の生活はほぼ100%師匠達あってのものだ。

そんな師匠達には感謝しているし、尊敬しているし、好意も持っているし、役に立ちたいとも思っている。


そんな師匠たちと関係を絶たなければならないくらいなら、貴族街だろうが何だろうが住むだけならやってやろうじゃないか。

俺は心の中でそう意気込みつつも、師匠たちの事情がわからずはっきりとは言い出せなかった。


「ええ、私たちも賛同しかねる話ですしきっとコウもそれは嫌だろうということで、コウに貴族街に住んでもらうことで今まで進めていたのです」


わかっていますよとばかりに俺の言葉をさえぎり、ボサツ師匠はフォローしてくれる。

しかしそんなことになっているとは全く知らなかった。


裏で偉いさん達によるやり取りが行われて、それに対して師匠たちも色々と考えてくれていたのか。

蚊帳の外になっていたのはちょっと寂しくも思ったけど、こっちへ来てすぐにそんな話をされても不安しか抱けなかっただろうし、今にしてみれば師匠のやり方がよかったのは間違いない。

俺は師匠の様々な保護に感謝をしつつも、貴族たちの裏でのやり取りに少しだけ恐怖を感じた。


「まぁ、それで色々と考えていたのよ。私達の関係を邪魔されずにコウが貴族街で落ち着いて過ごせる方法を」


「貴族街って、そんなに色々とある場所なんですか?何度も買い物に行ってますが割と落ち着いた雰囲気だったと思うんですが」


「そーねぇ、コウが私たちの弟子でなきゃ落ち着いて過ごせると思うわよ。まぁ、そもそも私たちの弟子じゃなきゃ貴族街に住めとか言われることもないでしょうけど」

「ふふ、そうですね」


ん?んん?いまいち言っている意味が分からない。

俺ってそんな特殊な環境なのだろうか?


「師匠、えーっと、なんで俺がそんな扱いになっているんでしょうか?エリスさんの事・・じゃないですよね」


「それは、まぁ一応違うと言えるわね」

「コウは特別なんですよ、なんせ師匠である私たちが三光と一光ですから」


あぁ、なるほど。普段から師匠たちに気楽に接していたから意識していなかったけど、そう言えば師匠たちはこの連合の女王直属の最強の三騎士・・みたいなものだったっけ。

それならその弟子の俺が注目されるのも納得と言わざるを得ない。


「さらに言うと、私もさっちゃんも全然弟子を取ってなかったのよ。私に至っては初弟子だしね」


「貴族からの弟子入りは大抵わがままなものが多くて手を焼きますので、私も弟子なんて研究の邪魔としか思ってませんでした。もちろんコウが来るまでは、ですが」


うーん、俺も結構やらかしていると思うんだけどなぁ。

自分の今までやったことを振り返り俺はちょっと気が滅入った。


そんな迷惑をかけてきた俺よりも厄介だと思われてるとは、師匠たちに弟子として志願に来る貴族たちはよほどのものたちなのだろう。


「いや、俺も色々とご迷惑をかけて申し訳なく思っています。すみません」


思うところがあったのでこれをいい機会にと俺は師匠たち謝罪したが、師匠たちは「そう?」「迷惑なんて何かありました?」と軽くスルーされた。



「うーん、さて食事にしようか」

師匠が立ち上がって背伸びをする。


俺もそうですね、と言おうと思ったが、ふとそもそもこの話は何だったっけと考えていると、実戦練習②の話だったことを思い出す。

話が脱線しまくったせいで、俺は肝心な話が聞けてないのを思い出した。


「し、師匠ちょっと待ってください。実戦練習②の話はどうなったんですか」


「おっ、偉いわね。ちゃんと覚えているなんて」


「こうやって話をそらして逃げる貴族もいますから、今のはいい指摘です」

なんだかボサツ師匠もクエス師匠もうれしそうにしている。


こういう時にまで俺を試すのはやめてほしいなと思うけど、これから貴族街に住むとなればそういう感覚も必要なのかもしれない。

クエス師匠が再び俺の前に座ると、再び貴族街の話に戻る。



「まず前提としてコウがこのまま貴族街に住むと、私たちの弟子ってどんな奴だ、引っかけて私たちとの取引材料に使えないか、自分のところに引き抜けないか

 なーんて輩がわんさかコウの所へ来ることが目を閉じるだけ浮かんできそうな状況なのよ」


「弟子嫌いで有名なくーちゃんの初弟子ですから、見たい、手合わせしたいってだけの人も大勢やってくると思います」


そのことを聞いて俺は以前言われたあの事を思い出した。

俺の才能を受け継がせ、家に優秀な子を作らせるための道具として俺が使われることを。


俺が嫌なことを想像したのが表情に出てしまったのか、ボサツ師匠が少しうつむいた俺の顔を覗き込む。

俺はそれに気づいてちょっと無理に笑顔を取り繕いつつ、意味もなく頷いて大丈夫だというのをアピールする。


「コウの想像したことは大体わかります。以前話しましたから。それらを含めた対策を私たちは考えていたのです。大丈夫ですよ、無策ではありません」


その一言に思わずほっとする。

しかし心の読めないボサツ師匠にまで見透かされるとは、俺はよほどわかりやすい表情をしていたのだろう。


このままではいけないので、俺もポーカーフェイスなんかを身に着ける必要があるのだろうか。

この調子なら、いざとなったらあまり使うなと言われているけど<氷の心>も使わざるを得ないかもなぁ。


「で、その対策なんだけど・・それが実戦練習②の最初の難題に合格することが前提になるわ」

「え、難題ってそんなに難しいものなんですか?」


「難しいかどうかはその人次第ね。コウには割かし難しいと思うけど。だけどそれに合格しないと貴族街に住むときに私たちが考えている対策は使えないことになるの」


つまり難しいけど、何が何でも合格しろということなのだろう。

最近はあまり期待されることが無くなったが、久々の師匠からの合格してほしいという期待に俺はかなりやる気が出てきた。


「わかりました。師匠たちが考えて用意してくれている案を活かすためにも、その難題に合格して見せます」


「そうね、期待しているわ」

「とはいえ、無理はいけませんよ。それでは内容は昼からの楽しみに取っておくこととしまして、今度こそ昼食をいただきましょう」


そう言ってボサツ師匠は俺の目の前から立ち上がりすぐに昼食を持ってくる。

そして机に次々と完成されて料理を並べていった。

あれ、さっき一旦準備止めてましたよね?いつのまにここまで・・ボサツ師匠、マジですごいな・・。


俺は師匠たちが敢えて内容を話してくれない難題に少し不安を抱きつつも、どんなことがあっても師匠たちの期待に応えるべく合格して見せる!

そう心で誓いつつ昼食を頂いた。


今話は実戦練習②導入部です。

ここの所更新ペースが緩やかに低下気味です、申し訳ありません。

ここで小説を書いている方々は本当にすごいなと改めて思わされます。

何とか2日に1話をペースを保てないものかと・・


今話もご一読いただきありがとうございました。

感謝の心を忘れないためにも、1日1回の感謝の正拳突き!

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― 新着の感想 ―
[一言] 確実にコウ?がサブキャラなのはわかった
2019/11/15 05:36 退会済み
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