初めての契約~光・氷~
これで最初の契約は終わりになります。
さぁ、ここからは修行するぞ!修行するぞ~、になる・・予定。
クエス師匠に用意してもらったお昼ご飯(パン、スープ、野菜サラダっぽいもの)を食べながら、俺は素直に思ったことを口にした。
「年を取らなくなっても食事は必要なんですね」
「そりゃそうよ」
「さすがに必要です」
師匠たちからはこいつ何言ってんだと言わんばかりに返される。
魔力体とやらになったのでてっきり食事は食べたければどうぞ的なのを期待していたのだが、どうもそうじゃないらしい。
まぁ、食事も美味しいので食べる楽しみが残ったことは喜んでおくべきだろう。
「そうそう、大丈夫だとは思っていたけど水と契約したとき事前に教えていた通りのやりとりだけだったよね?」
クエス師匠が少し身を乗り出したかのようにして聞いてきた。
「はい。特に何も言われませんでした。力を希望するかと与えよう、だけでした」
師匠が二人ともほっと一安心という表情になる。
「よかったよかった。これで2色使いのスキル所持は確定ね」
クエス師匠はニコニコしながらお椀のスープを飲み干す。
「あの才能で2色すらなかったら完全な宝の持ち腐れになります。
2色確定でほっとしました。これからの指導にも力が入ります」
師匠の言い方を聞いていると、制限がかかると何か向こうから言われるのだろうか。
そういえば何か言われるで思い出したが、風の精霊との契約の時に予定外に言われたことがあったんだった。
師匠の伝え忘れかもしれないが、念のため師匠に聞いておこう。
「師匠、そういえば最初の風の精霊との契約時に、予定にない台詞を言われたんで俺ちょっとびっくりしたんですよ」
といっても大したことを言われたわけではない、会話もすぐに教えられた定型文の流れに戻ったんだし。
内容から言って第1属性に選んだからかなー、と勝手に思ってはいたがやはり念のため確認しておきたい。
「たしか俺の選択に「俺と精霊様たちに価値がありますように」という感じです。何か意味があるのでしょうか?」
「は?」
師匠たちはなにそれ?といった表情のまま固まる。
数秒だったとは思うが、この部屋に沈黙が流れた。
俺は疑われた?と思って思わず言い直す。
「え、いや、本当ですよ?」
「聞いたことのない言葉です」
「私も初耳。後で契約施行者の繋がりに色々と当たってみようとは思うけど……うーん、困ったわね。コウのことはバレたくないのでどうやって話したものか」
師匠たちも聞いたことがないようだ。
それよりさらりと言っていたが、対外的には俺のことは秘密にしたいようだ。俺ってそんなにまずい存在なんだろうか?
異世界人になるとは思うけど、見た目も髪の色以外師匠たちと違うパーツはないし、この世界の人たちと一緒にいたとしても浮く存在じゃないと思うんだけど。
「えーっと、俺の存在ってあまりよくないんでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「そうね、いい意味でも悪い意味でも今はまだ周りには知られたくないわね」
少し深刻そうな表情をするクエス師匠。
俺は立場的に師匠たちを信用するしかないので、俺の扱いに関しては意見する権利など端からないことは十分理解している。
いかんせんこっちの世界に来てすぐだし、言葉がなんとか通じる程度で前も後ろもわからない状態だ。
意見があっても的外れになる可能性は高い。
師匠は2人共とても親切で俺を利用しようとする節も感じない。今のところは最高の環境だ。
個人的にはもう少しこの世界を知りたいが、それは魔法を習得してからでも遅くはないと思う。
ここでいい意味や悪い意味を聞いても理解できないどころか、俺が警戒される可能性が高くなるだけ思ったので
ここではそれ以上は深く聞かないことにした。
「そうそう、あともう一つ聞きたいんだけど、契約時に精霊の存在の光はいくつあった?」
あー、あれも重要なのか。数が違うのもキャラメイキングと同様にガチャの一種でランダムだと思っていたんだけど。
「えっと、風が5個で水が4つだったと思います」
クエス師匠はほほぅといった表情で、ボサツ師匠は笑顔でうんうんと軽く頭を動かしている。
いい感じだったということだろうか?
「どちらの属性も加護がついてますね。多分<中>の加護かと思います。これは前途有望ですね」
「うーん、これはますます簡単には公表できなくなったわねー」
クエス師匠、公表できないと言いながら随分嬉しそうですが、一体なぜですか?
そうこう話しながらお昼を食べ終わり、1時間ぐらいしたら光の契約をすると言われ今は自由時間になる。
そういやさっき世界を知りたいと思ったが、世界どころか俺はこの建物からまだ出たことがない。
俺が知っているのは最初にこの世界に来た時の道具だらけの部屋と
食事したり寝たりしているこの広い居間と、あとは契約の儀式を行っている通路に小部屋がいくつかあるエリアだけだ。
この広い部屋は4つ扉があるが天井以外は窓がない。
それなのに部屋全体の明るさが変わらないのは考えてみると変な話だが、もう異世界の基本情報だと思うしかない。
それよりなんとか外に出てはみたいが、さっきの秘匿したいというクエス師匠の発言から考えて、むやみに外に出ない方がいいのかもしれない。
師匠に迷惑をかけたくない俺は、結局おとなしくこの部屋にいることにする。
やることがなく大したものもない部屋なので、昔剣道で習った瞑想でもして気持ちを落ち着かせていたら
小部屋がたくさんある部屋の方から俺を呼ぶクエス師匠の声が聞こえた。
「準備終わったわー、光の精霊との契約さっさと済ませるわよー」
呼ぶ声がする方に向かうと扉が開いている部屋があった。
「さぁ、早く入ってきなさいよ」
部屋に入るとクエス師匠は軍の礼装のようなきっちりとした格好だった。
ジャケット風の黄色い服装、両側の前裾が鎖骨あたりからまっすぐと腰下まで伸びていて前は7㎝程開いている。
胸部には一つの紐が左右につながり少し垂れている。
肩は肩章のようなものがあり両端が光っている。中は白いシャツみたいだ。
下はパンツスタイルだが両腰から後ろに紐が少し緩んでつながっているように見える。
さっきまでのボサツ師匠の服装と比べて全然違うので別の意味で見とれてしまった。
「あの、ボサツ師匠と少し違うスタイルみたいですが」
あまりに衣装が違うため本当に大丈夫なのか不安になって聞いてみたが
「この辺は個性の見せ所なんだけど、あまり気にしなくていいのよ」
と、ずいぶんあっけらかんな返答が帰ってきた。
えーと、そういうものなんですね。
宗教的な大事な儀式だと思っていたんですが、どうも気にしたら負けのようだ。
「では始めるわよ」
師匠が目を閉じると力強い魔力を感じるとともに
小さな黄色の光が天井から降ってくる。光が降り注ぐような演出だ。
きれいで見とれてしまう。
「さぁ、コウも目を閉じて……」
師匠の普段言わないゆっくりとした言葉に俺もゆっくりと目を閉じる。
そして師匠の魔力が俺を包み込みすぐに周囲の光景が光で満ち溢れた明るい場所へと変わった。
この契約の場所はいつも目を閉じていようが開けていようが周りが見える。
いや周りの情報が入ってくるといった方が正しいのか。はっきりとはわからない。
目の前に1つの黄色の光がある。
今までは複数あったが今回は一つか。ガチャで言えばはずれだろう。
お昼の時の話から察するに光の加護が無いことになる。正直、少し残念だ。
契約の流れはいつもと変わらず終了した。
精霊との契約の場から戻るときにどういう状況か知りたくて今回はずっと意識してみたが
戻ってくると契約前と同じく目を閉じだ状態で立っていることに気づく。
契約を行う場所は肉体のまま移動しているわけではないということだろうか?
ゆっくりと目を開けると、目を開ける俺にクエス師匠が気づく。
「終わったみたいね、で、で、どうだった?やり取りに違いはあった?」
はしゃいでるみたいに聞いてくるクエス師匠に、ちょっとだけ違和感を感じる。
そんなに気になることなのだろうか?
「いえ、特には。黄色の光は1つでしたけど特にやり取りに違いは…」
「ほんと?だとしたら3色持ち確定かな?だとしたら、ねぇ、ちょっとコウすごいじゃない」
個人的に多色使えるスキルは欲しいと思っていたし、師匠に凄いと言われると嬉しいが、その凄さの度合いはピンと来ない。
「3色使いのスキルってそんなにすごいんですか?正直何も知らないので実感がわかなくて」
「ええ、私も2色使いまでしか持っていないし、今3色使い持ってるのは確か連合国内でも数十名程よ。ましてやその才能持った上でとなるとだと先が楽しみね」
数十か。少なくて珍しいのは間違いないようだが、そもそも母数がよくわかってないので何とも言えない。
ただあの時見せてもらった俺の魔法の才能が生かせるというのは有難いことだ。
光の契約を終えて部屋の外に出ていつもの広い部屋に向かう。
そういえば今まで話題に出てこなかったが3色より上はあるのだろうか?
歩きながら聞いてみることにした。
「師匠、3色使いより上のスキルというのはありますか?」
「ええ、あるわよ。複属性使い、というのが。でも今確認されてるのは3人しかいないので期待はしない方がいいわ」
うーん、そこまで行ければガチなチートクラスということか。
「さ、3人しかいないんですか」
「そうよ、ちなみにそのうちの一人がさっちゃんね」
ええっ!?驚きとともにそんな優秀な方々に指導してもらえることに俺は心から感謝した。
三度、昨日寝た広い部屋に戻ってきた。氷の簡易契約はまだ準備中とのことだった。
「さて後は氷ね。さっちゃんが準備してるけど氷の契約を指導できる者がいないので簡易版になるわよ」
「簡易版ですか。今までとどう違うんですか?」
契約が早く済むとかそういうことだろうか。もしかしてあまり能力が伸びないとかだと残念な話だ。
俺が残念がっているのが表情に出たのだろうか?クエス師匠が教えてくれる。
「簡易版の最大の欠点は加護を持った者でも精霊が1体しか出てきてくれないこと。あと契約しても最初の数日はその属性が使えないことかな。他に差はないわ」
聞いた感じ思った以上にデメリットは薄いようだ。
加護は持っていればとりあえず良いものっぽいし1体でも後から追加で契約とか出来るんだろう。多分。
「そもそも氷の属性はレアなので契約の指導をできる者がほとんどいないのよ、今は光の連合では実力者だと2人しか確認されてなかったはず」
「2人ですか」
正直氷がそんなにレアだとは思ってなかった。ゲームとかでも普通だよな、氷の攻撃魔法。
「あ、そういえば簡易式を使うと70日、つまり2月は次の契約も行えなかったわね。あと簡易で契約できる精霊は基本精霊だけ。でも才能には影響ないから安心して」
「わかりました」
さらりと返答したがあの言い方だと1ヶ月が35日と聞こえたような気がする。いや間違いなく聞こえた。
その辺の常識も契約の儀式が全部終わったら学ばないとな。
月日から既に地球とずれているとなると馴染むまで大変そうだ。これはちょっと気が重い。
「あの、さっきは聞き損ねたんですが契約で出てきた精霊が1体と5体ではどういうメリットがあるんですか?」
光では1体しか出なくてそれは加護が無いからというのはわかったが、何の意味があるのかよくわかっていなかった。
多ければとりあえずお得かな?という認識どまりだったから、ぜひ知っておきたい。
「ああ、それね。あとで言おうと思っていたけど各属性にはそれぞれ複数の精霊がいるのよ。多くの精霊と契約できると微力ながらその属性に上方修正がかかるの」
「おぉ」
5体って結構すごかったのかな?なんにしてもありがたい。
「各属性でさらに精霊との契約を追加する場合1回につき1月待たなきゃいけないからその辺りも最初が多いと有利になるわね
あとはめずら………」
クエス師匠が説明をしてくれていると小部屋からボサツ師匠の呼ぶ声がした。
「準備できています。コウ、来てください」
教わるのは後からでも出来るので、俺は予定通りの4属性目、氷の契約に俺は向かった。
部屋に入ると簡易版という意味が分かる。
青く光る結晶が目の前に2つあるものの今まで見たものよりはサイズは小さい。
その2つの結晶は腰の高さくらいの4つ足の台座の上に置かれている。
地面にある魔方陣は今までの様に木の床の上に浮かび上がっておらず木の床の上に置かれた紙に描かれている。光ってもいない。
いつも師匠が立っている場所にはお盆のようなものが置かれ、そのお盆の中心には手前の左右に置かれたのと同じ石が置いてある。
儀式的なものでなく普段の格好をしたボサツ師匠が、一度部屋の中を確認すると周囲に魔力を展開し始めた。
「簡易式は発動すると私はむしろ異物になりますのであなたの背中から儀式を始めますね」
そういいながら出入り口の扉の前に立った。
俺からは背中の方向になるので正確な位置は確認できないがおおよそ間違いない。
「よろしくお願いします」
俺に一声にボサツ師匠が答える。
「わかりました。ではコウ目を閉じなさい」
目を閉じるタイミングも違うのかな?小さな光も出てないし。
簡易版はこうも勝手が違うとは……最初からもう少し説明しててほしかったなぁ。
足元の紙から魔力が湧き出て俺を包むのを確認する。
「それでは契約を始めます」
そうボサツ師匠の声を聴くと同時に引き戸が閉まる音が聞こえた。
辺りの気温が急激に下がり大きな魔力が部屋全体を覆う。
今までと違う状況に恐怖を感じる。
そのまま目を閉じて耐えていると大きな魔力が正面の盆の上に集まっていき凝縮されていく。
そしていままでと同じような青く光る魔力の塊が1つ出来上がった。
「目を開けよ……汝、われら氷の力を身に着けることを希望する者か?」
目を開けよという想定外の言葉を受けて目を開ける。
目の前の盆は無くなり足元の魔方陣が書かれた紙もなくなっている。
代わりに木の床の上に強い光を放つ青色の魔方陣が現れていた。
一番驚いたのはいつものように精霊側?と思われる場所にこちらが飛ぶのではなく、どうもこちら側に精霊を呼んでいるように見えることだ。
びっくりして反応が遅れてしまったが落ち着いて返答する。
「はい、私コウ・カザミは氷の恩恵を希望します」
「我が汝の希望に沿って氷の力を与えよう、汝は氷の力を十分に使うことはできないが可能な限り氷の力使うがいい」
あぁ、たぶんこれか。師匠が聞いてきた何か言われなかったというやつは。
ということは俺のスキルは3色使いまでということか。うむむ超天才設定を期待していたがそこまで甘くはないらしい。
「感謝いたします」
そして目の前の青い光が俺の体の中に入っていく。
いつもはこれで終わるはずなのだが、青い光が体の中に入りかけた時、何故か体の中から自分のものでない異質な魔力があふれてくる。
魔力の塊みたいなものが体から出ようとして暴れ、体が引き裂かれるような感覚に陥る。苦しくてまともに声も上げられない。
「が、がが…」
必死に抵抗していたが数秒程だろうか1分も経っただろうか?
俺はついに耐え切れず暴れる魔力に抵抗を諦めてしまった。
青く強い光が4つ出て俺の周りをまわっている。
何か精霊の怒りを買ったのだろうか?やり取りを思い出すが露骨な失敗はしていないはず。
そう不安になっているうちに4つの光は回転するのをやめ穏やかな光に変わり俺に近づく。
そして俺の中にすーっと入っていった。ここだけは精霊の契約とほぼ同じ感じだった。
あの体を引き裂かれるような感覚は一体何だったんだろうか。
とにかく恐ろしい体験だった。ようやく体を動かせるようになり、とにかく部屋を出ようと扉に手をかけ
「契約終わりました」と疲れ果てたような声を上げる。
俺の声を聞きやってきたボサツ師匠は部屋の様子を見て驚きの声を上げる。
「えっ、えっ、これはいったい……くーちゃん、早く、早く来てください」
ボサツ師匠に呼ばれて慌ててやってきたクエス師匠もやってきて部屋を見て驚いている。
部屋の床や壁、天井までも氷におおわれており気温もかなり下がっていたのかとても寒い。
床も左右は扉側の手前まで凍っていて凍りついていないのは俺の立っていた場所と扉だけだった。
「扉には強力には防御魔法がかかっているからどうやら大丈夫だったみたいね」
クエス師匠がつぶやいている。
なんか寒いと思っていたが、改めて部屋の中を見てみるとこれはなかなか酷い。
でも氷の精霊との契約だし簡易式だからこうなるのかな?と安易に考えつつも
とにかく怖かったので部屋をすぐに出たこともあり、部屋の状況は大して気にならなかった。
「師匠、その、終わった後ですみませんが、なんだか体がとてもだるくて……」
なんだか体全体がうまく動かない。力がごっそり抜かれた感じがする。歩くのもかなりきつい。
「だ、大丈夫ですか?ひとまず部屋まで連れていきますのでそこで休んでいてください」
ボサツ師匠に連れられて大部屋に行きそのまま布団に寝かせられた。
「すみません師匠」
「気にしなくていいです。1日4件の契約は辛かったのかもしれません、ゆっくり休んでください」
そういわれて俺は気を失うかのように眠った。
修正に手間取って遅い時間の投稿になってしましました。
明日は・・投稿できるかちょっと不明。
お正月が終わってしまった。
修正履歴
19/01/30 改行追加
19/06/30 表現の修正・氷の儀式の道具を変更
20/07/14 誤字修正、ボサツの口調修正など