エリスの事、今までの事
ここまでのあらすじ
クエス師匠に俺の中に師匠の妹が存在していることを告げられる。
すごく動揺した俺だったが、<氷の心>により気持ちが落ち着き、俺が知っている情報が役立つかもと話す決意をした。
「師匠」
「えっ、ええ」
俺が思わず力強く呼んだからか、クエス師匠は戸惑いながらどこか後ろめたそうに返事をした。
が、俺はそれを気にすることなく話を続ける。
「その妹さんですが、水色のショートヘアで、白いドレスっぽい服を着てて、肌が白い女性じゃないですか?」
言い終わった後で服装は関係ないだろと思ったが、まぁいいか。
とにかく俺が知っている特長を師匠に伝えた。彼女がきっと師匠の妹エリスさんだろう。
万が一これが違っていたら俺は精神分裂症を疑わなくてはならないとも思ったが。
そう思って師匠たちの顔を見ると、2人ともずいぶん驚いた表情をしていた。
俺はちょっとだけ『どやっ』という気分になったが、明らかにそんな雰囲気ではないのでどや顔は必死に我慢する。
「えっと、コウ?何で、エリスの事、知ってるの?」
動きもカクカクになりながらたどたどしくクエス師匠が尋ねてくる。
「まさか会ったことがあるのですか?」
ボサツ師匠もいつもよりずいぶん目を見開いている。
うーん、こんな時に不謹慎かもしれないが、師匠を驚かせるというこの世界での目標の1つをここで達成できたのは感無量だった。
残念なのは驚かせたのが俺の魔法の実力等じゃない事だが、この際目標1つを達成とすることにしようっと。
そういえば、冷静に考えるとその人物がエリスさんだという正解をまだもらっていないが、この反応からして間違いないだろうな。
「ええ、その、会ったと言うか俺の夢に昔から出てきていた人なんですよ、その人」
師匠たちはそれを聞いて言葉が出ないようだった。
師匠達はお互い見合わせたりして何も言ってくれないので、もう少し詳しく説明する事にする。
「その、水色の髪をしたエリスさんですかね、小学生の頃からだったか、だいたい年1回くらいですけど俺の夢に出てきていたんです。
ただその頃は会話する事すらできなかったんですけど、いつも優しく笑ってなんか俺の成長を見守ってくれてる感じで」
「エリスが優しく笑う?えっ?ちょっとまって、いや、でも・・」
なんかクエス師匠が混乱しているようだ。
俺が知っているエリスさんは間違いなく笑っていたと思うんだけどな。
「コウ、ちょっとその人を思い浮かべてみて」
そう言って師匠は俺の頭をいきなり掴んできた。
もちろん嫌がらせや俺に対する攻撃じゃないことはわかっている。
俺のイメージを読み取るつもりなんだろう。
というかこれって触れなくてもできるよね、という言葉が出かかったが何とか飲み込む。
夢属性って本当に便利だよな、そう思いながら俺は何度も見たエリスさんの笑った表情を思い浮かべた。
「あっ、エリスだ・・。こんなに、笑うなんて・・変わったわね。いや、むしろ・・でも、懐かしいわ・・」
クエス師匠がぽつりぽつりと言葉を吐き出すと同時に両目から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。
クエス師匠がどれだけエリスさんに会いたかったのか、どんな想いで俺の側にいて指導してくれていたのか、俺はそれを伝えられた気がして何も言えなくなった。
そしてすごく申し訳ない気持ちが湧いてくる。
知らなかったとはいえ、もっと早く言えばクエス師匠を苦しませずに済んだのではと思って。
クエス師匠が泣き出したので俺は元気づけようと思わず右手を伸ばすが、師匠の頭に手を触れていいのか戸惑い手が止まる。
その手をボサツ師匠が笑顔で掴みクエス師匠の頭まで持っていくと、頭に触れさせてくれた。
こういうときのボサツ師匠は本当に頼りになる。
さすがに真上は俺が偉そうに見えて申し訳なかったので、ちょっとボサツ師匠に合図してクエス師匠の側頭部に触れる。
「もう、本当に・・コウ、エリス、ありがとう」
涙声でクエス師匠が感謝を述べる。
こんなに弱々しいクエス師匠は初めてだった。
今の俺ってかなりいい感じじゃない?ってちょっとだけ思ったけど考えてみれば俺が自主的に師匠に触れたわけじゃないんだよね。
意気地ないな、俺。
少し凹みながら申し訳なさそうにボサツ師匠を見ると、笑顔で大丈夫とサインをくれる。
本当にこの2人いいコンビだよなぁ。
クエス師匠の感極まった涙も収まって気持ちも落ち着いたのか、色々と俺に聞いてきたので俺はその質問に正直に答えた。
俺も師匠の告白ですごいショックを受けたはずなんだけど・・クエス師匠の思いもよらない態度にすっかり振り回されたというか毒気を抜かれたというか
気づいたら師匠の妹が中にいる事もなんか受け容れてしまっていた。
俺への質問が一通り終わったので、今度はクエス師匠がいろいろと今までのいきさつを説明してくれる。
とんでもないことも隠さず説明してくれることから、俺への信頼感を十分に感じ取れた。
師匠の説明では、最初は俺から無理やりエリスを引き剥がす予定だったらしいが、当の本人が拒否をして俺を説得する形になったことも聞いた。
それを教えてくれた後のクエス師匠はずいぶん申し訳なさそうにしていたが、今更日本に戻って普通に生活できる体でもなくなっているし
ここでの待遇や将来性がめちゃくちゃいい事を考えてもほとんど戻りたいと考えていないことを伝えると、クエス師匠は謝りながらもほっとしていた。
今の待遇や将来のことを考えても俺が感謝しなきゃいけないくらいなのに、話が終わった後もクエス師匠は俺に謝り続けてくる。
俺が「いえいえこちらも感謝していますから」と言うと、クエス師匠が「いやいや私が身勝手な事をして本当に申し訳ない」と謝る。
それが何度も続いたので
「そろそろそれは終わりにしましょう」
と呆れたボサツ師匠の声で、そのやり取りは終わったくらいだ。
「一応ね、ここにコウが来てからはコウが寝ている間に時々エリスと会話はしていたのよ」
これもこれで随分衝撃的な事実だった。
クエス師匠の説明によると、俺が寝ている間はエリスさんが表に出られるらしく話が出来るらしい。
ただエリスさん側の負担が大きいらしく時々しか出来ないらしいが。
それに会話は出来ても本人の姿は見れないらしく、俺のイメージで数十年ぶりに動いているエリスを見ることが出来たので思わず感極まったらしい。
ここで再度クエス師匠に謝られたが、すかさずボサツ師匠が「それはもう無し」と止めていた。
師匠の説明が終わってからは俺も聞かれなかったことも含めて、包み隠さずエリスとのことを話した。
なんせ師匠たちがここまで信頼してくれているんだ。
俺だってもう隠し事はしたくない。
「エリスさんですが、ここに来て魔法使いになってから1月くらいすると、頻繁に俺の夢に出てくるようになって、氷の魔法を教えてもらっていたんですよ」
「あら」
「えぇ!?」
師匠たちも驚いてるが、俺だって最初はかなり驚いた。
なんせ夢でエリスさんに魔法の型を教えてもらうものの、最初は夢でも練習風景を見るようになったか位にしか思わなかった。
だけど試しにと思って、1人の時にこっそりと夢で教わった型を作ってみるとちゃんと教わった魔法が発動した。あれには愕然とした。
その時点でエリスが俺の別の人格じゃなくて、別の何かなんだろうと考えてはいたんだけど。
まさか師匠の妹で俺の中にいるとは思わなかったな。
「何で私たちに報告しなかったのよ」
クエス師匠が不満そうに口を尖らせるが
「いや、エリスさんが内緒ってしてたし・・その、変な人が取り付いてるという事で騒ぎになるのは判定の義までは避けておこうと思って」
「変なものって・・妹なんだけど」
「いや、そうですよね」
「それで氷の属性が限界近くまで上がっていたのですか。瞑想と基本魔法しか教えてないのにいい成長ぶりだと驚いていたのですが」
「黙っていてすみません」
その後師匠たちに問い詰められてエリスさんに教わった氷の魔法を列挙させられた。
エリスさんには急に使って驚かせようと言われていたのに・・。まぁ、仕方ないか。
その後も細かいところまで御互いに知っている事を話し合って師匠の告白から始まったこの場はお開きになった。
俺が分離するためのデータとか実験が必要なら手伝いますから、と師匠に言ったときはすごく感謝された。
俺としてもずっと俺を見守ってくれていたエリスさんを自分の中に閉じ込めておきたくはないので協力には積極的に動くつもりだ。
話が終わった後色々と考えてみたが、やっぱり衝撃だったのは俺と会った時、俺から無理やりエリスを取り出すつもりだとか、それが叶わずとにかく俺をこっちの世界に連れてきたかったとか向こうでの出来事の裏話だったかな。
しかもクエス師匠とエリスさん口げんかしたらしいし。
そう言えば・・どこで口げんかする暇があったのだろう?まぁ、いいか。
話を聞いてる時は俺ってあの時そこまでやばかったのかと恐ろしく感じたりもしたが、終わってみればクエス師匠の涙が印象として強すぎて、それに全部持っていかれた感がある。
男女が別れるときに相手がその場で号泣するとこっちも泣きたかったのになんかどうでも良くなる、何て話を聞いたことがあったが
今回の状況はそれに近いのかもしれない。もちろん、そんな別れを経験したことないけどね。
まぁ、おかげで引きずるものが減ってすっきりした気がするし、クエス師匠が泣いてるのはいつもの強気のとは違って可愛かったし、結果的には良かったのかもしれない。
とにかく今は幸せだし、師匠たちは俺のことを信頼してくれてるし、将来の目標もある。それは変わっていない。
よし明日からも魔法の練習を頑張ろう、そう思いながら布団に入った。
◆◇◆◇
部屋に戻ったクエスは布団をかぶり、のそのそと心地よいじゅうたんの上をボサツの方に移動してきた。
「ねぇ、さっちゃん・・私、やらかしたよね」
「どうでしょうか。コウからは協力の言質も得られ、信頼も得られ、結果を見れば満点だったともいますけど」
「でも思いっきり、泣いてしまったのよ。しかもコウの前で。明日から威厳が保てるかなぁ」
布団にうずくまり恥ずかしそうにするクエスにボサツは近づいて小声で告げる。
「大丈夫ですよ。むしろ私にはくーちゃんをより信頼したように見えました。なんといってもあのコウですから」
ボサツの発言にしばらくクエスは沈黙していたが
「うん、そうよね。明日も頑張らなきゃね。よし、おやすみ」
もう割り切り出来たのか、そう言ってクエスは布団で顔を隠したまま立ち上がりそのまま自分の寝る場所へと戻っていった。
「私だってコウがあそこまで受け入れるとは驚きましたよ」
クエスの後姿を見ながらボサツもそう言うと明日に備えてすぐに床に就いた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今話は次から別の話題になるので短くなりました。ご了承くださいませ。
次話は2日後までには・・。




