師弟関係:ボルティス・メルルの考え
ここまでのあらすじ
クエス・ボサツとコウは正式に師弟関係となった。
その関係の変化を常に観察していた当主ボルティスが動き出す。
一方、都市のギラフェットの城内
クエスたちが魔法協会に正式な師弟登録を済ませた頃
「ボルティス様、ついにクエス様が魔法協会に顔を出したと密偵から報告がありました」
「・・そうか、ずいぶんぎりぎりまで粘ったようだな」
「ええ、そのようですね」
2人しかいない部屋でこの国の当主ボルティスを守る最側近のトマクが当主に報告する。
ちなみに最側近は2人いて、もう1人はコウが街中で戦ったときに観戦していたボルティスの側にいたメグロだ。
今彼は扉の外にいて誰もこの部屋に入れないように警戒している。
今回クエスが行った師弟関係の申請を含め様々な申請を受け付ける魔法協会本部があるのは、連合盟主国ルーデンリアと各一門の当主が治める国の首都だけだ。
他の都市にも軽い情報を受け付ける協会支部があるが、重要な情報とされる師弟登録や魔法使いの基本情報の登録などは基本的に協会本部でしか受け付けていない。
ちなみに魔法学校などで生徒たちが一斉に魔法使いになる場合は、魔法協会の者が立会人となりその場で申請を受け付けたりするし
貴族の場合は使いの者が代わりに申請書を出しに行く事が多いので、受付できる魔法協会本部が少なくても言うほど不便ではない。
クエスの弟子に関してはボルティスも色々なところで情報を探っていた。
そして断定はできないものの、クエスがルーデンリア光国でコウの魔法使い登録や仮弟子登録をしたと推定している。
仮弟子という予想はクエスが弟子の存在を発表後も、協会の師弟関係の記録にクエスの弟子の表記がなかった事から、クエスの弟子は仮登録中としか考えられないからだ。
他の当主たちも遅れてその推定にたどり着き、各当主たちはこの数ヶ月クエスの魔法協会の出入りを監視していた。
仮弟子ということなら、発覚した時の早い段階もしくは期限ぎりぎりになって弟子と共に魔法協会へと出向くことになる。
その時なら弟子の素性をある程度押さえられるはずとボルティスは考えていた。
ちなみにコウが自分の街に買い物に来ていることをボルティスも把握していたものの
あの街中での戦闘以降は素早く帰宅していてなかなか接触が図れずにいた。
「やはりクエスが直接行ったか。あの例の付き人を連れて」
「報告ではそのようです。2人で協会を訪れて直ぐに帰ったそうです」
「そうか。おそらくは仮弟子の破棄の申請だろう。仮弟子の話はアイリーシア家の者もほとんど知らないようだから本人が行くしかあるまい。
それでどんな人物か少しは情報は得られたのか?」
「それが、魔法協会内は早朝で周囲に人がおらず接触も図りにくく、我々に情報が来たころにはすでに戻っていたらしく」
ボルティスは書類の束が積まれた机に向き合いながらため息をつく。
クエスが弟子としての関係を破棄すればアイリーシア家の内部で秘匿される存在になり、コウという人物をじっくりと見定める機会が失われるのでボルティスはやや残念そうだった。
「ボルティス様、お言葉ですがクエス様は正式に弟子にした可能性もあると思うんですが」
「弟子にしたらバカスとの約束からその弟子を公開することになる。クエスはそれを相当嫌がっていたからな、まずやらないだろう・・が、万が一もあるか。一応調べさせておけ」
トマクはそれを聞いて一礼すると部屋を出て行き、代わりにメグロが入って入り口付近に待機する。
ボルティスはそれを気にすることなく執務を再開した。
1時間ほどたったころ、少し落ち着いた様子でトマクが戻ってきた。
部屋の中にいるのがボルティスとメグロだけなのを確認すると、ゆっくりと扉を閉め魔道具が発動したのを確認するとトマクが報告を始めた。
「遅くなりました、申し訳ありません。先ほど部下に確認させに行ったのですが・・」
「結果はどうだった」
遅れた理由など気にしていないと言わんばかりにボルティスはトマクの過程の報告をさえぎって結果報告を求めた。
トマクはすぐに姿勢を正して報告する。
「まず、クエス様の師弟契約は正式になされていました。弟子の名はコウ・アイリーシアとなっておりあの者で間違いないですね」
一瞬手を止めてボルティスは報告するトマクの方を見たが、すぐに執務に戻る。
トマクも一瞬間をおいてボルティスが発言するか待ってみるが、何もないと判断し報告を続ける。
「これで我々一門しか把握していないと思われるクエス様の弟子の名前を知りたい者全員が知ることになりました」
そこまで聞いたボルティスは書類確認の手を止めて、トマクの方を見る。
「それで彼の直近のデータはどうだった?」
「それが閲覧制限があるらしく、向かいに行かせた兵士どころか私でも閲覧できなくて」
「クエスが限度いっぱいの制限をかけた可能性が高いな。なら私ぐらいしか見られないだろう」
その一言で部屋に沈黙が訪れる。
その中しばらくしてボルティスが声を上げる。
「分かった私が確認に行こう」
そう言ってボルティスは立ち上がった。
魔法協会にはこの光の連合に属する魔法使いのデータが収められている。
各魔法使いは各自の魔力パターン、判定の儀の記録、10年以上生存している者には直近10年以内の属性LVのデータを協会へと提出することが義務づけられている。
師弟関係も提出義務の一つだが、実は師弟関係によるメリットを全く使わないのであれば提出してなくても大きな問題は起きない。
さすがに誰が誰を指導しているということを協会がいちいち把握してられないからだ。
とは言え、弟子や師が有名人となるとさすがに協会側も黙ってはおらず、罰金や処罰対象となることもある。
ちなみにこの各種データは協会の職員と言えども閲覧することができず、王族や当主、その魔法使いの雇用主など一部の許可された者にのみ一部の情報だけが提示される。
データを見たとしても具体的な数値を言いふらした場合には問題となり、閲覧に関しての権利を一定期間凍結される可能性がある。
この提示されたという記録もしっかりと残り、そのデータの本人はいつでも誰が何を見たのかを確認することができるようになっている。
魔法使いにとって使える属性やそのLVは戦いにおいて相手に知られれば事前に対策が取られることもある大事なデータなので、これだけ厳重に管理されているというわけだ。
そんなクエスの弟子の大事なデータを確認するためにボルティスはまず自分で来ることのない魔法協会の受付へとやってきた。
起こりえないことではあるが、万が一クエスが女王に頼み込んで許可されると特別措置で女王しかクエスの弟子のデータを見れないということもありうる。
そういうことが起こる前に、もしてはそこまでされているのかを含めて、ボルティスはそのデータを確認したかった。
ボルティスは当主であり、この国の国王でもある。そんな方が普段は使いっ走りの者がほとんどの魔法協会の受付へと来ている。
そんな状況なのであたりは騒然としていたが、ボルティスは気にすることなく協会の受付へと話しかける。
「すまないがある者の魔法使いのデータを確認できる範囲で確認したい。申請用紙を頼む」
「は、は・・」
受付の女性は緊張しすぎて真っ当な返事が出来ないまま、慌てて申請用紙を取り出しボルティスに渡す。
協会職員とはいえ大体が現地採用の魔法使いなので、当然ながら普段目にする機会はないとはいえ、自国の国王の容姿くらいは知っている。
下級貴族の貴族ですら簡単には面会が叶わないほどの相手が目の前にいれば、誰だって、一介の受付ならなおさら緊張するのは当然だった。
「あ、あの、本当に、その、申し訳、ないのですが・・こちらとこちらに、記入を、その、して頂ければ・・」
「わかっている。これはルールだからな。ルールは意味があって作られているものだ、そう指摘せずともちゃんと記入する」
その様子を見かねた同行していたトマクが、国王に必要な場所への記入や「はい」の場所に魔力を流すことなどを教えた。
普段は使いを送る事しかやらない貴族にとっては用紙の書き方を知らないものも多く、ボルティスも当然そっち側だった。
無事に書類を書き上げてボルティスが書類を受け付けに渡す。
受付は大変遠慮深い態度でうやうやしく受け取り、その紙を魔道具へとセットした。
ちなみに閲覧料が100ルピ程かかるのだが、気を利かせたトマクが横ですぐに支払いに応じていた。
「あの、しばらく、かかりますので・・その、お待ち、頂けると、助かり・・」
「ああ、待たせてもらう」
ボルティスの固い対応がより受付を緊張させていたが、トマクにも他の職員やここにきている使いっ走りにもどうすることも出来ず
魔法協会の1階フロアにはとても重苦しい空気がボルティスとトマク以外の全員にのしかかっていた。
トマクはどちらかというと、この状況を面白がっていたが。
受付の者は既に頭の中が「早く帰っていただかないと」としか考えられず今か今かと書類が出来上がるのを重圧に耐える思いで待ち続けた。
椅子に座ることなく目の前でボルティスが待ち続けるので、早くして~と泣き叫びたい受付は書類が出来上がった瞬間にすぐに取り出しボルティスの前へ差し出した。
「はい、こちらが、お求めのデータになります」
そう言うと受付は深々と礼をした後、すぐに奥へと引っ込んでしまった。
まぁ、受付は3か所くらいあるので1人が引っ込んだところで問題はない。
さらに言うと厳格で有名な国王の後ろに並んでいるものなどいるわけがないので全く問題はなかった。
ボルティスは目の前に置かれた白い紙を受け取る。
ボルティスがその紙に魔力を流すと周囲には見えにくい指向性の高い光を発し、持っているボルティスだけが内容が見えるようになった。
「ほぅ、そうか。これなら確かに才能がないとは言えないが・・」
「許可者はやはり予想通りか、メルルも入っているのはクエスらしいな」
データを見ながら感心しつつも少し悩んだ表情をしたりとボルティスは様々な表情を見せ
確認が終わったのか紙に魔力を流すのを止めると紙全体が光だしやがて光の粒子に変わり霧散して消えていった。
「ボルティス様どうでした?」
付き添いで来ていたトマクが尋ねると
「詳しくは言えないが、判定の儀の結果があったな。そこそこだが特に目を引くものではなかった」
「そうでしたか、俺の予想は外れてたか。思ったほどではないみたいですね」
期待に反するいまいちな結果にトマクは落胆する。
「ふーむ、少し待て」
そう言うとボルティスは一枚の厚みのある紙を取り出し目を閉じる。
すると文字が紙の上に現れるように記入されていき、ちょっとした手紙が出来上がった。
その紙を二つ折りにするとボルティスはトマクに手渡す。
「これをメルル・フィラビットに渡してこい。親書と言うほどではないが中は見るなよ」
ボルティスから手紙を受け取るとトマクは頭を下げてフィラビット家へと向かった。
トマクは出発前にボルティスが一人で城へ戻ることを懸念していたが、すぐ近くだから気にするなと言ってボルティスがさっさと魔法協会を出たのでトマクも転移門へと急いだ。
ボルティスが手紙を出して翌日にはメルルから返答があり
その2日後にはボルティスがフィラビット家の別荘へと足を運びお茶会という名の相談会が行われることとなった。
ボルティスがメグロと2人の近衛兵を連れてメルルの別荘を尋ねると
入口を警備している男女6名の兵士が一斉に頭を下げる。
「このようなところまでご足労いただきありがとうございます。メルル様もすでにお待ちしていますので案内いたします」
兵士がそう告げると門が開き、そこに頭を下げていた侍女2人が先導しボルティス一行をメルルのところまで案内する。
やがて芝生の上に設置された大きめのテントが見えてきて、やや長めの机と椅子が2脚、そしてメルルがその椅子の側に立って待っているのが見えた。
ボルティスはそれに気づき護衛として同行していたメグロと近衛兵たちにテントから少し離れた場所で待機するように指示する。
「了解しました。何かあったらすぐにお呼びください」
「ああ」
部下の返答に了解すると、ボルティスは一人でメルルの元に向かう。
「メルル、忙しい中時間を作ってもらって悪いな」
「いえ、クエス関連の事でしたらいつでも相談していただけるように言っていたのは私ですから」
そう言うとメルルはゆっくりとお辞儀をして奥の向こう側の椅子へと座るようにボルティスに促す。
ボルティスも軽く会釈をするとメルルと対面側の椅子に座る。
「それで、とりあえず周囲への音と視線を遮ってもよろしいですか?」
「あぁ、頼む」
ボルティスの了解を得てすぐにメルルは少し離れたところにいる侍女に合図を飛ばす。
直ぐにテントの周囲が発光し周囲からボルティスとメルルの姿は確認できなくなった。
さらに<風乱結界>が張られて中の音が外に漏れない状況が作られた。
「地面にも対策がしてありますので、ここでの会話はもれることがありません。ご安心ください」
「いつもながら見事な対応だな。それではさっそく本題に入らせてもらおう。手紙にも書いておいたがクエスの弟子の件だ」
「ええ、私も確認しています。コウ・アイリーシアの件ですね。正式に弟子として登録してありましたし、判定の儀の結果もすでに確認しております」
淡々と発言するメルルに少し警戒感を抱くものの、ボルティスは本題に入ろうとした。
「それなら話が早いな。あの弟子の判定の儀の結果だが・・」
「すみません、その前に一つクエスから伝言があります」
メルルの言葉にボルティスは顔をしかめる。想定以上にクエスの対応が早いからだ。
とはいえ、ここで何か動こうにも当の本人はいなのでボルティスはひとまず観念する。
「わかった、聞かせてくれ」
その言葉を聞くとメルルは外周に一本の紺色の線が入った小さな金属の立方体を取り出すとそれをテーブルの上に置き魔力を流す。
するとその立方体の2面が光だしクエスの立体映像が映し出されるとともにクエスの声が聞こえた。
「メルル様、ボルティス様こういった形で失礼いたします。コウの登録から2日も経たずメルル様がコウの情報を検索されるとは思いませんでした。
多分ボルティス様の差し金と思ったので一言だけ言わせてください。あまり私の弟子を追い詰めたり圧力をかけないでいただけると助かります。では。」
クエスの一方的なメッセージが流れるとボルティスはしばらく考えるように目を閉じた。
「メルル、クエスはどうしてほしいのだ?」
考えたもののクエスの意図が掴み切れないボルティスはメルルに尋ねる。
だがメルルも困った表情を見せゆっくりと話し出しす。
「ボルティス様、これは今初めて起動できたので私にもクエスの意図は掴みかねています。多分起動時に周囲の魔力パターンを調べ
私とボルティス様がいるときにのみ起動できるようにしてあったようです」
「また不可思議な魔道具を用意したものだな。ボサツが協力したのだろう」
「ええ、そうでしょうね」
メルルが嬉しそうに答える。
先ほどとは違うその笑顔がメルルはクエス側の味方だと示唆しているとボルティスは判断するが、クエスの味方は必要なので特に指摘はしない。
「ひとまずクエスの意図は置いておこう。今相談したいのは弟子のコウの判定の儀の結果だ。あれは不自然な結果としか思えん」
「確か風28、水26、光22という結果でしたね」
「あぁ、そうだ。まずその数字が不自然だ。2色使いとか光の加護中スキルを持っていても3つ目の光は水の5/6までしかLVが上がらない。つまり21が限度だろう」
この世界では2つ目以降の属性は一つ上の属性のLVの一定程度しか上がらないという制限がある。
この結果はその制限のルールから見てズレがあったのでボルティスは不自然だと思ったのだった。
「そうですね。ですが、稀に1/2の切り捨てに該当しないものがいたという報告もあります。それだけでは判断できないのでは」
「まぁ、私もその例は知っている。だが、こんな時にその稀な例が出ただけでなく、この程度の素質でクエスが弟子を必死に隠すとは思えん。それに・・」
「ええ、アイリーシア家は何らかの方法で判定の儀をごまかした過去がありますからね」
メルルは少し澄ましたような雰囲気できっぱりと述べる。
ボルティスはメルルに知っていることを教えてほしいと言おうと思ったが、メルルの急な返事に潰された形となった。
この時点でボルティスはやんわりと話を進めるのは無理と判断し、直接質問をぶつけることにした。
ボルティスにとっては弟子の公開を断固拒否していたクエスの心変わりを知りっておきたかった。
その心変わりが一門に何か大きな損害をもたらすことを警戒していたからだ。
「メルルがクエス側の味方になっていることは、私からも以前にお願いしたことだ。そこはいい。ただ今回のクエスの行動が私には理解できない。
そもそも弟子認定しなければ情報は簡単には漏れなかったはずだ。なのに弟子の認定を行い名前を公開した。すまんが、話せる範囲で構わんから話してくれ、メルル」
そう言われて、メルルは先ほどまでの笑顔で要点をずらすような対応を止め、右下に目線を落とし迷った様子を見せた。
「それなりには事情を知っているということか」
「はい。クエスに口止めはされていませんが・・それも私を信頼した上での事だと考えています」
「わかった。言える範囲でいいから教えてくれ。今はそれ以上は詮索しない」
諦めたかのようなボルティスの表情にメルルは申し訳なく思う。
本来であれば一門の上位であるボルティスの命令は重いものですぐに話すべきだが、ボルティスからはメルルは常時クエスの味方に付くように指示を受けている。
それにもかかわらずボルティスがかなり厳しいラインを攻めてくるのでメルルも難しい状況に置かれていた。
「分かりました。ですが私はボルティス様に以前から言われているようにクエス側に常に立っています。そしてそれは私の意志も同じです。
それを前提にして聞いていただけると助かります」
「わかっている。今回はすまないとは思っている。だが私も立場上情報を出来るだけ詳しく知っておかないと動きにくいのだ
若く経験が浅かったとはいえ、以前のアイリーシア家滅亡の際に動けなかったのは私の大きな過ちだ。
それによってクエスが私を信用していないのは十分に理解してる。だがらこそ同じ過ちは繰り返すわけにはいかんのだ」
いつも冷静なボルティスがやや興奮したかのように話す。
彼は彼なりに、アイリーシア家の一件に責任を感じておりその失敗を糧に改善しようと考えているのだ。
だが、ボルティスは性格上リスクを大きくとるような真似はせず、下調べを念入りにした後行動するタイプだ。
それはメルルも理解しているのでクエスに不利にならない範囲で話すことにした。
「まず、クエスが弟子を認定した件ですが・・それは弟子のコウを溺愛しているところがあるからだと考えています」
「弟子なんて断固拒否だと言いふらしていたクエスがか?にわかには信じられないが」
「この後コウを大切にする別の理由も言いますが、それを除いても相当大切にしています。ここへ来てクエスが弟子の話をする時は本当に嬉しそうな表情を見せますので」
メルルはその時のクエスを思い出しながら、嬉しそうにボルティスに説明する。
だがボルティスはとても信じられないという表情をしたままだった。
「それで別の理由とは?おそらく妹の件だろう」
「ええ。クエスは弟子をあくまで副産物と言い張っていますが、実のところその弟子は妹を探し出すのに必要な物でもあります」
その言葉にボルティスは顔をしかめる。
「ならますます隠しておけばよかっただろうに」
「少なくとも存在は知られてますから。下手に隠すよりは溺愛を少しずつ情報として出していき、そういう弟子だと定着させた方が良いという結論になりました。
この決定に関しては私も相談されていたので一枚噛んでいます」
「まぁ、確かにそういう考えもありか」
「ありがとうございます」
ボルティスの承認ともいえる言葉に、メルルは感謝を述べた。
ボルティスとしてはあまり面白くない状況だが、今更止められる話ではないし今はまだ悪い流れではないので良しと納得するしかなった。
「後は・・才能の件でしょうか」
「話せる範囲でいいぞ」
「はい、まずあの数値はフェイクです」
「だろうな。遅かれ早かれあれを見た者の多くはそう思うだろう」
やはりか、と言わんばかりにボルティスはやや投げやりにどうするつもりだとメルルを問う。
「証拠はありませんし、実際の能力の推定も困難ですからフェイクと思われても支障はないと思っています」
「で、実際の数値は私にも言えないのか?というかなぜその才能を隠すのだ。もし精霊の御子であれば連合の保護対象になるんだぞ」
「そこはクエスのトラウマでもありますから。いや、アイリーシア家の、とも言えますね。それにクエスを始めアイリーシア家の多くは連合の貴族のほとんどを信用してはいません。仕方ないかと」
「ならばメルルは本当の結果を知っているのか?」
「いいえ、私も知りません」
メルルは残念そうに首を振った。
ボルティスはこの情報で、クエスの弟子はよほどの才能があるのか、それとも別に隠したいことがあるから才能を見せれないのか
もしくは才能があるのではという点に注目させたいのか等のいくつかのケースを想定した。
そして、いつかコウの情報を独自である程度把握しておこうと考えた。
だがそれは今ではないともボルティスは考える。
ボルティスはこれ以上の詰問はメルルを相反する命令の中で苦しめるだけだと判断し、席を立つ。
調べるとしても今はタイミングも悪く、これ以上クエスの味方であるメルルからは情報を得ない方が得策だと考えたのだ。
無駄な時を費やすことにはなるが、今はしばらくそっとしておき、タイミングを見てコウのことを調べるべきだとボルティスは考えた。
中2空きの更新となりましたが、今話も読んでいただきありがとうございました。
今回は外視点はこの1話だけです。2話に切るには5K文字下回るので今話はくっつけました。
ちなみに他キャラ視点も書こうと思っていたのですが、なんかごちゃごちゃしそうなので避けました。
最近ちょっと各スピードが落ちていますが、踏ん張りどころだと思って頑張ります。では。




