表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
86/483

異世界でふりかけご飯を食す

ここまでのあらすじ


コウは無事に判定の儀を終え、無事に偽装工作も終わった。


「あっと、いけません。忘れていました」

そう言ってボサツ師匠は一度両手を合わせるとその上にアイテムボックスの入り口を作り、両手で抱えるくらいの金属の箱を取り出した。


取り出した箱のふたを師匠が開ける。中には多くの籾が入っていた。

俺があの時師匠に預けた量の10倍くらいはある。これは間違いなく収穫したものだった。


「おぉ!師匠、収穫まで無事にいけたのですね」


「えぇ、コウの細かいメモがありましたので問題なく生育できました。早くコウに見せておこうと思いまして」


ボサツ師匠は嬉しそうに俺に箱の中身を見せる。

俺は手に取りじっくり見つめる。

そこまで詳しくはないものの十分米になる出来だと思った。


「それで問題があるのです。くーちゃんには白いライスを見せてもらいましたが殻を取ってもどうも似た感じになるとは思えなかったのです。

 ある程度予想はつくのですが、まだ全体の2割程の先行分しか収穫できてないので、試行錯誤で無駄にするよりはコウに教えてもらおうと思い持ってきたのです」


あぁ、そう言えば脱穀→精米→炊飯の流れは何も言ってなかったもんなぁ。


「これ、全部使ってもいいんですか?」

手渡された箱の中身をまじまじと見つめながら、俺は師匠に尋ねた。


「えぇ、魔法で成長促進した先行分ですので全部使っても大丈夫です」


先行分とはそう言うことなのか。

成長促進ってどれくらい早くできるのか気になったが、今はそれよりもうまく白米にできるかが気がかりだ。


俺はノートを取り出して自分でメモした籾摺り機を見ながら魔法で出来ないか考えてみる。

魔核を調整した<受け壁>でやや硬めの空気のクッションを2つ作って回転させすり合わせながら、<風起こし>で落下方向から風を吹き出して籾殻を飛ばそうかと考える。


・・うーん、考えてみると割と面倒な作業だがここまで来たんだしやってみるしかない。

しかし戦闘中に使う受け身用の空気の壁をまさか脱穀に使うことになるとは。

色んな魔法を覚えておくと意外なところで役に立つものだ。


ある程度準備が終わると俺は師匠に説明して飛んでいく籾殻を受け止めてもらうようお願いして、籾摺りを開始した。

風にあおられて殻だけが浮き上がり、師匠の用意した布の袋に収納されていく。


そして玄米は風の影響を受けず下の受け皿に落ちてくる。

初めてやった割にはなかなかよく出来たと思う。


ボサツ師匠は俺の魔法で無理やり作った籾摺りの工程を眺めながら、感心するようにうなづいていた。

ボサツ師匠って研究とかやってると聞いたけど、こういう分野も研究対象なのだろうか。



「ここまでは私たちでもやってみたのですが、この黄色いものはくーちゃんが見せた白いライスと少し違う気がしたのです」


「はい、これをもう少し処理しないといけないんですよ。それでご飯、つまりライスになります」


「ライス、つまりライスになるって・・どういうこと?」


突然クエス師匠が横から声をかけてくる。

あれ?一瞬俺が言い間違ったかなと思ったが、そんなことはないはずだ。


ご飯と言い慣れていたのでご飯といったが、ライスと言われるのでライスと言い直したはずなのに・・

あぁ、この自動翻訳のせいか。


この翻訳は俺の知識や記憶、師匠が得た知識から結び付けて自動的に翻訳してくれるんだけど

同じもので2種以上の言い方を認識している場合、俺が直前で言った言葉に反応して時々急に聞こえ方が変わることがあるんだった。


なんかライスじゃしっくりこないので、いま一度頭の中で茶碗に盛られた白米を思い浮かべ『ご飯』『ご飯』と認識しなおす。


「すみません、言い方が複数あったので自動翻訳でちょっとこんがらがってしまって。でも、もう大丈夫です」

そう説明すると、俺は師匠に精米の仕方を説明した。


「つまりこの米の表面についている茶色い糠を取ると白米になるんです、それがご飯の元です」


「へぇ~結構手間がかかるのね」

「コウの世界ではどういう方法で取っていたのですか?」


俺は再びノートを開いてメモしていたかくはん式や圧力循環式の簡単な図を見せながら説明する。

ボサツ師匠だけじゃなく、クエス師匠も興味深そうにその図を見ていた。


「なるほど、色々とあるのですね。でも今回は私がやってみます。風属性の削るタイプの魔法ならうまくいきそうですから」


おぉ、そんな魔法があるんだ。確かにうまくぬかだけを削れれば綺麗に白米ができそうだ。

うーん、俺はまだまだ地球の機械的な発想に縛られていたのだろうか、と少し落ち込んだ。


ボサツ師匠は風の魔力を放出し型を組みだす。見たことのない型だったので俺は必死に記憶する。

「いきます<削りの風>」


風の魔力が空中で渦を巻くように動き、そこへボサツ師匠が上から玄米を少し入れてみる。

下に白米が落ち、削られた糠が宙をくるくると舞っている。よく見ると落ちてきた白米はかなり削られていて小さくなっていた。


「師匠、ちょっと削り具合がきついようです。もっと緩くしないと白米が削られ過ぎて小さくなっています」


「感触として削り過ぎかなと思っていましたが、やはり失敗でしたか。もう少し調整します」


次の<削りの風>では丁度良く玄米から糠が削れて白米になっていたことを伝えると、そのあと一気に玄米を上から流し込み一瞬で精米がすべて終わった。



うーん、マジで機械なんて不要なんだな。

ここまで圧倒的な効率の差を見せつけられると機械文明がむなしく思えてしまう。


とはいえ風使いじゃなきゃこの方法は使えないし、俺のメモも一応役に立つと信じておこう。

俺は少し悲しくなりつつもノートを閉じてバッグに直した。


やっと炊飯までたどり着いた。考えてみれば俺は最初だけで大したことはやっていないが、この際気にしないことにしよう。


この後ボサツ師匠に圧力鍋での炊飯方式を説明すると、俺は軽い水洗い後しばらく水につける。

その間師匠は鍋を取り出してその上に蓋を置く。


「これであとは鍋内に少し圧力をかけつつ熱するといいのですか?」


「はい、魔法でもっといい方法があるかもしれませんが、そこまでは詳しくないのでいい方法が思いつかず・・」


「失敗するよりはいいと思うわ。とりあえずそれでやってみましょ」


ということで予定通り圧力鍋方式で10分ちょい加圧状態で加熱した後5分ほど蒸らしてご飯が出来上がった。

俺はバッグにふりかけを入れていたのを思い出し、取り出すと炊けたご飯に振りかける。

師匠にもご飯のお供なのだと簡単に説明しておいた。


「では、ごはんの味を知っているコウから食べてみたください。今までと違う点があれば教えて欲しいです」


なんかボサツ師匠の言い方がかしこまった感じなので、俺が美食倶楽部の審査員になった気がする。

ご飯ってもっと気軽に食べるものなのになと思いつつ、俺はスプーンでご飯をすくって口に入れた。


おぉ、アツアツだけどなかなか旨い。

微妙に地球で食べてたいときと味が違う気がするが半年も口にしていなかったので気のせいかもしれない。


俺が嬉しそうに食べているのを見て師匠たちも俺の感想を聞くまでもないと食べ始めた。


「これはなかなかいいですね。手間がかかるのは難点ですが」


「それならさっちゃんの所で米の加工用魔道具を作ってみればいいじゃない」


「そうですね、先ほどのコウがやっていたのを含めやり方は大体頭に入りましたので、技術省にとにかく作るように言ってみます」


「それにコウの持ってきたふりかけもいい感じね。ちょっとさっちゃんの所で調べてみて類似品を作ってみない?」

色々と語りながら嬉しそうに師匠達が食べているのを見れ俺も嬉しくなった。


ここへ来て初めてじゃないだろうか、俺が地球から持ってきた物や知識で師匠たちを喜ばせることができたのは。

そんな師匠たちの光景を見ながら、まだ残っているご飯をじっくりと味わった。



その後は改めて判定の儀の話になり、細かい口裏合わせをするために情報を整理した。

そしてこれから行く所があると言われ転移門からいつも買い物に行く都市メルベックリヌへと飛ぶ。


ちなみに騒ぎになるのを避けるためにか、俺は以前着用した顔が見えにくくなる光のローブを着せられた。

転移門のチェックでは一度フードを脱がなければならないなと思っていたが、以前照会した魔力パターンのデータがあったからかフードを脱ぐことなく通過できた。


ちょっと警備ざるじゃない?と思いもしたが、クエス師匠の信用度が高いから通れたのかもしれない。


転移門の場所からそこそこ歩いて、貴族街の王城に近いエリアにある魔法協会へとたどり着く。

ここは魔法使いの登録やさっき行った判定の儀の結果や今の魔法能力を登録したりする場所だそうだ。


光の連合内にいる魔法使いは必ずここへと登録する必要があるらしい。

いわゆる戸籍データを管理するのは国だと思っていたが、魔法使いになると住民という扱いではなくなるので魔法協会へと登録することになるそうだ。


ちなみにデータ参照をしてみると、いつの間にか俺の魔力パターンも登録されていて、先ほど測定した偽の判定の儀の結果もすでに登録してあった。

もうすでに連合内で情報共有されているのだろうか?だとしたらこの世界の情報社会はしっかりしているようだ。

見たことはないが、ネットみたいな情報通信網でもあるのだろうか?


協会内は受付には数人いるものの、用事があってきている人は自分たち以外誰もいなかった。

まぁ、まだ午前中だし昼から混む場所だとしたらこんなものかもしれないが。


「おっ、ここまで空いているとは思わなかったわ。さっさと手続き済ませるわよ」

そう言って師匠は俺とをつれて窓口へ向かう。


「すみません、師弟関係の変更を申請しに来たんですけど」


「ええと、少しお待ち・・えっ、クエス様ですか?」


「ええ、そうよ。騒ぎになる前に早くお願いね」


師匠が声の大きさを少し落とす。

それに気づき受け付けの人も声を落として会話しだした。


「えっとこちらでよろしかったでしょうか?」

しばらく待っていると、受付の人がおそるおそる1枚の紙を差し出した。


「ええ、私は過去も今も弟子なんて1人しかいないからそれで合ってるわ」

そう言って師匠は受け取ると横にいる俺の前に紙を置いた。


「コウ、この文章読める?」

「ええ、えっと、仮の師弟関係から正式な師弟関係になることを同意しますか・・ですよね」


その設問の後には「はい」「いいえ」の文字とその下に四角いマスがある。よく見る同意書みたいなものだった。

それが弟子と師匠用に2行同じ設問文で表記されている。


「えっとこれに丸をすればいいんですか?」


筆記具なんて持ってないので困ったなと思っていると

「好きな方のますの上に指を置いて魔力を流せばいいわよ」


好きな方って・・そりゃ同意するに決まっている。

今更迷う事もなく、俺はクエス師匠とボサツ師匠の弟子だ。


むしろ今の俺にはそれしかアイデンティティーがないくらいだ。

一応準貴族という立場は与えられているけど、それっぽいことなんて何もやっていないんだし。


つまりクエス師匠達の弟子というのは拒否されてもしがみつきたいくらい俺にとっては重要なアイデンティティーなんだ。


俺は一応師匠の欄の名前を確認して、クエス・アイリーシア、ボサツ・メルティアールルと書いてある事を確認し

少し緊張しながら「はい」の下にあるマスに触れて魔力を流した。


魔力を流すと四角部分が黄色に塗りつぶされる。

こうやって選択できるって便利だなと思い、初めて見たこともあって俺はちょっとだけ感動した。


師匠はその様子を見て少し笑って俺から紙を受け取ると、師匠も「はい」の方を黄色に塗りつぶして一度俺に見せて笑い、そのままその用紙を提出した。


「これで私たちとコウはこの連合内で認められた正式な師弟関係になったわよ」

それに対してなんと言っていいのかわからなくて、俺はとりあえず感謝の意を述べる。


「師匠有難うございます。これからもよろしくお願いします」

「ええ、私の方こそよろしくね」


師匠がそう答えると、他に用事はなかったのかさっさと魔法協会から立ち去った。



帰る途中、転移門まで時間があったので俺は師匠に尋ねてみる。

今正式に師弟関係となったというなら、今まではどういう状態なのか気になったからだ。


「その、師匠・・今日正式に俺は師匠の弟子になったんですよね」

「ええ、この連合内での記録上はね」


「では今まではどういう扱いだったんでしょうか?」

「今までは仮弟子という扱いよ。いわゆるお試し期間ね」


「お試し期間、ですか」

「そうね~、コウも知っておかなきゃいけなくなるから歩きながらだけど説明するわね」


一瞬「いけなくなる」という言葉に疑問を覚えたが、師匠は気にすることなく説明を続けるので俺は黙ってその説明を聞く。


「まず仮弟子で登録するには弟子になる前に師匠か弟子のどちらかが望めば申請できるわ。もちろん基本的に双方が師弟関係に賛成しているのが前提よ。

 そして仮弟子というのは師匠・弟子どちらからでも一方的に関係を無くす事ができる関係の事よ」


なるほど、本当にお試しの関係という事か。

弟子の立場でも一方的に破棄できるってのはすごいと思う。


わざわざ仮なんて言う制度があるということは、実は師弟関係ってのは重たいものなのかもしれない。


「この連合内で一定以上の時間特定の相手から指導を受ける場合は、最低でも仮弟子にはしておかないといけないわ。あとこの仮弟子の期間は最長5ヶ月よ」


「5ヶ月・・ああ、魔法使いになって判定の儀を受ける半年後まで、という事なんですね」


「魔法使いになるところから師匠の指導が始まると考えればそういうことね。それで仮弟子の期間は関係は世間に公表されないし記録にも残らないわ。

 嫌な師匠の弟子になったことを知られたくないって人もいるから、そういう配慮からだと思うけど」


あぁ、そういうことで俺を仮弟子にしたいたというわけか。

一瞬弟子としてまだまだ認められてなかったからかと思っていたが、俺を世間から隠す配慮の為だったとは。


俺の事を隠す事に関しては師匠達は本当に徹底しているなぁ、と改めて思わされる。

俺の表情を見てか、心を読んでか知らないが、師匠もわかったようねと微笑んでくれた。


「まぁ、貴族の場合は大抵見知った者を師匠に付けるし、後々解消することも前提にする事がほとんどだから、仮弟子なんて制度はめったに使わないんだけどね」

と師匠は最後に一言だけ付け加えた。



それから暫く歩いたときだった。

師匠がふと俺の方を見ずに質問してきた。


「ねぇ、コウは・・何があってもこれからも私の弟子でいてくれる?」


師匠からの何気ない質問に俺は深く考える事もなく答えた。

まぁ、考えるまでもない質問だったとも言えるけど。


「もちろんですよ、師匠。クエス師匠もボサツ師匠も俺にとってはただ師匠というだけでなく、俺を大切にしてくれる親みたいな存在ですから。

 将来は師匠達の為に行動できる弟子になれるようこれからも精進していきます」


俺は率直な気持ちを笑顔で自信たっぷりに師匠に告げた。


「そうね、ありがとう。わざわざ聞いてごめんね」

そう言うと師匠は振り返って笑顔を見せてくれる。

「いえ、こちらこそこれからもよろしくお願いします」


まぁ、この世界は貴族社会がどろどろしてそうだし色々と嫌なこともあるのだろう。

今の俺にはそれ位しかわからないので軽く答えたが、将来師匠の役に立ちたいという気持ちに嘘偽りはなかった。


それ以降は、今練習している魔法の話や直前の実践訓練の話で師匠と盛り上がりながら

特に変わったこともなく隠れ家へと戻った。


今話は判定の儀後のおまけ的な話です。

読んでくれた皆様ありがとうございます。


魔法紹介

<受け壁>風:空気で作ったクッション壁。固さの調整可。

<削りの風>風:相手の表面魔力や皮膚等を削っていく魔法。だが皮膚まで到達する威力にはかなりの魔力が必要。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=977438531&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ