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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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偽装された結果、判定の儀

ここまでのあらすじ


ボサツとクエスは様々な手を使い、ほとんど人がかかわらない状態でコウの素質を調べる判定の儀を行った。


目を閉じて立ったままどれくらい経っただろうか。

周囲の魔力が薄れていくと同時に、なんか声が聞こえる。

「*$%&#>+##」


何を言ったのかわからなかったが、多分ボサツ師匠と思われる声に反応して、俺は目を開ける。

それと同時にすぐさま翻訳機の機能をオンにした。これを有効にしないと何を言っているのか全くわからなかったからだ。


最近は文字書きもだいぶ慣れてきたが、言葉に関してはこの魔道具があるので勉強する気は起きなかった。

だが翻訳に回せないほど魔力が困窮した時を考えると、少しでも会話ができるよう勉強した方がいいかもしれない。


辺りを見回すが既に周囲の魔力は薄くなっていて、この判定の儀で何が起こったのかいまいちよくわからなかった。

かかるのは1時間程と聞いていたけど思ったよりも早く終わった気がしたので、俺は一旦背伸びをした後師匠たちのいるところへ駆けつけた。



「師匠、結果は・・どうでした?」


俺ははやる気持ちを抑えつつ師匠たちに尋ねる。いまいち正体がわからない横にいる男のことはひとまず無視だ。

とにかく早く結果を知りたい。正直言って高校の合格発表の時より遥かに緊張している。


今日の結果で精霊の御子とやらになるのが、ここ半年の目標だったからだ。


もしここで思ったほどの才能がないということになれば、師匠が今まで指導してくれたことを無駄にしたように感じるし

何よりも、将来より強い魔法使いになって師匠たちの手助けをするという俺の夢が崩れ去ってしまいかねない。


才能がすべてとも言われるこの世界においては、今回の結果は俺のこれからの魔法使い人生を左右するほど大事なものなのだ。

俺が期待に満ちた目で師匠たちの返答を待つと、師匠たちはすぐに答えてくれた。


「うーん、すごいわね。かなりの結果よ」

「ええ、さすがはコウです」


そう返事が返って来るものの具体的な数値や『精霊の御子』という言葉はなく、師匠たちの表情は喜びに満ち溢れているとは到底言えないものだった。

何か少し不満というか・・何とも言えないという表情をしている。とにかく発言と表情が合っていない。


代わりにと言っては変だが、少し離れたところにいる未届け人の男は俺のことを見てずいぶん驚いた顔をしている。

何なんだろうか、この表情の差は。


「えっと、その、具体的にどれくらいの数値だったんですか?これから成長して少しは師匠のお役に立てるくらいはありましたか?」


いまいちな表情を見せるものだから、俺は不安そうに師匠たちに尋ねる。

すると何かに気付いたように師匠たちは急に明るい顔になる。


「ええ、もちろんよ。少しどころか将来的には私と並んで共に戦えることを期待しているくらいよ」


「はい。これでいまいち期待できないと言ってしまっては、私も期待されてない者達の仲間入りになるくらいです」


急な師匠たちの変化に俺は何が何だかわからず、ただ「は、はい」とだけ返事して何度か頷くことしかできなかった。


「えーとね、それでコウには悪いんだけど今度はこの手袋をつけて、もう一度判定の儀を受けてほしいんだけど」

結果を聞けずにもう一度やるのか、と思いながらも一応事前に聞いていた事なので従うことにする。


「はい、いいですけど今すぐにですか?」


「今そこの魔法協会から来た彼とボサツが点検をやってるので5分後くらいに再開するわ。大変だと思うけどそれが終わればここでのやる事は終わりだから。頑張ってね」

「了解です」


俺はそれだけを言うと、暇なのでボサツ師匠の点検の様子を観察した。


せっかく待ち時間があるのでさっきの結果について詳しく聞きたかったんだけど、どうもそんな雰囲気なので俺もそれ以上は聞かないことにした。

多分あの見届人に聞かれたくないことがあるのだろう。


直ぐに点検が終わったので再度俺は魔方陣の真ん中に行く。

そして紫色の手袋をはめた。もともと滑らかな素材だなと思ってはいたが着け心地がとても良かった。


これって高級素材のシルクとかじゃないだろうか。

「そうそう、今度は翻訳の魔道具は切らなくていいからね~」


師匠が大きめの声で言ってきたので俺は師匠の方を向き頷くと、そのまま目を閉じで魔力放出しそのまま楽な状態を保つ。

そういえばこの手袋のせいなのか、自分の魔力がどうも正確には感じ取れない。

何かいつもと別物になってしまったかのように感じる。


ダミーのデータってどうやって取るのだろうと思ってはいたけど、それ用のなかなかいい魔道具があるんだなと感心した。

まさか俺のために用意された魔道具じゃ・・ないよな。俺のためにこんな紫の手袋をってのはちょっとセンスがズレすぎている。


再度行った判定の儀も30分ほどで終わり俺もほっとしたが、師匠たちもほっとしていた。




「やっと終わったわね、それでは急いで帰るわよ」

「え、この他にも何かあるんですか?」


「あるにはあるけど・・結果も含めて帰ってから色々と話すわ」


そう言うとクエス師匠はあの未届け人の男に魔法を詠唱しだす。あれは夢属性?

幻術系の魔法をこの場で人に対して使うなんて普通じゃない。


なんだか不穏な空気を感じたが問いただすことも出来ず、俺はクエス師匠の指示通り駆け足で来るときに使った転移門へと急いだ。

転移門の前で待っていると直ぐにクエス師匠がやってきて、1人ずつなのでまず俺から飛び、いつものアイリーシア商会を中継して隠れ家へと帰ってきた。


俺とクエス師匠が帰ってきてから30分ほどしてからボサツ師匠も隠れ家へと戻ってきた。


「どう?その後は大丈夫だった?」


「問題なく済ませておきました。セルバスは儀式に問題が無かったと確認したことはおぼろげに覚えていますが、対象は覚えていないようです」


「そう、それなら事前の予定通りうまくいったみたいね。結果も2回目のを渡しておいたんでしょ」


「ええ、何の疑いもなく受け取っていました。他の者が聞いても結果と儀式に問題がなかったことくらいしか思い出せないと思います」

クエス師匠の問いにボサツ師匠が嬉しそうに答える。


何かよくわからないがとにかくうまくいったらしい。

よからぬことなのは間違いないが、ヤバイことじゃないですよね?


「それであの転移門は大丈夫だった?」

「それもちゃんと片付けておきました。くーちゃんに返しておきます」


そう言うとボサツ師匠は1mほどの高さの直方体の金属の箱を取り出しクエス師匠へと渡す。

クエス師匠もさっさとその金属の箱をしまう。


さっきの会話の内容と言い、その箱のと言い、俺にはわからないことだらけなので思い切って質問してみる。


「師匠、いったい何を企んでいたんですか?」

一瞬、ん?と二人とも首をかしげたがすぐにニヤニヤし始める。


「コウもそういうことを気にするようになったのね。以前は興味を持っていても聞いては来なかったのに」


「もう、くーちゃん茶化してはいけませんよ。今回はコウのことがばれないように色々と手を打っていたのです」

「ばれないように・・ですか」


一瞬、聞かなきゃよかったかなぁと思いはしたものの師匠が説明し始めるので聞かざるを得なくなった。


「コウもちゃんと知っておかないとね、じゃないと辻褄が合わなくなるし」


「そう言うことです。ちゃんと覚えておいてください。それで、まず偽装したのは判定の儀でのコウの能力ですね」


まぁ、これは俺も偽装と理解した上で能力を抑制する手袋をつけて測定したんだから共犯だろう。

目立ちすぎて狙われるのはまっぴらごめんなので、こればかりは同意せざるを得なかった。


「まずこれがコウの判定の儀での正確な能力になりますね。風36、水34、光29、氷23となっています」


ボサツ師匠はそう言うとその数値が書かれた沢山の色で縁取りされた高級そうな紙を俺に手渡す。

紙の一番上には魔法協会認定済-判定の儀-と書かれており、賞状のような豪華な枠が紙全体に描かれている。


A4よりちょっと大きめの厚めの紙に18個の四角が書いてあり、そのうちの4つの四角の中にそれぞれ数値が書いてある。

右下には精霊の御子という文字が記してあった。


おぉ、そう言えばLV30超えてるものがあるので俺も精霊の御子という判定になるのか。

これで少しは師匠への指導の成果を示せたと言えるかな。俺はほっと胸をなでおろした。


「コウ、そこは安心するところじゃなくて喜ぶところでしょ?」

クエス師匠が不思議そうに指摘する。


「あ、いえ。師匠にあれだけ指導してもらっておいて精霊の御子になれなかったらどうしようかと不安だったので・・」


「コウらしいです」

「ほんとね」


師匠が二人ともやや呆れ気味に笑う中、俺はなんか褒められた気がして少し照れながら頭をかいていた。



「それでこちらが2度目に測定した結果です。これが世間が知るコウの判定の義の結果になります。

 結果の証明書は本人が所持しているのが普通ですので、これもコウに渡しておきます」


そう言ってボサツ師匠が渡してくれたものは先ほどと同じような紙に風28、水26、光22となっていた。

氷に至ってはLV0つまり習得していないことになっている。


随分と数値がいじられているな・・本当にいいんだろか、目立たないようにするためか絶妙に精霊の御子の基準も下回っているし。


「これを魔法協会に提出してあるから、コウは記録上は精霊の御子じゃないことになるわ。ちゃんと覚えておいてね。出ないと虚言癖のある人になっちゃうわよ」

何かクエス師匠は嬉しそうに言ってるけど・・今更どうすることも出来ないし、受け止めるしかないのだろう。


「わかりました。そういうことで理解しておきます」

「うーん、やっぱり不満?」


俺の微妙な表情から察したのか、クエス師匠が少し心配する。


「いえ、まぁ、不満というよりはなんか変な感じで」

「ごめんなさい、コウ。貴方を守るためとはいえいい気持ちはしませんよね」


ボサツ師匠の謝罪に俺は急に俺は慌てて否定する。


「いやいや、俺のためにやってくれたことですから。むしろ色々と気を遣ってもらい申し訳ないくらいです」

上手くボサツ師匠に乗せられた形になったけど、色々と対応してもらって申し訳ない気持ちがあるのは確かだ。


気を遣わせる存在ではなく早く師匠たちのために動ける魔法使いになりたい。

そう思いながらも判定の儀についてもう少し把握しておきたくて、俺は今回の結果を詳しく聞いてみた。


「えっと、その正確な測定の結果なんですが・・師匠たちから見て結構いい感じなんですかね?」


そう質問すると、師匠たちは「ええ」「もちろんです」というものの、さっきと同じくなんかいま一つおめでとう感が薄い返事が返ってくる。

風とかLV36で30を大幅に超えてるからかなりいい結果だと思うんだけど、なんか師匠たちの反応が微妙だ。


「期待したほどではなかった・・ですかね?」

少し落胆しながら師匠に尋ねると


「いやね、私は1色目が37だったんだけど2色目が31だったしコウもなかなかすごいなって思ってね」


「私は3色30超えましたが、最高が33でしたからコウは素晴らしいと思っていますよ」


判定の義の直後と同じく、慌てるように俺を褒めてくれた。

まぁ、どんな形でも好意を持っている女性に褒められるのは嬉しいものだ。思わず俺の表情も緩む。


微妙な返答だったから期待ほどではなかったのではと思ったけど、ちゃんと師匠の期待に応えられるほどの結果は出せていたみたいだ。

よし、これからの修行も頑張るぞと俺は改めて気合を入れなおした。



「これからもよろしくお願いします。師匠の側でサポートできるくらいに強くなってみせます」


「どちらかというと私たちと並び立つくらい強くなってもらわないとね」


「ええ、いつか3人で並んで戦えることを期待しています」


師匠の言葉を受け、期待に応えるべく一歩ずつ着実に目標へ進む事を師匠に告げると

師匠たちは嬉しそうにしてくれた。


やるべき道が見えていて、それに向かって進める環境に自分がいる。

自分が本当に幸せな場所にいることを、師匠たちに感謝した。


冒頭は前回師匠たちの視点で終わっていたので、今回はコウからの視点で始まっています。

次話は以前コウとクエスが食事の時に話していたあの話題です。

明日か明後日には更新予定です。


今話も読んでいただきありがとうございます。 修正作業をささっとこなせるようになりたい。

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