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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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判定の儀へ、前日

前回から数ヶ月経ちました。。


魔法使いになってから半年程経ち、いよいよ自分の限界点を知れる大事なイベント『判定の儀』が明日へと迫っていた。

大事な日の前日に当たるこの日も俺は早朝から起きて庭の外へ行き、いつもの石の上でいつもの瞑想を行う。


この頃には朝からの瞑想は完全に日課と化していた。

最早これをやらないと1日中もやもやするほどだ。


最近は俺が瞑想を始めると、ボサツ師匠やクエス師匠が時々横で同じように瞑想を行うようになっている。

今日も俺が石の上に座った時には玄関が開いて、ボサツ師匠が挨拶をしながら横にやって来る。


師匠と一緒に瞑想をやれるのはちょっと嬉しいことなんだけど、お互い魔力を展開するので近ければ当然魔力がぶつかり合う。

これが楽しいスキンシップならいいんだけど、マジックパワーシップ?となると残念ながら楽しさは微塵もない。


圧倒的な師匠の魔力の圧に耐えながら、ゴリゴリと自分の魔力を削られつつも必死に魔力範囲の球形を維持するという、苦行のような瞑想の時間が始まる。


実践では互いに魔力を展開し、触れ合う部分では魔力を削り合いながらも、濃淡を変えたり型を組んだりするので

実に実践的な練習になるのだが・・師匠と俺の実力差では、軽い拷問と言っても差し支えない。


今日は圧に耐えながらも、師匠の横で何とか師匠との魔力の接触部分以外は球形を保ちつつ、魔力をある程度動かし続ける事が出来た。


ここまで出来るようになったのはまだここ一月の事なので、調子が悪い日なんかは俺の魔力の球形がぐちゃぐちゃになってしまう。

これで師匠たちは本気じゃないっていうんだから、いったいどれだけ実力差があるんだか。


「ふぅ、今日のコウは調子が良かったみたいですね」

「調子良くても必死にやって何とかなってるくらいですから、正直まだまだです」


「そんなことはありません、大したものです。そういえば2色同時の進み具合はどうですか?」

師匠は期待に満ちた目て聞いてくるが、そんな目をされても正直困る。


「あれは・・一応毎日やってはいるんですが、正直できる気がしませんよ」


「そうですか。それでも毎日欠かさずやってみてください。いつかきっと、コウの大きな力になるはずです」

「はい、これからも毎日続けてみます」

そう答えて、ボサツ師匠と共に隠れ家に入った。



朝食も終えて、少しのんびりする。

いつも食事をする机には師匠たちが何やら明日の相談をしていた。


俺はのんびりしてていいと言われたんだけど、側で明日の自分のことを相談しているとわかるとどうも聞き耳を立ててしまい落ち着けない。

結局待つことができず、俺はクエス師匠に声をかけた。


「クエス師匠、明日の事の相談なんですよね?俺も参加してはダメですか?」


「うーん、いいけど・・わからないことを色々と説明している暇はないわよ?それでいいなら」


「コウがあらかじめ知っておいた方がいいこともあるかもしれません。少しでしたら私が説明します」


師匠の許可が下りたので、俺はいつもの席、師匠2人が正面に見える位置に座る。

師匠たちの目の前には座学でいつも使っているあの黒いプレートが置いてあり、そこにはいろいろとチェック項目が書いてあった。


えーっと、なになに・・・


●魔法協会からの見届け人の記憶変更手順 →確認済

●偽造データを使った情報提出の流れ →確認済

●判定の儀の会場の確保と警備体制 →場所はメルティアールル家城内、必要な物は設置済み

                 →警備体制は対応中。今晩中には。

●情報秘匿の状況・・・


うわぁ、普通にやることをチェックするだけだと思っていたら、なんか思った以上のやばめな項目が並んでいる。

だが師匠たちは、チェック項目を見て驚いている俺など全く気にせずに、抜けはないか、だれだれに気付かれていないかなどを話していた。


判定の儀とやらが一般的にはどういう状況でやるものなのか詳しくは知らないが

ずらっと見学客が並んだ中でその判定の儀とやらをやるのも嫌だけど、あらゆる手を使って秘匿された状態でやるのもあまりいい気分はしないなぁ。


しかし場所がメルティアールル家ということは、ボサツ師匠の一家の城でやることになるのか。

俺はアイリーシア家の所属なんだし、失礼のないようにしないとな。

そう思うと少しだけ緊張してきた。


「そういえば、判定の結果は私とさっちゃんどっちが持っておくことにする?」


「そうですね、ここはコウにマスターを持たせて私たちが正式なコピーを持つというのはどうでしょうか?」


「ああ、それはいいわね。そうしましょう」

うーん、儀式後の話なんだろうけど、重要なことなのかどうでもいいことなのかさっぱりわからない。


「そうそう、コウ」

いきなり声をかけられたのでちょっと驚いて体がビクンと反応したが、一息ついて俺はクエス師匠の方を見た。


「な、なんですか」

「そんなに驚くことないじゃない。でね、前に言っていたアイテム収納の魔道具の最新式のがやっとできたのよ」


えーと、そうだ思い出した。

確かアイテムボックス内の道具を手を入れずに取り出せる便利な奴か。そういえば作ってくれるって言ってたなぁ。


確かそれを使えば服装も簡単に入れ替えられるんだっけな。

師匠がさっと服装を着替えるなか、横で普通に脱いで着替えるあの何とも言えない状況からこれでやっと脱出できる。

この日をどれだけ待ち望んだことか。


「ありがとうございます」


俺は師匠に心から感謝した。

補足すると、あれは戦闘訓練でもとても便利なので早く欲しかったんだった。


戦闘中はアイテムボックスを起動していちいち手を突っ込んでどこにあるかな~とやっている暇はあまりない。

当たり前だがそんなことをやっていれば隙だらけだからだ。


アイテムボックスの入り口からすっと飛んできた剣や道具をつかむ方法は格好いいし隙がない。

師匠たちの動きを見ていてずっとそれをやりたいなと思っていたので、ようやくその願望が叶うのは本当に嬉しい。


制作に手間がかかると聞いて催促は出来なかったが、黙っていたけどまだかまだかと待っていた一品だ。

さすがにここ1月は明日の判定の儀のことで頭がいっぱいになっていた事もあり、いつの間にか忘れてしまっていたが。


俺が喜んでいると、ボサツ師匠が不思議そうにクエス師匠に尋ねる。

「あら、くーちゃんのところでも最新式の収納の魔道具作っていたのですね、知りませんでした」


「いや、一般向けの物は旧式の物しか作ってないわよ。ただごく少量だけど最新式のカスタム品は作っているわ。

 大量生産で新式を作るには設備も人員も足りないので、ぶっちゃけ最新式の量産はスタンリート家にお任せね」


「そうだったんですか。それなら今度私もカスタム品を作ってもらいたいです」


「ん、いいわよ。今注文1個あったかな・・まぁそれを飛ばして優先してさっちゃんのを作ってみるわ」


順番飛ばすって・・と思いつつもいつものクエス師匠だなと思ってしまう。

俺もだいぶ慣れてきたのかな、クエス師匠のどこか適当な感じに。


そう思っていると師匠が俺に銀色の楕円形の金属を見せてくれる。

表面には五芒星や色々なマークが彫り込まれていて、裏には紫色の小さな宝石のようなものが4つ埋め込んである。


「コウにはこれを、っと言いたいところだけどこの収納の魔道具は判定の儀の時は外さなきゃいけないから、明日儀式が終わった後に渡すわね」


うぅ、今すぐ使ってみたかったがこればかりは仕方がないので我慢しよう。

師匠の見せるだけのお預けに仕方なく了解する。



俺に言うことは終わったのか、再び師匠たちは2人で再び相談を始める。

しかし話の内容を聞けば聞くほど、今回の判定の儀に関わる人数を如何に減らすかがよく課題になっていた。

俺ってそんなに秘密にしなきゃいけないのかなと思いながらも、色々と興味があって1時間ほど黙って横で話を聞いていた。



昼食を済ませると俺はいつも通り外へ出る。

と言っても今日は、明日に備えてハードな練習は控えるということで、簡単なメニューにするとのことだった。


瞑想をしていると師匠たちが出てくるのを感じて瞑想をやめる。

もう200日近く毎日毎日事あるごとに瞑想をやっていたら、だいぶ感覚が鋭くなった気がする。


自分の周囲に濃い魔力を集めつつ、それを動かしながらでもより遠くの変化に対して感じることができる。

特に風の属性を使って瞑想しているときはそれが顕著だった。

そう言えばクエス師匠も索敵には風属性がとても有効って言っていたもんなぁ。


「コウー、準備は万全のようね」

「そのようですね」


師匠たちの声が聞こえて目を開ける。

しかし・・師匠が2人共来ている、ということは普通に考えてハードな修行になるだろうな。

えーっと、さっき、簡単なメニューにするって言ってなかったっけな?


「師匠、今日は軽く流すと聞いていたんですが何をするんですか?」

「そうね~、今日は軽めに玉当てでもやろうかと思って」


師匠が言う玉当ては今までに何回もやってきた練習の一種だ。

簡単に説明すると共通魔法である『〇の玉』という基本的な魔法を使って師匠の放った玉を俺の玉で相殺する練習だ。


この魔法は共通魔法と言われるだけあって、光の魔力で作れば光の玉、風の属性で作れば風の玉になる。

型は共通なので俺の場合1個型を覚えれば4つの魔法を覚えたことになる。


この練習方法にはいくつかのLVがある。


LV1は威力、属性を固定した玉の魔法を師匠が放ち、俺の師匠の間の一定範囲内で俺が相殺する。

素早く相手の魔法の速度を見極めて自分の魔法をぶつけて上手く相殺するという基礎的な練習だ。


LV2になると師匠が放つ魔法の威力が変動する。この時判定する魔道具を使って120%以内の威力で相殺しないと減点になる。

相手の魔法の速度だけでなく威力をも見極めて、極力無駄な魔力を使わずに対応するという実践的な練習だ。


LV3はLV2に加えてさらに属性が複数になる。同じ属性をぶつける場合と、優位な属性をぶつける場合で分かれるが

どちらも威力を見極めるだけでなく、属性の変更も迅速にやらないといけなくなる。

複数属性が使える俺向けの練習で、普通の者は当然こんな練習はやらないそうだ。


俺は心の中でLV2の方でお願いしますと祈りながら師匠に尋ねた。


「今日は・・LV2の玉当てですよね?」

「ざんねん!LV3の方よ。さっちゃんが判定機の設置を終えたら早速始めるわよ」


全然軽くねぇ。

まだ数回しかやっていないが、この練習のハードさを思い出して俺はため息をつきつつも、反論するのは無駄とわかっているので素直に所定の位置へ移動した。



ボサツ師匠が範囲内で的確な威力で相殺したかを確認する魔道具をセットしたので、俺は無色の魔力を展開しつつ魔核で型を作る。

これで最初はどんな属性が飛んできても即座に対応できる。もちろん最初だけだが。


魔道具から開始の合図の音が鳴り、クエス師匠がテンポよく<光の玉>を1個また1個と飛ばす。

俺はそれを見て光の属性に変え、同じように<光の玉>を作ると1個また1個放ち、ぶつけて相殺する。


順調にいっていたところへボサツ師匠が<水の玉>を2個同時に飛ばしてくる。

クエス師匠の<光の玉>を速度を上げて先にぶつけ相殺し、魔力を水属性に変化させボサツ師匠の2発も相殺した。


しばらくするとボサツ師匠が<水の玉>と<風の玉>を混ぜてテンポ良く放ってくる。

その横でクエス師匠が定期的に<光の玉>を放ってくる。


これまで数回LV3の練習をやった時もそうだったが、ここまでくると今の俺では完全な対応はできない。

如何に減点を回避するかを焦点にして対応する。


こんな状況で一番簡単な方法は光に対しても水に対しても水で相殺することだ。ただこれは減点になる。


この訓練はスコアがあって、範囲内に誤差5%以内で相殺したら+2点、20%以内なら+1点、それ以上誤差が大きいと-1点だ。

さらに範囲外は一律-2点、属性が違っても-2点、間に合わずに回避したりシールドや周辺魔力で相殺したら-10点、直接くらえば-50点だ。


このルールでとりあえず終了までにプラスであることを師匠たちは求めている。

ただ序盤にスコアを貯めていても後半のラッシュで一気に削られて、いつもギリギリマイナスににもっていかれるんだよなぁ。


そして今日も同じ展開になった。

結局最後は押し込まれる。最後の集中攻撃をうまくさばききれずに、威力を読み違えて相殺しきれなかった玉をシールドで2発ガードしてしまった。


「今日は前回より良かったけど、最後の詰めが甘かったわね」


「追い詰められたときに冷静に判断するのがとても難しくて。それに目の前の攻撃に集中してると後から来る玉におろそかになってしまうんですよ」


「まだまだ経験を積まないといけませんね、経験がそういう問題をきっと解決してくれます」

「そういうものでしょうか」


「ええ、そういうものです。実戦でうまく立ち回れるために、練習を重ねるのです」


正直ボサツ師匠の言っていることに反論するつもりはない。まったくもってその通りだと思う。

厳しくも優しく、的確な指導、本当に師匠達にはどれだけ感謝しても感謝しきれない。


「実戦で詰めが甘かったり、おろそかな防御をすれば傷つくことになるわ。それがコウじゃなくても、コウの仲間が、ね

 コウにとってはそれが一番辛いでしょ、そうならないためにも頑張りましょう」

「はい、そうですね」


クエス師匠は、また的確な指摘をしてくる。

俺の心をよく読んでいるからだろうか、俺の心情に刺さるような指摘だ。


自分がミスすれば、自分だけじゃない。自分が守るべき対象までも傷つけることになる。

実戦とはそういうところなんだろう・・今のうちにミスを恐れず冷静に出来る範囲を見極めておかないとな。

俺は心の中でそう思った。



「じゃ、今日は軽めにと言っていたことだし、魔法の練習はこれくらいにしておきましょう」


「そうですね。コウも今日はゆっくりしておきましょう」


「ありがとうございました」


俺がそう返答すると師匠たちは明日がよほど楽しみなのだろうか、ニコニコしながら隠れ家へ入っていった。

俺はまだここへきて半年ほどだし周りに似た状況の人もいないので、判定の儀の重大さがいまいち受け止められていない。


ただ師匠が楽しみのようなので、喜ぶようないい結果が出ればいいなと思いつつなぜか自分でふふっと笑った。

庭に1人残された俺の周りを風がすーっと吹き抜ける。明日判定の儀へ向かう俺を優しく励ますかのように。


今話も読んでいただき、いつもありがとうございます。

ブクマがまた増えていたのも本当にありがたい限りです。

3章も半分はとうに過ぎました。あと2,3イベント入れて終わる予定です。

これからもよろしくお願いします。

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