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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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そして反省会へ

ここまでのあらすじ


事前に目立たないよう言われていたのに、初めてのお出かけでやらかした主人公のコウ。

今ここにコウの過ちを正すための反省会が開かれる。

(なんか仰々しいな・・)


師匠達が話し合いをしている頃、俺は大広間で瞑想しながら待機していていたが、あまりに後悔の念が強かったのか最早瞑想にも集中できず・・それでもただひたすら瞑想を続けていた。

正直言って、心を落ち着かせるにはもう瞑想しか思いつかなかったのだ。


ボサツ師匠が帰ってからすぐにクエス師匠を呼びに行ったようだったので数分で戻ってくると思っていたが、もう20分も経つのに戻ってこない。


最初はすぐに二人とも戻ってきてこまごまと注意を受けるのだろうなと、少し軽い注意を想像していたのだが

5分、10分と経っても物音一つ立たず、待てども待てども師匠たちはやってこない。


長い間放置され次第に緊張してきて、もはや落ち着くために瞑想しているのか、瞑想するために落ち着こうとしているのかよくわからない状況だった。

やはり貴族が相手だったので深刻度合いが高く、話し合いが長くなっているのだろう。


もはや俺の思考は『次の外出は当分先になりそう』から『貴族相手だしまさか命で償えなんて話にはなっていないよな』にまで変化していた。



そんな苦悶の表情を浮かべながら、乱れに乱れきった瞑想を行っていると、ようやく扉が開き師匠2人がこの大部屋に入ってきた。

もはや命の危機まで感じ始めていた俺は、師匠たちが入って来るや否や瞑想を解き、師匠たちから少し離れた位置で正座をする。

そしてそのまま額を床につけ土下座をした。


ここへきてまだ一月ちょっと、お金も何も持っていない俺に詫びる術は誠意と奉仕くらいしかない。

せめて命ばかりはという思いを込めて、師匠たちが何か言いだす前に謝罪した。


「今回の身勝手な行動、本当に申し訳ありませんでした。この身にできることならなんでも・・」

と、必死に謝罪の弁を述べている俺の行動を師匠たちは平然と遮る。


「はいはい、いいから落ち着てよね、コウ」

「まずは落ち着いて、楽な姿勢で座ってくださいね」


そう言われて俺はゆっくりと頭を上げると、呆然としたままとにかく正座を崩した。


師匠たちが俺の近くまで来て床に座るので、俺はいつも食事に使う机の方を勧めようとしたが

それを察したボサツ師匠の「いいんですよ」の一言に、俺はそれ以上動くこともできず、ばつが悪そうに視線をそらしたまま軽く頭を下げた。



「さーて、コウ。まぁ、結論から言うとね、今回の貴族とトラブルを起こした件だけど・・1度目はちゃんと我慢できていたし、2度目は私が軽く背中を押したから動いたとも言えるし大きな問題とは思っていないわ。

 戦闘でも必死に相手の貴族に呼びかけてコウからは手を出さなかったし。まぁ、及第点よ」


「そうですね、あの場合でしたら2,3撃受けた時点でコウが反撃しても一般的には問題にはなりません。既に魔法を使った戦闘になっていますし」


なんか思った以上に問題はなかったらしい。

俺は師匠たちの言葉を聞くと、がちがちに張りつめていた気持ちから急に力が抜けて、口を開けて力が抜けたまま前に倒れそうになる。


そんなどうしようもない俺をクエス師匠は取り出した棒で肩を押さえて支えてくれた。

軽い痛みで我に返った俺は師匠に感謝をしつつ、改めて表情を引き締め背筋を伸ばし師匠達と向き合う。


「私たちはコウの今回の行動を問題視はしていないわ」

「ええ、そうです」


「コウの考え方も、こちらでは超融和派になってしまうけど存在しないほどの発想ではないから大きな問題とまでは言えないわね」

「むしろ問題は別のところにあります」


師匠たちの言葉をうけて、厳罰はないとわかり俺は心の中で思わずガッツポーズをした。

特に他の貴族から苦情が来て師匠にも迷惑が及ぶのではと思っていた、貴族に対してのあの行為がセーフだと言われたのが大きい。


以前ボサツ師匠から指摘されていた俺の考え方もそれほど異常ではないというのも安心材料だ。

ただ少し行きすぎなようだからもう少し改める必要がありそうだが。

難しい話だが世界が違う以上、俺がこの世界に来ると決断した以上、考え方をこの世界に合わせていくのは俺自身でどうにかしていくしかない。


では別の問題とは何だろうか?貴族に対しての行動以外に問題なんてあったっけ?と俺は疑問に思う。

そんな自覚のない俺の態度を深刻だと思ったのか、さっきより厳しい表情で師匠は指摘し始める。


「コウ、あなたが突撃した時、そして相手の1撃を受けた時に相手との実力の差をちゃんと確認したの?」

俺はクエス師匠に言われてハッとなる。


常日頃戦闘訓練で言われていた事は、まずは対峙しようと思った相手と自分の実力差を早急に図ること、だった。

もし戦闘に入って実力的に相手が明らかに上だとわかれば、別の形で損を出してでも自分の命を優先し退くこと。


理想を言えば動き出す前に少しでも相手との実力差を見極め、相手が上ならば少々の理不尽があっても戦いを避けること。

これはクエス師匠にもボサツ師匠にも口酸っぱく言われていた。


これが魔法使いとして長生きする最も重要な要素だと言われていたのを今になって思いだした。

それなのに俺は実力差を見極めることもせず突撃し、防御に徹していたとはいえ対峙し続けた。


俺は心のどこかでいざとなれば師匠に頼れるのではないかと思っていたのかもしれない。

言われる通り俺の行動は最初から甘かった。これは師匠たちが怒るのも無理はない。


「すみません、あの一方的に殴られている人を助けようと実力差も鑑みず突っ込んでしまいました。本当にすみません」


「まぁ、結果的にはコウに重大な怪我はなかったんだし、いい反省材料になったと思えば結果オーライかもね」


俺が目を閉じうつむいていると、師匠はやさしい言葉で励ましてくれる。

甘い裁定だとは思うけど師匠の言葉に俺は感謝する。


と同時に今回の件を反省材料として無駄にするなと自分に強く言い聞かせる。

師匠がいない状況で今日のような判断ミスをすれば、死に繋がることもあるということだ。


「それではもう一つ、今日の問題点を話します」

ボサツ師匠がそう切り出してくる。俺はまだ問題点があったのかと軽く落ち込みつつも真剣に受け止めるべく師匠の顔を見つめる。


「コウには何か見当はついていますか?くーちゃんがコウの後ろで待機していたことがヒントです」


そこまでのヒントを与えられていたら、さすがの俺でも気づく。

俺は自信をもって答えた。


「師匠がいる場で付き人である俺が勝手に行動したことです。特に師匠に責任がいくことをもっと考える・・」

「そこが違います!」


ボサツ師匠が急に強い口調で突っ込んできたので俺は話途中で口を開けたままどうすればいいかわからなくなった。

俺が口を開けて固まっているのを見てこりゃ駄目だと思ったのだろう、クエス師匠がやんわりと教えてくれる。


「まぁ普通は下の者が上の者に迷惑をかけないように心がけるのは当り前よ。でも今回はコウが私を使えばもっと上手に場を治められたはずよ」


「そ、それはそうですけど・・それはあまりに不敬というか・・俺は弟子で付き人の立場ですから」


「だからと言って、より事態を悪化させれば結局私たちを使わざるを得ないでしょ?今回の結果だってそうだったじゃない」

「・・・はい、そうです」


師匠のいうことはまさしくその通りだ。最早ぐうの音も出ない。

たとえあの場で俺がうまく解決できたとしても、師匠が出た方がより早くより穏便に解決できたのは言うまでない。


師匠の言葉に自分がいかに無力で師匠がいかに大きな存在なのかを思い知らされる。

そして自分がいかに恵まれている状況にいるのかも。


「まぁまぁ、くーちゃんは厳しく言っていますが用は遠慮なく私たちを使ってほしいということですよ」


ここまでいろいろとお世話になっているうえに、更に師匠を使うとかさすがにそれは・・と思ってしまう。

だが、師匠はその思いが違うと教えてくれる。


「そうよ、コウ。私たちは師弟関係でここで一緒に暮らしている家族みたいなものでしょ?正直に言うとそうやって遠慮される方が傷つくわ」


ここまで言ってもらえるなんて俺はずいぶん幸せ者だ。

と同時にここまで言われたのだから、俺も今日の失敗は反省しつつ、これから必要な場合は師匠にある程度遠慮せずにお願いしようと思った。


「問題になる前に遠慮なく師匠に相談、いいわね?」

「はい、その時はよろしくお願いします」

俺は反省と次は失敗しないぞという決意を込めてはっきりと答えた。


「うーん、でもまだ固いですね。とにかく何事も一人で解決しようと思っていてはダメです。私たちにお願いできることもコウの力の範囲だと認識してください。

 コウが単独の力で物事を解決する必要性はないのです。そんなことを繰り返しては信頼できる仲間も出来ません。いくら強くなっても1人で出来ることなんてたかが知れています」

そう言ってボサツ師匠は最後に笑って見せた。


師匠たちの温かさが心にじんわりとしみ込んでくる。

師匠たちのような人がいたら・・俺は日本で親父のことで悩み続けずに済んだかもしれない。


いや、違うな。俺が今回みたいに一人で何とかしようと無駄にあがいたから、結局苦しんで苦しんで進むべき道にも迷ってこうなってしまったのだろう。

誰かを頼れば・・よかったんだろうな。


自然と涙が出てきてしまう。

それを見たからか師匠たちが俺を抱きしめてくれる。


俺は今自分がいかに恵まれているのかを実感した。そしてだからこそ、俺はもっと力のある存在になりたいと思った。

何かあった時に師匠が俺を頼れるくらいに。

今は頼りっぱなしだけど、いつかは俺の力が師匠の力となれるように。



その後は夕食になり、師匠たちと3人で楽しく食卓を囲んだ。

まだ、少しだけ俺に気を遣うそぶりはあったものの、師匠たちも楽しそうに話しながら食事を済ませていた。


あまり心配しすぎない、この距離感が今は心地よい。

本当に温かい環境にいるんだなとつくづく思わされる。


クエス師匠もボサツ師匠も今まで尊敬してきたけど、もはや尊敬を通り越して心酔してしまいそうだ。

弟子と師匠の関係って本当にいいものなんだな、そう思った1日だった。


夕食を終えた後、俺の戦いの(と言っても防戦一方だったが)映像を見せられて、簡単な指導が行われた。

大体の対応は褒められたが、一部もっといい防御方法があったとか指摘される。


俺は素直にそれを受け止め、この大部屋で「こんな感じですか?」と魔法を展開したりした。

しかし、まぁ、慣れてきた気がするけど、師匠達はこういう映像をいつの間に撮っていたのだろうか。


考えてみればさっきの反省会でもボサツ師匠はずいぶん詳しく事情を知っていたよな。

この映像を見ていたからよく知っていたんだろうし、大部屋に来るのにあれだけの時間がかかったのだろう。


色々と気にはなったが、そこは知らなくていいかと思って聞くのはやめた。

そういう知識よりも、今はもっと力が欲しい、そう思うようになったからだ。

それに聞かないことが師匠への信頼の証になるんじゃないかなとも思ったし。



そう思っているとクエス師匠が突然立ち上がる。

「あっ、忘れていたわ。コウ、あれよあれ。なんだっけ・・そうそうライスよ」


師匠に言われて俺も思い出す。昼食で話していた件だ。

さすがに1日でこれだけのことがあると、覚えていなくて普通だと思うけど師匠はよく思い出せたよなぁ。


「そうでした。えっとちょっと待ってください、今バッグから取り出しますので」

そう言うと俺は日本から来る時に持っていたバッグから黒いプラスチック製の入れ物を取り出し、その中あった袋を開けて籾を少量クエス師匠に渡した。


クエス師匠が嬉しそうにボサツ師匠にそれを見せている。


「これがコウがいた世界にあったライスという食べ物の元になるらしいの。さっちゃん見たことある?」


「うーん、私は食料関係にはあまり関わっていませんので詳しい者に聞いてみないとわかりません」


「そっか。それでさ、もしなかったらこれをコウの独占品にしようと思っているのよ」


「そうですか!それはいい考えだと思います。早速明日にでも家に持ち帰り担当者に詳しく聞いてみます。コウ、少量貰ってもいいですか?」


「もちろんです。育て方も詳しくメモしていますので必要になれば聞いてください」


その後クエス師匠が俺のイメージを覗いて知り得た映像を黒いパネルに表示して、ボサツ師匠に籾からライスになるまでを説明していた。

まさか俺の頭の中で想像していたものがああやってパネルに表示できるとは思わなかったので、その魔法を使った技術に俺は感動した。


が、すぐさま俺のよこしまなイメージもああやってボサツ師匠に伝える事ができると気づいて、俺はクエス師匠の恐ろしさを再認識してしまった。

ハーレム話もああやって伝えられているとしたら、正直自殺したくなるほどの黒歴史化確定だ。


その後はクエス師匠が米の話から日本の料理のおいしさを力説したりして長かった1日が終わった。

今日は俺の未来にとって、とても大事な1日になった気がした。



その後も楽しくも厳しい修行の日々が過ぎていき、街への買い出しも一月に1回はクエス師匠に同行した。


2回目からは光のローブを羽織ることなく店へと同行したこともあり、3回目に街へ行った頃には俺も次第に顔を覚えてもらい、挨拶や他愛のない話をするようになった。

色々と聞かれることはあったが、もちろん秘密にすべき事は上手く誤魔化すことで何一つ口に出していない。


師匠が横にいて俺の話をチェックしているところからも、たぶんこれはテストも兼ねていると思われる。

クエス師匠、大丈夫ですよ。俺はそこまで抜けていませんからね。


ここでお出かけ編は終了です。9話ほど使ったのかな、そこそこ長めのお話になりました。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

これからも応援という形で読んでいただければ幸いです。


時間がありましたら、ブクマや評価、その他いろいろと頂けると嬉しいです。

今週はあと2話くらいは更新頑張っていきたいです。え、もっと?ぐぬぬ。

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