初めての契約~風・水~
やっと精霊との契約、そして魔法使いになろう、です。
明日までは毎日更新します。
ここまでのあらすじ
魔法使いになるため異世界へきて、2人の師匠に魔法を教わることになった。
あらかじめ属性を決める必要があるため、師匠たちと相談して決めた。
翌朝起きるとすぐボサツ師匠が笑顔で起き抜けの俺に声をかける。
「精霊との契約を始めます、いよいよですね」
ボサツ師匠の笑顔を見て俺は異世界に来たことを思い出した。
そうだった。今日俺はついに魔法使いになれるんだ。
新しい才能のある自分になれる!と思いつつも同じくらい不安な気持ちが沸き上がる。
もう後戻りはできないんだ、ここに来た以上やるしかないんだ、そんな気持ちが交錯する。
そういえば食事…と思ったがどうやら朝食は無しらしい。契約の儀式を始める用意にかなりかかったらしく食事の準備に手が回らなかったそうだ。
家では親父のために簡単な料理を作っていたので、俺が作りましょうかと提案したが、クエス師匠に「こっちの食材の知識ないのに?」と言われてすごすごと引き下がった。
どんな味がするのかわからない物を適当に混ぜて…って、それじゃ闇鍋と同じだもんな。
そうしている間に準備がすべて完了したらしく2人の師匠が戻ってきた。
そして始める前に儀式中の精霊とのやり取りについて教わった。
簡単なやり取りなので覚えることはそんなに難しくなかったが、それ以外の言葉を発するのはあまりよくないらしい。
宙に浮く水の塊の中放り込まれてすぐに出されることで体を綺麗にし、身なりを軽く整えてボサツ師匠の後に続き契約のための部屋に入る。
小さな部屋に祭壇が用意されいた。なかなか神秘的な様相で、初めて見る光景に俺は見とれつつも徐々に緊張感が高まった。
部屋全体はさほど広くはない。全体的にどこからともなく光が出ており、ほわっとした明るさで儀式的な雰囲気を醸し出している。
正面の左右に薄緑色の細い柱が頭の高さまで伸びていて、薄緑色に光る石がそのてっぺんからわずかに浮かび優しく輝いている。
柱状の燭台みたいだ。
地面には五芒星の同じく薄緑色に優しく輝く魔法陣。直径1m半ちょいあると思う。
その外周に直径3mほどの円がありその外周も同じ色に光っている。
俺は長袖の白のシャツと水色のズボンという格好で魔方陣の中に立ち、正面に立っているボサツ師匠を見つめる。
ボサツ師匠はこの部屋と同じく薄緑色に統一された光る布をまとっている。
ちなみに少し透けているように見えるが、期待するようなものは一切見えない。
って、そんなやましいことを考えている場合ではない、集中しなければ。そう思って俺は気を引き締める。
ボサツ師匠が目を閉じ集中すると、辺り一面にどこからともなく薄緑色に光る小さな光体がふわふわと浮いて
ゆっくりと俺の周りを動き始める。近づいてくることはないみたいだ。
光のアートみたいだと思っているとボサツ師匠が目を閉じたまま声をかけてきた。
「コウ、その魔法陣の中心に立ち目を閉じなさい。今からあなたを風の精霊と契約する場へと導きます」
どうなるのか詳しくは聞いていないが、文言を思い出しつつ魔方陣の中心まで移動して指示に従い目を閉じる。
何か温かみのようなものを感じるがとにかくただ目を閉じる。
目を閉じているはずなのに周りが薄緑色に染まり明るく感じる。
そして体から力が抜ける感覚を感じた。
ほんの一瞬の出来事だったのか、長い間気絶していたのかよくわからない感覚のまま
いつのまにか薄緑色に光るプレートのようなものの上に俺は立っていた。
1辺50㎝くらいのプレートは空中に浮いているように見え
目をどじる前まで周囲にあった木の床も他の飾りつけみたいなものも見当たらない。
そして目の前には薄緑色に強く輝く5つの光源があった。
「汝、われら風の力を身に着けることを希望する者か?」
5つのどれから発せられてるのかわからないが、頭に直接声が聞こえる。
俺は事前に教わっていた文言を口に出す。
「はい、コウ・カザミは風の恩恵を希望します」
穏やかな風が吹き全身が優しい風で包まれいる気がする。心が落ち着いていくのが自分でもわかる。
「そなたの選択がそなたにも我々にも価値のあらんことを」
あれ?事前に教えてもらっていた台詞とは違う言葉を聞き俺は戸惑った。
儀式的なものだから流れは変わらないと聞いていたのに。
そしてなんと返事すればいいのかわからず、詰まりながら答えてしまった。
「あ、ありがとう…ございます」
正直、やってしまったと思った。
まぁ、多少違っても大丈夫!とクエス師匠には軽く言われていたが、儀式となるとやっぱり駄目なんじゃないかと思う。
お願いします、お願いします。特に変なことは起きませんように。
俺の祈りが通じたのか、いや多分通じていないとは思うけどさっきの返答はスルーされたみたいだ。
教えられていた流れに無事戻ったみたいだ。
「我々は汝の希望に沿って風の力を与えよう、風のごとく自由にその力を振るうといい」
「感謝いたします」
そう言った途端、目の前にあった5つの光が俺の体の中に入っていく。
事前に言われていたので抵抗せずに受け入れようとしたが、それでも相当な恐怖を感じた。
思わず全身に力が入るが……何の抵抗力も発揮せず5つとも光は完全に体の中に入っていった。
少しだけ体の中に温かみを感じた気がした。
5つとも入り終えたほっとした瞬間、視界が真っ暗になり目を閉じている自分が認識できた。
「もう目を開けていいですよ」
ボサツ師匠の声がして目を開ける。目を閉じる前と変わらない薄緑色に光源が統一された小部屋だ。
ただ周囲にあったたくさんの蛍の光みたいな小さな薄緑色の光体はすべてなくなっている。
「終わったんでしょうか?」
「ええ、お疲れ様です。と普通は言うのですけどコウはあと3回はこれを繰り返さないといけません」
ああ、そうでした。今日は1日で4色連続して契約するという話でしたね。
「ところで質問ですが、契約した時に光る物体みたいなものはいくつ見えました?」
ボサツ師匠が聞いてきたので一瞬思い浮かべて答える。
「5つでした」
「そうですか…後で詳しく説明します。今は次の契約の儀式を急ぎますね」
そういって師匠に連れられてこの部屋を出た。
部屋から出ると通路にクエス師匠がいた。
「終わった?これで素体から魔力体になったね。ひとまず肉体の年齢固定化おめでと、と言っても後2年程体は成長するんだろうけど」
「えっ、も、もうそうなってるんですか?」
急にそんなことを言われても全然実感はない。ちょっと前の自分を思い出しても今の体と何ら違和感を感じないのだから。
「もう魔力になじみ魔力を生み出せる体に変わってるはずよ、精霊と契約したんだし。じゃ次は水の精霊ね、行ってらっしゃい」
「さぁ、次の部屋に移動します」
時間がないんだからと言わんばかりに急かす様にボサツ師匠が移動を指示する。
どうやら色々と確認したり考える時間は与えられないようだ。
水の契約のための部屋に移動する。
先に部屋に入ったボサツ師匠はいつの間にか全身水色の薄い布をまとっている。
魔法で着替えもできるのだろうか?
もう一つ前回と大きく違う点がある。ボサツ師匠の周囲にオーラみたいなものを感じる。
いや見えて感じるが正しいかな。
「えっと、師匠の周りに何かあるように見えるんですが、それが魔力、なんですか?」
「見えましたか?ええ、これが魔力です。では水の精霊との契約を始めますね」
左手のひらを上に向けると手のひらの上に漂うオーラのようなものが見えた。あれが魔力で間違いないらしい。
そう思っているとボサツ師匠は優しく微笑みんだ。その笑顔に誘われるかのように俺は部屋に入った。
風の契約の部屋と色違いともいえる内装で、前回と同じく魔方陣の中心に立つ。
そういえば燭台っぽいものが無くなり、水色に光る石が床から数センチのところに浮いていて水の波紋のような光を出し続けている。
完全な色違いの部屋というわけじゃないのか。
CGみたいな光景にも見えるが、部屋全体に魔力を感じるしCGじゃないことは確かだろう。
よく見ると、ボサツ師匠も先ほどのふわっとした薄緑の服と違い、足元に布地を大きく広げた水たまりの様な布を纏っている服だった。
師匠が目を閉じると先ほどの風の契約の時と違い、小さな水色の光体が師匠の足元から波紋の様に広がっていく。
「コウ、目を閉じなさい」
指示通り目を閉じると目の前にいるボサツ師匠の魔力が大きく広がり自分を包み込むのを感じる。
不思議と恐怖感はなかった。むしろ安心できるような雰囲気に包まれた気がした。
途端に回りの光景が水中に変わった。風の時のような力が抜ける感覚もなくいきなりだ。
目の前には4つの水色の光があった。
「汝、われら水の力を身に着けることを希望する者か?」
「はい、私コウ・カザミは水の恩恵を希望します」
「ならば我々は汝の希望に沿って水の力を与えよう、その力を上手く使うがいい」
「感謝いたします」そして4つの水色の光が俺の体の中に入っていく。
前回で少し慣れたのでそこまでの緊張はない、はずだったのだがここはどう見ても水中だ。
とりあえず息はできているみたいだが突然水中に身を置かされて、正直軽くパニックになっていた。
最後は光を受け入れるうんぬんよりも、終始水の中で俺はこのまま大丈夫なの?いつ戻れるの?という思考でいっぱいいっぱいだった。
そう言えば、風の時は事前に聞いていない発言があったが、今回は事前に聞いていた通りの流れだった。
風の時のあれは何だったのだろうか?後で師匠らに聞いてみなければ。
しばらくすると地面に立った感覚に戻る。
先ほどまでは水の中にいたはずなのに、服も髪も全く濡れている感じはない。
俺は戻ってきたのかなと思い、師匠の指示もなく目を開けた。
「お、やっぱり戻ってきてる」
「コウ、お疲れ様でした。さて光の精霊と契約する前にお昼にしましょうか」
ボサツ師匠は目を開けた俺に対してそういいながら部屋を出ようとするが
俺は驚いてボサツ師匠に声をかけた。
「えっ?もうお昼ご飯ですか?まだ30分くらいしかたっていないと思うんですが」
「向こうでは一瞬の出来事に感じたかもしれませんが、もう4時間は経っています。私も少し疲れたので食事に付き合って貰えるとうれしいです」
ぜ、是非!という気分で師匠の後について部屋を出た。
ただ思い返してもそんなに時間がたったという感覚はない。不思議な体験だった。
他の作品よりはややスローペースかなとも思いますが根気よく書いていきます。
ブックマークに入れてる方、とりあえず読んでくれた方。
皆様に感謝です!ありがとうございます。
修正履歴
19/01/30 改行追加
19/06/30 表現が変だった部分を修正・誤字修正
20/07/14 ボサツの口調変更、他微修正