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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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回復薬のお買い物(付き添い)

ここまでのあらすじ


買い物に行くことになったコウは、転移門で目的の街まで飛んだ。


飛んだ先は壁も天井も石で囲まれた明るい部屋だった。

石と言っても中世のような石をただ詰んだものではなく、表面はきれいに加工されておりとても近代的なものだ。


その石の壁は光っており、そのおかげで部屋も明るい。

もちろんまぶしすぎることはなく、周囲がはっきりと見える程度の明るさだ。


床は周囲の壁とはちょっと違い、キラキラ光るほど磨かれた石のタイルが敷き詰められている。

ただあくまでも鏡面ではないので下を見ても自分の顔が見えるわけではない。

もちろんここは転移門内なので、この石の部屋の四隅にはいつも見る銀色の柱が4本地面から突き出している。


その綺麗な石の部屋から出ると、受付といった感じの場所に出る。

ここはさらに広い石の壁で囲まれた部屋だった。


正面には兵士がいてその先には街並みが見える。

両側に立っている2名ずつの兵士はこちらを監視していて、その兵士の周囲には装置のようなものが置いてある。


この部屋は壁沿いに簡単な魔法障壁のようなものが張ってあるのを感じる。

そういや先ほどとんだ場所にも同じように障壁があったし、転移門には必ずこのような何らかの防御処置がされているようだ。


確かに考えようによっては転移門は相当危険なものになりうる。

一応飛ぶ前に情報を送っているとはいえ、いきなり危険な者たちがやってきても対処できるような備えは必要なのだろう。



先ほど飛ぶ前に兵士が向こう側に連絡するとか言っていたから、色々見ているうちにささっと通れるものだと考えていたが

やっぱり確認が必要なのだろうか、兵士たちが俺に近づき話しかけてきた。


「すみませんが、そちらの方はフードを外してください」


兵士が丁寧に俺にフードを脱ぐように指示してくる。

師匠がいるからなんだろうか、やけに丁寧な対応だった。


とりあえず脱いで確認させればいいのかなと思ってクエス師匠の方を向くと、師匠は待ってと言わんばかりに左手を軽く上げて俺を制止し、少し前に出て兵士に話しかける。


「悪いわね、これは私の付き添いなんだけど転移門を使ったの初めてなのよ」

「そ、そうでしたか」


クエス師匠が兵士の指示を止めたので、俺はどうすればいいかわからずただ立っていると

師匠は俺の方を向いて指示してきた。


「さぁ、コウはフードを取って先ほど渡した身分証を兵士に渡しなさい。そしてこのパネルに触れて魔力を少し出すのよ。それで確認が終わるわ」

「は、はい」


俺はすぐに師匠の指示通りフードを取って顔を見せると兵士に身分証を渡す。

さっきはとっさのことで気づかなかったが、この身分証ちゃんと俺の顔写真が貼ってある。

一体いつ撮影したんだよ、これ。


身分証を渡している間に、クエス師匠は白いパネルに手を触れほんの少しふれたての先から魔力を放出していた。


「ご対応ありがとうございます。問題なく確認できました、クエス様」

「いいのよ、仕事でしょ」


なるほど、あの会話から察するにあれで人物確認をしているらしい。

原理はよくわからないけど、魔力で人物が判別できる仕掛けがあるようだ。


続いて俺もそのパネルに手を触れ、魔力を放出する。

先ほど預けた身分証はパネルの横にあるカードの差込口のある白い箱に差し込まれていた。

これはカードリーダーみたいなものなのだろうか?


改めて自分がこの世界のことを何も知らないなと思い知らされる。

と、同時にこういうことを学ばせるためにも俺は連れてこられたんだろうな、と師匠の意図を理解した。


新規でカードの情報との確認に時間が必要なのかわからないが、師匠の時とは違って20秒ほどかかり確認が完了した。

確認がすぐに終わらないものだから、俺は内心かなりびくびくしていた。


師匠もそういうところを事前に教えてくれればこんな挙動不審にならずに済むのに、と愚痴を言いたくなったけどさすがにここでは言えない。

そもそも今の俺は、クエス師匠の弟子ではなくお付きという設定だ。


この階級社会にまだ馴染んでいない俺でも、お付きがそんなこと言ってはいけないことくらいは理解できている。


「確認終わりました。問題ありません。コウ様、ギラフェット家の首都メルベックリヌへようこそ」

「あ、ありがとうございます」


俺は返された身分証を受け取り、戸惑いつつも軽く感謝して、すぐにフードをかぶり先に外へ出ている師匠の下へ駆け寄る。


やり取りに緊張していたこともあり、早く師匠の側で落ち着きたいと思った俺は小走りになるが

師匠から念話で『落ち着きなさい、逃げたりしないわよ』と話しかけられ、走るのを止め歩いて先に外に出た師匠の下へと向かった。


しかしまだまだ十数年しか生きていないひよっこのような身分で、様付で呼ばれるとは思わなかった。

正直嬉しいというよりも、なぜか申し訳ないという気持ちの方が強い。


なんせ俺はまだ魔法使いになって1月ちょっとだ。

個人的には厳しい環境で練習しているとはいえ、あの兵士たちより苦労しているとはとても言えない。


本当に生まれながらの環境とか立場って大きいんだな、と改めて思い知らされた。

俺の場合生まれながらの環境ではなく、異世界に転移してからの環境、だけど。


俺がクエス師匠の傍までくると、師匠は俺の左耳付近に手をあてて俺を褒めてくれた。


「さっきのは良かったわよ、ちゃんと私の指示を仰いだでしょ?」

「は、はい。今の俺は師匠の付き人ですから」


その答えに師匠はふふっと嬉しそうに笑って俺から手を離した。


「行動に関するものもちゃんと覚えているのは偉いと思うわよ」

「師匠の教えが素晴らしいからです」


「私の?ボサツの?」


「お二人のですよ。こんなところで意地悪するの勘弁してくださいよ」


「そうね、ごめん。それじゃ買い物行くわよ」


そう言って師匠は歩き出し、俺は距離を保って後ろをついて行った。

実戦練習の時はかなり厳しいイメージしかないクエス師匠だが、今は一緒にいてすごく楽しい。

なんか俺、ずっと付き人やりたくなってきた。



そんなことを考えつつも師匠の後ろについて街を歩いていく。

道は一応歩道と車道?に別れてはいるものの、柵みたいなものは無い。


そもそも車道らしきところには今は何も通っていない。

異世界の定番と言えば馬車だとは思うけど、この世界でも馬車が通るのだろうか。


そういえば転移門で飛んできた場所もそうだったが、ここまでずっとこの街は地面に石のタイルが敷かれている。

どの石のタイルも目立つような傷がついているものは少なく綺麗な状態で敷き詰められており、まるで作り立ての街に見える。


ここまでの光景は日本でもなかなかお目にかかれないと思う。

少なくとも俺のいた田舎では絶対に見られない風景だ。


今歩いているのはお店が並んでいる地区みたいだ。

どの建物も2階か3階建ての建物が左右に並んでおり、それぞれの店にいろいろなものが飾ってあり、この地区の店の豊富さを感じる。


全ての建物は白や薄い黄色の石でできているように見える。

薄いとはいえ黄色が多いのは、やはりここも光の連合だからなのだろう。


色のバリエーションが単調になりがちなのでややつまらなく感じるが、魔法は宗教的な側面もあると学んだので

こういうところはあまり突っ込まない方が身のためなのだろうなぁ。


店構えは日本で見たものと大きくは変わらない。

店の正面は大きいガラスが配置されているものが多く、店の中が見えるようになっている。


店頭に商品を飾っている店も多く、全体的に華やかな印象だ。

売っているものはよくわからないものが多いが、多分便利な魔道具とかなんだろう。



注意されていたにもかかわらず街中をきょろきょろと見回しながら師匠の後ろをついて歩いていると、転移門から数分歩いたところで師匠がある店の前で立ち止まった。

俺も少し後ろで師匠と同じように立ち止まり店の中を見てみる。


店頭には小さな瓶から500mlは入りそうなサイズの瓶、下の方には5Lは液体が入りそうな大きな容器などが置いてある。

この小さな瓶には見覚えがあった。


俺がほぼ毎日1~2本飲んでいる魔力回復の促進薬だ。

透明なものと黄色のものが並べて置いてあるが黄色の方は光属性専用のものだろうか?


師匠が店の中に入ったので俺もそのまま店に入る。

店は結構奥行きがありさらにいろいろな瓶が少しスペースに余裕のある状態で置いてある。

入ってきた入口の近くには人が立っていて支払い場所と思しき所があった。


店の中には数名人がいて色々な品を物色していたり、店員と話している人もいる。

さっき通ってきたときにのぞき込んでいた店よりも客が多いので、結構な人気店なのだろうか?


「いらっしゃいませ、何かお探し・・あら、クエス様いらっしゃいませ」


支払い場所のところにいる店員に師匠が声をかけられる。

直接名前を言われているのを見ると、師匠はここの常連なんだろうか?

俺は話しかけられても返答に困るので、やや師匠の後ろに隠れるようにして会話に耳を傾けた。


「えっと、また買いに来たんだけど在庫は十分に揃っている?」

「ええと、前回と同じものでしょうか?」

「ええ、今回は魔力回復GM2のみを買いたいんだけど」


俺は黙ったまま師匠の後ろに待機して聞き耳を立てていたが、師匠の言葉に思わず驚く。

GM・・英単語が聞こえた。間違いなく聞こえた。


この言語自動変換は思ったよりも柔軟にやってくれるみたいだ。とはいえまさか英単語とは・・。

元の言葉はどう話しているのか少し気になったが、どうせ聞いても何もわからなさそうなのでこれ以上は考えないことにする。


俺が驚いている間も師匠と店員は話を続けている。


「今回はどれほど必要なのでしょうか?」

「そうね、60個は欲しいんだけど」


「60ですか・・今90程は在庫がありますので足りてはいますが、その、前回も結構な量買われませんでした?」

「そうね・・前回はGM1と2を混合で40個ほどだったわ」


普段俺が修行の合間で飲んでいたのはこれか、と思いつつも店員と師匠のやり取りを俺は後ろで黙って聞く。

とてもじゃないが会話に割り込めるような立場じゃないからだ。


「あの、その、申し訳ないのですが・・GM2は継続して大量に購入される場合、新製品ということもあって許可が必要でして・・」


「え?許可?誰にもらえばいいのよ、そんなの」

「えっと、この国の薬科省の許可証があれば、いいのですが・・」


「はぁ、それは知らなかったわ・・今回だけでもどうにかならないかしら」

「さすがにそれは・・、国王様はルールに厳しいお方ですので」


「あぁ、ボルティス様か。あの人相手じゃここで交渉するだけ時間の無駄ね」


どうやら師匠は買うつもりだった魔力回復薬が買えないようだ。

師匠と店員の話なのに、使っているのは全部俺だとわかっているのでなんだか俺が申し訳なく感じてしまう。


「それじゃ、いくつまで売ってもらえるの?30個ならいける?残りは他のところで買ってくるわ」


「30個は・・多分大丈夫ですけど、申請していただければクエス様なら1日もかからず許可されますので是非申請後に当店で・・」


「うーん、悪いけど今は買い物にあまり多くの時間をかけたくないのよ・・」


師匠は面倒くさそうな顔をし、店員は師匠の発言に困っておろおろしている。

どうやらあの回復薬は新製品ということもあってか通常品じゃないみたいだ。

俺がぶがぶ飲んでいたんだけど。


その許可一つとるのが面倒なのか師匠が買う場所を変えようとしていて、上客を逃がしたくない店側は対応するのに必死のようだ。

師匠も素直に申請すればいいのにと言いたかったが、確かに師匠は忙しい人だし、後で俺一人で受け取りに行かされるのも勘弁してほしいので

俺も時間がかかるくらいなら別の店でも構わないなと思ってしまう。


店員は自分では解決できないと悟ってか、慌てて店長を呼びに行ったようだ。

師匠は腰に腕を当てて早く買い物させてと言わんばかりにため息をついている。


うーん、さすがにこれは扱いづらい嫌な客にしか見えないと思います、師匠。

後ろで付き人としている俺も微妙に居心地が悪くなってきた。


そうこうしていると、すぐに店長と思える人が来て師匠と話している。

と同時に別の店員が慌てて店を出ていった。


師匠と店長の話を聞いている限り、今からここですぐに申請を受理してもらい許可を出してもらう流れにするらしい。

師匠が完全にごねとく客になっている気がする。はぁ。


今回はごねる師匠、付き人としてごね客一味にならざるを得ない主人公、という回です。

ここは貴族街の商店街であまり大きな建物が無いよう調整されたエリア・・の設定となっています。

大きい建物ばかりがあると、王城が目立ちませんから。


読んでいただき、ありがとうございます。

ブクマや評価など頂ければ、ありがたいです。

さぁ、連休中も仕事だー!連休ってなんだー

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