転移門でお買い物へ
ここまでのあらすじ
隠れ家に軟禁されていたコウは、師匠と共に買い物に行くことになった。
街へ買い物へ行く当日、朝食を終えるとボサツ師匠はすぐに出かけて行ってしまった。
どこに行くのか聞いてみたかったが、プライベートに踏み込むのは良くないと思い、ただ礼をして転移門へ行くのを見送った。
一方のクエス師匠はそのまま大部屋に残ったまま、光るパネルを片手に何かチェックしているようだった。
買い物リストなのかもしれない。
どうせ俺にはそれが何なのかわからないだろうから、昨日の練習を思い出しつつ先ほどまで座っていた椅子をすっと移動させつつ収納する。
自然な感じで収納出来て小慣れている感じが出せたな、と自画自賛していたらクエス師匠が声をかけてきた。
「あら、ずいぶん自然に収納できるようになったわね。練習しすぎじゃないの?ちゃんと寝た?」
どうやら師匠の目にも自然な収納に見えるらしい。
正直に言うと、これってくだらない練習だよなぁと自嘲していた部分もあったが、どうやら無意味ではなかったようだ。
努力の成果が褒められてなんだか嬉しくなる。
「ちょっと・・というか1時間ほどは自然に収納できるよう練習してました。その、収納に戸惑うとクエス師匠にご迷惑をかけるかなと思って」
「恥ずかしいから、でしょ。でもいい感じだと思うわよ、付け焼刃とは思えないくらい」
魔法の実戦練習では最近褒められるということから遠ざかっていたこともあって、師匠のお褒めの言葉に俺は思わずガッツポーズをした。
「そうそうこういう収納の仕方もあるわよ」
そういって師匠は立ち上がり、先ほどまで座っていた椅子を持ち上げると、手を離すと同時に椅子の下の空間に収納の入り口を作る。
重力にひかれた椅子がそのまま落下して収納された。
なるほど、こっちの方がなかなかスマートな方法かもしれない。
更に師匠は頭の高さ辺りに収納の出入口を開くと椅子を落として途中でつかむ。
自然な取り出し方だし、戦闘に入る直前に武器を取り出すのにも使えそうなやり方だった。
ただ手を使わずに収納口から物を取り出すことができるのには驚いた。
1度見ただけでもスマートさを感じれるし、ぜひ俺も習得しておきたいやり方だ。
「師匠、そのアイテムボックスから手を使わずに取り出す方法を教えてください」
俺が期待に満ちた目で質問すると、師匠はあーっ、と失敗したようなまずい表情になる。
何かまずい質問だとは思えなかったんだが・・
「ごめん、コウ。この取り出し方はコウにあげた指輪では出来ないのよ」
「あ、そうなんですね」
ちょっと残念だが、アイテムボックスが使えるようになったというとても大きな喜びに比べればその程度些細なことでしかない。
が、師匠はちょっと申し訳なく思ったのか軽くフォローを入れてくれた。
「その私のお手製の魔道具はあくまで一時的なものだから。コウがそれを使った時のデータを基に次は最新式の収納の魔道具を作るわ。それならさっきのようなことが出来るわよ」
最終的には最新式の魔道具をもらえると聞いて、嬉しくなると同時に少し申し訳なく思う。
本当に俺はもらってばかりで何も返せてないんだから。
と思いつつさっきの師匠の言葉がふと頭の中に引っ掛かった。
クエス師匠のお手製?お手製ということはクエス師匠の手作りなのだろう。
師匠は有名人みたいだしこの指輪もプレミアな価値が付くのだろうか。
まじまじと指輪を見る俺を見たのか師匠が部屋を出ていく前に一言置いていく。
「その指輪、私のお手製って言いふらしちゃダメよ。欲しがる人がいっぱい出てきちゃうから」
「も、もちろんです」
慌てて返答する俺をふふふと笑いながら、師匠は買い物の準備なのか部屋から出ていった。
取り残された俺は暇になったので、そのまま部屋の真ん中でいつもの瞑想に取り組んだ。
瞑想をやって1時間近く経っただろうか、クエス師匠が出てきたので俺は瞑想を中断する。
その後、今日の買い物の説明を受けた。
買いに行く主なものは、魔石や魔道具や回復アイテムなど色々とあるそうだ。
ちなみに大半は俺の為らしい。
そう聞くと非常に申し訳なくなるが、俺も最近は実力がついてきたのを実感しているため、もっと強くなっていつかは師匠たちに借りを返すぞとひそかに誓う。
なのでここは甘んじて師匠たちの行為を受けることにする。
現時点では何を言っても相手にされない程度の存在なのは自覚しているしなぁ。
それからいくつかアイテムボックスの機能を更に教えてもらった。
言われてみれば、俺はアイテムボックスが使えることで興奮しまくって機能に関して容量くらいしか聞いていなかったのだ。
アイテムボックスの中では収納された物の周囲が保護されていて、たとえ物がぶつかったとしても傷つくことはないらしい。
また入口に手を入れて取り出すアイテムをイメージするとすぅーっと手元に吸い付くように来るので、入れたアイテムを覚えておいた方が取り出しやすいということだった。
たくさんの種類を入れたり、長い間入れっぱなしにしておくと結構大変そうなので、案外マメな確認が必要なものなんだなと思わされた。
アイテム一覧ウインドみたいなものが出せればいいんだけど・・それは難しいのだろうか。
当然のことだが、アイテムボックスの中でも時間は経過するらしい。
異世界ものの小説で出てくるチート機能満載のアイテムボックスではないようだ。
ちなみにそういうものは無いのかクエス師匠に聞いてみると、師匠はかなり悩んだ末に
出来なくないと思うが技術者がいないし、できたとしても維持魔力がすさまじいので箱の中だけ時間の経過を遅らせるとかがせいぜいじゃないかと言っていた。
時間経過を遅らせるだけでもすごそうだが。
時間がかかわるとなると時の属性が絡むのだろうが、ボサツ師匠も時属性はほとんど使える人がいないと言っていたなぁ。
そのことから考えると、入れたものが劣化しない便利なアイテムボックスなんて作り出すのは絶望的だろう。
更に師匠は街での行動に関しても念を重ねるように色々と指摘してきた。
一番厳しく言われたのは街中できょろきょろとしないことだ。
あとは基本的にクエス師匠の側にいて勝手に行動しないことなど基本的なことばかりだ。
完全に子ども扱いだが、これは覚悟していたことので反論は諦めた。
ちょっと驚いたのは街へ行くのに着ていくように言われた光のローブだ。
これを着ると俺からは周囲がよく見えるが、相手側からは俺の顔がかなり見えなくなるらしい。
なるほどと思いはしたものの、逆に言えばそこまで俺を世間には隠したいという師匠の意図が見える。
そう考えると今回俺はなぜ街への買い物に同行させてもらえるのだろうか?
色々と考えたものの、俺の持っている情報は少なくまともな推定すらできなかった。。
理由は全く分からないものの、とりあえず街へ出かけられることは感謝したいくらいなのでそれ以上は考えないことにした。
俺って色々とわかっていないからか、考えないようにしていることが多いよな。
と一瞬考えたものの、それ以上は気にせず師匠の説明を聞き続けた。
「さて、説明は以上よ。まぁ、色々ここで言うよりも現地で慣れた方がいいわよね。そろそろ行きましょうか」
俺はちょっと緊張しながら首を縦に振る。
ずっとこの世界のほかの場所を見てみたかったが、いざ行くとなると緊張するものだ。
俺は先ほどもらっていた光のローブを羽織り、緊張しながらもクエス師匠に付いて行く。
今回は前回と違って目隠しはしていないので転移門がある場所も教えてくれると解釈していいのだろう。
向かった部屋は俺がこの世界に来た魔道具なんかがいっぱい置いてあった部屋だ。
あの装置を見ると今は起動していないようで、来た時のような紫の世界みたいなものは見えず何も光っていない。
魔法の特訓に夢中になっていたこともあってあまり考えてなかったが、地球とつながる道を作り出したその魔道具が動いてないのを見て
もう帰れないんだよな、と改めて思い知らされた。
俺のその様子を見たのか師匠はしばらく足を止めて待っていてくれた。
それに気づいた俺が視線を師匠に向けると、師匠は話しかけてきた。
「コウ、行くわよ。あと力を抜きなさい。今日はただの買い物なんだから」
と俺の顔を見て笑って声をかける。
俺は少し吹っ切れたのか笑顔に戻り
「はいっ」と力強く答えた。
師匠がそのまま部屋の壁まで進むと手をかざす。
木の壁っぽい部分が消えていき、4m四方ほどの小部屋が現れた。
部屋の四隅には銀色の6角形の棒状のものが地面から1mほどの高さまで少し斜めに地面から生えている。
何か金属の柱のように見えるが銀色というのは多分宙属性を帯びた何かなのだろう。
その柱の内側に4人ほどは入れそうなスペースの円が薄く黄色に光っている。
あの場所に立つと別の場所に飛べるのだろうか?
以前は目隠しされていたのでわからなかったが、名前通りもっと門みたいな形状をイメージしていたけど、こういう形だとは意外だった。
「この中に入って。飛ぶ先の状態を確認したらすぐに飛べるわよ」
ちょっと怖いなと思いつつも恐る恐る俺は黄色に光る円の中に入る。
俺が入ったのを確認すると師匠も円に入り俺の側に立つ。
もう飛ぶのかな?と思ってドキドキしていると、師匠は空中に出てきたパネルのようなものに何かを入力していた。
よく見えなかったけど数字のようだった。これが行き先になるのだろうか?
師匠が入力を終えて10秒ほどたつと転移先との確認が済んだのだろうか、パネルが消えて周囲が黄色と銀色に光りだす。
光る円柱の中にいるみたいで、周りの景色が見えなくなる。
数秒もしないうちにすぐに周囲の光が消えるとさっきの小部屋ではなく周囲が薄い光のシールドに囲まれた外に出た。
よく見ると足元の円は先ほどの4人くらいが少し余裕をもって入れるサイズではなく、直径10mを超える大きな円の真ん中に立っていた。
周囲には兵士らしき格好の人たちが10人ほどいてこちらを確認している。
武器を持ってはいるがこちらを警戒している雰囲気ではなさそうであまり危険な感じはしない。
だが俺にとっては師匠以外では初めての異世界人だったので、ちょっとビビッて思わず師匠の手をつかんでしまった。
師匠はそんな俺を見ることなく、掴んだ俺の手をしっかりと握り返してくれる。
クエス師匠のこういうところは本当に心強い。
茶化すことなくしっかりと握り返してくれる師匠に、俺は安心感を覚えた。
転移門での移動は本当にあっという間だった。
エレベーターの上昇みたいな変な感覚もなく、周りが光って光が消えればもう別の場所だ。
どれくらいの距離を移動したのかは知らないが、本当に便利な魔道具だと思う。
そう言えば先ほどまでいた隠れ家の転移門はまだ小さかったから人の移動しかできないと思うが、今いる転移門なら大量の人や物資を移動できそうだ。
この大きい転移門を見ながら色々と考えていると、クエス師匠は外周に近づき兵士たちと話している。
「クエス様、予定通りのお出かけでしょうか?」
「ええ、お願い」
「了解しました。転送人数は2名、クエス様とお付きの者ですね」
「ええ、正確には弟子だけど付き人で向こうには連絡しておいて」
「はい。では転送の準備にかかりますので付き人の方は身分証の準備をお願いいたします」
「あっ、そうだった」
師匠が急にこちらを向くとカードを投げてきた。
慌てて受け取ると師匠はそのカードに魔力を流す様に指示してきたので、俺は指示通り魔力を流す。
カードが少しの間光りだしたが、すぐに光が収まった。
これで登録みたいなものが終わったのだろうか。
これ以上は何も言われなかったのでとりあえず黙って持っておく。
直ぐに師匠が俺の側に戻ってきて右手を上げる。
するとすぐに周囲の銀色の柱っぽいものに魔力が流れ出すのを感じる。また移動するのだろうか。
あれ?ここ目的地じゃないの?と思いつつもとりあえず光のローブをかぶったまま大人しく立っていると師匠が話しかけてきた。
「それはアイリーシア家の身分証だから持っておいてね。魔力を流したから向こうで確認してもらった後はその街での身分保障書にもなるのよ、失くさないでね」
「あ、はい。大事に持っておきます」
「じゃ、次の飛んだ先が目的地よ。粗相はしないように」
そんな師匠の声を聴くと同時に大きな転移門の内側の狭い範囲が光に包まれ、俺と師匠は目的地のギラフェット家の首都メルベックリヌへと飛んだ。
何とか目標の金曜には更新できました。
読んでくださり、ありがとうございます。
明日も更新できるよう、精進いたします・・・




