座学:属性を知ろう!②
また修行の日常が1話はさまります。
朝起きて食事をしていると壁に新たに取り付けられてた小さなボードがあることに気付く。
クエス師匠が設置してくれたらしく、そこには午前と午後の修行内容が札に書かれてかけられている。
今日のスケジュールは午前中はいつものボサツ師匠の講義、午後からはクエス師匠の実践練習①という事になった。
①って何だろうと思いつつ、俺はいつもの図書室へ向かう。
入室すると既に師匠は黒いパネルを何枚か出していて、一部には既に文字が表示してある。
それを見て、この前クエス師匠にもらった翻訳機は本当に便利だなと思わされる。
耳に入ってくる言葉や俺が話す言葉だけでなく、魔法書の字も今のボサツ師匠が表示してる字も
視界に入ってくる文字全てが自動で翻訳されている。本当にこの世界の技術はおっかない。
そういえば地球から色々と技術面も含めてメモして持ってきたけど
こういう技術を体験をさせられると、とてもじゃないけどこの世界で役立つとは思えない。
地球の技術を使って無双するという展開は、この時点で不可能だと思い知らされた。
くそぅ、この異世界発達しすぎだろ、と俺は愚痴りたくなった。
俺が地球の技術がつかえそうになく落胆しているのを誤解釈したのか
ボサツ師匠が少し不安そうな表情になって俺に近寄ってくる。
「本当に大丈夫ですか?あの話を聞いて気丈に振舞う必要はないのですよ。つらかったら今日は何か別の楽しい話でも・・」
「大丈夫、ぜんぜん大丈夫です。いや、その黒いパネルに表示してる字がちゃんと読めるので翻訳機の技術に感心していただけで」
「そうですか・・・、では始めますよ」
そういうとボサツ師匠は少し不安そうにしながらも俺の正面の席に座る。
まさか俺のアホな思考ですら師匠を心配させる要因になるとは思わなかった。少し気を引き締めなければ。
あれだけ支えてくれることをアピールされたのに、それでも引きずっていると思われては俺としては看過できない。
確かに師匠たちの昨日の話はすごく重かったが、それと同時に十分なくらい支える気持ちをもらったんだ。
そんな師匠たちを心配させすぎては俺は話しにならない。
この世界の男女や師弟の関係性は詳しくないが、何であれ親しい人を心配させすぎるのはいいことではないはずだ。
少なくとも今は絶望したり悲観したりする状況ではない。魔法も、心も強くならなければ。
俺は、よし今日もやるぞ、と意気込みながら座る。
目の前のボサツ師匠の表情が少し明るくなった気がする。
それを見て俺も嬉しくなった。
「さて、今日は前回の残りの属性の説明をしていきますね」
そういうと師匠は座ったまま、光る棒を取り出し黒いパネルを刺す。
とそのまま、椅子ごと横に移動して軽く宙に浮き、俺と垂直の向きになりパネルと俺を見ながら説明を始めた。
この黒いパネルは今まで黒板みたいなものだと思っていたが、そう言うのには少し無理を感じた。
この黒いパネルは正方形で、今日は2×4が空中でくっついて固定してある。
それだけなら黒板でもいいんだけど、これが1個分離して俺の近くに来たりするので到底黒板とはいえない。
なので黒いパネルと表現している。
俺がちょっと黒いパネルに感心していると、師匠が各属性の説明に入りだした。
重要なところだけはメモしておかねば、と俺はノートを開きメモを取り出す。
「前回は、光・火・水・風・土・氷・雷・聖までを紹介したと思います。今日はそれ以外を説明していきますね」
そう言って師匠は闇と魔と書かれたパネルをそれぞれ指した。
闇: イメージカラー:黒色
攻撃寄り属性だが封印や結界等にも優れる。
闇を基本とした基本5属性の中で他の4属性(火・水・風・土)に対して攻撃面でやや有利が取れる。
光に対しては互いに攻撃面で特効状態になる。その効果は攻撃1の魔力に対し防御は2の魔力を使わないと防げないほど。
魔: イメージカラー:紫色
補助要素が強いが攻撃としてもいける。聖とは対だが光と闇のような特効関係はない。
「まずはこの2つです。当然ですが光の連合にこの属性が使える強者はいません」
ボサツ師匠がいつになく厳しい表情でびしっと述べる。
まぁ、光の国に闇使いがいたら変だと思うので全く異論はない。
「あと光と闇は御互いに特効関係があります。光の攻撃を闇の盾で、闇の攻撃を光の盾で防ぐには約2倍の魔力が必要といわれています」
「に、2倍ですか。それなら攻撃した方が有利なんですね」
「そうです。そしてそこが問題にもなっています」
問題、か。
攻撃が実質2倍の威力で効くようなものだから蹴散らせば・・
っと、向こうも同じ条件だったか。ん?これってどっちも相当な被害が出そうだな。
あれ、これって戦えばどちらも大きな被害が出ることは避けられないのでは?
むしろ守る意味がないと言っても過言ではないかもしれない。
俺のやばいんじゃないかという表情で気づいたのだろう。
師匠は少し穏やかな口調で説明しだす。
「コウの想像で大体あっていると思います。どちらも相手の属性に対して攻撃特化なので、戦うと互いに甚大な被害が出ます」
「そ、それってお互いに戦わない方がいいんじゃないですか?」
「理想を言えばそうですが、それは相当難しいです。大きな理由は2つあります」
師匠は本当にどうしようもないんだという表情で説明してくれた。
1つ目の理由は、この攻撃した方が有利という属性関係だ。
例え互いに和平を望んで休戦してもそれを不満に持つ少数が暴れるだけで、相手側に甚大な被害が出る可能性が高い。
不意を付いて攻撃をした方が断然有利というのは、和平に対する大きな壁になる事くらいこの世界に来て間もない俺でも理解できる。
この点は師匠も「双方の属性が相手に対し防御特化ならこうはならなかったのですが」と残念そうに語っていた。
本当にその通りだ。
強力な攻撃も弱い防御魔法で防げれば、確かに簡単に取り押さえられるし被害も出にくい。
そうならば憎しみの連鎖も起こりにくいのに。
そして2つ目の理由は双方の属性の教えに
『相手の属性は互いに危険であって、決して共存は出来ない』
というものがあることだ。
俺は単なる魔法の区分としてしか属性を見ていなかったが、この世界では各属性の精霊らが一種の宗教の神としての扱いを受けている。
いわゆる光教、闇教みたいな宗教的なものと魔法が結びついているのだ。
まぁ、精霊の力を借りて魔法を発現してるとなると、崇拝対象として理解できなくもない。
各属性に複数の精霊がいるので一応多神教ということにもなる。
光も闇も、他の属性に対しては敵意を示すような教えは無いそうだが
光と闇同士に関しては、互いに危険な存在であり放置してはならないとなっているそうだ。
普通は魔法使いになると同時にこういう部分も教わるので、光の教えとやらを受けるだけで光の使い手は闇に対して攻撃的になるらしい。
もっと最悪なのが、この教えと精霊の存在がセットになっている事だ。
地球にいた頃の宗教は、神は概念だったり存在はするが我々の前に現れて力を行使する事はしない。
なので上手く解釈する事によって争いをある程度抑える事が可能になっている・・たぶん、なっていたと思う。
だが、この世界では精霊はちゃんと存在する。
それぞれと契約も出来るし、精霊に認められればその精霊の契約施行主にもなれる。
そんな状況なら、光の魔法が使える魔法使いになれば光の精霊の教えを信じる者もいるだろう。
過去に光の国々が闇に襲われて窮地に立ったとき、ルーデンリア光国に光の精霊が光臨し
はるか彼方の闇の軍勢に対して強力な魔法を放ち、反撃のきっかけを作ったという記録もあるらしい。
なんにせよガチの守り神で、存在もする。その精霊の教えが相手である闇を相容れない存在と指定している。
これでは光と闇の戦いが止むはずがない。
強いて良い点を挙げるとすれば、精霊はその教えを守らない者にも
たとえ敬意を示さない者にも、契約さえ完了すれば力を貸し魔法を行使させてくれる点だ。
だから教えに対して無視を決め込めこむことも出来なくないんだけど、教えを守るものは一定数いるし
闇の側の教えを守るものが攻めてきて家族や友人が亡くなれば、非戦を貫くのは無理というものだろう。
「その、師匠」
「何ですか?」
「精霊様はなぜ闇との戦いを勧めるのでしょうか?」
ここの世界では神様のような精霊様が戦争を示唆しなければ
ここまでひどい状況にはならないのではないか。俺はそう考えた。
「なぜ・・ですか。それは今のところ不明です。ただ、少なくともそういう研究をすることはこの連合内では不可能だと思います」
理由も不明だし、解明することも禁じられている、か。
俺はもうこのことに対して考えるのをやめることにした。
師匠の言い方を聞いていると、たぶん俺と同じ結論にはるか前にたどり着いているのだろう。
これ以上聞いたって師匠が困るだけだということは明白だった。
「では、次の属性の紹介に行きますね」
「はい、次は何ですか?」
「次は幻術系と言われている幻と夢の属性ですね」
幻術系ってなんで2種類もあるんだ?そう疑問に思っていると
師匠の後ろから再び俺の近くに2枚の黒いパネルがやって来る。
左側のパネルには幻属性、右側のパネルには夢属性と書いてある。
「幻属性と夢属性はどちらも幻術系に区分されています。幻術系は直接ダメージを与えないものが多いですが、使い方によっては凶悪です」
その辺は俺はすんなり理解できた。
以前友達のところで忍者の漫画を読んだことがある。あれも確か幻術が最凶技になっていたはずだ。
幻: イメージカラー:アイボリー
精神系に特化した属性。ありえないものを見せることが出来、それによって誘導するのが主目的魔法。
魔力に直接ダメージを与えることもできる。
夢: イメージカラー:桃色
精神系に特化した属性。ただし、本人の知識内でしか幻影を見せらず意図したものを見せられるとは限らない。
他に状態異常(睡眠)にすることも得意の属性。
「この2つは似ているようで大きく違いますのできっちり覚えておいてくださいね」
そういうと2つの属性を並べて、特徴をそれぞれ比較できるようにパネルに表示される。
完全な傾向いういわけではないらしいが、大体表記した傾向がそれぞれにあるらしい。
幻:術者の意図したものを見せたり、術者の意図した効果があるように感じさせることができる。(感じるだけでその状態異常にはならない)
夢:被術者の経験したことがある物を見せたり、被術者が体験したことのある効果を与えることができる。
幻:対象は基本1人。相手の魔力の流れに直接干渉して幻術にかけ、度々干渉して術者に都合のいい幻術を見せる。
夢:対象は基本範囲(複数)。1度だけ相手の魔力の流れを変化させることで(錯覚に近い)、自然に本人の経験のある幻術を見せる。
幻:自分の魔力の流れの変化や、あり得ない状況に気付けば、幻術にかかっていることに気付きやすいが解除が難しい。
夢:幻術であることに気付きにくいが、状況の不自然さに正確に気づけば自力でも解除できる場合が多い。他からの刺激でも解除されることがある。
説明を受けると確かに違うということはわかった。
魔力の流れ~という件は実体験してみないと何とも言えないけど。
「ついでに言いますと、くーちゃんは夢属性が使えます。コウの心を読んでいるのもそれだと思いますよ」
「えっ、あ、そうなんですね・・(夢属性って心の中も読めるのか)」
「私は使えませんので、安心して妄想しても大丈夫ですよ」
そう言ってボサツ師匠はにっこりと笑う。
心は読めないけれど、俺の表情や視線で考えていることは何となく理解しているということですね。
気を付けます・・。
「ちなみにですが、幻属性をメインとしている魔法使いはほぼいません。第2属性でも珍しいです」
「えっ、そんなにレア属性なのですか?」
「夢属性もくーちゃんのところだけですから、どうしてもレアな存在になりますね」
師匠が微妙に呆れた言い方をするので俺は引っかかった。
気になったので何か事情があるのかを聞いてみた。
「レアになった理由でもあるんですか?」
「ええ、まぁ。幻術系は違う相手を見せてしゃべらせたり、夢属性は心の中をのぞいたりすることが出来ます。謀略渦巻く貴族たちの中でそれは安心できる味方と言えるでしょうか?」
「あ、あぁ・・」
師匠の説明で何となく言わんとしていることがわかってしまった。
幻術系は貴族社会の中でかなり邪魔な存在だったということなのだろう。
危険性を見抜かれる、だまし合いが通じにくいとなれば、早めにご退場願おうというやつなのだろう。
本当に貴族って輩はろくでもないな・・って俺もその貴族に知らぬうちに仲間入りしてたんだっけ。はぁ。
俺の何となく察してばつの悪そうな顔を見て、師匠も理解したらしく
「多分コウの想像した通りですよ」
とだけ言って、師匠はそれ以上何も言おうとはしなかった。
でも、そうならば・・俺は疑問が浮かんだので師匠に質問する。
「その、クエス師匠は夢属性が使えるんですよね?あれは家で持っている属性ではなく個人的な資質なんですか?」
「いえ、違いますよ」
「え、ならどうして・・」
「詳細は知りませんが、夢属性の一族が世界に必要とされる宙属性の家と合わさったと聞いています」
「ああ、なるほど」
そういう一族の身の守り方、ということなのだろうか。
この世界の貴族はどれだけ不信感に満ちているのやら・・
魔法の学習のはずだったのに、俺はまた余計な貴族社会の嫌な情報を知る羽目になってしまった。
その後も講義は続く。
クエス師匠の得意な宙属性は、転移門という場所を入れ替えることで遠くまで飛ぶことのできる応用例のほかに
いわゆるアイテムボックスと言われるものによる、道具収納技術にも生かされていることを学んだ。
「あまりおいそれとは話せませんが・・」
と師匠が前置きをして、クエス師匠は宙属性を戦闘でもうまく利用している事を教えてくれた。
詳細に関しては秘密と言われてしまったが。
相手との距離を取ったりするのに使うのかな?くらいしか俺は思いつかなかったが。
「んー、後は植属性、木属性とも言ったりします」
「えっと、植物の育成を促進させたり出来るんですか?」
「ええ、出来ますね。他に植物のエネルギーを回復や攻撃に使ったり・・色々できるそうですがそこまでの腕の魔法使いはそうそう見ません」
何かの魔法というより、能力バトルにありそうな属性だな。
ん?となればこの世界に食糧問題はないんだろうか?そう考えると植属性も捨てたもんじゃない。
「その植属性って、食糧増産に貢献できるんですか?」
「ええ、出来ますよ。ただ・・使える人も多くはないですね。それに食糧が増産出来れば、それはそれで問題が起きるんですよね・・」
師匠が珍しく嫌な顔をしてため息をついたので
なんかこれはやばい質問だったかと思い、俺はその問題を詳しく聞くことができなかった。
その後に出てきた属性は使える人が少ないものらしく、足早に説明が進む。
暗殺者が主に使う静属性、支援がメインの音属性。
そういえばボサツ師匠はなんでこの2つが属性がわかれているのかわからないと言っていた。
言われてみればそうかもしれない。
そして過去や未来を見ることができると言われている時属性。
これは真っ当に使える人が存在しないらしい。じゃあなんであるんだよと言いたいが黙ってノートにメモしておく。
そして重属性。主に重力を扱うとされる属性らしい。
ボサツ師匠の見解ではベクトル(力の方向性)を扱う属性ではないかと考えており、一時期異を唱えていたらしい。
が、結局認められなかったそうだ。
重属性はLVの高い使い手がいないらしく、戦闘でも武器を軽くしたり重くしたりしか活用されていないそうだ。
重力を扱えると、相手の体を地面に張り付かせて「動けねぇ」なんて言わせる強キャラを連想したんだけど
「そういうことをしようにも相手の周りの魔力で相殺されて、よほどの実力差がないと無理だと思います」
と、師匠に一蹴されてしまった。
うむむ、言われてみればそうか。魔法って難しい。
「これですべての属性の紹介を終わりました。コウが使える属性は今日の説明の中にはありませんでしたが、知識だけは持っておいてください」
「相手が使ってくるかもしれないから、ですか?」
「ええ、もちろん個々の魔法の効果も覚えてもらいますが、属性全体の特徴を知っていればたとえ知らない魔法でも対策を想定できますから」
俺はなるほどな、と思わされた。
戦いになればどういう相手がいるかわからないが、属性が想定できれば少なからず対策が打てるということか。
ただたくさん覚えるのってすごく大変そうだけど。
最後らへんは使用者が少ないのでやや駆け足気味の説明だったが
後から何か疑問に思ったことがあれば、ボサツ師匠に聞いてみよう。
そうノートの最後にメモをして午前の座学を終えた。
午後はクエス師匠との魔法実戦練習①ということで、何をするのかと思っていたら
移動しながら、回避しながらで型を作る練習だった。
正直、この前できなかったのにすぐにこの練習が来るとは思わなかった。
俺ってやっぱりどこかで監視されてる?と思いながらも、今は練習へと打ち込むことにする。
型を作る位置と自分との距離感を一定にする場合と、場所を固定して自分が動く場合とを
交互に反復練習を延々とやらされてダメ出しを連発され、2時間もしないうちに疲労しきってしまった。
クエス師匠が「まだまだね~」と俺のやる気を出させるように挑発していたけど
俺の魔力切れ具合が思ったより深刻だと感じたのか、結局その日はそのままダウンした俺を部屋へ連れていき修行終了となった。
それからは午前も基礎的な魔法の実地練習と座学を半々でこなしながら午後はより実践に近い修行。
この隠れ家に缶詰めにされて魔法の修行に打ち込むだけの日々が続き、あっというまに1月ほどの時間が過ぎ去った。
今話も読んでいただき、ありがとうございます。
だらッとした修行回(という名の設定回)はここで多分終わりかな。たぶん。
次はお買い物回の予定です。
(今話は実は①をつけたものだから②もやらないとな、と思って書いたという部分もあります)




