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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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誘惑、そして恐怖

ここまでのあらすじ


日常が戻りました。


朝を迎えたのか、目が覚めて周りを確認したが辺りはまた薄暗い。

このごろ魔法の練習に精を出しているせいか、夕食後はすぐに眠くなって布団に入るとすぐに眠ってしまう。

魔力が少なくなると眠くなるものだろうか。


「今からどうしようか・・明かりの練習をしてもいいけど、師匠たちを起こすと悪いしなぁ」

何気なくつぶやいた時、隣に何かがいる感触がした。


すぐに俺は危機を感じて布団から出ようとしたが、その何かに抱きつくように掴まれる。

しまった、これでは身動きが取れない。

そう思った時、聞きなれた声がその何かから発せられた。


「コウはそういうことを気にしていたのですか?気にせずに練習に打ち込んでいいんですよ」


「うぉ・・・え?し、師匠ですか?」

「ええ」


俺の布団の中に、というか隣に、ボサツ師匠が一緒にいた。

まさかこれはボサツ師匠からのご褒美なのか、なんて喜びの感情は湧いてこない。


あまりに想定外のことだったので、こんな幸せな状況にもかかわらずテンションが上がる前に驚き警戒心が高まる。


師匠は既に俺への抱き付きを解いて横になりながら嬉しそうにこちらを見ている。

俺は動くことも話すこともできなかったが、そのまま時間が経つにつれて驚きは無くなっていき、逆にテンションがあがり興奮してくる。


(やばい、これはやばい)

鼻腔を、いや心までもくすぐるようなほのかな心地よい香りと師匠の瞳や体を間近で見る事で、俺はいけない方向に想像を膨らませてしまう。


師匠は遠慮なくそのままの見つめてくるので、とうとう我慢できなくなってしまい

布団の中でそーっと手を伸ばしボサツ師匠の腕に触れたときだった。


ボサツ師匠が口を開く。

「コウは欲しいのですか?」


俺は緊張して声も出せなかったが、何度も小さく頷く。

こんな状況で欲しがらないとか、どんな悟りを開けばその域に達するのやら。


俺の返事にボサツ師匠はより嬉しそうな表情を見せると、再び問いかけてきた。

「コウが全てを捨てて私の元にきてくれるなら、私も私自身をコウに預けますよ」


その一言にもはやドキドキが止まらなくなり、思考が単純化した俺は師匠の問いかけにただただ頷き続ける。


「全てですよ、ここでの生活も、クエスの事も、貴方の夢も・・」

「えっ・・」


ボサツ師匠がいわゆるお姫様なのは聞いたので知っている。

その人と一緒になるのなら、色々と捨てなきゃいけないのもわかる。


でもこの状況でこの台詞、何か違和感がある。

この人は本当に俺の知っているボサツ師匠なのだろうか。


いきなりのこの状況は何かおかしくないだろうか。

俺は急激に興奮が冷め空恐ろしくなり師匠の腕に触れていた手を離した。


「あら、どうしたのです?」


師匠が少し困った表情をして俺を見つめる。

その何とも言えない罪悪感を感じさせる表情に、再び警戒が解けていき師匠の甘い誘惑へと引きずり込まれた。


いかん、これは相当強力な攻撃だ。

理性はそう警告を鳴らすが、俺の体が腕が、師匠へ伸びていくのを止めることはできない。


警戒感、好奇心、罪悪感、そして長らく求めいていた甘えたい気持ち、安心感、そんな感情が入り混じって俺の指揮系統はすでに混乱に達していた。


「いや、えっと、その」

俺が言い淀んで迷っている隙を突いてだろうか、ボサツ師匠はすっと近づくと左手で俺のほほを触れ優しく微笑み


「大丈夫ですよ」

と一言俺に告げた。



何が大丈夫なのかは俺にはわからなかったがすっかり魅了されてしまい、俺は自分ではよくわからない不安から解き放たれ、すっかり安心してしまった。


そう、ボサツ師匠に全てを任せておけば大丈夫なんだ。

このまま師匠に手を伸ばしても、この先どうなっても大丈夫なんだよ、と。


どこからともなく沸いてくる安心感に包まれ、俺は右手で師匠の肌のあらわになっている左肩に触れる。


俺は落とされたという感覚はなく

ただ安心できる場所を教えてもらった、この人の胸の中なら安心できる。

そう感じて、俺はボサツ師匠を引き寄せようとしたときだった。


ボサツ師匠はすっと肩に触れていた俺の手から抜け出して距離をとり「ふふふ」と笑う。

予期しないボサツ師匠の突然の反応に、俺は何がなんだかわからなくなって、きょとんとしてしまう。


「は~い、そこまでにしてね~」


クエス師匠の声が聞こえたかと思うとあちこちに<明かり>が発生し、部屋中が明るくなる。

目の前に寝転がりこっちを見ているボサツ師匠は、この間の夜に見た透けないネグリジェのように見えるラフな服装をしている。

あらわにしていた肩も着崩したのを直したのだろうか、すっかり見えなくなっている。


「さっちゃんなかなかやるわね~」

「こういうことも貴族に必要なスキルですからね。いい男を捕まえる技術は色々と指導されています」


クエス師匠の楽しそうな声。同意するボサツ師匠。

この時点でやっと俺はこれが誘惑のテストだと気づいた。


くそぅ、童貞の俺のピュアな心を弄んで!と少し腹が立ったが

正直すごくドキドキさせられた体験でもっと触れて続けてみたかった、そうどこかで思っていた。


「くーちゃんから見るとコウの対応は何点でしたか?」


「そうね、2点かしら・・・10点満点で」


一瞬100点満点でなくてよかったと思ってしまう辺り、俺はダメなんだろう。

実際やられたという感想よりも、もう少し続きをしたいという気持ちが強かったからだ。



「とは言え、いきなり予告もなく騙して悪かったわね。今の時点でのコウが女性に迫られたらどうするか知りたかったのよ」


「いえ、別に構わないですけど・・これって何だったんですか?」

「そうね・・大事なことだからコウにも説明しておくわね」


落ち込んでいる俺の様子を優しくなだめながら、なんでこんな手の込んだ仕掛けをしたのか師匠たちは簡単に説明してくれた。


この世界は貴族たちが統治している。

そしてその貴族たちが才能のある魔法使いを各自の家で囲い込んでいる。


そんな中、俺には素晴らしい魔法の才能があるので、それが知られれば貴族たちはこぞって俺を欲しがるという。

俺にはいまだにそんな自覚はないが、とにかく俺はそういう立ち位置の存在らしい。


で、俺を手に入れる方法の1つとして異性で誘惑するという手があるらしい。まぁ、ありがちな話だ。

その誘惑に俺がどのくらい引っ掛かりやすいかを試すために今回のテストをやったということだった。


誘惑の話は置いといて、欲しがられるって大変なことなのだろうか?

なんか俺が優位に立てそうな話だと思ったので、正直危機感がわかなかったが

そのことを話すと、その考えは間違っていると師匠たちに厳しく指摘された。


「貴族たちはコウが欲しいんじゃなくて、コウの才能を引き継ぐ子供が欲しいだけなのよ」


「そうです。逆に優秀な子が数人出来てしまえば、コウがよほど従順じゃない限り邪魔な存在でしかありません」

「えっ・・マジですか・・」


え、なんでそうなるの?俺は疑問に思ったが次の師匠の説明に思わず納得してしまう。


「コウが簡単に釣れるようなら、他家に簡単に取られる可能性があるでしょ?それを置いておくことは危険だと思わない?」


「それにコウには生まれの後ろ盾がありません。今のクーちゃんとの関係では軽い後ろ盾程度です。それはコウが自由であると共に、向こうもコウを扱う幅に自由があるということなのです」



つまり、俺は適当に子供作らされて後はぽーいされるだけの存在ということなの?

「え、なに、それ・・」思わず俺は不安を漏らしてしまった。


師匠達の危機を感じさせる言葉を少しずつ理解できたのか、だんだんと俺は恐ろしくなり背筋が震える。

何となく楽しく過ごしていた異世界だが、ここは思った以上に恐ろしい世界だと思い知らされる。


そして目の前の師匠たちは、そうじゃないと言い切れるのか。

とんでもないところに来てしまったんじゃないのか、何か対抗策はないのか、俺は必死に考える。


しかしよくよく考え直してみる。俺が強かったらそれなりの価値があるんだし、そんな処分されるものだろうか。

生かしておいた方がよっぽどいいと思うんだが。


でも、もし強くなってもダメだったら?それとも強くなる事がより危険な存在になってしまう?

俺はひょっとして既に追い込まれていているんじゃないか、そう思いはじめてしまった。

思考がぐるぐる回り、考えがまとまらない。


だけどこの先、師匠たちみたいな凄腕になった俺なら、もう少し価値が上がり周囲の対応が変わるんじゃないかと再び思いなおす。

いや、そうだと信じるように自分に言い聞かせたという方が正しいか。


そう信じ込まないと、正直やってられない。

行ったり来たりの思考のせいで、先ほどまでのいやらしい思考など完全に吹き飛んでしまった。


傲慢なようだけど思い切って俺の考えた事を師匠に尋ねてみる。

少なくとも師匠たちが話すような子供を作るだけの道具にされるだなんて冗談じゃないからだ。


「もし俺がすごく強くなったら、師匠みたいに強くなったら、家の戦力という点で役に立ちますよね?それでも・・価値がないんですかね?」


俺はこの時妙に必死だった。これからの人生が真っ暗闇か、一筋の光明があるかの確認だ。

地球ではもう一筋の光明もないんじゃないか、そう思ってこっちに来たんだ。

ここでも否定されては夢も希望もない。



「否定はしません。ですが先ほど言ったようにコウの立場は自由の身に近いのです。つまりコウの行動で責任を取る家もないということです」


「言い方を変えればコウはしがらみがなさすぎるのよ。かなりの強者が自由な存在である事は多くの者にとって危険とも言えるわ」

「・・・」


俺は返す言葉もなかった。家の責任とかいまいち理解できないが、言ってる意味は大雑把にだけど理解は出来た。

俺が知っている範囲でもあの<竜巻>の魔法をバンバン使えるやつが、何のしがらみもないと聞けば確かに危険な存在だ。


そんな奴がヒャッハーすればどえらいことになってしまう。

ホイホイと別の家に寝返られても、まぁ、厄介なんだろう。

たとえ実力があるとしても、いかれた行動をとる可能性があるなら厳重に監視するか、消してしまった方が安心できると言えなくはない。


ここで自分が置かれた状況がだんだんと理解でき、それがあまりに悪いことに気付いて怖くなる、嫌になる。


この世界が怖くなる。

また世界が嫌になる。


異世界に来ても、結局のところ理不尽な環境と言うのは変わっていないらしい。

俺の人生は呪われているのだろうか。中二病のような独特の思考から、俺は勝手にそう思い込む。


俺が恐怖に震えているのがわかったのだろうか。

クエス師匠が俺の頭に手を置いて撫でてくれた。


「大丈夫よ、コウ。そうならないように私が絶対に守り通して見せる」


「そうですね。そのためにもより実力を持った高い価値を持った魔法使いになりましょう。私たちももっと強力な後ろ盾としてアピールしていきます。コウに手を出すにも出せないほどの、です」


そう言うと、ボサツ師匠も後ろから抱きしめてくれる。

俺はその優しさを感じながらも、真っ直ぐ受け取ることに戸惑いを感じて固まっていた。


後で思えばこの時師匠たちに抱き付けばよかったと持ったが、この時はそれどころではなかった。

そんな俺をその後もずっと抱きしめていてくれたからか、次第に恐怖感が薄れて、守ってくれる力強さと温かさをを感じ、思わず涙が出る。


「安心して、これからどんな状況でも私はコウの味方よ」


「私もですよ。でも女性の誘惑にあまり動じないようにはならないといけません」


この真剣な状況の中、笑顔を見せながらボサツ師匠は俺に先ほどのことを鋭く突いてくる。

ぐふっ、と不意打ちのダメージを受けながらも気がそれたおかげで恐怖感からだいぶ解放された。


深刻な話題からうまく逸らしてくれたボサツ師匠に俺は感謝した。

クエス師匠の真剣な思いもかなり俺の心を癒してくれたと思う。


「さて、起こしておいて悪いけどコウももう一眠りしておきなさい。明日も修行よ」

「そうですよ、寝不足は修行に差し支えます」

そう言いながら師匠たちは部屋に戻っていった。



大部屋に1人取り残され仕方なく布団に戻るも、1人になるとさっきの恐怖思い出してしまい頭から離れてくれず

もはや寝るどころではなくなった。


でもそれと同時にちょっとだけ嬉しくなる。師匠が真剣な目で俺を守ると言ってくれたことを。

俺は本当に素晴らしい師匠に囲まれていることを、神に・・いや精霊様に感謝した。




あのボサツ師匠が迫った件から一日経ち、翌日起きたときも師匠は2人して俺の精神面を支えてくれた。

あの日はいつの間にか眠りに落ちていたので睡眠不足とまで行かなかったが、その後の修行でも少し集中力を欠いていたのは自分でも気付いていた。


やはりというべきか、一度植えつけられた強烈な恐怖は、早々消えるものではなかった。

師匠たちもそこを見抜いたのたのだろう、いつもより丁寧なフォローをしてくれる。


「おはよう、コウ。昨日は本当にごめんね。今日はちゃんと眠れた?辛いなら今日は1日色々と話でもしようか?」


「大丈夫ですか、コウ。昨日の件で私たちを信用できないというのなら、ちゃんと言ってください。それでも私たちは貴方を守り抜きます。それが師匠としての役目です」


昨日の夜の話の直後から、師匠たちを今までどおり心の底から100%信用するなんて事は正直厳しくなった。

どうしても、どうしても、ただ俺を物のように利用してるという考えが頭の中にちらついてしまうからだ。


でも同時に、才能がなくても大変だけど、才能があっても大変なんだとなんとなく思わされた。

本当の意味で才能がある人の大変さは、これとは少し違うのだろうけど。



しかしよくよく考えると、こういう厳しい現状を正確に伝えてくれたからこそ、師匠たちは信用出来るんじゃないかと思えなくもない。

今も相当気を遣ってもらえてる事は十分理解できる。


本当にいい師匠たちに出会えたよな、俺は出会いに感謝しないといけない。

師匠たちを見て少しだけ安心したのか、あれから一日経ったからなのか、俺の気分もすぐに落ち着いた。


と同時に昨日の夜のボサツ師匠とのことを思い出す。

今考えると、あれは惜しかった。


もう少し早く決断しているか、抱き寄せでもしていたら胸の感触も・・

そう思いつつ、思わず無意識に視線がボサツ師匠の胸へといってしまった。

決していやらしい思考をして、して、いたけど。


「あら、もうボサツとの夜の思い出が恋しくなってるの?」

クエス師匠があきれたような声で俺をからかう。


「ずいぶん不安そうにしていたのに、もう性欲に動かされるとはコウもタフなのですね」


ボサツ師匠がそう話して笑い出すと、ボサツ師匠の言葉に続けるように「さすがコウね」とクエス師匠も笑い出す。

俺は不安なんかそっちのけになり、必死に言い訳を並べ立てた。


そんな言い訳を「はいはい」と軽く流しながらクエス師匠は朝食の準備を始める。

ボサツ師匠は俺の隣に座って俺の顔を見つめる。


「コウが不安から立ち上がれるのでしたら、もう少し触れてもいいのですよ?」

と少し意地悪そうな表情で傍から語りかける。


もはや俺は不安を押さえ込むのではなく、迫り来る誘惑から本能を抑える事に意識を割かなくてはいけなくなった。


「いやいや、もう大丈夫です。ほら、大丈夫ですので」


両腕を軽く上げて大丈夫だとアピールするものの、師匠たちに「何やってるの」と笑われる。

師匠たちは本当に、俺にはもったいないくらいいい人だと思った。


「こんな素敵な師匠の力になれる形で俺も活躍して・・・こんな時間がずっと続けばいいな」

俺は口に出すか出さないかの感じで、思わずつぶやいた。


いつも読んでいただきありがとうございます。

今週は投稿後、毎日ブクマが増えたので頑張りまくった1週間でした。すごく嬉しかったです。

引き続きブクマや評価など頂けると嬉しいです。感想もすぐに反応できないかもですが頂ければ光栄です。


今話は少し重たい話でしたが、またくだらない日常に戻る?・・と思いますので、読み続けてもらえると嬉しいです。

この後イベント2,3回挟めば3章終わる・・予定です・・。

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