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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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コウが魔法を工夫してみた

前回のあらすじ

師匠に補助魔法の基礎知識と<疾風>を教わる。


師匠に補助魔法の基礎を教えてもらった後、再度自分に<疾風>をかけて色々と動いて試してみると、この魔法は意識する事で思った以上に細かい補助ができることに気付いた。


例えば正拳突きをするときにこぶしの速度を増すだけでなく、真っすぐ突きながらあらかじめ左にずらすぞ、と考えて意識しながら正拳突きすると

ちゃんと<疾風>の補助の力がかかり、少し左にずれた位置にこぶしが当たるのだ。


これは結構使えるんじゃないかな?と思い剣を振るのにも応用できないかと試してみることにした。


「師匠、何か剣みたいな武器ってお借りできますか?ちょっとやってみたいことがあって」


<疾風>の感触を試していた俺が突然武器をお願いしてきたのでボサツ師匠は何に使うのだろうとと思ったようだが

すっと虚空から木刀を取り出すと俺に渡してくれた。


その様子を見て俺は『そのアイテムボックスみたいなやつ、俺も使ってみたいんだけど』と言いたくなったが、今は思いつきを試すことに集中することにする。



とりあえず借りた木刀を2,3回ブンブンと振ってみる。思ったより軽く感じたが、それなりの重さがあり確かな振る感触を感じとれる。

これなら試せるかなと思い、とりあえずやってみることにする。


俺は<疾風>状態を維持して借りた木刀を右上から左下へと斜めに切りつけるように振り切る。

この動作にも<疾風>は乗っているようで思っていた以上の速さで振りぬける。


ならばシンプルに考えてこの時に疾風の力を働かせれば、軌道を変えたりできるんじゃないかと思ったのだ。


師匠たちは何をするのだろうと俺を見ている。万が一だがここで俺のアイデアに驚いてくれれば好感度も上がるかもしれない。

ちょっと心の高まりが顔に出ながらも、俺はぶっつけ本番だが何とか上手くやってみせると意気込んだ。


<疾風>の補助力が発動する条件は、俺のわずかな経験から言ってそう動こうと意識すること、そして実際無理な体勢でもそう動かそうと体に力を入れることだと思う。

正確な事は魔法書を見ると載っているのだろうが、たぶん間違いないと思う。


つまり剣を振り切る途中で、体を意識的に剣の動きとは別の方向に動かそうとすると剣の軌道をずらせるんじゃないかというわけだ。


右上から叩きつけるように斬りつける途中で腕や体を左に動かそうとしてみる。

普段ならなかなか軌道がずれてはくれないが、この魔法の効果も併せればきっと・・そう思い実行した。


右上から剣を振り下ろしながらも体を、腕を左に動かそうとする。

が、思った以上に左に動く力がかかりバランスを崩す。


転びそうになるのを踏ん張ろうとすると再び<疾風>が補助して転ばずには済んだが・・これでは転びそうな力の抜けた間抜けな斬撃でしかない。


体ごと動かそうと思ったのが悪かったのか、今度は方法を変えて腕だけを切りながら左に動かそうとする。

最初から意識すると縦直線に近い斬撃が、最初から緩やかな角度の斬撃に変わってしまったので、これでは違うとやり直す。


途中から、途中から、そう意識しながら少し遅めに剣を振り下ろす途中で<疾風>の力が腕にかかり途中から剣の軌道の角度がやや鈍角に変わる。


うーむ、こういうのじゃなくて斜め!真横!斜め!とカクカクと極端に角度が変わるのを想定したんだけど、まぁこれはこれで良いかなとちょっと満足した。



それを見ていたクエス師匠が声をかけてきた。

「コウは<疾風>を使って途中で斬撃の軌道を変えてみたかったの?」


少し不思議そうな表情でクエス師匠が尋ねてきたのを見て、俺はどう結構すごいでしょ?とはいえなくなった。

ぱぁぁ、と明るい表情で「今のなに?なに?」とか聞かれてみたかったのに。


まぁ、クエス師匠のそんな表情はあまり想像できないけどさ。

所詮素人のアイデアだしなぁ、ちょっと夢を見すぎてしまったか。


「ええと、そんな感じです。思ったほど急な動きをする事はできなかったんですけど」


本当はそこそこ満足しているものの、微妙な師匠の表情の前でドヤ顔はさすがに出来ない。

そんなことをやったら空気の読めないアホ丸出しになってしまうからだ。


「ふうん、なるほどね。だったら<加圧弾>を上手く自分の手にだけ当ててやるのもいいかもね」


「そうですね、それならコウのイメージどおりの動きに近づくかもしれません。ですが<疾風>だけでやるのもありですよ」


「そう?あぁ、相手が対応しにくいか」


「ええ、相手は他の魔法を使うと型なんかの予備動作などで動きを想定できますが、疾風は常時かけっぱなしですから」


クエス師匠とボサツ師匠の議論が始まって俺はちょっと置いていかれてる。

が、話している内容から察するに俺のアイデアは決して悪くはないもののようだ。

想定した結果にはならなかったし、微妙に褒められてもいなけど俺はちょっと嬉しかった。



師匠たちが話しているうちに俺はすぐに次のアイデアを試す事にする。

さっき覚えた<風の板>を使ったものだ。これは簡単な魔法なので歩きながら使えた俺なら剣を振りながらでも使えるはずだ。


さっきのように剣を振り下ろすその途中に<風の板>を設置、剣が空気で出来た硬い塊に触れ反発するところで<疾風>の力を借りて跳ね返るように剣を動かす。

これは初見でそこそこ上手くいった。


さらに<風の板>を剣の軌道と微妙に異なる角度で斬りつける途中で当てる事により、斬撃の角度を微妙に変えることにも成功した。

俺は思わず心の中でガッツポーズをした。


そんな俺の行動をいつから見ていたのだろうか、師匠たちが再びほうほうと感心している。

やはり俺はやれば出来る子だったのだろうか。師匠からの好感度も爆上げかも知れない。



そう思って少しにやついているとクエス師匠が話しかけてきた。

「そうね~、爆上げにはもう一歩ほしいけどなかなか感心させられたわ。コウもやるじゃない」


師匠のお褒めの一言に俺はしばらく「でしょでしょ~」と得意げにしていたが・・あっ、今なんて言った?

「え?爆上げ・・あっ」


「爆上げじゃなくてもちゃんと上がっているわ、安心して」

クエス師匠がにっこり微笑むのを見て頭が痛くなる。


マジ?今俺<疾風>は解いたけど魔力の展開は怠っていなかったはず・・・なのにがっつり心を読まれた?

少なくとも口には出してないはず。


口に出していたらさすがに恥ずかしすぎる。

ボサツ師匠が何も反応していないことからも、俺の心が読まれたのは間違いない。


俺が顔を真っ赤にして恥ずかしがっていると、ボサツ師匠が近寄ってきて不思議そうにしている。


「ん、どうしたのですか?それにくーちゃんの爆上げって何の話です?」

「あーあーあーー!!」


俺はなんて誤魔化せばいいかわからず、とにかくクエス師匠の方を向いてそれだけは言わないでと必死に声を出しアピールする。

クエス師匠はふふっ、と笑ってボサツ師匠に実力の爆上げはちょっと言い過ぎかなって話よ、と説明していた。


「それなら、どちらかと言えば底上げですね」

とボサツ師匠が笑って返していたのを聞いて俺はいたたまれない気持ちになる。


それと同時に何とかクエス師匠の読心をレジストしなきゃと心に誓う。

だが、そんな俺の気持ちも読まれていたのだろう。


「そうね、頑張らないといけないわね」

クエス師匠は笑って俺の肩をたたいた。


これは道のりが長そうだ、俺は圧倒的な実力の差をこんな形で思い知らされた。




その後も今日覚えた魔法を復習することになり、型や使い方などの指導を受けて今日は早めに練習を切り上げることとなった。


「コウは朝から練習しっぱなしなんでしょ?まだまだ魔力量は多くないんだから今日はこの辺にしておかないと」


「そうですね。コウは朝から練習しっぱなしなんですから、今日はここまでです」


なんか妙に朝から練習しっぱなしを強調してくるが、なんなんだろうか。

実際朝から練習を続けていたので疲労は溜まっているが。


そう言えば異世界ものによっては魔力が0になると死んでしまうとか言う設定もあったんだし、そういうことなのかもしれない。

魔力は限界まで使い果たしてはいけないということだろうと俺は解釈し、師匠促されて素直に隠れ家へと戻った。



その夜、疲労からか早めに寝てしまったコウを置いてクエスとボサツは2人の部屋に戻る。

部屋への扉は1つだが、中は大きな部屋を2人で分け合って使っている。


一応仕切りはあるが、その仕切りも部屋の中央に半分までしか存在しないので、寝るとき以外は結構一緒にいることが多い。

今もボサツとクエスは一緒にいて、今日の会議の結果に対する対策やコウの指導に関して色々と意見を出し合っていた。


「うーん、1年後の公開は今更どうにもできないし、今はとにかくコウの指導に力を入れるべきかなぁ」


「そうですね。まだ考える時間はありますからもう少しいい手がないか、これからも意見は出し合ってみましょう」


コウを貴族街に住まわせるとなると偵察の者たちはどんどん訪ねてくるだろうし

からめ手でコウを自分のもとに引き寄せようとする者も出てくるかもしれない。


とにかくノーガード作戦だけはまずいということで2人の意見は一致した。


「それで今後のコウの育成方針なんだけど」


「くーちゃんちょっといいです?」

「ええ、いいけど」


「これはコウの育成という面でもあるんですが・・・この後私はコウを誘惑してきます」

「・・・は?」


クエスはいきなり方向が変わった話に全く付いて行けず固まってしまった。

が、すぐに思考を戻してボサツに冗談で言っているのか探りを入れる。


「さっちゃん、それってコウを男として育成するってこと?」


ジト目でボサツを見ながらクエスは真意を尋ねる。

ボサツはクエスの反応を少し楽しみながらも真剣な表情で返した。


「私もコウのことは気に入っていますし、伴侶にするつもりなら男としての育成も楽しみたいところですが・・・

 コウは女性経験がほとんど無いようですから、貴族街に放り出してハニートラップにかからないよう、今から少しずつでも訓練をしておきたいと思います」



ボサツの主張にクエスはそれも必要か、と思った。

あの才能が明るみなれば、我先にと奪いに来る貴族がいてもおかしくはない。


その際には、お金や地位を餌にする場合もあるし、当然女性をどんどんあてがって逃がさないようにする手もある。

質の悪い手に引っかかればコウは真っ当に活動することなく、優秀な子を産む道具にされかねない危険性もある。


クエス自身がそうなりそうだった体験をしているだけに、コウが狙われることは他人ごとではなかった。

もちろんコウの中にいるエリスには絶対にそんな思いはさせられない。



「まぁ、さっちゃんの言うことは一理あるわね。今のコウじゃ簡単にハニートラップに引っかかってホイホイ付いて行きそうだし」


「そこまでは思いませんが、耐性はつけておくことに越したことはないと思います」


クエスの歯に衣着せぬ言い方にボサツは少し笑いながらコウをフォローする。

だがボサツもその点はかなりの不安を感じていた。

だからこそ、こんなことを言い出したのだった。


「そうね・・でもあの手のタイプって逆に1度経験すると調子に乗るかもしれないわよ?」


「そうなりそうでしたら、私が将来の旦那様としてがっちり掴んで押さえ込んであげます」


ちょっと悪そうな顔をするボサツにクエスは笑いながら「その時は任せるわ」と軽い態度で返した。

質の悪い奴に比べれば、ボサツはよっぽど善良な方だ。実際コウもボサツに興味持っていそうだし。


夜這い云々の話はいったん打ち切って育成方針に移り、育成方針はもう少しペースを上げるということで一致した。

あと、コウが魔法使いとして契約した日は極秘扱いにすることにした。


このことは早いうちに本人にも伝えておこうという話になる。

コウが知らぬうちに話してしまっては秘密も何もない。

コウは元々腕がいいという話なら、本当の才能を隠すことができ、執拗に狙われることはないだろうと考えたからだ。



「そう言えばくーちゃんはいつの間にやらコウにすっかり入れ込んでますよね?」

「そう?」


「ええ、最初連れてきたときはエリスさんを取り出すまでの器だから大切にしてるのかと思っていたのですが」


ボサツにそう言われたクエスは、うーんと考えながら一度天井を見上げる。

が、すぐにボサツに向き合った。


「そう思っていたのは、コウに会う直前までよ。なんせエリスがコウのことを気に入っているんだもん。妹のお気に入りを物のように扱うつもりはないわよ」

クエスはいつからそう思いだしたのかよくわからなかったので、とりあえずそう答えた。


「そうだったんですね。くーちゃんの意志がどうなっているのかいまいち掴めていなかったので、ここでわかったのは助かりました」


「それにコウは素直だし、魔法知識の吸収は早いし、本当にいい子だからね」

「ええ、私もそう思います」


「そう言えばさっちゃんは他の弟子を取ったことあるんだよね?コウと比べどう?」


ボサツはすぐに思い出したのか、はぁ、とため息をついてクエスを見直す。

よほど嫌なことを思い出したのだろう、さっきまでの笑顔は消えて眉間に少ししわが寄った不満そうな表情を見せる。


クエスもその表情を見て察したのだろう。

「ごめん」と素直に謝った。

それでもボサツは嫌な弟子の事を話し出す。


「今まで6人ほど弟子を持たされましたが、いい思い出はありません。私に指導をお願いするのでそれなりに才能があったのでしょうが

 とにかく周りからすごいと持ち上げられてきていたので、基礎練はしない、牽制用の軽い魔法は覚えない、戦略もなくただ力でねじ伏せようとする、あまりいい記憶がありません」


「やっぱりそうよね、想像していた通りだったわ」


「それに比べるとコウは本当に楽しいです」

「よね~」


そしてクエスとボサツの話はさらに続く。


「そう言えばコウとエリスの・・」

「ええ、ですがコウが初期で・・」

「そう、ならもう少しかかりそうね・・」


そうして夜が更けていった。


本日も何とか更新できました!皆様のおかげです。

読んでいただいた皆様、ありがとうございます。

先週は何だったんだろうと思ってしまうほど、1つまた1つとブクマが増えています。ありがたいことです。

明日も・・。

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