属性の決定
やっと魔法位としての第一歩・・・をどうするか決める話です。
第一歩はもう少し先。
二人が隣の部屋から戻ってくる。
ボサツ様が心なしか笑顔になった気がするのだが気のせいだろうか。
「色々話し合った結果、2人で貴方を指導することになったから」
「そういうことですので、よろしくおねがいします」
ちょっと険悪な雰囲気になっていたので心配していたが
どうやら二人の話し合いは指導のことだったのかとわかり俺は安堵した。
もしかして俺を取り合っているのでは!と一瞬想像するがクエス師匠から心を読まれると汚物を見るような眼をされそうなので、頭の中から即座に消去する。
そういう状況を喜ぶ人もいるというが、俺はいたって健全な高校生のつもりだ。
「改めてよろしくお願いします」
2人の師匠に自分を託す気持で、俺は声を張り上げ頭を下げた。
「さーて、まずは魔法使いになるために精霊と契約するところからね。とっとと済ませておきたいわね」
魔法使いになる方法なんて特に聞いていなかったけど精霊との契約が必要なのか。
とっとと済ませてとか、ちょっと雑な対応じゃない?そんなんでいいのだろうか……いいんだろうな。
「とりあえず順を追って一通り説明しなきゃだめですよ、くーちゃんは」
クエス師匠の雑な説明を見かねたのか、ボサツ師匠が割り込んできた。
それからボサツ師匠の一連の流れが説明される。
「魔法使いになるにはまず精霊と契約が必要となります。また、初めて契約したとき肉体が魔素体に変化するのであらかじめ決めておかなきゃいけないことがあります。
コウ、貴方はどの年齢での肉体で固定したいですか?これは最初しか決められないことです」
「に、肉体年齢の、こ、固定?」
予想外の展開に思わず声が上ずってしまった。
固定ってことは多分老化しないと言うことなんだろう。
普通に考えれば信じられない話だが、わざわざこうやって聞いてくるくらいだし…本当なのかもしれない。
ん!?ということは…もしかして今目の前にいる二人も見た目よりずっと年を取っているのだろうか?
「ふ、普通はどれくらいで固定するものなんですか?」
俺は戸惑いながらも質問した。
ファンタジーものとか結構好きでいろいろと読んでいたが、老化しないパターンは長寿の種族くらいしか聞いたことないので俺の知識では意味がない。
とりあえず一般的な情報だけでも参考にしたい。普通なら20歳くらいでいいような気がするんだが。
と考えているとクエス師匠が説明をしてくれた。
「普通は体の調子が良好な15~25くらいね。ここでの人種の平均寿命は60ちょいくらいだし、若い頃で固定する人がほとんどね」
日本よりは短いとはいえ、数百歳とかではないようで少しホッとする。
「けど15歳で固定ってさすがに若くないですか?」
「身長とか大幅には伸びなくなるけど、体の筋肉とか感覚はある程度成長するからね。もちろん固定した年齢に影響は受けるけど。
500年くらい経つとほんのわずかずつ老化すると言う話もあるからか若いに越したことはないかも。それに男は若い女の方が好きなんでしょ?」
俺の頭の中を覗いたクエス師匠の軽い嫌味、では無いと思うがこちらにも地球と同じタイプがいるということは理解できた。
こちらの世界にも年下好き(ロ●コン)はご健在と言う事か。
「えーっと、それなら19歳くらいがいいです」
もうちょっとは大人になりたい、大学生とかあこがれるなぁ。そういう単純な考えで19歳という年齢を指定した。
「では、あとは属性の習得順ですね」
ボサツ師匠が少し真剣な顔つきになる。
19歳で固定するという俺の決心は「そう」って感じで軽く扱われてしまった。結構一大決心をしたつもりだったんだがなぁ。
「属性の習得順はとても大切なんですよ」
そう言ってボサツ師匠が虚空からA4サイズぐらいの黒いボードを取り出す。
その黒いボードは宙に浮くと光りだして文字が表示される。表示されている文字はなぜか日本語だ。
「日本語!?」
俺が驚くとボサツ師匠は何のことかわからずクエス師匠の方を見る。
「あぁ、その翻訳機能のおかげよ。聞いた言葉だけじゃなく見た文字もコウがわかる文字に変換しているのよ」
「そんなことも出来るんですか?」
「そうそう、だから今は気にせずに聞いててね」
随分とんでもない性能じゃないかと驚きつつも、俺はこの性能に感謝した。
そしてボサツ師匠を見て、大丈夫なんで始めてくださいと伝えるために軽くうなづいた。
「長い説明になるけどちゃんと聞いて下さいね。もちろんこちらからも最適な案は提案しますが、あなた自身が納得せずに決めるのはよくないと思っています」
今からされる話がどうやら重大なもののようで、俺は真剣な表情になる。
「属性は覚える順番に第1属性、第2属性、となっていきます。第1属性には制限が無いですが、第2以降には制限があります」
「制限、ですか」
「ええ、第2は第1の半分までしか成長できない。第3は第2の半分まで、つまり第1の四分の一までしか成長できないのです」
ボサツ師匠が説明しながら先ほどのボードに第1→1/2→第2→ と表示されていく。
これは丁寧に説明されなくてもとりあえず飲み込めた。しかし強烈な制限だ。
どうやらここは一つの属性特化が推奨された世界のようだ。
「だけどこれには例外があります。それは特殊なスキルを持ってる人ですね」
ボサツ師匠の説明は続く
「程度にもよりますが、属性の加護を持っている者はその加護の属性が第二以降だと、1/2限界が軽減されるのです。もちろんその属性だけです」
無いよりはずっといい効果。といっても制限が無くなるわけではないので厳しいことには変わりない。
「そしてもう一つ、2色使い、3色使いといった複属性が許可されるスキルがあります。この場合、その数まで軽減効果なしです」
おぉ、ずいぶんと便利なのがあるじゃないか!
単色がメインっぽい世界でいろいろな属性を使えてこそ異世界チートというものだ。
まぁ、俺が持っているとは言われてないけど。
「師匠質問なんですが」
「なんでしょう?」
「そのスキルはどうやって手に入るのでしょうか?」
持っていないと上限まで上げられるのは1つの属性だけになる。2色でもいいからぜひ欲しいスキルだ。
しかしボサツ師匠の答えは結構厳しいものだった。
「生まれながらに持っているか持っていないかです。血筋で受け継がれることが多いので貴族はこのスキル保持者を囲い込んでます」
うわー。でたよ、貴族。しかも有能なスキル囲い込みとか生まれながらの圧倒的格差社会って事か。
て、ボサツ師匠も貴族、いや大貴族様だったか。クエス師匠もいるし、ここでの貴族に対する不敬な思考はやめておいた方がよさそうだ。
「と言っても多色使いのスキルに関しては、貴族の囲い込みもあまり功を奏していませんけどね」
俺の「え?」と言う顔を見てボサツ師匠は少し笑う。
「そもそも、2色ならまだしも3色も伸びる属性を持つ才能の持ち主はそんなにいないんですよ。だから3色のスキルを大勢が持っていたとしても大半は宝の持ち腐れにしかならないのです」
なるほど、世の中そうそうお手軽に強者を集められるとはいかないものですな。
そう思いながらなんか嬉しくなった。どこかにざまあみろという気分があったのかもしれない。
別に俺が多色スキルを持ってて才能を有効に使えると決まったわけでもないのに。
とにかく魔法使いになる契約を精霊と結ぶことになった。
今はどの順番で契約するかで師匠たちと相談中だ。
こっちの世界に来ていきなり、今後にかかわる重大な選択(いわゆるキャラメイキング)を迫られるとか正直勘弁願いたいのだが
早く決めないと先に進めないのは間違いない。魔法使いにならないと修行も何もできやしないのだから。
最初にして最大の選択ということか。せめて自分の才能をわかる範囲で知っておきたい。
「そ、それで俺の才能はどう……なんでしょうか?」
クエス師匠には、ある!としか聞いていないので正直不安でいっぱいだ。
とはいえ、才能を知ってみない事には始まらないので、俺は恐る恐る聞いてみた。
「あれ?くーちゃんに見せてもらってないのですか?」
「あ、あー、見ても説明長くなりそうだったから後にしようと思って。あはは……」
クエス師匠は忘れてたー、と言わんばかりの表情。一瞬この部屋が沈黙に包まれた。
「もう、これを本人に見せておかないと始まらないじゃないですか」
ぶつぶつ文句を言いながらクエス師匠に紙を出させて、ボサツ師匠が俺の精霊の啓示を広げ解説までしてくれた。
これってクエス師匠の役目だよね、は言わない方が身のためか。
「この薄緑と水色が風と水の属性ですね。幅広く円の外周まで達しているので最高LVの45まで上がる可能性が高いことを示してます」
「その次にこの長い黄色は光属性。ただし幅が狭いので光の中でも光付与とかレーザー系しか使えない可能性があります。
応用と言いますか、光属性内の使える系統が狭いと思ってもらえれば問題ありません。この辺の詳細はあとで教えます」
「幅広い濃い青は氷属性、こっちのやや広いピンクは夢属性、ほぼ直線の黒は闇、広めの白は聖属性ですね。黒と白が半分ちょっとですね。しかしこう改めて見ると7色がほぼ半分以上とかすさまじいです」
単色が多い世界で7色、実感は何もないが俺はすごいらしい。才能アリと褒められてなんか嬉しくなってきた。
だが先ほどの説明から、7色とも満足に使えることはまずなさそうだ。もったいないが仕方がない。
こうなってくると俺が持っているスキルを知りたくなる。
スキルが無ければ1色しか使えずに、この多岐にわたる才能も所詮絵に描いた餅でしかない。
「師匠、スキルはどうやってわかるのですか?」
ドキドキしながらおれは2人の師匠に尋ねる。
「それがねー、実際に精霊と属性契約してみないとわからないのよ」
クエス師匠が困った顔をしながら教えてくれた。
ええぇぇーー、最高の潜在能力引いたとおもったらそれが発揮されるかどうかのスキルがわからないとか。
2段階制の闇鍋ガチャかよ、この世界の魔法使いの能力決定は。
運営?精霊?に文句を言いたくなったが、わからないものは仕方がない。
「まぁまぁ、ここをみてください。貴方は2個はスキル持ってることは確定してます」
ボサツ師匠が指さすと円の右側にある四角のマスに
■▲■▼と落書きみたいな塗りつぶしが2行表示されていた。
「何のスキルかは不明だけど、最低2個はあるから多色が使える期待はできます」
ボサツ師匠の説明にクエス師匠が言葉を重ねる。
「ちなみに2属性目を契約するまで2色持ちかどうかはわからないから。3色持ちなら3属性契約時まで、わからないからね」
事前の検査で才能がわかっても属性選びは博打をやらなきゃいけないようだ。
ここの精霊は、いやこの世界はかなり意地が悪いんじゃないだろうか。
「普通は才能あっても、一つだけ飛びぬけてるのが多いので順番はほとんど悩まないんですけどね」
「コウの場合は風か水か、あと光をどの順番に持ってくるかだね」
クエス師匠の言葉に俺は疑問に思う。円の外周まで近い順で言えば、風と水が同じ。光は外周まで届いていないのでどう見ても3番目だ。
普通に考えれば風or水→光→氷で決定じゃないかと思っていたので、光を入れる順番に迷うのが気になった。
「クエス師匠、光は3番目では駄目なんですか?普通に才能が伸びる順だと3番目みたいだし」
「まぁ、それでもいいんだけど……私たちのいる国は光の連合国に所属していて、その中心がルーデンリア光国なのよ。
で当然の話だけど、ここでは光属性が優遇されるから」
なるほど………マジか。
まぁ光の国なら光属性を優先するよな、当然。
「でしたら、風の国とかは……」
「残念ながら今は光の連合国と闇の国が対立してる状況なのです。他の属性の国はほぼ無いか、あっても配下に組み込まれています」
「そういうわけなのよねー、でも風と水が45まで育つなら光を踏み台にするのもありと思うけどねぇ、私は」
「くーちゃん、貴方の立場でそれを外で言うと問題になりますよ?」
「さすがにそれはわかってるって」
日本にいたころは風と水は精霊という概念ではなかったけど
こっそり風神様、水神様として簡単な祈りをささげていたくらい俺には親和性がある。
落ち込んでいるときにやさしく吹いてくれる風神様に感謝したり、出かける直前に雨足が弱まったりすると水神様に感謝したりしていた。
一方、光に大しては何ら感情を持ったことはなかったからあまり優先したい気分にはならない。
そりゃ才能があったなら別の話だが。
「どういう順番にするかはコウが自由に決めていいわ、あなたの魔道なんだから」
「確かにそうです」
俺の魔道、つまり人生ってことかな?師匠たちには優秀な光属性使いの弟子を自慢するような欲求はないのだろうか?
自分で言うのもなんだけど、せっかく才能のある弟子なんだし、国に対してどや!出来る弟子の方がいいと思うんだけどなぁ。
とはいえ師匠がそう言う頓着を持たず俺に選択肢を与えてくれるのはありがたい話だ。
どうやら師匠は2人とも懐が広いようだ。そんな2人に出会えたのは感謝しかない。
「まっ、3色使いのスキル持ってたらさっきまで何悩んでたんだか、ってなるけどね」
「た、確かにそうですけど…」
その通りなんだけど、悩んでるときそれを言われると複雑な気分になります。
そして俺は決断した。環境ではなく自分の心に沿った選択を。
「風、水、光、氷で行きます」
「まぁ、妥当でしょう」ボサツ師匠は満足な様子。
「うーん……あえて光を3つめにするかぁ、まぁコウの決めたことだし」と、クエス師匠もそこまでご不満ではない様子。
「よし決まったなら契約ですね。風と水は私が担当しますので、くーちゃんは光をお願いします」
「りょーかい、あと氷は契約簡易キットをつかうね」
2人の師匠はバタバタと準備に取り掛かり始め
俺はそれを見ているだけだった。正直何していいかわからんし。
その夜は持ってきたラフな格好に着替えて用意してもらった布団でゆっくり寝ることになった。
最初は凄い機能のある布団なのかと期待したが特に暖かくなることもなく、すぐに寝落ちできることもなく、ごくごく普通の布団だった。
「異世界しょぼいな…」
ちょっとだけ愚痴って寝た。
設定厨の悪い部分が出てそうで、書いていて自爆しそうですが
気にしても仕方ないと思うことにします。
読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。
修正履歴
19/01/05 後書き部分
19/01/30 改行追加
19/06/30 文を一部追加 白いボードを黒いボードに変更
20/07/14 ボサツの口調や一部表現を変更