魔法を独学で覚えてみる
クエスが当主たちに事実無根を訴えている間、コウは1人隠れ家で初めての独学を行っていた。
一方その頃、隠れ家では・・
師匠が二人とも出かけてしまったので、俺はこの状況で今まで出来なかった事がこのチャンスに出来ないか考えてみる。
が、結局修行しかやることはないなという寂しい結論に落ち着いた。
ここはTVやネットなど、娯楽と言えるものが何もないので、暇をつぶす方法が無いと言っていい。
(そもそもこの世界にどんな娯楽があるのかは知らないが)
となれば落ち着く先はやはり魔法の特訓ということになる。
高校での嫌な思い出「泊まり込みの勉強会」を一瞬思い出したが、勉強以外何もやることが無いあれと今の状況は違う、絶対に違う。
あまり実感はないけど圧倒的才能を持って魔法の特訓に励んでいるんだから、何回やってもなかなか歴史上の人物名が覚えられねぇ、と嘆いていたあの時とは違う・・はずだ。
ひとまず体感30分程瞑想をこなして魔力の準備運動を終えると、まずは昨日やった<明かり>の魔法の復習から入った。
夜の練習では明るさの調整を色々と試したので、今度は少し視点を変えて魔核の配置のやり方を試してみる。
歩きながら一定距離に魔核置いてくのは、歩きながらという部分が結構難しかった。
魔法核の配置場所が自分が移動することにより距離がずれていくので魔核の配置自体に苦戦する。
<明かり>のような魔核3個の配置なら簡単なので同時にできなくはないけど、移動しながら1個ずつ配置していると微妙にずれるのだ。
これはちゃんと出来るようになっていないとダメだろうな、そう思って歩きながら配置する事を何度も繰り返した。
「うーん、最初よりはましになった・・かな?」
何度も練習するうちに少しはましになったと思う。
あくまで個人的な感想だが。
ただ出来具合を確認するのに問題があった。考えて見るまでもなくわかることだが今は朝。
正直魔核が微妙にずれて明るさが変わっても、その結果が非常にわかりにくかった。俺は何をしているんだろう。
出来具合を判別するような機械があれば効率のいい練習をすることもできるんだろうが、今ここにそんなものは無い。
そう思いながら明かりの魔法の練習はここまでにすることにし、他に9冊も本があるのだから次を練習してみようと扱いの得意な風属性の緑の本を1冊とってみた。
他の本よりちょっと厚めの本だ。
どの魔法書もハードカバーになっているがこの本は中身が多いのか厚めになっていて高級感が増しているように見える。
そういえば、魔法書って高いのかな?
とりあえず表紙は何となくすっ飛ばし、最初のページを見てみる。
ぱっと目についたのは数字だ。風LV34となっている。これはこの魔法を使うのに最低限必要なLVということなのだろうか。
これに関しては高いとは思うが自分が届いているのかどうかわからない。
師匠は俺の属性のLVに関して何も言ってくれないんだもんな。
あっ、でもこの前25はあるとか聞こえたよなぁ。おいおい、それなら全然足りてないじゃん。
なんで師匠はこの本を10冊の中に紛れ込ませたのだろう?
そうは思いつつも、自分が使えないほどの高LVの魔法はどんなすごいのだろうと興味を持って色々と見てみることにする。
最初のページは表紙と同様に魔法の名称や必要レベルが書いてあり、ちょこちょこと説明書きが加えられていた。
「えっと、魔法名は・・たつま、き?」
自動翻訳のおかげだろう。
『竜巻』としっかり漢字で書いてある。見間違いではない。
竜巻と書いてあるんだから、あの竜巻だろう。すぐに日本から海を越えた向こうの国で発生するハリケーンみたいなものを想像する。
んー、いや、さすがにあれはないか。でかすぎる。
だとしたら、日本でのつむじ風みたいなものだろうか?
さすがにLVが高いんだしもう少しは威力はあるのかもしれない。
ちなみにページの一番下は著者の名前なんだろうと思いつつ見ると、ボサツ・メルティアールルと書いてあった。
これは師匠の著書ということなのだろうか。
基本的な情報の消費魔力とか、とりあえずすっ飛ばして型を見てみる。
今のところは魔核で型を作ることに苦戦したほどのことはなかったと思うが、高LV帯の魔法は普通に考えて難しいはず。
なのでこれをいい機会に軽く練習しておくのも悪くないと思った。
まぁ、これもボサツ師匠の指導における作戦なのかも知れないが、騙されていようがやはり好奇心には勝てない。
2~3ページ目:必要な精霊の紹介など
4ページ目:なぜか白紙だった
この辺はとりあえず流し見する。正直今の俺にはよくわからない内容だからだ。
そして5ページ目にようやく目的の魔法核の配置が載っているページを見つけた。
俺は魔法核の配置図が乗っているページを見て驚愕した。
底に正五角形を作りその正五角形の中心から昇竜した軌跡かのように魔法核が12点も配置してある。
さらに昇竜する軌跡から何個かは外やうちに魔法核をつなぐ線が伸び、複雑怪奇な配置になっている。
これをきっちり作るとか無理ゲーだろ。そう思いながらも試しに形になるかどうかだけでもやってみようと思った。
とにかく平面図だと分けがわからないので立体表示を見ながらやってみたいが
本に触れていないと立体図を出すことが出来ない。しかも魔道書の上に表示されるので小さい。
これではこんな複雑な図はまともに真似すら出来ない。
そう思って持ってきた本を何気に置いた机を見ると何か書いてある。
「この円の中に魔道書の配置図ページを開いたまま置いて左の紫のパネルに触れましょう」
ボサツ師匠だろうか、クエス師匠だろうか、どうやら何かありがたいギミックを用意してくれていたようだ。
本音を言うなら用意してくれたのなら教えてくれてもよかっただろうに、と思ったけど。
とりあえず書かれている通り、竜巻の魔道書のあの複雑な配置図のページを開き机の上に描かれた円の中に置く。
一瞬円が黄色に光るもののすぐに消える。俺は何だろうと思ったが魔法のアイテムなんだろうし気にせずスルーする。
そして紫の石っぽいパネルを触れて魔力を流すと、再び本の周りの円が黄色に光り緑の光で竜巻の魔核の立体的な配置図がテーブルの横に表示された。
昼に近づいていて明るくなっているはずなのにその立体的配置を示す光ははっきり見ることが出来た。
改めて確認してみると竜巻の配置は魔法核32点で定型的な図形性のない複雑な配置。
しかも魔核が丸や立体的なひし形など数種類が混ざっている。
「うわっ、こんなん絶対無理だわ」
そうぼやきながらも俺は好奇心に惹かれ、それを見ながら1つ1つ形を真似していった。
10分ほど配置を確認しながらやっていると何とか完成する。
竜巻自体、TVでしか見たことないのでなんとなく渦を巻いて砂埃を巻き込み、上空まで続く空気の渦を想像する。
その竜巻の姿を想像したまま本に書いてあった詠唱を心の中で思う。
「風よ、渦を巻きより強くより早く、地にあるものを巻き上げ風の力ですべてを破壊せよ」
見たときはちょっと物騒な言葉だなと思いながらも、詠唱自体もこの魔法をイメージしてるんだなと感心した。
しかし詠唱しているもののちっとも型に精霊からの魔力がやってこない。
「これは・・ダメっぽいな。やっぱLVが足りないのかな、それとも何か他に要るのかな」
これを出来たら師匠にかなり褒めてもらえるだろうなー、と少しウハウハな妄想をしながらもそれが無理そうだとわかり軽くへこんだ。
出来そうにないし次の魔法書でも見るかなと思いつつ、ふと隣のページに目をやると注意事項などが載っている。
『威力が高い魔法なのである程度広い平地で行うことを推奨する』
『自分から最低10mは離れた場所で魔法核を作るか、作った後に詠唱中に離れること』
まぁ、この辺は当然だろう。そういや詠唱中に離れるという手があるのか、ふむふむ。注意事項も意外と参考になる。
更に読んでみると【重要】と書かれている部分に思わず固まってしまいそうな注意事項が目についた。
『初めての時はコントロールが難しいので、近くに住居や施設など破壊してはいけないものの近くで練習はやらないこと』
「え゛っ・・・。これマジかよ」
思わず変な声が出た。
当然だが、俺が練習しているのは隠れ家の隣にある広い地面だ。ほかの練習場所などもちろん知らない。
これ、もし俺が竜巻を発動させていたら怒られるとかじゃすまないんじゃ・・ボサツ師匠はいったい何の意図でこんな魔法書を今回混ぜ込んだのか。
ボサツ師匠って一見普通のおしとやかな女性なのに、どこかやばい一面がちらつく人だよな。
複雑な型を必死に完成させたり、多量の魔力を放出したのでだいぶ疲れていた俺は、少し休憩を取り魔力回復の瓶を取りに部屋へ戻る。
いつもの大部屋でわずかな量の魔力回復薬を飲みながらこの後どうしようか考えていた。
とりあえず<竜巻>はとても習得できなさそうなので、次は別の風の魔法にするか、水にするか、光かなと色々と考えているとふとよこしまな考えが頭をよぎる。
今日はいつも師匠達が帰っていく部屋への扉は開いているのだろうか、と。
何気なくその取っ手に手をかけて戸を左に引いてみると普通に開いた。
俺は突然心臓がバクバクし始める。これは・・このまま行っていいということだろうか。
ごくりとつばを飲み込み完全に扉を開いてその部屋を目に焼き付けようとしたが・・そこはただの廊下だった。
考えてみれば当たり前だ。ここはいつも座学で使っている図書室に通じる廊下でもある。
変な期待をし過ぎて何度か通っていたこの廊下の存在を忘れているとは・・欲望って本当に恐ろしい。
「落ち着こう、落ち着こう、俺」
自分に言い聞かせるように俺はつぶやくと、改めてこの一直線の廊下を確認する。
この廊下は右側の手前と奥に2つの扉があり、そして廊下を真っ直ぐ行った正面にも扉が見えた。
正面の扉は何度か座学で通った図書室への扉なので、残るのは後2つの扉だ。
普段座学に行くときは意識していなかったが、この扉のどちらかの先に師匠たちの部屋があるはずだ。
そういえば師匠たちは夜中の外での練習のとき、大部屋を通らず、大部屋とは反対側の扉に入っていった。
そこから考えて、師匠たちの部屋は右側の奥の扉の可能性が高い。
俺は『我ながら名推理かもしれない』と思いながらも、まずは近くにある右側手前の扉に手をかける。
ここは位置的に玄関の正面になるので、あまり広くない部屋になるはずだがとりあえず確認をしておきたかった。
秘密の小部屋なのか、もしかして地下への入り口とかだろうか。
そんなことを考えながら扉をゆっくりと動かそうとしたが・・動かない。力を入れてみたがやはりだめだった。
まぁ、ここは本命ではないのでさっさと諦めることにしよう。
やはり奥の扉、こここそが師匠たちの部屋に繋がる扉に違いない。
あくまでこれはやましい気持ちからではない、純粋な探求心からだ。
とアホなことを自分に言い聞かせながら右側奥の扉に手をかけたが、やはりこちらも動かない。
力加減を変えてみたりしたが、やはり扉は動かない。
うーん、純粋な気持ちで師匠たちの生活場所を見てみたかったのだが、失敗に終わってしまった。
もしかして邪な心があるかどうかチェックして開く扉だったりするのだろうかと一瞬考えたが
んなわけないか、と思いながら諦めて大部屋へと引き返した。
大部屋でしばらくすると少し冷静になれたのか、先ほどの欲まみれの行動を思い出し反省する。
俺はいったい何をやっていたんだ・・
そして気を取り直して再び外に出て魔法の練習に励むことにした。
いろんな属性を覚えてみるのもいいけど、やはり俺は風が第一属性だし得意っぽいので風を全部読んでみることにする。
手に取ったのは<風の板>という魔法。空気を固定化してプレート状のものを作る魔法らしい。
使い方を見ると、その上に乗ったり道具を乗せて進ませることで運んだり出来るらしい。
まだ1週間程度の初心者の俺に実にふさわしい魔法だ。
そのままだと魔力を見ようとしない限り透明なのが問題だが、一手間加えると薄緑に光るって見えるのがいい。
割と簡単に出来たので、どこまで荷重が耐えられるのか試そうと作った<風の板>の上にそーっと乗ってみたが折れたりしなかった。
透明状態だと空中に立っているように見えるので、地球ならこれ一つで宗教団体の開祖にもなれそうだ。
これって空中戦にも使えるのかな?と思ったが、隠れ家の敷地から出てはいけないと言われているし試すのは止めておく。
物を乗せて動かすことも出来るらしいので、試しに乗ったまま動かしてみるとそこそこ魔力を使う。
乗せているものの重さで使用する魔力が変わるのかもしれないが、これはあまり効率が良いとは思えない。
自分で地面を歩いたほうが断然楽だった。
発展形として物を載せてパターン化した移動をさせることで運搬にも使えるらしいが、荷物だけが宙に浮き並んで移動しているさまを想像するとあまりにシュールで笑ってしまった。
ちなみにこの本もボサツ師匠が書いたものかと思ったが、著者はオブル・シュートリームという知らない人の名前だった。
この本の3ページ目にはスコアと光る印が載っていて、88点となっている。これは100点満点なのだろうか?
考えてみると俺は師匠たちからこの本に関してぜんぜん説明を受けていない。
机といい本といい、師匠たちが忙しいのはわかるが説明不足だらけだし、ちょっと雑過ぎないだろうか。
なんか俺がしっかりと質問しないと適当に扱われるんじゃないかという気分になった。
とりあえず<風の板>はひとまず習得できたので、テーブルの脇の<明かり>の本の上に積んで次の本を探す。
<竜巻>ではずいぶん苦戦した挙句結局使えなかったので離して置いていた。
この調子ならどんどん覚えられそうだ。
簡単に<風の板>が使えたことでちょっと自信も出てきてやる気も出てくる。
もちろん今日覚えた魔法も、ちゃんと後で復習しより良い形にしていくつもりだ。そう思いながら次の本を選んだ。
今話も読んでいただき、感謝であります。
仕事を持ち帰ってやっていたため、取り掛かるのが遅かったですが
前日にある程度修正していたので・・何とか更新完了できました。
ふぅ、と思いきやまたもやブクマが増えています。ありがとうございます。
1週間ほど全く動かなかったのに・・ありがたや、ありがたや~
よし、明日も更新する・・ぞ! ブクマしてくれている皆様、やる気を与えてくれて本当に感謝しています。




