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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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付け焼刃の礼節を学ぶ

ここまでのあらすじ

クエスは身の潔白を少しでも示すために、会議で説明することになった。

その前に一門のトップであるボルティスにコウを会わせることにした。


まだ薄暗い中、俺は目を覚ました。

いつも寝ているこの大部屋は時計も明かりもないので普通なら不便極まりないが、この世界では真夜中でも薄暗い程度なので明かりの必要性はあまり高くない。


だけどせめて時間がわかる物が欲しい。時計とかあると便利なんだけどな。

そう思いながらもう一度寝ようと思ったが、なかなか寝付くこともできず30分ほどだろうか布団の中で悩んだ後に外へ出て瞑想でもすることにした。


外は少しだけひんやりとするが気になるほどじゃないので、そのまま定位置の石の上に座って瞑想を始める。

最初は無属性、30分ほどして風属性で瞑想をと考えたが、正確な時間がわからないしそのまま流れでやることにする。


魔力を一定距離まで広げて・・その範囲内に出来るだけ魔力を大量に放出して・・維持する。

まだ数日とはいえ結構俺も慣れて来たんじゃないかな。俺はちょっとだけ自信をつけていた。


しばらくして風属性で瞑想を始めた頃に玄関の扉があきボサツ師匠が外に出てきた。

この間もだったが、多分俺がどこで何をしているのかきっちりとチェックしているんだろう。


じゃないと毎度毎度タイミングよく師匠が出てくるはずがない。

逆に言えばこんな時間に起きて瞑想することで師匠に迷惑が掛かっているんじゃないかとも思う。



挨拶は目下からというマイルールで俺は先に声をかけることにした。


「ボサツ師匠、おはようございます」

「おはようございます、コウ。昨日は魔力使いすぎてダウンしていましたがもう大丈夫なのですか?」


「はい、一晩寝てすっかり回復しました。で、その、朝から起こしてしまったようですみません」


さすがに俺の行動チェックしているんでしょ?なんて言えないのでちょっと言い方を変えてみた。

まぁ、少し申し訳なく思っているのも本心だから当たり障りない言い方をやってみたが・・・。


「コウはそんなことを気にしなくていいのですよ?もともと安全対策のために入口等に何かが通ると連絡が来るようになっているのですから」


そうなのか、まぁ、そういう仕組みはあるよな。何となく俺は納得した。


「それでもやっぱり・・起こしてしまいますよね?」

「コウが強くなるためならどんどん起こしてください」


ボサツ師匠がニッコリとそう語るので、少し申し訳ないと思いながらも俺はこれ以上気にしないことにする。



気を取り直して俺は再び風属性の魔力を展開して瞑想を再度始める。

ちょっといい所を見せねば!と気負ってしまったのか、10分ほどで形を維持できなくなってしまった。

限界まで魔力を放出してコントロールしていたからか、体全体が少しだるい。両掌を地面についてゼイゼイと息を吐く。


「コウ、少し休憩しませんか?」

師匠の一言に俺は黙ってうなずく。

まだ「はいっ」と声を出すのも厳しい。


「本日の予定なのですが、コウには突然で申し訳ないのですが少し予定を変更することになりました」


俺は別にどうこう言える立場だと思っていないので、はぁそうですか、という表情で師匠に顔を向ける。



「そうですね・・今ここで話しておいた方がいいでしょう。コウには急な話ですが本日の昼頃、コウには上級貴族の当主様に会ってもらうことになりました」

「はぁ・・、ふぇっ!?」


あまりに突然な展開で俺は変な声を出してしまった。

上級貴族の当主!?確か7人いるこの連合で一番偉い人たち・・だったよな。


そんな人が隠れ家でこそこそと練習している程度の俺に興味を持つとはさすがに思えない。

いったいどうなっているんだ。


俺の慌てふためく様子を見てボサツ師匠は少し不安げな表情になる。


「元をただせばくーちゃんが悪いのですが、まぁ、簡単に言いますとくーちゃんがへまをしてコウの存在を見せないと収拾が付かなくなってしまったのです」


俺は何を言っているのかいまいちわからずきょとんとした顔で師匠を見つめる。


俺みたいな異世界からの異物を検知する魔法にでも引っかかったのだろうか。

この世界に来て日も浅いうちに、早々に厄介ごととは正直勘弁して欲しい。


「そういえば昨日でしたか、話したとは思いますがくーちゃんは世間では凶悪な存在とされてます」

「あ、でしたね」


「そのくーちゃんが・・」

「ちょっとまって、さっちゃん。あのこともう話したの!?」


どこからこの話を盗み聞きしていたのかは知らないけど、自分の話になったからかクエス師匠が玄関から出てきた。

小恥ずかしいのか、それ以上は勘弁して欲しいという表情だ。



「もう私が説明するわ。とにかくそんなんで悪評の私がコウをこっちに連れてくる間、とその前の準備期間もか

 ほとんどどこにも顔を出さなかったから色々と疑われてるの。で、悪いことはしてないですよ、結果としてコウを弟子にして指導してますよ、って説明したいわけ」


「あっ、はい、わかりました・・」


俺みたいなのを出して納得してもらえるのか不思議だが

これだけ御世話になっている立場だし拒否権も元からなさそうなので、俺はとりあえず了承した。


「ひとまず事情を理解してもらえたなら助かるわ、それで朝からさっちゃんに最低限の礼節を習って欲しいのよ」


「えっと・・今日朝だけで・・ですよね」

「大丈夫ですよ、あくまで最低限、ですから」


ボサツ師匠は優しくフォローするが貴族社会の礼儀とかすごく厳しそうなので

ひょろっとやってきた俺が半日で身につけるとか、とてもじゃないが出来る気がしない。


に、逃げたい。そう思うが俺の実力とは比較できないほどすごいこの2人から逃げられるわけも無く・・

結局俺は覚悟を決めざるを得なかった。



朝食後すぐにボサツ師匠といつもの図書室に行く。

クエス師匠はその間に謁見の時間を相談しに行くそうだ。

随分ばたばたしてることから、今回の事がいかに急に決まったかがよくわかる。


そして礼節の指導の前に俺はさらにいやなことを聞いてしまった。


「まず先に言っておきますね。今回お会いする上級貴族の当主様はボルティス・ギラフェット様

 ルールにはかなり厳しい方です。まぁ、くーちゃんが復帰してからはだいぶ振り回されて、最近は昔よりルールに緩くなったと言われてますけれど」


「えっ・・と、それはこんな俺じゃまずいのでは・・」


「ええ、なので付け焼刃であれこれと教えるのは下策になります。今回は基本的に謁見の間に入るときの姿勢

 挨拶後の行動の仕方、それに簡単な受け答えだけを教えておきます。少し厳しく行いますが頑張ってついてきて下さい」


師匠はそういうとさっそく俺の姿勢と歩き方を矯正し始めた。

背筋は真っ直ぐ、両手は伸ばす。自分の周囲の魔力は1cm程度の厚さに抑える。


あごは引いて歩く。当主様は入場のときに遠くから1度だけ見てそれ以降は許可が出ない限り絶対見上げない。

返答は「はっ」と「いえ」のみにする。

一定距離まで近づいたら左腰に武器がある場合や何も持っていない場合は左膝を立て、右膝を地に着けるなどなど・・


何度も実践させられてはダメ出しを食らったが、3時間もすればとりあえず乗り切る程度は出来るようになった。

しかし当主様を遠くから見るだけで近づいた後は片ひざを折った姿勢で頭を下げ続けるとかなかなか厳しい作法だと思う。

そう思って俺は師匠に聞いてみた。


「師匠」

「はい、なんでしょう?」


「その・・近づいた後は顔を下げたまま地面を見続け、帰るときも頭を下げたまま回れ右をし当主様を見てはいけないんですよね」

「ええ、その通りです」


「そのぅ、呼んでいただいたのに顔を見せないというのは何となくですが失礼にならないんでしょうか?」


師匠は、ふーんと少し考えたようだったがすぐに答えてくれた。


「そうですね、同じ階級・・例えば貴族同士ならばそういう考えもあります。

 ですがコウは下級の準貴族、相手は門閥トップの王族である当主様。普通なら同じ場にいてはいけないほど地位に差があります」


同じ場にいる資格もないという事か。おっと・・これは思った以上だった。

驚いている俺に師匠はさらに説明を続ける。


「普通、準貴族が会って話をしても問題ないのは属している家の全員と同じ準貴族、そして派閥内の同格または一つ上の家、コウだと中級貴族の王族を除く貴族までです。

それ以外は面会をお願いしても基本的に門前払いですし、無理に会話をしようとすると大方謹慎、状況によっては投獄も有りえます」


「そこまで、なんですね」


「準貴族は貴族の中でも一番下。御情けで貴族側にいるという考え方が貴族には多いですからね。家によってはもう少し厳しいところもありますよ」


「・・準貴族も楽じゃないですね」


「まぁ、会えないというのは逆に言えば厄介毎に巻き込まれにくいともいえますから」


師匠の言葉に思わず「ああ、なるほど」と思ってしまった。

逆に言えば貴族間で厄介事がそこそこあるということでもある。うわぁ嫌な話聞いたなぁ。



「一応準貴族でも国にとって重大な役職についたり大きな功績を挙げると貴族になることもあります。その場合は同門の他家2つの了解が必要です」


「なるほど・・いまいちピンと来ませんが覚えておきます」


「多分ですがくーちゃんはコウを貴族まで上げる気だと思いますので、覚えておいて損はないと思います」


「はい、って、ええ!?そうなんですか?」


「あくまで私の予想です。でも当たると思います」


ボサツ師匠が話題をそらして笑顔を見せるので、俺の緊張も少しほぐれた気がする。

こういうことを見越して話を脱線させているなら、ボサツ師匠は本当にすごい人だと思う。


しかし気を抜けたのも束の間だった。

その後も何度も振る舞いの確認を繰り返し、付け焼刃の礼節の指導は終わった。



そしてクエス師匠が面会の約束を取り付けて戻ってきた。

後1時間半後には会うことが出来るそうなので今のうちにギラフェット家の来賓室で待機しておくになった。


俺とクエス師匠はすぐに着替えを済ませる。

師匠はささっと服を入れ替えるように着替えたが、俺はそんな芸当はまだ出来ないので仕方なく一度服を脱いで着替えた。


銀灰色がベースの騎士服みたいな感じで思ったより格好良かったんだけど

所々ピンク色が襟縁を始め各所にデザインとしての線として入っているのがちょっとだけ気になる。


男物でもピンクかぁと思うものの、夢属性の色だとわかるのでケチのつけようがない。

まぁ、銀灰色とちょっと濃いグレーだけではいまいち感があるのでピンクの線もアクセントと言えなくはないか。


着替えを終えると一度アイリーシア家まで飛んで、そこから小型の転移門でギラフェット家当主のいる都市へ飛んだ。

今は転移門に関しては秘密ということで、隠れ家からは俺は目隠しされたまま転移門で飛ぶことになった。


どうせ俺が勝手に使えるほど簡単な代物とは思えないので、そこまでしなくてもと思ったがここは素直に従うことにする。

ちなみにこの隠れ家のことは絶対に言ってはいけないと念を押された。秘密が多いなぁ。



正門まで移動して、城内に案内される時でもクエス師匠ははっきりした物言いだった。

大丈夫なのか聞いてみると「私は一光なので当主様とあまり変わらない位偉いんだから大丈夫よ」と自信満々だった。


どうもまだこの国の身分制度を掴みきれてないな。

俺のことも必要な連れだといって周囲に言い聞かせていたが、俺は度々頭を下げた。


ボサツ師匠に言われたように、俺はあくまで準貴族だし、準貴族が少々頭を下げすぎてもクエス師匠のアイリーシア家に迷惑がかかることは少ないだろう。

まぁ『どうせくーちゃんはガンガン行くからコウがちゃんと頭下げてれば問題は起きませんよ』と、ボサツ師匠からのありがたいアドバイスもあったし。


ボサツ師匠って普段からほんわかしているのに結構目ざといんだよなぁ。

特にクエス師匠や俺の行動を読み切った上で的確なアドバイスをくれるとことか。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今日はどこに入れればいいかわからない番外編もどきを書いていたら投稿が遅くなってしまいました。

もうしわけない。。

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