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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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クエスのお仕事、転移門の修理依頼

また裏話です。


コウとボサツが風魔法を修行していたこの日、クエスは絶対に外せない仕事があったので

仕方なくアイリーシア商会へと行くことにしていた。



コウとボサツと食事をした後、すぐに瞑想を始めるコウを見ながら指導できない名残惜しさを感じつつ部屋を移動して転移門に入る。


クエスは都市アイリーに移動した後、すぐにアイリーシア商会を尋ねた。

建物の外にいた商会のスタッフに状況を確認すると、どうやら大型の転移門が故障しているらしく、修理の為にもクエス様が必要だということだった。


「見るだけのメンテナンスなら他の人でもできるけど、大幅な修理となると私がいないと出来ないのは本当に不味いわねぇ」


ぼやきながら特に見ることもなく、クエスは正面の門にいる警備兵に対して右手を上げる。

兵士はすぐにクエスだとわかり慌てて門を開く。


ここ、アイリーシア商会は光の連合に2つしかない転移門専門の業者だ。

商会の広大な敷地は壁に囲まれていて防衛だけでなく情報流出を防ぐ役目もしている。


敷地内は複数の建物があり、資材置き場をはじめ宿舎や技術訓練場(野外)・講義棟、素材管理棟、研究棟、壁の外に繋がっている大きな総合棟など様々な建物がある。

一部のアイリーシア家の貴族を除き、多くの者は情報漏れを防ぐ為の軽い呪いを身に宿していないと入ることが出来ないエリアが多い。


もちろん国の主産業なので国の兵士があちこち警備に当たっている。



クエスはそのまま総合棟に入り上級待機室で腰を下ろす。

その名の通りここは作業員でも中級転移門以上を扱える優秀な者たちが待機する部屋だ。


ゆったりしたソファーや魔力回復用のドリンク等必要に応じて自由に使っていいものが多く備えてある。

クエスはソファーに腰掛けて壁に表示してある仕事一覧を見る。


「私に来て欲しい仕事は大型の転移門だったわよね・・・あ、これか」


今日の日付の一番上に他の2倍サイズの文字で「修理依頼:都市セラフス 大型転移門 ライノセラス家-城内特殊用」と描いてあった。

参加メンバーにクエス様、ルディオス、ボルボリア、メイア、となっている。


「おっ、優秀なメイアがいるじゃない。これ私要らないんじゃないかな~」


クエスが気楽そうにそんなことを言っていると扉が開いて女性が入ってきた。

ややショートで濃い緑の髪にウェーブがかかっている。

この女性がクエスが先ほど言っていたメイアだ。


メイアはアイリーシア家ではクエスの「はとこ」に当たる関係だ。

メイアは特に領地の統治など重要職には就いておらず、準貴族の地位でこのアイリーシア商会で働いている。


アイリーシア家が再興した時に女王のミントはメイアを貴族位に上げようとしたものの、転移門の作業員も少なかったことから

仕方なく準貴族のままに据え置いている。

なお、メイア本人も貴族位はいらないと言って逃げ回っているので、今の状況が心地いいようだ。


「あ、クエス様だ!ちゃんと来られてて私安心しました~。ひょっとして今日は来られないんじゃないかと思ってたんですよ」


「妹にもしつこく言われていたし、さすがに来るわよ・・これで来なかったら出入り禁止になりそうだし」

「王族が出入り禁止になるわけないじゃないですかw でも、助かります!これで作業がちゃんと進みそうです」


メイアが嬉しそうに話していると、この商会の受注を統括をしているルバールがこの待機室に顔を出しクエスに頭を下げた。


「クエス様、忙しい中本当に有難うございます。せっつかれていて大変だったんです。助かりました」


クエスは少し気まずそうな顔で「あはは」と笑いながら少し申し訳なさそうにした。



クエスはコウを(正確には妹のエリスを)探し地球に行くのにかなりの時間が必要になるかもしれないと思い

自分が必要な大型以上の転移門の修理が長期間必要ないように入念にメンテナンスをして回ったはずだった。


あれだけ念入りにメンテナンスをすれば、どんなに早くても5年は修理依頼が来ないだろうと踏んでいた。

それなのに2~3ヶ月もしないうちに再び修理依頼が来ているということで不思議に思う。


「ねぇ、私ちゃんとメンテして回ったよね?ライノセラス家の大型2つと巨大型1つの3つとも」


「ええ、検査の記録も残っております。全て問題なかったはずですが故障したと連絡があれば仕方ありません」


ルバールの言うことは最もなので、クエスも仕方ないかと諦め顔になる。

大型になればなるほど転移門は無理が利かないので、いくらメンテナスを行っても故障しないとは言い切れない。


小型~中型は年数回の検査をしていれば少々無理をしても故障しないが、大型以上は少し無理をすると簡単に壊れてしまう。

主な理由は大きくなるほど扱う魔量が膨大になるので、負荷の集中度合いや、使用後の魔力残渣が大きくなる点だ。


そのため魔力残渣が残りやすく、大きい転移門ほどいわゆるクールタイムが必要になる。

とにかく無理な使い方が出来ないのが大型以上の転移門の最大の欠点だ。


「何はともあれお仕事ですよ。行きましょう、クエス様」


メイアの明るい声にクエスはここで考えても仕方がないと頷いて、ルバールに軽く手を振って敷地内の転移門へ向かう。

そして転移門の前で待っていたメンバーと合流する。


「飛ぶ準備は出来ております、どうぞ」


転移門を管理する兵士たちに頭を下げられながら、3名の作業員と2名の警護兵とクエスの6名は都市セラフスの城内にあるライノセラス家の転移門へ飛んだ。



飛んだ直後に転移門を管理するライノセラス家の数名の兵士20名ほどが周囲と転移門の中の警戒に当たる。

転移門は非常に便利な物だが、無警戒だと当然不審者が簡単に侵入できてしまう。

とはいえ無警戒で遠慮なく相手先に飛べるほど、セキュリティーガバガバではない。


転移門では事前に誰が来るかを連絡し合うことができるし、怪しいと思えばやってきた者をそのまま別の場所に飛ばすことも可能だ。

だがそれを行うにも一定数の兵士は必要になる。そのため城内や貴族エリアにある転移門は特に警戒が厳しい。


ライノセラス家の数名の兵士たちは飛んできたクエス達の周囲を囲み、各人の魔力パターンと貴族家発行の認識章を確認する。

そして問題ないことが確認され、転移門を囲む魔法障壁内から出る許可が出された。


クエスはその障壁から出ると、すぐに管理者を呼んでやってきた目的を告げる。

後ろではメイアがメンバーの名前と目的を兵士に差し出された用紙に記入していた。


「アイリーシア商会の皆様、クエス様、われわれの依頼にお答え・・」

「いいわよ前口上は、とにかく故障した門まで案内してもらえる?」


クエスが丁寧に挨拶する責任者の言葉を遮ってせかす。

責任者の兵士は転移門を待機状態にさせる指示を急いで出すと、すぐに故障した転移門へクエスたちを案内するよう他の兵士に命じた。


場所がわかっているクエスは一応案内する動作を待った後、さっさと歩き出す。

後ろでメイアが責任者の兵士に2度ほど頭を下げていた。


「我々も御忙しいクエス様をイレギュラーでお呼びしているのはわかっていますので・・」

責任者もメイアに頭を下げないでくださいと恐縮していた。



現場へさっさと向かうクエスに、後ろからメイアが急ぎ足で駆けつけ横に並ぶ。

案内する兵士たちもメイアに続き急いで走って、クエスの前に出て案内する体裁を取り繕う。

そのまま一団で進んでいると隣にいたメイアがクエスに小声で話しかける。


「クエス様、さすがに緊急の依頼とはいえもう少し態度をやわらかくしないと・・不味くないですか?」


クエスは一息ため息をついてメイアに答える。


「メンテナンスは完璧にしていたのよ、それなのに私を呼ばなきゃいけないほど故障するとか、どうせ無茶な使い方したんでしょ。態度で示さないと向こうが改めるとは思えないわ」


不満そうに言うクエスにメイアはこれ以上は何を言っても無駄かと思い、話を切り替え故障箇所の想定等を予想しながら目的地まで進む。

技術的な話になると、クエスは先ほどの怒りをさっさと放り投げて、すぐにその話に乗っていた。


5分ほどすると大きな建物の前に到着する。

この建物内に大型の転移門が設置してある。周囲は正面から見ただけでも十数名の兵士が警備に当たっていた。


「故障しているのに・・ずいぶんな警備よね」


クエスがぼやきながら入り口の大きな門を見ていると、その傍に責任者と思しき者とその脇に2名の軽装の作業員が立ってクエス達の到着を待っているようだった。

その者たちはクエス達の到着に気づいたのか、まだ100m程はあるのに頭を下げている。


「さぁて、どっちにしても修理しなきゃいけないんだし・・気合い入れて片付けましょ」

「そうですね」

「はい!」


クエスの気分を入れ替える一言にメイアが同意し、ルディオスとボルボリアはそれに続いて返事をする。


まずは状態の確認をするようにクエスは3人に指示をする。

付き添っている2名の護衛の兵士はクエスの傍に1人、メイアの近くに1人付いた。


メイアの近くにいた護衛はメイアがアイテムボックスから取り出した物を受け取っては、地面に並べている。

クエスはそのまま責任者と状況確認を行うことにした。


故障の連絡をしてきたということは、少なくとも現場の責任者が最低限のチェックはしているはず。

幾分か作業を簡素化するためにも、まずはそこを抑えておきたい。


責任者に明確な故障個所を2か所案内される。

クエスは大人しく同行し、指摘した個所を丁寧に見て回った。


転移を行う時にこちら側の空間を相手側へと移す魔法を発生・制御する為の銀色の棒が、この大型の転移門の場合、転移範囲の周囲に24本配置してある。

そのうちの2本に明らかにひびが入っていたのだ。


ひびが入っているということはもう完全に使えない状態であり、負荷をかけすぎた証拠でもある。

はぁ、とため息をついたクエスは状況に呆れつつも、責任者に使用記録の提出を求めた。


「とりあえず使用記録を出して、この故障は明らかに過剰使用が原因だと思うから」

「は、はい、こちらです」


担当者が恐る恐る記録と提出すると、クエスはすぐに最後の使用記録を見るが魔力が安定せず魔法が発生しなかったとあった。

もしかして本当に連続使用した?と思いクエスは眉をしかめる。


その前を見ても必要とされている基準の1時間以上の安定化の時間(いわゆるクールタイム)を取ってあり、そこでは特に問題は見られない。


さらに辿っていくと最後から5回前と4回前の時にクールタイムが10分だったときがあった。

クエスはこの時負荷がかかりすぎて故障し、後に補助装置と安全装置が発動したのだろうと推測した。


大規模な範囲を向こう側と入れ替えることによって転移を行う大型の転移門の場合は、当然膨大な魔力が必要になる。

そのため使用の度に転移門を構成している各パーツに多大な負荷がかかるし、装置内のどこかに魔力残滓があると不具合の原因になるので、運用上クールタイムを定めている。


クールタイムを無視して転移門を使用すると、亜空間を含むどこへ飛ぶかわからない代物になるし(ちゃんと飛べることもある)ほぼ故障する。普通使おうとは思わない。

ただ、今ここで使われている大型の転送門はクエス・アイリーシア本人が開発したクエス型と呼ばれている改良型である。


このクエス型の転移門は、今現在、光の連合にある大型以上の転移門の大半を占めている。

クエス型の一番の特徴は「連続使用が一応可能なこと」に尽きる。


転移門は中型以上の場合、クールタイムなしではとても危険なものだが

クエス型は大型の場合通常必要な60分のクールタイムを無視して、5~10分で一応再使用が可能で問題なく飛べる。

ただし、連続使用は1~3回ほどすると壊れて起動できなくなるのだが。


故障時もどこかへ飛んでいくのではなく起動しなくなるのもいい点だ。

これは兵士を緊急で大規模輸送する時に非常に有用な為、各国でこぞって採用された。


なお5~10分は大型の転移門が直径50mもあるため、転移門の範囲円内に人や物が移動するだけでそれだけかかるので特に問題にはなっていない。



クエスはこの転移門に連続して使用してる記録が残っているのを見て呆れていた。

「これは・・はぁ・・これ誰の指示で行われたの?短時間に2度使用しているけど何か緊急事態でもあったの?」

「えっと、それは、その・・」


転移門の責任者は口を濁してはっきりと言おうとしない。

クエスが少し怒ってさらに問い詰めようとしたとき、遠くからクエスが聞いたことのある声が聞こえた。


「クエス、うちの者をそんなにいじめないでやってくれないか」


遠くからにこやかに手を上げてながら近づいてくる男は、そう言ってクエスを遠くからたしなめる。

体格のいいその男の名はバカス・ライノセラス、上級貴族でありこの家の当主である人物だ。


「ん?バカス?・・はぁ・・今は忙しいのよ。担当者と話しているので後にしてもらえない?」


クエスは色々とはぐらかすのがうまいバカスが来たのを見て嫌な気分になる。

今は今回のような連続使用を出来るだけやらないよう現場の担当に教えたいからだ。


だが周囲はクエスがバカスを軽く扱うのを聞き、特に腹を立てたバカスの側にいる部下が抗議する。


「失礼だが、仮にも我々の家の上級貴族の当主様に向かってそんな口を・・」

その言葉をバカスは大きな手で遮ると、部下をたしなめようとするがクエスが先に反撃に出る。


「悪いけど私はそちらに依頼された門の件で話をしているところなの。バカスが指示したなら別だけどそうじゃないなら今は少し下がっていて欲しいのよね。

 そもそも立場を持ち出すのなら、私は一光でバカスとはほぼ同等の立場よ」


クエスは悪びれることなく指摘した部下に問題ないと言い放つ。

押され気味になり反論できずたじろぐバカスの部下の肩をバカスがポンと軽くたたき


「ははは、クエスはいつも変わらんなぁ。その強気と愛らしさも含めて」

と笑いながら場を和ませた。

クエスはイラっとしつつ、バカスから視線を逸らす。


「悪いなクエス、そう部下を責めんでくれよ。今回はちょいと理由があって俺が指示して故障させたんだ」


バカスは修理に大金がかかるとわかっているのに、豪快に笑いながら故障させたことを白状する。

そのまま理由を話し出そうとするので、クエスは半ば呆れながらもとりあえず黙って聞くことにした。


「とある人の依頼でな。まぁ、聡明なクエスならおおよそ予想はついていそうだが、その目的でこの転移門にちょっと無理してもらったのさ」


そう言うとバカスは、クエスを手招きして転移門のある建物の外へと連れ出した。

そして建物から少し離れた人のいないところまで、余裕たっぷりの表情で歩いていった。


読んでくださった皆様ありがとうございます。

話が進んでいるような進んでいないような展開ですが

気に入っていただけたら、ブクマしていただけると嬉しいです。


さぁ、続きを書こう!

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