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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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クエスの買い物と申請手続き①

今回は幕間に近い回になります。


コウが朝からボサツに世界の常識を教わっているころ

一方でクエスは朝からルーデンリア光国に来ていた。


目的は明日に備えての買い物と自分をコウの後見人として登録し、コウを準貴族にするための手続きだ。

クエスは一光である為、光の連合内ではどこの国へ行っても知られており貴賓扱いである。

特にここルーデンリア光国では特別扱いだ。


三光の職いる者はここの女王に直接仕える特別職であり、光の連合国の中でも最強の3人とされる者たちだ。

地位があればもちろんそれに見合った服装もしないと問題になる。


膝下まであるローブを羽織り薄黄色のシャツに膝が隠れる程の丈のピンクのスカートで身なりを整える。

スカートにはあちこちに銀色で星が描かれている。


クエスは先になじみの魔道具屋によることにした。

魔道具を扱う店は価格は上から下までかなりの幅がある。


上から下と言っても基本的に高価な物が多いこともあり、治安が良い大都市にしか店が無いのが特徴だ。

様々なジャンルの店が並んでいる通りをクエスは歩いていき、少し小さめの真新しい店の前で止まり一度中を覗き込んで店に入った。


店の名はメルッシュ魔道具雑貨店、様々な魔道具が棚にきれいに陳列してある。

戦闘用の武器や道具や兵器などの類はほぼ置いておらず、生活雑貨に近い魔道具が多い店だ。



入店したクエスを若い女性が頭を下げて迎える。


「いらっしゃいませ、どのような御用でしょうか?」

「ねぇ、今、店主はいるかしら?」


「はい」

「じゃあ、クエスが来たと伝えて。予約していた物を取りに来たと」


「わかりました。しばらくお待ちくださいませ」


そういうとその女性は奥に行き大きな声で店主を呼んだ。

それを気にすることなく、クエスは店主が来るまで店の商品を見て回る。


「あ、翻訳機ここにも置いてたんだ」

「んー、これは衣類乾燥用の魔道具?相変わらず色々と面白いものがあるわね~」


そんなことを言いながら物色していると店の奥に2組ほどの客がいるのに気が付く。

客たちは店の入り口からは死角になっている場所なので、クエスはすぐには気づかなかった。


「お客さんも来ているしここの商売も変わらず順調のようね」

そう安心していると店の奥から声がした。


「注文したまま放って置いた商品を受け取りに来たのかい?」

慣れ親しんだこの店の店主、メルッシュの声だ。


以前はアイリーシア家の都市アイリーで魔道具の販売をやっていた60歳ほどのおばあさんだ。

クエスは店主に近づきながら返答する。


「えぇー、そんなに嫌味を言わないでよ。こっちにも色々あったんだって。で、注文した数揃ってる?」


「揃ってはおるよ、ただ暫く取りに来ないものだからどこかでどこかで亡くなってるのかと思っていたよ」


「私が死んでたらニュースになるって。まぁ、詳しくは言えないけどちょっと大きな用事があったんで暫くどこにも顔を出せなかったのよ。

 けど揃ってて助かったわ、もしかして他所に転売されるかもと心配していたから」


「そもそもこれを買う客なんてほとんどおらんからね、ただばらばらに仕舞い込んだもんでちょっと準備に時間がかかるがいいかい?」


クエスは注文していた物が無事揃っていて安心する。

信用していたとはいえ、明日の仕事にはどうしても必要なものだったからだ。


コウを、いや妹のエリスを見つけるためにクエスは地球へ飛んでいて、その準備を含めて一月ほどはどこにも姿を見せていなかった。

もともと揃えるのに一月ほどかかるといわれて二月ほど前に注文していた物だ。


「ええ、かまわないけど揃えるのにどれくらいかかりそう?」

「1時間ほどは欲しいねぇ。運搬用の容器を別の物に使っていて移し変えも必要だから」


「そっかぁ、だったら先に別の用事を済ませてきてもいい?ちょっと行くところがあって」


「別に問題ないよ、だけど今日中に取りに来なかったらいい加減手数料をいただくよ。何度も詰め替えさせられてただ働きじゃかなわんからね」


「大丈夫よ、明日には必要な物だから用事済ませたら必ず取りに来るわ」

そう言ってクエスは店を出た。



「しょうがない、それなら先にコウの身分の件でも片付けるとしますか」

そういうとクエスは魔道具の店の先にある貴族エリアに入る門へ向かう。


道路上を時々行きかうフローティングボード(乗り物)に乗ると、複数ある選択肢から行き先を選んで少し緑に光る板に座り料金を支払う。

どの都市でも街中での魔法の使用は緊急時以外は禁止されているので、多くの都市ではこのような指定場所に移動できる宙に浮いた緑の板状の乗り物が巡回している。


場所によっては広大な都市間を移動するための小型の転移門が設置してあるところもある。

ただ乗り物も転移門も使用するのにそれなりの費用が掛かるため、魔法使いではない一般人は荷馬車や自転車、魔力により動くバイクなどを利用するものも多い。


ただしそれらの個人的な乗り物は移動可能な地区が制限されているので、魔道具を扱う店のある高級商店街や

貴族エリアでは使用は禁止されている。


板に座って移動して数分も経つと、クエスは目的の貴族エリアの入り口に到着する。

入口は数名の者たちが中に入るためのチェックを受けるために並んでいる。皆いい身なりをしている。

貴族しか入れないエリアの検問に並ぶものたちだから、当然と言えば当然だろう。


「1,2,3、、並んでいると6人か、これくらいなら10分ほどで入れそうね。少し待とうかな」

そうつぶやいてクエスは列の後ろで並ぶ。


クエスはその立場から言って別にここに並ぶ必要はない。

特別待遇で並んでいる人を飛び越して先に入るだけの地位に就いているからだ。


だがクエスは基本的にそれをしない。

それは偉い者が地位をひけらかすべきではないという考えからではない。


クエスは貴族界隈では「一族殺し」というあだ名がついている。

もちろんその由来はクエスが過去にバルードエルス家を1人で殲滅したことからきているものだ。(正確には2人だが手を下したのはクエスだけの為)


あだ名は普通地位に基づく「大将軍」・「近衛兵長」等や、闇との戦争で活躍した逸話からつく「不死身の騎士」などが有名なところだ。

こういうものは好意的に付けられるものだがクエスの場合はもちろん違う。

敬意ではなく完全に畏怖からきているものだ。


そのため貴族の中ではあの女の機嫌を損ねると一族皆殺しにされるとまことしやかに囁かれている。

クエスはそれを十分に理解しているので、目立つことを避けて列に並んだのだった。


今はアイリーシア家の格好をしていることもあり、緑の髪もローブで覆っていることから、すぐにはクエス・アイリーシアとばれないと思っていたが

不幸にも次に並んだものがクエスのことを何度か目にしたことのある貴族だったため、声をかけられてしまう。


「あの、もしかして貴方はクエス・アイリーシア様ではございませんか?」

「ええ、そうよ」


早速ばれたのか、早いなぁ。

そう思いつつクエスは軽く答えたのだが、それを聞いた貴族は表情がみるみる恐怖に染まっていく。

一歩後ずさったかと思うといきなり頭を下げてこう言った。


「ク、クエス様、このようなところに並ばずとも私が門兵に言いに行きますので、わ、私にお任せください」


そう言うとその貴族は深々と礼をして門兵のほうへ走っていく。

クエスは左手で顔を覆うようにしてしまったと思ったが、時すでに遅し。


「・・悪目立ちだけはしたくなかったのに」

クエスはぽつりとつぶやいた。


慌てて兵士がクエスの元に近寄って来ると同時に、列に並んでいた貴族たちからはクエスからやや離れた。ひそひそ声も聞こえる。

たぶん悪口なんだろうと思いつつクエスは距離をとった貴族たちの方は見ないことにした。


「クエス様、言って頂ければすぐにお通ししましたのに」

「いや、まぁね。みんな待ってるし私も別に急ぎじゃなかったからさ、待とうかなって」


クエスが返答すると兵士は小声で話し出す。


「クエス様は色々とお噂がありますので、トラブルを避けるためにもすぐに我々のところまで来ていだだけないでしょうか」


「わかってはいるけど、威圧して他を見下して先に入ったとなると、また嫌な噂が追加されてしまうじゃない」


「ですがクエス様はそもそも一光様なのですから、、とにかく今回は先にチェックしてお通しいたしますので」


「わかったわよ」

兵士の小声にクエスも小声で応対する。


そのままクエスは待っている他の貴族をすっ飛ばして先頭に案内されて人物検査を受ける。

ここでは魔力の波長、通貨の使用記録も行っている識別チップの2点を確認され該当人物で間違いないかをチェックする。


普通の貴族や準貴族なら用紙に名や家や目的などを記載するが、クエスを含め王族や特別職のものたちは簡単なチェックだけで終了する。

目的も口頭だけで十分だ。


「クエス様、本日はどのような御用でしょうか」


「うちの家に新たに準貴族の者を登録するのでその申請に来たのよ。あまり大騒ぎにしないでほしいんだけど」


「申し訳ありません。確認はもう終わりましたので、御通り下さい」

そういうと兵士は閉まっていたもんを開門した。


別に通用口からでいいのに、そう思い不満そうな顔をしながらクエスは中に入っていく。

その様子を見ていた並んでいる貴族たちは「一光様はご立腹のようだ」「お前顔を見られたんじゃないのか?」「特定はされてないだろう」


と各々が腰が引けながらも悪い噂を言い合う。

もちろんクエスには届かないように小声で。



クエスはそのまま歩いて、貴族関係の情報が集められている貴族情報局に来ていた。

貴族関係の身分変更は各家内での決定の後、ここルーデンリアの貴族情報局に登録することで正式に連合全体に認められる。


クエスはコウを自分の被保護者として認め、準貴族の地位に定めたと申請する用紙を書いている。

この申請は基本的に各貴族家内で決められた事を申請するものなので審査などはない。

あくまで情報の共有のために出しておくものだ。


一応各家内で決定したら速やかにここへ提出するように決まっているが、あくまで速やかにであり期間は決まっていない。

また基本的にはクエスのような地位の高い貴族ではなく、分家や家内でも暇しているものに登録に行かせるのが通例である。


だが今回はコウのことを出来るだけ極秘にしたいためにクエスが申請しに来たのだった。

目的はもちろん、今はコウの存在をアイリーシア家内でも広めたくないからだ。


ただ申請用紙を書きながらクエスは思う。

万が一トラブルが起こった時の為にも申請は早めに済ませておきたいが、あまり早くコウの存在がばれるのはいい事とは思えない。


何とか情報公開を遅らせられないだろうか。

そう考えながら受付へ向かう。



受付にいたのは若い男だった。

何とか言いくるめられないだろうか、そう思いながらクエスは話し出す。


「これ、準貴族の登録に関してちょっとお願いがあるんだけど」

「はい、なんでしょうか?」


受付の者は緊張した声で答える。

先ほども説明はしたが、クエスはこの国の女王に直接使えている三光の一人であり有名人だ。

少々バレにくいように恰好を整えても、見る人が見ればすぐにわかってしまう。


そして一般的には、ここはクエス程の者がやってくる場所ではない。

それがこの場に来て申請書を書いているのだから何事だろうかと数名の職員が注目していた。

そう、間違いなく厄介事だろうと思いながら。


そしてお願いという言葉、受け付けた職員は緊張と共に少し憂鬱な気分になった。

これだけの状況が揃っていて、これが普段通りの何の問題もない通常の申請だとは思えないからだ。


「ちょっと、公表を遅らせてほしいのよね。正確には管理表一覧には載せておくけど各所への連絡は半年後に、とか」


目の前で一光様、いわゆるお偉いさんがちょっと申し訳ない表情をして無茶なお願いをしている。

受付は(だったらもっと後で申請してくださいよ)という気持ちでいっぱいだ。


「半年もですと・・あのぅ、その、各所への連絡を遅くすると、その方が王都で活動する時や、転移門の使用で、その、不利益や手間がかかってしまうことも。。」

とにかくあまり意味のないことですよ、とやんわりと受け付けは説明するがクエスは気にしてないようだった。


「ええ、基本的にはそれで構わないから。彼がそういうのを使う場合は私も必ず同行するからね」


「そ、そうですか。しかし、さすがに半年は・・」

「そこをなんとか、ね?」


受付はとても困った立場に置かれた。遅らせるのが一月程度なら余裕だ。

そもそも月に1度しかそういう情報を共有化しないので簡単に対応できる。


だが半年となると書類を受け取っていたが情報の一覧に記載するのを忘れていた、ということにしないと不可能だ。

もちろん減給ものだ。申請者が依頼しているので申請者から苦情が出ることはない点だけは救いと言えるが。


不備があって連絡していたつもりが上手く連絡がいってなかったという手を考えるものの、相手がお使い貴族じゃなく王族兼一光様というのがまたまずい。

全ての責任が自分に来てしまうからだ。


「その、半年後に申請というのは、その、なんらかの問題が、あるのでしょうか?」

受付の者は恐る恐るクエスに尋ねる。


この受付もクエスの噂は良く知っている。

キレるとぶち殺しまくるとんでもない人だということを。(違うけど)


相手が相手だけに、無理ですと突っぱねる事も難しい状況だ。

だからと言ってこの要望をそのまま行うと、発覚した時には自分がクビになる恐れもある。

その為、何とか妥協案を探るべく必死になっていた。


「半年後ねぇ、それはね、ちょっと困るのよ。そうね!申請日を私が間違って半年後にしていたというのはどう?受理の印は今日の日付で押しておいて」


やんわりと拒否したら・・違う無茶が飛んできた。

受付は心の中でまた頭を抱える。


もちろんできなくはない。

半年後に受理して欲しいという申請をすることはできる。


だがその場合は受領印は半年後に押すことになり未受理の束の中にまとめておくことになる。

それなのに印を押して未受理に放り込めば、当然受付者の確認不足で自分の責任になる。

最初の案よりは少しマシなのは確かなのだが。


「ん、んんー、ですがそれもなかなか・・」


受付の男はそう言いにくそうにもごもごと返事をするとクエスは彼の前に周りに見えないように申請書の下に金貨を2枚置いた。

金貨2枚は日本円にして約400万、この受付の者にとってこれは大金といえる額だ。

えっ!?という表情をする受付を笑顔で見つめるクエス。


「じゃ、よろしくお願いね」


と言って支払い用の金属の上に手をかざして手数料の100ルピを支払い去っていく。

慌てて受付の男はその金貨を申請用紙ごと手元に置き、金貨をポケットにしまった。


(や、やられた、むしろやってしまった)

そう思いつつ受付の男は半年後の日付の書かれた申請用紙に受領のスタンプを押して、未受領の中の半年後の月の束の中に紛れ込ませた。


いつも読んでくださってありがとうございます。

感想、ブクマ、評価なんでも感謝しております。読んでいただけるだけでも本当にありがたいです。

貴重な時間を使っていただけたのですから。


休みも週1でなかなか時間が取れませんが、着実に話を書いていこうと思います。

拙い文も少しずつマシになるように頑張ってまいります。

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