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町の崩壊とその重責14

ここまでのあらすじ


町の住民を人質としてコウとの戦いを望むホロイシン。

双方は指定の日まで着々と準備を進めていた。

ホロイシンがして指定してきた日の早朝、まだ辺りが暗い時間帯にコウは目を覚ました。

昨日は朝出発ということで早めに寝ようと寝室に向かったが、そこにいたマナがコウの不安を見抜き、気が付けば雰囲気に流されて体を重ねていた。


そして今、体調をベストに保つのに必要な最低限の睡眠時間はとれていたが、精神面はいまだに何とも言えない不安が付きまとっていた。


オクタスタウンを吸収する作戦は、途中まで予想以上に順調だった。

より強固な守りを備えた町、盗賊を殲滅できるほどの頼りになる傭兵団の常駐、十分な仕事と発展という未来に希望を持てる環境、近隣の都市でも手に入らないような品が手に入る物流。

これだけ揃えればどちらの町にいた方が良い生活を送れるかは明白。


激しく傾いた天秤に橋渡し役の滑り台を設置すれば、金も傭兵も住民も重い方へどんどんと流れ込む…まさに完璧な作戦だった。

このままいけばオクタスタウンは衰退し、終わった町になる……はずだった。


オクタスタウンには町長の権威を象徴するような像もなく、町長本人も町中にもめったに姿を見せない。

そんなホロイシンは町にそこまでの思い入れがない人物だと思われていた。


だがまさかの徹底抗戦という無謀な道を選んでまでも、町の統治者としての地位を降りなかった。

戦争の決意表明とも思われる文章には確かに怒りを感じさせる部分があったが、どことなく淡々とした雰囲気も見て取れた。


コウは雰囲気を察することのできる能力があるが、それはあくまでその人物に対してであり

手紙のような文章、作品などの物、部屋にある家具の配置などから持ち主の気持ちを察することはできない。


だがコウはあの文章を見た時、何か嫌な感じがした。

だからこそ心がざわつく。対策はできる限り取った。確かに完ぺきとまでは言えないが、どんなケースにおいても被害が最小限になるよう部隊を分け動きを決めた。

それでも不安がぬぐえない…。


今までは力で盗賊を制圧してきた。

絶対に勝てない相手からは逃げることもあったが、魔物に対しても同じく力で討伐してきた。

コウの魔法における天賦の才がそれを支えていたといってもいいだろう。


なのに今回は余裕で勝てる相手の無謀ともいえる行動の裏に、何か自信となる力があるのではないかという不安が消えない。

一度起き上がり色々と考え事をしたが、結局は精神をすり減らすだけだと思い再びベットの上で横になる。


隣に視線を向けるとマナが気持ちよさそうに寝ていた。

そんな彼女の頭を軽くなでながら、大丈夫だと自分に言い聞かせる。


するとマナが目を開けた。


「師匠?おはよ~」


少し眠そうに弱々しい声であいさつするマナ。


「あぁ、起こしてしまったか。すまない。だけどまだもう少し寝ててもいい時間だ。マナの眠そうだし、このまま2人で二度寝するか」


その質問にマナは目を半分見開いたまま、じっとコウの瞳を見つめて何も答えない。

そしていつもの笑顔を見せるとコウの気持ちを見透かしたかのように尋ねる。


「不安?」


「……まぁな」


別に隠すつもりはなかったのだが、コウとしてもマナを自分の負の気持ちで引っ張りたくはなかった。

だがバレバレだったことで諦めがつき、気を使わなくて済んだ分気持ちが多少スッキリする。


「うーん…もう1回、する?」


「っ、いや、何でそうなるんだ…」


「昨日はいつもより激しめだったからね。不安をぶつけて大分すっきりしたと思ってたけど…まだ足りなかったかなって」


コウは返事に困りながらも、自分がずいぶんとマナに寄り掛かっていたことに気づく。

彼女の師として立派な姿を見せ続けたいという思いはあったが、すっかり内面まで見せてしまったうえ、気遣いまでさせてしまった。


普通の恋人同士であれば、弱い部分を見せるのもそこまで気にする事ではないのかもしれないが、コウはどうしても自分が師匠だという意識が強い。

そのためコウは素直になれずにいた。


「心配、させてしまったな…」


「いいよ。私を頼ってくれて、むしろうれしい」


コウは申し訳なさと恥ずかしさで声が出なかった。

せめて感謝の気持ちを伝えようとマナを抱きしめる。


「ん?する気になっちゃった?」


「…違うよ」


思わずコウから笑みが漏れる。

そして抱きしめたままマナに気持ちを語る。それはまるで自分に言い聞かせるように。


「十分に作戦も立てた。突発的なことにも対処できるよう準備もした。だから大丈夫だ。

 ここまでくればリーダーの俺が不安がってはいけないな。皆に不安が伝播してしまう。

 これが終わったらこのエリアは長い安定期に入るはずだ。あと一押し、危険な戦いに巻き込んでしまうが…手伝ってくれ」


「うん。大丈夫だよ。何があっても私は師匠を守るし、何があっても私は師匠についていく」


「じゃあ、もう少し寝たら起きて魔力を整えよう。万全を期するためにも十分に休んでおかないとな」


「えー、残念」


残念という気持ちなどなく、むしろ安心した雰囲気で笑顔を見せるマナを感じ、コウは目を閉じたままうれしそうに笑った。




それから数時間後の早朝。

流星の願いは準備を整えて、拠点の隣にある広場にいた。


眼前にはこの町に所属する傭兵団の代表らが集まっており、広場の周囲には団のメンバーたちも真剣な表情でコウを見つめていた。


「師匠、みんな師匠の挨拶を待ってますよ」


「……んー、いつも思うんだが、本当にこれって要るのか?」


「もちろんです。この人のために戦うって気持ちを鼓舞するのは大切なことです。それに、早く始めないとみんな不安になってしまいます」


この少し前、コウは出発前の挨拶など必要ないのでは?とやんわりとその立場から逃げようとしたが、シーラとマナに強引に背中を押され仕方なくここに来た。


既に作戦は伝えられているし準備も出来ている。

今必要なのは作戦の説明などではなく、彼らのやる気を盛り上げることだ。


コウはこうしたことがあまり好きではなく、この期に及んで再び逃げようと隙を伺うが、シーラがそれをすぐに察知してダメだといわんばかりに背中を押した。

諦めたコウは渋々前に出て正面にいる各傭兵団のリーダーや幹部たちを見回す。


さすがにこうした流れにも慣れてきたのか、皆がコウを見た頃には厳しくも力強い表情へと変わっていた。

コウは大きく息を吸い込んで、心を落ち着かせて再度彼らを見る。

そして自信に満ちた表情で口を開いた。


「この町にいる全傭兵たちよ。残念なことにまた戦いが増えてしまった。だが今度こそ、この戦いでこのエリアは安定した日常を得ることができるだろう。

 彼らは住民の殺戮すら是とした。あの町にいる住民は我々にとっても大切な存在、この町を発展させ皆の生活を良くすために必要な宝である。

 だからこそ、俺たちは彼らの蛮行を黙って見過ごすわけにはいかない。…だがこの戦いに臨むにあたって、これだけは忘れないでほしい。

 俺は、この後に訪れる今よりも素晴らしい日常を、この場にいる全員と過ごしたい。

 無責任な発言に聞こえるかもしれないが、この戦いで何よりもまず自分の命を大切にしてくれ。そして、仲間の命を大切にしてくれ。

 ここに居る全員が、魔法使いとしてかなりの力を持っている。たとえ命を張らずに逃げてその場で多くのものを失ったとしても、生きてさえいれば、いつかはそれ以上のものを作り出し、得ることができる。

 死んでしまえば…その者はもう何も守れないし作り出せない。だから、全員でこの戦いを生き残るんだ、いいな!」


「おぉーー!」

「当然だぜ!」

「こんな戦いでは死ねないわ」


相変らずバラバラだが、コウの思いを受け成し遂げようといわんばかりに彼らが吠える。

コウは不安を押し殺しつつ、笑顔を見せながらその雰囲気を見守っていた。



盛り上がりが落ち着いてきた頃、オクタスタウンへと向かう傭兵たちは町の外へと向かい、この町を守る者たちは交代制で警戒にあたるよう動き出す。

流星の願いは全体をまとめる役目を負うことから、当然ながら二手に分かれることになった。


オクタスタウンに乗り込むのは、呼び出されたコウとその護衛としてマナ、村人たちをスムーズに移住させる指揮を執るメルボンドの3名となった。

逆にこの町に残り敵の攻撃に備えるのは、シーラを中心としてナイガイ、ユユネネ、エンデリンとなった。


侍女であるエニメットは治療所でのまとめ役、モンネーネは必要に応じで防御壁を作る役目に回る。

メイネアスはシーラの近くにいて傭兵たちへ指示を飛ばす役としてこの町に残ることとなった。


「シーラ、万が一の時は指揮を任せる。だが決して、無理はしないでほしい。俺にとって君は、この町全体よりはるかに大切な存在なんだから」


「ありがとうございます。でも、向こうに盗賊がいない場合は師匠がすぐ戻ってくるんですよね?その間だけでしたら、私がこの町を守ります」


「…わかった。でもどうしようもない時は、町の住民も逃がしつつシーラも逃げるんだ。絶対だぞ?たとえこの町が破壊されても、皆がいれば…シーラがいれば、やり直しはきく」


コウの真剣な表情に対して、シーラは困った顔をしつつも心配されたのがうれしいのか、笑顔で頷いていた。

更に念のためにシーラと共に残るナイガイたちにも声をかける。


「ナイガイ、もし敵がこの町を攻めてきたら味方に死者が出ないよう前線でサポートしてくれ。

 ユユネネはシーラのサポートを、エンデリンは予備戦力としてシーラの指示を聞いて上手く立ち回ってくれ。みんな、頼んだぞ」


全員がコウの言葉に強く頷いた。

流星の願いのメンバーだけを見れば、守り側は多少余った人材のあり合わせのように見えなくもない。

ただ、現状相手に動きがみられない上に、コウがオクタスタウンに呼び出されていることから、攻め手であるコウの方に主力を配置せざるを得なかった。


更に向こうの町には人質となっている住民もいる。

彼らを助けるためにもそれなりに戦える戦力が必要という結論に落ち着いたのだ。


もちろん、同行する傭兵もどちらかというとオクタスタウンに向かう方が質が高い。逆に町に残る組は人数重視となっている。

攻め手の方にやや戦力を寄せたことに未だ迷いつつも、コウたちは大勢を率いてオクタスタウンへと向かっていった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は・・10/30(日)ごろ更新できれば・・

日曜日に完成しきれないと、平日は作業時間がほとんど取れない・・


では。

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