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町の崩壊とその重責13

◆◇◆◇



流星の願いがオクタスタウンからの文書を受け取る3日前。

オクタスタウンの町長ホロイシンは周囲の者たちと全面対決の覚悟を決め、その下準備を進めていた。


自分たちに味方してくれる数少ない傭兵団の中でも、さらに流星の願いに対して憎悪を抱いている者たちを部屋へと呼びだす。


この戦いはオクタスタウン側に一切勝ち目のない、いわゆる負け戦だ。

そんな戦いに身を投じる者であればある程度信用出来るが、それでもなおホロイシンは彼らの本気を試そうとする。


「私の呼びかけに応え、よく来てくれた。ここに来たということは…わかっているな?」


丁度男女3名ずつの傭兵たちは、座ったまま語る彼に対して黙ってうなずく。


「この先では、生き延びることなど叶わんぞ。なぜそれでも前へ進む?死へと向かう?ただの負け戦だぞ」


「私たちはこの町と共に育ってきた。それをいとも簡単に踏みにじる奴を許せるわけがない!」


「少数、雑魚、そう思い込んで軽んじた我々の恐ろしさを…あいつに教えてやる」


「貴族か何だか知らねぇが…あいつらだけは許せねぇ」


「ここは私たちの大切な町。それを踏みにじるあいつらは敵」


それぞれの想いを込め、覚悟を決めた目で語っていく。

そんな彼らを見てホロイシンは少し安心したのか表情が和らいだ。


町長はいくつもの視点から残った彼らの中にスパイが紛れ込んでいないか確認しており、今更裏切るはずのない彼らに大事な作戦を託そうとしていた。

こんな負け戦に参加している時点で、彼らが流星の願いに強い負の感情を抱いていることくらいわかりきったことだが

それでもここ一番の大事な作戦。失敗だけは決して許されないからこそ、彼らの想いを聞いておきたかった。


彼らであればたとえ失敗したとしても悔いはないと判断し、ホロイシンは彼らを見ながら軽く息を吐き視線を机へと落として、自分の決断へと至った過程を顧みる。


彼自身、今回の件で既に負けていることは十分理解していた。

町の運営力、持っている人脈、資金面、戦力、何もかも負けており、もはや完敗という気持ちで思った以上にスッキリしており

ホロイシン自身は流星の願いに対する負の感情はさほど持っていなかった。


町の頭脳だったナナキアが殺されたことも、そこまで上手くやるのかとむしろ感心したくらいだった。


このまま頭を垂れ、流星の願いに恭順し、一町民として彼らの力量を見届けるのも悪くはないと思っていた頃もあった。

だがそんな彼の中にある感情が芽生える。


『出来るだけ味方に被害を出さない』などという甘ったるい目標を掲げておきながら、物事を上手く進め、あっという間に自分を追い抜いてしまった人物。

まるで神にでも愛されているかのような彼に、意地悪をしたくなったのだ。


自分はいくつもの苦難を乗り越え、それでも不安に駆られながら運営してきたのに…そんな思いが強い嫉妬心を生み、気づけば怒りを通り越して試練を与えてやろうという気分にまで到達した。

順調にいっている彼の笑顔を、彼の落ち着いた日々を歪めてやりたいという嗜虐心へと変化したといってもいいだろう。


だがその欲望を満たすためには今のホロイシンでは命を懸けたぐらいでは足りないくらい。

だからこそ命も地位も財産もすべてを賭けてでも見たくなったのだ。その時彼がどういう反応を示すのかを。


普通の者からは、いかれているとしか思われないだろう。

だが大なり小なり普通からずれていなければ、素体の身でありながら傭兵たちの上に立つ町長なんてやっていられないものなのだ…特にこの危険な中立地帯では。



彼らの怒りに対して唇を歪ませ、隠しきれない悪意のある笑みを見せながらホロイシンは口を開く。


「奴を…奴を苦しませてやろうじゃないか。だが文書で伝えたように、お前たちにはそれを特等席で見る権利はない…それでもかまわないのか?」


全員が町長の笑みを見ても動じることなく、強い意志を持って頷く。


「ふふっ。ふふふふふ。良い、それで良い。ならばお前たちに大事な物を渡そう」


そう言ってホロイシンが指し示したのは、何とか持てる大きさの金属製の箱と指輪が収められている小さな箱が2セット置いてある机だった。


「これは盗賊たちに渡す金と、アイテムボックスを開くことのできる魔道具の指輪だ。そしてその両方を今回の作戦の見返りとして盗賊に渡すといい。

 後は盗賊たちと共に、奴らの夢を徹底的に破壊してやれ」


「はっ!」


ホロイシンの狂気に歪んだ笑顔を勝利を確信したことによるものだと判断し、傭兵たちはアイテムを受け取り部屋を出た。




そしてその夜、町長側の傭兵が警備しているあまり使われない北西の門から彼らは出発した。


二手に分かれて進む目的地は、こことは別のエリアになる北のエリアの盗賊団と東のエリアの盗賊団。

事前に何度か使者を送っており、既に大まかな方針では合意ができていた。


最初は全く乗り気ではなかった盗賊たちだったが、流星の願いが盗賊を殲滅し続けているその脅威性、他のエリアにまで進出しているという拡張性

その2点を詳しく説明したことで盗賊たちも他人事だと思わなくなり、この千載一遇のチャンスに団結して全力で流星の願いを叩くと決めたのである。


黙っていても各個撃破されるだけなのはわかっていたが、盗賊たちから攻勢を仕掛けたところでエイコサスタウンの守備隊を抜くのは難しい。

特にコウの恐ろしさは盗賊たちの間でも広く伝わっており、戦うぞとボスが言うだけで構成員の何割かは逃げ出しかねない程だった。

だからこそ彼らはまとまることができず諦めていた。


だが今回はエイコサスタウンの戦力が分散される…しかもその損な役目をホロイシン自らが引き受けるとなれば、流星の願いの活動源である町を破壊するまたとないチャンスになる。

コウが不在になる可能性も高い。ここで全力を傾けなければ、流星の願いという死神がゆっくり近づいてくるのを待つだけになる。

だからこそ盗賊たちもこのチャンスに飛びついたのだった。



3人の傭兵は、どうやって手に入れたのか流星の願いが使う通常より速度の出る風の板に乗って北のエリアへと向かっていた。

既に事前の合意は済んでいるので、彼らの役目は前渡しの報酬と町を攻めるタイミングを伝えることだけ。


道中他の傭兵や商人に会うことがないよう一般的な道を使わず、何の目印もない草原を時間と方向転換時の角度調整のみで目的地へと進む。


「しかし、これであの流星の願いも終わりだろうな」


「ほんと、あのすかした貴族が怒り悔しがる顔が見れないのが残念だねぇ」


周囲に村などもなく傭兵と会う心配もないことから、2人は暢気に会話しつつ軽めに周囲を警戒していた。


「最初見た時からいけ好かなかったんだよな、あいつは。いい気味だ」


「あたしたちの手でぶち殺せれば…最高だったんだけどねぇ」


「それができてりゃ、こんな役目を引き受けたりしないさ」


「だね。まっ、後はあたしらが町の破壊に加えてもらえるかどうかだけど…」


3人の役目はあくまで北にいる盗賊たちに今回の協力に関しての謝礼と時間を伝えるだけ。

向こうが怪しいと思えば、彼らは町の破壊に参加できない可能性だってある。


それでもかまわないと彼らは今回の役目を引き受けた…流星の願いを、コウを、苦しませるために。


「おい、お前ら。後方だからって監視をさぼるな。万が一のことを考えて明かりを使わない分、頼りになるのは魔力による索敵だけなんだぞ」


リーダー役の男が後方を索敵している2人に対して活を入れる。

絶対に失敗できない役目を背負っているからか、少し気負いしているようにも見えた。


「そんな心配しない。魔物に見つかった時はあたしが引きつけ役になってこの板から降りるからさ」


「その次は俺だな。俺たちはあくまであんたを無事に届けるための使い捨ての駒なんだからよ」


「……確かにそうだが…お前たちだってあの町の破壊に加わりたいだろう」


それを聞いた2人は少し寂しそうに笑う。


「まっ、そうだけど…まずは失敗しないことが第一、だろ?」


それを聞きリーダーの男はため息をつくと、それ以上は何も言わず正面の警戒に集中した。

その後ろで2人は再び雑談を始める。


とんでもないことをしようとしているのにどこか遠足気分にも見える2人。

恨みを晴らすという気持ちを持ちながらも、その実力を持たない彼らが納得した上でこの役目を選んだのだ。

そう考えると、こうした彼らの態度も不自然とは言えないのかもしれない。


そう思いながら進んでいると、リーダーは一瞬右側に魔力反応を感じた気がした。


「ん?魔力反応があった気がするが…」


「どっち?」


「右だ」


後方右側で警戒している女性の傭兵は気持ちを切り替え集中するが、感知範囲に特別反応はなかった。

もし魔物がこちらに気づき追ってきているのであれば、彼女の索敵範囲に入るのが一般的だ。

なのに何も感じないということは、諦めたかこちらに気づいていなかったということだろう。


「何も感じないわ。この板って結構速いし、追いかけられずに諦めたんじゃないの?」


「んー、確かにそうだな。これに追いつけるのなら相当早い魔物に……んっ?」


応えている間もしっかりと警戒した網に何かかかったようで、リーダーが思わず風の板の速度を落とす。


「ちょっ、何だいきなり」


「静かにしろ。正面に…誰かいる」


その言葉に3人の警戒心が一気にMaxまで引き上げられた。


彼らの乗る風の板は完全に止まっていて、それに対して正面の暗闇の中からゆっくりと誰かが近づいてくる。

黒に近い色のローブをかぶっているのか、輪郭は見えるものの顔がはっきりとは見えない。

そんな怪しい奴が突然相手が話しかけてきた。


「おや、こんな暗い時間に同業者に会えるとは思いませんでした」


声の感じは普通の青年。同業者と言っている時点で傭兵だと思われる。

以前であればここで他の傭兵とあってもおかしくはなかったが、コウがすべての村を吸収してからは、明るい時間でもこの辺りを通る傭兵は珍しい。

なのにこんな暗い時間に出会うなど、不自然以外の何物でもなかった。


「……こっちもそう思ったところだ。迷ったのか?」


警戒しながらもリーダーが尋ねる。

少しでもおかしな動きをすれば、少しでも不自然な魔力の動かし方があれば、すぐに動けるよう後方の2人も身構えていた。


「ええ、ちょっと都市に行こうと思っていたのですが…どうも迷ってしまい」


「都市?ずいぶん西側だぞここは」


「なんと!そこまでズレていたとは…」


「東側に行けばどこかで道が見つかる。それから道沿いに北へ行けば都市につくはずだ」


「どうも親切にありがとうございます。助かりました!ぜひギルドを通じて礼をしたので、お名前を教えていただけませんか?」


相手の所属する傭兵団と名前がわかれば、傭兵ギルドを通じて簡単なメッセージとお金を送ることができる。

偶然こういった場所で出会いお世話になっても、即お礼ができない場合などに役立つシステムだ。


向こうの意図は理解したが不信感は否めないし、今更別にお礼で小銭など貰っても仕方がない。

これからの事がよしんばうまくいったとしても、その時は盗賊落ちが確定。もう傭兵ギルドに行くことなど出来やしないのだから。


「礼はいい。俺たちは急ぐのでな…」


そう言って風の板を動かし始めた瞬間だった。

リーダーが右腕に痛みを感じたと同時に、風の板が砕かれ3人が地面に足をつける。

即座に攻撃を受けたことを理解した3人は距離をとったが、リーダーの腕には深い傷が刻み込まれ、咄嗟に簡易的な止血をしつつ距離をとった。


「何だお前ら!」


リーダーが叫ぶと同時に2人が不自然だった男を攻撃しようとしたが、彼はさらに距離をとって後退し、闇夜に紛れ姿を消す。

敵?情報が漏れた?どこから?混乱しながらもすぐにこの後すべきことを考えようとしたのも束の間、周囲から魔力反応を感じたリーダーが即座に叫んだ。


「盾を張れ!」


各々が正面に障壁を張り三角形の形で全方位をカバーした瞬間だった。

周囲8か所から<収束砲>が彼らにむけて放たれ、3人は一気に光の中に飲み込まれた。


相手の魔法を受け切り何とか耐えきった彼らだったが、障壁は砕け体の各所が表皮を削られ出血しつつ、立っているだけで精いっぱいの様子。

どうしようかと彼らが考える暇もなく、今度は周囲から何十本もの光が彼らめがけて飛んできた。


「リーダーを!」


「ああ!」


2人はリーダーをかばうように障壁を張り残りは体で受け止める。

崩れ落ちようとする2人にさらに数名が近づいてきて、1人は斜めから真っ二つに切り落とし、もう1人は鮮やかに頭と体を分離した。


「お、お前らは……まさか、りゅう…」


残ったリーダーの言葉も聞くつもりなどないのだろう。

再び周囲から<収束砲>・<八光折>が飛んできて彼は光に飲み込まれてしまった。


◆◇


「処理は完了したな」


彼らを処理したこのチームのリーダー格の人物が確認すると、その場にいた全員がうなずく。

彼らは女王直属の諜報部隊。今は以前配置されていた最も優秀な第一部隊ではなく、第三部隊が今回の任に当てられていた。


「これで北は押さえたことになるな……」


そう言いながらも不満そうな表情を見せる。

そんな諜報部隊から少し離れた位置にいる男の名はドンギュオ。


以前マナと一緒に仕事をしていた仲間で、今回の作戦にちょっとした伝手で参加させてもらっていた。

彼は倒した相手を見ながら少し悔しそうにつぶやく。


「東は…ほんとうにいいんっすかね…」


「そういう指示だ」


「だけど、あいつらは東にも…」


「ドンギュオ、今回は特別に参加が許されただけだ。私たちに出来ることはもう無い。それ以上口を挿むな」


ドンギュオの隣にいた同じ部隊の隊長アルディオスが、ごねる彼をぴしゃりと黙らせる。


「では我々は行く。この魔石は砕いて破棄しろ」


「わかった」


アルディオスは表情を変えることなく指示を受ける。

それを見て諜報部隊はスーッとどこかに立ち去って行った。


横でまだ不満そうにしていたドンギュオだが、仕方なく魔石の処理を始める。

だが予想通りすぐに不満が口から出てきた。


「これじゃ…まだ危ないっすよね。マナちゃんたちのいるとこ…」


「だが上の指示はここまでだ。私たちは指示通りに動くことが仕事。いいな」


「…了解っす」


不満そうにしながらもドンギュオは魔石の処理を続ける。

彼らの暗躍により、北から盗賊団がやって来るという事態は防がれた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は10/23(日)までに更新できたらと思います。

今話はもうちょっと手直ししたかったけど…毎日帰ったら気絶するように寝落ちするので…


頑張ります。では。

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