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町の崩壊とその重責7

ここまでのあらすじ


コウVS11人の傭兵の先頭が始まる。囲まれたコウは対応力の高い相手に感心した。

魔力を全開まで展開しきる前にコウが動き出したことで、黄翼神獣側に少なからず動揺が走る。

戦いながら周囲に魔力を展開し続けているとはいえ、行動開始時はやはり100%の状態まで魔力を展開しておきたいのが魔法使いの心理なのだ。


とはいえ黄翼神獣側は人数で勝り、展開が8割方だとしても総魔力量ではまだまだ上回っている。


先ほどの接近戦をうまく防がれたからか、コウはゆっくり移動しつつ防御にも意識を割き、遠距離から1人に攻撃を集中させる。

一方の黄翼神獣側は狙われている対象から左右に位置する2人が近づき防御を補助することで、コウの魔法を防ぎきっていた。


さすがに3人で防御に回れば、LVで上回るコウの攻撃も防ぐことは可能だ。

だがコウもその状況を絶対に崩せないわけではない。3人で防御に徹しようが、いくつかの魔法であれば障壁を破壊してダメージを与えることもできる。


だがそんな大技を使おうとコウが複雑な型をストックから取り出し魔力を充填し始めると、周囲を囲んでいる他の傭兵たちがそれを妨害すべく、断続的に<光一閃>など速度のある魔法で攻撃を始める。


型を砕かれては台無しになるので、コウは仕方なく<光の強化盾>で型を守るが、これが続けば消耗戦では不利になってしまう。

相手が攻撃を止める様子がないとわかると、コウはすぐに型をストックへと収納し回避に徹する。


「崩せはするが…」


コウが回避しながら考えていると、周囲の傭兵からの攻撃も止む。

回避され続けては囲んでいる側が一方的に魔力を消耗すると学んだようで、彼らも対策を打ってきたのだ。


双方が攻撃を止めれば戦闘フェイズの終了。お互い攻撃しない状態となり、ただ魔力を展開する準備時間になる。

これでは先ほど魔力の保持具合で優位となった立場を失ってしまう。


「これは…魔物相手や訓練じゃ経験できなかった状況だな…」


よくできた相手の動きにコウは苛立ちを覚えつつも、どう事態を打開するか思案し始めた。



◆◇



一見するとコウが若干不利に見えなくもない状況だが、黄翼神獣側も押し込めない分決め手がないことが露呈しており、取れる選択肢が限られていた。

大技を連発し一気に追いつめたいところだが、コウがあれだけ冷静に躱しているとなるとこちらの大技を防ぐだけの余裕はあるとみていい。


大技を放った後に集まって、消耗した人物を守るという手もあるにはあるが、四方から攻撃され集中力を削られている今の状態でも、コウは要所要所で反撃に繋がりそうな一手を打ってくる。


当初バルティアスは、戦闘になった時の方針を『削りつつこちらの優位性を保ち、勝てないのであれば出来るだけ長くコウをこの場に留める』事が最優先だと指示を出していた。

現在、残念なことにその優位性は得られてはいない。

唯一幸運だと言えるのは相手も優位性を得られてないように見える点だった。


魔法の打ち合いだとこちらの魔力展開力が劣っている分不利になるが、コウが攻める行動を止めればその不利を解消する時間が得られる。

つまりコウは安易に休むことができない状況なのだ。


逆にバルティアスたちは全員が魔法を放ち続ける必要はなく、コウがあまり余裕を持てないよう隙をついては攻撃を繰り返せばいい。

つまり常時全力で攻撃を続ける必要がないのである。


とは言えコウは相当の格上。油断ができる相手ではない。


(お前ら、気を抜くなよ!常にあいつを疲労させ続けろ。そこにこそ勝機がある)


コウはバルティアスが念話で指示を出しているのは気づいているようだったが、この状況で一番硬い相手に手を出す気にはならないのだろう。

とにかく目の前の状況をどう変えるか、突破の糸口を見つけるのに必死になっているようだった。



◆◇



再びコウが攻撃を開始し遠距離での打ち合いが続いていたが、互いに展開していた魔力の大半を消耗したところで第二フェイズが終了となる。


足止めという点だけを見れば、黄翼神獣側はよくやっていた。

だが逃げたナナキアをマナが単独で追いかけたのは気になる点である。


マナは火属性の魔法使いであり風の板は作れないので、一度彼女の乗る風の板を破壊すれば魔道具で作り直している間に距離を開くことができる。

魔道具での風の板作成は、本職とは違って少し時間がかかるため一度でも破壊できれば逃げ切りは可能だ。


しかも逃げるナナキア側は2人いて攻守分けることが可能な上に、風の板が壊されたとしても同行した風属性の傭兵が即座に作り直せる。

つまり、コウさえ足止めしておけば流星の願いの悪だくみは失敗に終わるはず、というのがバルティアスたちのモチベーションだった。


(奴は尋常な強さじゃない、わずかでも気を抜くなよ)


再度念話を飛ばした直後だった。

思うようにいかないこの状況に打開策を求めてか、コウがバルティアスに話しかける。


「すごいな。同じ傭兵団のメンバーだけあってか連携が上手く、隙が無い」


「ふんっ、お前こそ化け物かよ。背中や左右から飛んでくる魔法を見もせずに回避してる」


「ああ、それか。風属性の特長ってやつだな。周辺の攻撃を早めに察知できるんだ」


コウの言葉を聞いてバルティアスには思い当たる節があった。

戦闘中何度もコウの方から微弱な風が吹くことがあったのだ。


「あれで感知してるのか?」


それに対してコウは余裕のある笑みで返した。


属性によって感知の仕方や感知できる範囲などが変わるのは、魔法使いにおける基本的な情報と言っていい。

一例を挙げると、コウが風属性で周囲を感知している時は、風の力が及ばない地面の中の魔力はほとんど感知できない。


だが感知にはもう1つ基本的な方法がある。それが自分の魔力による感知だ。

これであれば風属性でも多少地面の中を感知することができる。その範囲や鋭敏さは魔法の総LVと言われる数値によって変わる。


「なるほどな…」


先ほどからコウが風属性によって感知しているとわかり、バルティアスは先ほどまでの戦いを思い出していた。


コウが反撃するために光属性に切り替えて攻撃している時は、風属性の時より微妙に反応が遅い。

とはいえその反撃は鋭く、黄翼神獣側も攻撃に専念できるほど余裕があるわけではないが。


コウからの反撃に対して肉を切らせて肉を断つという手に出るのもありかと思ったが、今はまだ黄翼神獣側は優勢な状況と感じており

バルティアスも思い切った手を打とうという気にはならなかった。


(攻める時は相手が光属性の時だ。だが無理はするなよ)


このままならいけるはず。そう思いながら念話で情報を伝えていると、コウが半歩踏み出す動きを見せる。

少し気を抜いていた傭兵たちの間に一気に周囲に緊張が走ると、その雰囲気を感じ取ったコウが笑った。


「ふふっ。今回は良い経験になったよ。だがそろそろけりをつけたいところだ。最後にもう一度だけ聞くが、こちら側につくつもりはないのか?」


「あるわけないだろ」


バルティアスの即答に、コウはわかっていたよと言わんばかりに視線を落とし少し寂しそうにする。


「ふぅ…。実力が無いせいでスマートなやり方じゃないのは悪いが…力業で押し通る!」


コウの言葉に囲んでいた傭兵たちは、全員その動きに集中した。



コウは光属性に切り替えると、4つの同じ型を同時に作り始め即座に魔力を消費して発動させる。


「八光折が4つだ!」


バルティアスの声に仲間たちは自分が狙われなければここが責め時と考え、攻撃の方に重きを置く。

するとコウはバルティアスの方に一直線に向かってきた。


そして1テンポ遅れて計32本というものすごい数の光線がコウの周囲を通り過ぎ、バルティアスの方へと向かっていく。

少し離れた位置にいた左右の傭兵が1人ずつバルティアスを守るために近づき、型を用意しながら意識を守りに集中させる。


バルティアスも集中盾を用意して防御に専念する姿勢をとる。

代わりに狙われなかった8名の傭兵たちが、攻撃の型を作り発動させようかとした時だった。


待っていたと言わんばかりに、コウは突然ジャンプすると空中でバルティアスのいる方とは反対方向へと吹っ飛ばされる。

それからわずかに遅れて半分の光線が170度という急角度で反射したかのように方向を変えた。


まずいと思ったバルティアスだったが、自身の方にも放たれた魔法の半分は向かってきており、咄嗟に攻撃に切り替えてコウの動きを制限する余裕はない。

向かってきた16本の光はバルティアスの前後左右に位置取り、ほぼ同じタイミングで全方向から向かって来る。


リーダーを守ろうと左右の傭兵は彼を囲むように2枚ずつ障壁を張り、本人は上部と細かな隙間を埋めるように3枚の障壁を張った。

先ほどまでの第二フェイズよりも威力のある一発一発を何とか防ぎ、次こそコウの足止めをと思ったが、そうはさせないと言わんばかりに<風刃>が2発正面から飛んでくる。


「くそっ!」


バルティアスは正面に<光の強化盾>を張りそれを受け止めたが、障壁にひびが入ったかと思うと砕かれ

守りの補助にまわった傭兵2人が追加ではった障壁でなんとか難を逃れた。


さっきよりも明らかにギアを上げてきたコウの攻撃に、先ほどまでのわずかにあった余裕がすーっと消えていく。

背中に冷汗が流れると同時に、コウが反対側を狙ったことを思い出しバルティアスは大声を上げた。


「無事かぁぁぁぁ!!」




<加圧弾>で自分を吹っ飛ばし急遽反転したコウは、リーダーとは反対側に位置しているサブリーダーを狙う。

わずかに遅れて反転した16本の光がコウの周囲を追い抜くように通り過ぎ、目標であるサブリーダーの左右に位置する傭兵に向かって曲がった。


彼ら黄翼神獣たちの包囲陣で一番特徴的なのは、囲んだ強敵からの防御を狙われた1人とその左右の傭兵の3人で担当する点だ。


1人なら手数や威力で押し込める相手でも、3人がほぼフルガードにまわられると、さすがのコウも即発動させられる下級の魔法ではダメージを与えられない。

だからと言って大技を狙おうとすれば囲んでいる他の傭兵たちが、徹底的に邪魔してくる。


そんな状況でどうやって彼らの包囲を崩そうかと考えたコウは、リーダー格、もしくはサブリーダー格を一撃で落とし混乱させるしかないと判断した。

どうにかやってメンバーの1人を落としたところで相手に与える動揺は少なく、消耗戦にもっていけばまだ勝機はあると思われてしまう。


消耗戦でも勝てる自信はあったが、向こうがそう思っている限りはある程度コウもそれに付き合わされ時間を浪費してしまう。

街道沿いからは少し離れたとはいえ、これだけ派手に戦闘をやっていれば通りがかった傭兵が気づき、近づいてくる可能性は高い。


流星の願いに味方する傭兵であればまだよいが、そうでない場合黄翼神獣側の援軍になる可能性だってある。

だからこそこの戦いはあまり時間をかけるわけにはいかなかった。


とっとと全滅させたいのは山々だが、彼らは一撃で落とせるような大技をみすみす打たせてくれるようなやわな相手ではない。

だからこそコウはまずリーダーへと向かい、3人に防御態勢をとらせた。

そして適度な攻撃でその防御姿勢を維持してもらいつつ、本命への攻撃に反転したのである。


突如狙われたサブリーダーは慌てて障壁魔法の準備に取り掛かり、その左右に位置する傭兵も攻撃の型を放棄して防御へと回る。

これで囲んでいた総勢11名のうちに6名を一瞬にして防御へと回らせた。


攻撃が飛んでくるのは八光折のような攻撃角度を変えられる魔法でなければ左右からのみ。

正面と背中には気を向けなくていいというだけでも、コウはかなりの集中力を攻撃へと向けることができた。


コウがストックから複雑な型を取り出すと即座に左右から攻撃が飛んでくるが、慌てた彼らが八光折のような仕込みの多い魔法を使うことはなかった。

直線的な<光一閃>や<光の槍>が飛んできて、コウはそれを難なく左右に張った障壁で防ぐ。


「んーー、ぃけっ!」


コウがちょくちょく出しては引っ込めをしながら作っていた、取って置きの<貫通槍>を発動。

型の複雑さ、コウが発動時に消費した周囲の魔力の量から考えてもすぐにやばいとわかるほどの一撃。


回避できないと判断したサブリーダーは、作りかけていた型もばらして魔力とし、ここぞとばかりにストックから取り出した<光の集中盾>を取り出し発動。


左右にいた傭兵たちもそれに重ねるように何とか作った<光の強化盾>をそれぞれ2枚張る。計5枚の重層な魔法障壁。

コウにとっては中技、ここに居る傭兵たちにとっては大技になる収束砲くらいでは余裕で止められるほどの障壁。

未知に技に対する対処としては、満点の対応だったと言えるだろう。


だがその満点の対応をコウは力業で押し通した。


コウの放った強力な魔力を帯びた回転する貫通槍は、4枚の強化盾などまるでなかったかのように貫き、最後の集中盾も一瞬だけ止まったかのように感じたが容易に砕いた。

そしてそのままサブリーダーの胸部に到達しそれをも難なく貫いて後方へと飛んでいく。


普通の魔法であれば、障壁で威力を殺されていると、相手の体を貫くほどの威力を出すことは難しい。

相手の体もまた魔力の塊のようなものであり、障壁と同じように威力を殺す効果があるため、既に威力を殺されている魔法であれば表面や数センチ程度をえぐる程度で終わるのが普通。


だがサブリーダーの体は7cm程の大穴が開いており、信じられないといった表情を見せたまま彼女は倒れた。

左右に位置する傭兵たちはその一部始終を見て恐怖よりも驚きの方が勝ったのか、倒れるサブリーダーから目が離せなかった。


だが彼らもあまり余裕はない。

目の前にはそれぞれ8本の光線が向かってきていた。


その8光折に仕込んだ屈折回数は2回。

もう曲がることはなく正面に障壁を張ればいいだけの簡単な対処で良かったのだが、右側の傭兵は驚き固まっていたことで障壁を張れなかった。


コウは右側に<風刃>を一発飛ばすと同時に、左前へと自身を吹っ飛ばして傭兵との距離を詰める。


とっさのことで必死に障壁を張り八光折を受け止めた左側の傭兵は、そこで安心しきってしまったのだろう。

気を抜いた瞬間だった。吹っ飛んできたコウが障壁を剣で貫き、そのままその傭兵の左胸部に突き刺す。


しまったと思い反応しようとしたが、コウはそのまま右側に剣を振りぬき、その傭兵の左腕を切り落とした上に<加圧弾>で傭兵の頭を地面に叩きつけた。

念のためと右側にいた傭兵を目視で確認すると、腹部から太ももにかけて7つのくぼみができており、左半身は風刃をまともにくらった大きな切り傷から大量の血を流していた。


背を向けたコウに対して一矢報いようと、地面に頭を叩きつけられた傭兵が最後の魔力を振り絞って型を作ろうとしたが

上から<風の槍>が降ってきて、その傭兵の頭へと突き刺さる。


途中まで作り上げていた魔法の型は霧散し、彼の意識がなくなったことを示していた。



「無事かぁぁぁぁ!!」


バルティアスが叫んだ頃には土煙なども収まってきており、3人の傭兵が伏してコウだけが立っていることが露わになる。


「集まれぇ!」


その様子を見たバルティアスは怒りながらも、大声で指示を出した。

即座に包囲陣を捨てたその判断は怒りとは対極にある冷静さから出た行動であり、コウは敵ながらその鋭い判断に感心した。


コウは魔力を展開しながらゆっくりと近づき、ある程度の距離まで来るとその歩みを止める。

バルティアスは魔力を展開しながらも、怒鳴るように尋ねた。


「なぜだ!なぜそれほどの腕を持つ者が、こんな場所にいる!」


なぜだと聞かれれば答えられるが、それはあまり公にしたくない話だ。

コウが返答に困っていると、バルティアスは怒りながらもさらに言葉を続けた。


「ここに来る貴族ってのは、基本おちこぼれだ。才能は俺たちよりもあるが、威力のある魔法を豪快にぶっ放すくらいしか能がない。

 だがお前は何だ?それほどの腕があれば、それなりに扱われているはずだろ!なんなんだよ…お前は!」


「あと8人だ。一気に終わらせる」


今更彼らに冥土の土産としてこれまでのいきさつを話す義理などない。

あまりマナを心配させないように、とっとと目の前の敵を片付ける。

コウはそれ以上のことは何も考えないようにして、再び一歩距離を詰めた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は8/24(水)更新予定です。

1日遅れてしまいすみません。某ゲームのアディショナルが来たり、父が調子悪くて病院に行ったりと・・ってのはいいわけですね。(特に前者)

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。


では。

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