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町の崩壊とその重責5

ここまでのあらすじ


オクタスタウン側は新たな法律を作ることで、人口流出を食い止めようとする。

それに対して流星の願いも動き始めた。

◆◇



ホロイシンは新たな町の法律(ルール)を認めてもらうために都市へと派遣する人物をナナキアに決定した。

元々彼女の立案であり、法律の詳細求められたり一部変更を指示された場合は彼女が的確に判断できるからだ。


今回オクタスタウンに新設される「町の住民に金を配る代わりに移住ができなくなる」という法律は少々複雑であるがゆえに、この町を支援する都市の長の承認が必要になる。


普段であればこういった申請は町長自ら幹部を含めた大勢を率いてお伺いを立てに行くものだが

そんなことをしてしまえば町の住民や傭兵たち、ひいては流星の願いにこちらの動きが筒抜けになってしまう。


ここまで秘かに住民を吸収していた彼らなら、そんな新たな動きを黙って見過ごすことはないだろう。

ルールを作る前に動きがバレれば対策されかねない。


そのため今回は隠密行動が必須であり、町が傭兵ギルドへ指名依頼を出して確実にオクタスタウン側につく傭兵を護衛に指定。

朝多くの傭兵たちが出発した後にナナキアがフードをかぶり護衛たちと同じような格好をして、護衛担当の傭兵団『黄翼神獣』に合流。

都市から派遣された兵士たちが見張っている門を選んで町の外へと出た。


他から見れば、黄翼神獣のメンバー13名が、込み合う時間からちょっと遅めに魔物討伐の依頼のため出発したようにしか見えない。

そんな完璧な偽装をしてから町を出て、一行は都市エステリアを目指して風の板で進んだ。


「完璧な偽装でしたね。後は都市に向かって急ぐのみです」


「ええ、そうね。ギルドを通じて向こうに報告は入れてあるし、明日謁見、明後日には吉報を持ち帰れるはずよ。

 私は何としてもあのオクタスタウンを守るため、この作戦を成功させる必要がある。道中の魔物は任せるわ、バルティアス」


「お任せください。といっても、この一帯は毎日のように魔物が狩られて安全なんですがね」


周辺の村がなくなったことで都市と町を繋ぐ道沿いでの魔物出現報告ばかりが上がるようになり、それを討伐組が狩りつくすことでこの道もすっかり安全になった。


今や物流は都市と2つの町を繋ぐ道だけが使われており、それ以外の消えた村に続く道は徐々に使われなくなり、整備されていた道も草に覆われつつある。

最近はそうした場所に魔物が溜まっている懸念も出てきており、傭兵ギルドから調査依頼が出るようになっていた。


商人たちを護衛する仕事は信用度がC+になっていないと受けることができないため、信用度がC止まりの傭兵団はそうした調査依頼を積極的に受けている。


余談だが、護衛依頼中に討伐した魔物は討伐報酬が出ない。

倒した分の魔石を売ることによって多少の収入は得られるが、依頼はあくまで護衛ということでギルド側(正確には予算を出す町側)がケチっているのである。


流星の願いが運営するエイコサスタウンは多少余裕があるが、一般的な町は言うほど予算に余裕がないのだ。


「安全か。それは良いことだな」


ナナキアは多少思うところがあるのか、面白くなさそうにつぶやきつつ周囲を見渡す。

久しぶりに町の外に出た彼女は魔物のいない風景を見ながら、以前の一傭兵として魔物を討伐していた頃を思い出していた。


仲間たちと魔物を狩りながら村々の安全を保つことに意義を見出していた日々。

今となってはあまり良い思い出とは言えないが、そんな日常も1人の傭兵の出現により徐々に変わっていったことを実感させられる。


「事態は急を要する。失敗はできないのだから警戒を怠るなよ、バルティアス」


「もちろんです」


3つに分かれた小隊はそれぞれ風の板に乗って、総勢13名の傭兵たちが都市へと急ぐ。


急ぐと言っても風の板はそこまで速度の出る代物ではない。

魔物に遭遇することなく淡々と進む状況が2時間も続けば、周囲を警戒している傭兵以外は集中力が欠けてくる頃だ。


このまま何事もなく都市へと到着して、今日の仕事が終わりそうだなと多くの傭兵が思っていた頃だった。

前方を警戒していた傭兵から報告が上がる。


「リーダー、前方に2人の人影があります」


報告を受け前方を見ると遠くにうっすらと2人の人影が見えた。

この道は都市に続く道であり、他者とすれ違うこと自体別に不思議なことではない。

30分ほど前も商人やその護衛たちの一団とすれ違ったばかりである。


とはいえ、いくら魔物が少なく安全だからといっても2人で行動する者はほとんどいない。

複数の魔物に囲まれれば命を落としかねない危険な場所に変わりはないのだから。


そんな場所を2人でとなるとそれなりの実力者である可能性が高い。

バルティアスは多少警戒しつつも速度は落とすなと指示を出し、それに従い先頭の風の板は速度を落とすことなく進んだ。

向こうもこちらに向かって歩いているようで徐々に距離が詰まってくる。


先頭の風の板に乗っている前方警戒の傭兵が、その2人を特定した瞬間驚いて目を見開き、慌てて部隊を止める指示を出した。


出発前一番大事なこととして、今回護衛にあたるメンバー全員に急いで都市へ向かうことが伝えられていた。

それにもかかわらず先頭にいる者が停止の指示を出したことに、ナナキアを含む全員が何事かと神経をとがらせる。


少し先を進んでいた風の板が突如引き返し、ナナキアやリーダーバルティアスのいる風の板に近づいてきたかと思うと、緊張した面持ちの傭兵が震えながら報告してきた。


「たっ、大変です!」


「何事だ、落ち着け」


前方にいる2人の事か、はたまた周囲に強い魔物の影でも見つけたのか、慌てる部下に多少困惑しながらもバルティアスは落ち着いた様子で報告を求めた。


「前方に…奴が…、流星の願いのコウがいます!」


その報告にバルティアスだけではなく、横にいたナナキアまでもが目を見開いて驚いたまま固まってしまった。


彼女は流星の願いに情報が漏れないよう、慎重に慎重を重ねて行動してきた。

特にこの都市に向かう最中は無防備であり、妨害されてしまえば大事な一手が打てなくなる。


コウがここに居るということは、その絶対にばれてはいけないはずの作戦が漏れてしまったということ。

絶望が突如空から降ってきた…そんな心情に(さいな)まれる。


彼女は絶望に思考を停止されないよう、目の前にある危険の対処よりもどこから情報が漏れたのかを考えていた。

その間、バルティアスは我に返るとすぐに風の板を消し、メンバー全員を集めてナナキアを守るべく防御態勢をとるよう指示した。


彼は流星の願いと対立すると決めた時、戦いになるかもしれないと考え、できるだけ彼らの情報を集めていた。

その情報から戦って勝つことは不可能だとしても、足止めはできるくらいの戦力をこの護衛として同行させていた。


そんな緊張に包まれた彼らの眼前に堂々と立つ絶望の存在は、落ち着いた雰囲気で笑顔を見せ口を開く。


「初めまして、流星の願いのコウと言います。そちらが…ナナキア殿かな?お初にお目にかかります」


コウは簡単な自己紹介とあいさつをしただけだったが、その場の空気に強い緊張が走る。

相手から、しかもあの流星の願いのコウから声をかけられたとあっては、さすがに別のことに思考を向けて無視するわけにはいかない。


「あなたとは初めて、だったかな。オクタスタウンの運営を任されている役人の1人、ナナキアだ。こんなところでお会いするとは思ってもみなかったな」


護衛の傭兵たちはコウを囲むように半円状に展開し、一挙手一投足を見逃さないよう注意を払っている。

だがそのコウの後ろにいる女性もまた厄介な存在。


彼女は大勢で囲んでいた炎狼を、突如横から乱入しあっという間に倒した流星の願いの幹部マナ。

2人が相手ではまず勝ち目がないことくらい、囲んでいる護衛の傭兵の誰もが理解していた。


「ちょっと厄介な用事があったんで、マナと2人で向かっていたところなんですよ。それよりナナキア殿はなぜこんなところに?

 普段は町の様子を見に町長の屋敷から出てくることすら珍しいと聞いていましたが…ここは都市へと向かう道ですよ」


わかっていながら遠回しに聞いてくるコウに対して、彼女は苛立ちと恐怖を堪えながら答える。


「少し野暮用で都市エステリアへと向かっていたところなんだ。魔物がいると聞いていたから護衛をつけていたんだが、思ったより静かなものだな」


「そうでしたか…。うーん、どうでしょう。今からうちの、エイコサスタウンに来ませんか?あなたほどの方とせっかくお会いできたんだし、少し話がしたいと思ったので」


2人が会話している間、コウの後ろにいるマナは体を左右に揺らしたりその場でゆっくりと回転したりと、攻撃するそぶりは見せなかった。

だがその行動はこの緊張した場面では異質で、傭兵たちは強い緊張の中その真意など考えないようにして、その場に魔力を展開し警戒を続ける。


一方、唐突なコウからの誘いにナナキアは少し苛立ちを露わにしながらも答えに悩んでいた。

なかなか返答が出ない中、護衛の黄翼神獣のリーダーであるバルティアスがこちらの用事を遮るコウの失礼さにたまらず抗議する。


「我々はエステリアへと…」


そこまで口に出した瞬間、ナナキアの手がバルティアスの言葉を遮った。

驚いて彼が見ると、彼女はそれ以上何も言うなと言わんばかりに首を横に振る。


一瞬戸惑いはしたものの、コウの言葉がどういう意味なのか彼女は理解していた。

簡単に言えば『今すぐこちら側に下れ』である。もちろんそれを断ればどうなるかは想像に容易(たやす)い。


一瞬そうすればどんなに楽か想像した。だが彼女は町の期待を背負っている身。

それにナナキア自身、コウの指示の元で動くのは承服しかねることだった。


彼女は自分で街を運営したいという欲望があり、それを察したホロイシンが指針を丸投げするという形でオクタスタウンは運営されている。

今の環境こそが最高であり、コウの元に行きたいと思ったことはなかった。


だからこそこんな状況になっても彼女は諦めない。


(私は離脱する。時間を稼げ)


ナナキアはバルティアスに念話を送り、それを受け彼は部下たちに指示を出す。口ではなく体の動きによるサインで。


「私に興味を持ってもらえるとは有り難い。ですが今は急ぎの用事の途中。またの機会にお願いしたい」


「うーん、残念だ。だが急ぎの用事があるのではしょうがない、では……」


コウがすごく残念そうに答えた時だった。


ナナキアはバルティアスの後ろにさっと隠れると、そこにいた護衛の中で唯一風属性の傭兵と共に風の板に乗ってこの場からの離脱を試みた。

コウはそれに対して驚くことなく改良型の風の板を自分の後ろに作り、背中を向けたままマナに指示を出す。


「追ってくれ。こっちは俺が対処する」


「うん」


マナはいつものようにうれしそうに答えると、魔道具を取り出して風の板を操作しナナキアたちの後を追った。


今話も読んでいただきありがとうございます。


結局戦闘は次話に持ち越し・・・。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は8/15(月)更新予定です。 では。

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