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栄える町と衰退する町8

ここまでのあらすじ


コウとサンディゴはオクタスタウンへと向かうこととなり、本隊から離れて先に出発した。

既に辺りは薄暗くなった中、2人を乗せた風の板が道なりに進む。

コウがいれば索敵はお手の物。しかも改良型の風の板は通常より速く宙に浮いたままぐんぐん進む。


多少道からはズレながらも直線的に進む風の板は、コウが周囲の地形を感知しているおかげで道から大きくそれることはなかった。

だがそこまでコウの能力を知らないサンディゴは、辺りが真っ暗になるにつれて不安を感じていた。


暗い時間帯に大した目印もなく道なりに移動する場合は、風の板から降りて周囲に明かりを張り、徒歩で進むのが一般的なやり方だ。

もし風の板で移動するとしても、速度を落として道からそれ無いよう慎重に進むことが求められる。


草木が続き目印のないこの広いエリアで万が一道から逸れてしまうと、再び道に戻ることは困難になる。

それが明かりもない夜ともなればなおさらだ。


ここは仮にも中立地帯であり、暗い時間帯は辺りがほとんど見えなくなるほど暗くなる。

しかも暗い時間帯は光の連合のエリアに比べて長くなっており、傭兵団によっては野営する場合だってある。

それなのにかなりの速度で移動するコウはサンディゴにとって異常としか言いようがなかった。


風の板は速度が出て便利な代物だが、こんな暗闇で勢いよく進んでしまえば道に迷ってしまい、明るくなったとしてもどこにいるのかすらわからなくなる恐ろしい代物。

暗闇の中周囲を明かりで照らしたとしても、速度が早ければすぐに道を見失いかねない。

方位磁石もないこの世界では、闇雲に進むと自分たちがどっちに向かって進んでいるかすらわからなくなるのだ。


しかも今はこのエリアから村が全て消えており、商人や傭兵たちによって踏み固められてできた村へと続く道が徐々に消えつつある。

だからこそ慎重に進まなければならないのに、コウはお構いなしに風の板で突っ切っていった。


「ちょ、ちょっと…リーダー!」


「ん?」


サンディゴの方を見ることなくコウは答えた。


「道、迷ってないっすよね?」


「大丈夫だって。迷っていたらこの速度で突っ切るわけないだろ。ちなみに左側20m程のところに道はあるよ」


コウに指摘されて思わず左を向くが、辺りは既に暗くなっておりサンディゴが目を凝らしても道は見えない。

試しに<明かり>の魔法を自分との距離固定で発動させ左側を照らしてみると、結構下の方にぼんやりとだが道っぽいものが見えた。


感覚的におおよそ20m程の距離。

しっかりと道を捉えていることにサンディゴは驚いた。


「風の…力っすか?」


「まぁ、そんなところだな。一定距離の地形や魔物の有無ならずっと把握しているから心配はいらないよ。

 それより明かりは消した方がいいかもな。盗賊はいないだろうが、魔物に視認されやすい」


そう言うと同時にコウは右側に向かって<風の槍>を2発発射した。

突然の魔法行使に驚くサンディゴだったが、何か悲鳴のような鳴き声が一瞬だけ聞こえたかと思うと置き去りにしていく。


「命中っすか?俺には何も見えてないんすけど…」


「追いかけて来てる魔物の集団の先頭を潰しといた。速度が落ちたからもう追っては来ないだろう」


「………」


こうした暗闇では明かりで周囲を照らし、できるだけ早く敵を見つけて対応するのが上策。

こんな敵をガン無視して置き去りにする移動方法は経験したことがなく、サンディゴは戸惑いっぱなしだ。


「ほんとにすげぇ…。これじゃコウ様に夜間戦闘を仕掛けられた盗賊共はひとたまりもなかっただろうな…」


「なんだかんだこの辺にいる魔法使いの大半は光属性の使い手だからな。夜間の奇襲に戸惑う盗賊たちも結構いたよ。

 まぁ、こっちも俺について来られるのが数名しかいなかったんであんまり夜襲はしなかったけど」


少し照れ臭そうに話すコウを見て、サンディゴは少しだけイメージと違うなと思った。


「それでも初手で混乱させれば上出来っすよ。あー、ちょっとだけあいつらに同情したくなったわ」


そんな他愛もない会話をすることもあったが、大半は2人共黙ったまま風の板は進んでいった。

サンディゴはあまり邪魔はできないと思い黙るしかなく、コウはその分周囲に気を割いていた。


だが何時間もただ黙って座っておくというのもなかなかに辛いものだ。

だったら寝てればいいのだが、流星の願いとして多くの傭兵たちをまとめるコウが索敵に風の板の操りにと意識や魔力を割く中、新参者の自分が横で寝るのはあまり非常識。

なので仕方なくサンディゴも起きている。


「ちょっと、聞きたいことが…」


「んー、なんだ?」


コウは風の板の操縦と周囲の索敵に注意力のほとんどを割いているのか、相変わらずサンディゴの方を向かずに答えた。


「オクタスタウンに、何で行くんすか?村民団の壊滅と民への誓いの弱体化は、別に俺たちが行かなくてもルルキナが報告するだろうし…」


「……だが俺たちからも報告した方が情報も正確になるし、何より印象が悪くならずに済むだろう?」


(いや、町の四大傭兵団の一角を潰した時点で印象最悪じゃね?)


サンディゴもさすがにこれだけは言葉にすることなく心の中で反論した。


彼の思う通り、町の主力の一角を潰した時点で既に印象は良くない。

民への誓いがその目的を無くしたとしても、組織自体が存在すればそれだけで町の戦力は維持される。


だがそんな彼らをコウが瓦解させたのだ。

今や巨大な組織と化した流星の願いに正面切って喧嘩を売る者などいないが、これからはオクタスタウンに所属する傭兵たちから危険な存在として見られることは避けられないだろう。


「まぁ、最悪の印象は避けられるかもしれないっすね…」


「ふっ。だと助かるんだが…まぁ、もともとそれは主目的じゃない。とにかく、サンディゴが同行してくれて助かったよ。

 民への誓いの元幹部が1人はいてくれた方が、真実味も増して事がスムーズに運ぶだろうなと思ってたからな」


「じゃ、俺は民への誓いが2つに割れたって証言すればいいんですね…」


「…まぁ、そんなところかな。基本的な流れは俺に任せてくれればいいから」


発言からコウが他にも何か目的がありそうなことはわかったが、あまり語ろうとしないことからサンディゴもそれ以上は触れなかった。

ただちょっと…いや、かなり面倒なことになりそうだなとだけは理解したのか、その気持ちが表情に出てしまう。


それにコウも気づいたが、敢えて触れることなく黙って風の板を操作していた。



何度か会話しては沈黙が続く…そうしているうちに、暗闇の中遠くに明るい光が見えてきて徐々に近づいてくる。


「えっ、町?」


「ああ、オクタスタウンだ。悪いな、操作に集中してあまりしゃべる余裕なくて」


「…え、いや、いいっすけど…。え、マジで?」


「マジって何がだよ?」


「いや、早すぎないかなーって…」


暗闇の中を進んでいたことで地面もほとんど見えず、どれくらいの速度が出ているのかあまり実感がわかなかった。

ただ普段の風の板よりは早く進んでいそうだ…その程度の認識だったが、想定していた時間の半分ちょっとでオクタスタウンへと到着したのである。


普段は少し軽い調子の彼もさすがに困惑を隠せなかったが、その明かりに近づいていけばいくほど間違いなくオクタスタウンであることがわかる。

もうすでにこのエリアに村などないのだから、人が住んでそうな明かりなど2つの町のどちらかでしかないのだが。


「うわ、マジだ…えぇ…」


町の入り口に到着したにもかかわらず、驚きぽかんとしている彼を見てコウは声をかけた。


「さっ、風の板から降りるぞ。ギルドに向かうからついて来てくれ」


「……あ、ああ…」


ここまで驚かせるつもりなどなかったコウは戸惑いつつも町へと入り、共に傭兵ギルドまで向かった。

まだ夜明け前だからか、ギルドの1階ロビーには傭兵の姿などなく受付が1か所だけ空いているだけだった。


コウはすたすたと歩いていき受付に行くと、受付の男に話しかける。


「悪いがギルド長に伝言をお願いしたい」


「おっと、これは流星の願いのリーダー、コウ殿ですか。ギルド長に伝言とのことですが…内容はどのような?」


「できるだけ早くこの町の4大傭兵団のリーダーを集めた会議を開いて欲しいと伝えてくれ。もちろん俺からの伝言でな」


それを聞いて受付はいぶかしげな顔をした。

コウが依頼したのは、いわゆる傭兵ギルド主催のこの町における現場の最高会議のようなもの。

町におけるギルドの方針を決めるためにこの町の主要傭兵団のリーダーを集めて話し合う会議だ。


一般の傭兵たちにはあまり知られていない会議だが、一時期この町の主要傭兵団にまでなった流星の願いのリーダーであればその存在を知っていても当然。

とはいえ流星の願いは現在この町を本拠地としておらず、コウに開催を持ち掛ける権限などない。


一応依頼内容が『ギルド長(代理)のドゴスタに伝言』ということで直接開催を依頼しているわけではないのだが…。

とはいえ既にコウはこのエリアで一番の大物。たかが受付の立場で無下にするわけにもいかない。


「あくまで伝言であれば…お伝えしておきます」


「悪いな。多分わかっていると思うが、俺がゲストで参加したいと付け加えておいてくれ。じゃ、サンディゴ一旦戻ろうか」


「あっ、ああ」


無茶な要求しているなと思いつつ後ろで聞いていたサンディゴは、伝言だけであっさりと引き返すコウに戸惑いつつも従う。


「で、戻るって…エイコサスタウンまでですか?」


「いやいや、何時間かかると思ってるんだ。俺たちの拠点にだよ」


「え、いや…」


「すでに傘下に入ってるんだから、遠慮するなって。来客用のベッドなどまだ残してあるから少し仮眠が取れるぞ」


「まぁ…それならありがたく…」


仲良さそうに立ち去る2人を見つつ、ギルド職員は先ほどの伝言を正確にメモして起きたらすぐにギルド長に伝えるよう手配した。


と、そこでふと気づく。

2人は最近犬猿の仲と噂されている2つの傭兵団のリーダーと幹部。


仲直りでもしたのかと思い首をひねったがすぐに忘れ、受付の男は残っている仕事に手を付け始めた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


またもや7/5までに間に合わず申し訳ありません。

うーん・・・。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は7/9(土)更新予定です。


サクッと流そうと思った今話だったけど、気づいたら中途半端な分量にまで膨れ上がってしまった。。


では。

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