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栄える町と衰退する町7

ここまでのあらすじ


村民団を吸収したコウたちは村へと向かい移住の準備に取り掛かる。

3百人規模の村だけあって移住の準備にはかなりの時間を要した。

事前に来る時間を伝えていたので村人たちは引っ越しの準備を進めていたが、あらかじめ決めていた荷物量をオーバーするなどルールを守らない村人も出てきて現場が混乱する。

そうした混乱の中、エミリナをはじめとした村民団のメンバーが中心となって指示を出し、各所で起きているトラブルを1つ1つ解決していった。


今回新たに加わった彼らは、出遅れた分この混乱こそがアピールチャンス。

いきなりコウにアピールするよりも、まずは自分たちが得意とする現場で対応している傭兵に役立つことを示したのである。

この得意分野でアピールする作戦はかなりの評価を得られた。


「さすが名もなき花の皆さんだ。助かったぜ」


「私たちは戦闘が苦手な分、こういったところでお役に立てればと思っていますから」


先に流星の願い側に移った傭兵団は戦闘が得意な者が多かった。

当時は盗賊団を次々と撃破していった状況を見て参加を希望したこともあり、戦闘面を得意とするメンバーが多く集まったのである。


その分村人たちとの折衝や誘導は少し苦手なところがあり、その弱点を今回新たに参加したメンバーたちがうめてくれた。

これにより流星の願いを頂点とする集団の体制は、より盤石になったといえる。


「師匠、こっちのエリアはほぼ準備が整いました」


シーラの報告を受けコウは満足そうな表情を返す。


「こっちもそろそろ完了しそうだよー」


マナがエミリナからの報告耳にして、自分の受け持ちエリアの状況をコウに伝える。

素体の者たちの移動準備はほぼ完了といったところだが、移動するものは他にもあった。


「家畜の運搬準備は終わりそうか?」


「あと30分ほどで終わります。思ったより時間がかかりましたが、なんとか落ち着いてくれました」


『犬のしっぽ』から派遣されたメンバーたちが家畜運搬の対応を行っており、これで以前の村で起きたような魔物繁殖用の餌を残さずに済む。

その返事を受け、一番時間のかかりそうだと懸念していた部分も終わる目処がついてきた。


各々が担当してた作業を終え、長かった5時間ほどの引っ越し準備も終わりを迎える。



ここでコウは今回参加した各傭兵団のリーダー格、および幹部を集めて今後の行動を改めて確認する。

普段はさらりと流す程度の話だが、今回は途中でメンバーが多数加わっておりコウも少し丁寧に話をしなくてはならない。


今回は傭兵を含め400人以上の大規模な移動作戦。

盗賊の心配が一切ないことはかなりの安心材料だが、魔物に襲われる可能性は排除できない。


しかもここからエイコサスタウンまではかなりの距離があり、お年寄りや乳児にはかなりの負担になる。


「そろそろ出発できそうな状況になった。ここから町までは10時間を超えるかなりの道のりだ。村人たちの負担も考えて、予定通りこの中継地点で休憩をとる。

 ここに到着する頃にはあたりも暗くなるだろう。決して警戒を怠らぬように。

 この休憩地点の一帯は事前に魔物討伐の依頼を出しており、おそらく魔物はいないと思われるが油断は禁物だ。全員無事に町に帰ることが俺たちの最優先目標だからな」


コウの言葉に当然だ!任せろ!と強気に語る傭兵たち。

十分に安全も確保したことで傭兵たちの士気も高く、各リーダー格さえ浮かれなければ安心だと思える状態だった。


ちなみにこの討伐依頼だが、異例の内容となっていた。

普通魔物討伐であれば討伐した証の魔石を持って帰ることで報酬がもらえるのだが、今回は現地に行って流星の願いの一団が来るまで魔物を警戒していればそれだけで報酬が出る。


魔物を探す手間も必要なく、現地に魔物が居ないなら何もしなくても報酬がもらえるという美味しい依頼。

町からの依頼ということで報酬額も悪くなく、応募が殺到し抽選となったほどである。


こうして念には念を重ねてコウたちは安全を確保していた。


「それともう1つ連絡がある。俺は今からここを離れ、オクタスタウンへと向かう。町へ戻る時の指揮はマナとシーラに任せる」


予定にはなかったコウの別行動に傭兵たちがざわめいた。


よほど強い魔物が出なければコウが居なくても何の問題もないのだが、精神的支柱としてのコウの存在は大きい。

特にこの大仕事が終われば宴会だなと思っていた傭兵たちは、さらなる展開があるのではと考え始め不安が広がる。

その状況を察したマナが皆の気持ちを代弁するかのように質問した。


「師匠、予定変更の理由は何?」


「ああ、今回道中で村民団の半数を吸収し民への誓いが大きく弱体化した。正直に言うとこれはもう少し後の計画だったが、こうなってしまった結果は今更変えられない」


新たに加わった傭兵たち、特に民への誓いから加わった者たちからは『そんな計画が元々あったのか』と複雑な感情が漏れ出ていたが

彼らは彼らなりにそれなりの覚悟を持って流星の願いの元へ合流したのである。これを聞いても反感を抱く者は出なかった事をコウは感じ取るとさらに言葉を続ける。


「これにより作戦が意図せずに第三段階へと進行してしまった。そのため俺とサンディゴはオクタスタウンへと向かう。既に彼には同行してもらえるよう了承をもらっている。

 作戦の詳細は、エイコサスタウンに戻ってから各リーダーに伝えることにしている。急な予定変更ではあるが、今は俺を信頼してそれぞれの役目を全うして欲しい」


コウの言葉にすぐに答える者はいなかったが、少し間をおいて三刀一閃のリーダー、センラッカがその沈黙をスパッと切り裂いた。


「了解した。私たちは先に戻りコウ様の帰還をお待ちしています」


彼女のはっきりとした声に我に返ったように、他の傭兵団のリーダー格からも賛同の声が飛び出し始める。

その様子を見たコウは安心した表情を見せた。


「急な作戦変更で戸惑わせてすまない。だがこの作戦で俺たちはこの地において確固たる地位を築くことになる。

 詳細を今ここで語る時間はないが、俺たちのことを信じてついて来てほしい。これからもよろしく頼む」


コウの言葉に傭兵たちは不安を捨て信頼を寄せ始める。

その雰囲気が少し落ち着いたタイミングで今度はシーラが質問してきた。


「向かうのはコウ様含め2人だけですか?第三段階への移行となれば、もう少し護衛を伴った方がいいと思いますが…」


この質問で勘のいい者は何となくその作戦の中身を察する。

全く作戦を伝えないのではなく、その雰囲気を聡い者には触れさせておく彼女の対応に一部の者は感心した。


「大丈夫だ。現段階ではまだ不要だろう。むしろ今の状況では、人数の多い方が警戒されかねない。

 マナとシーラは道中の魔物に備えながら、村人たちの移住に全力を注いでほしい。今は彼らを無事に町へ移送することが最も重要だからな」


「わかりました」

「うん」


2人の安心しきった返答に周囲の傭兵たちにまで安心感が広がる。

事前に二言三言会話を交わし今回の予定変更を伝えていたが、わがままを言うのではなく周りを安心させる形にまでもっていった2人の対応にコウは心の中で感謝した。


だがサンディゴが同行するとこの場で初めて聞いたエミリナは驚いていた。

彼女はコウと数回話したこともあり、それなりの信頼を得られているのではという期待を持っていた。


そしてもし何か必要なことがあれば、エミリナ自身が動くぞと覚悟していた。

新参者の評価は特にリーダーの評価が反映されやすいと考えた上での覚悟である。


だがなぜか、いつの間にか、あのいつもめんどくさそうにするサンディゴが同行者となっていたのだ。

しかもサンディゴは性格的にもコウとそりの合うタイプには見えない。

いったいいつどこで2人がそうした関係にまで進展したのかがわからなかった。


民への誓いから別れたメンバーたちを引っ張っていこうと意気込んでいた彼女にとって、今回のことは寝耳に水。

もしかして自分は認められていないのではという不安が顔に出てしまう。


「サンディゴ……大丈夫なの?」


「えっ、あぁ…もちろん大丈夫っすよ」


出来るだけ不安にさせまいと彼はぎこちない笑顔で返す。

それが余計に彼女を不安にさせてしまう。


そんな様子に気づいたコウは、一芝居うっておこうと2人の会話に割って入った。


「あぁ、エミリナ。君に伝えていなくて悪かった。いや、最初はエミリナと俺で行こうと思っていたんだ。そっちの方が話がしやすいと思ってたし。

 だけど彼から男女2人だけで行かせるのは怪しまれると指摘されてね。俺も周囲の皆やマナとシーラに変な誤解を与えたくなくて…で、無理矢理彼を連れていくことにしたんだ。事前に話しておかず、悪かった」


一方的に話した挙句、申し訳なさそうにするコウを見てエミリナの不安は大方払しょくされた。

だが距離を縮めるなと言わんばかりにサンディゴが突っかかってくる。


「コウ様、今回のことは俺がわがまま言っただけっすよ」


「あぁ、そうだったな。それよりもう、この話はこれぐらいにしてくれ。あんまり話すとマナやシーラからの視線が厳しくなる」


こっちに振るのかと驚くマナとシーラだったが、すぐにシーラはそんなこと無いと否定するそぶりを見せ、マナはちょっと疑っている感じでコウの方を見る。


「ほらな。そういうことなんだ、エミリナ」


「わかりました。サンディゴをよろしく頼みます」


「いやいや、俺だって役に立って見せるって」


「そうか。そりゃ、期待できるな」


こうして雰囲気が一気に和み、一部ではコウも意外と尻に敷かれるタイプなのではと、傭兵たちの間でささやかれるきっかけになった。


「それじゃ、俺たちは先に出発する。後は頼んだぞ」


結局護衛をつけることなく、コウとサンディゴの2人は仲間たちよりも先に村を出発しオクタスタウンへと向かった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

ちょっと短めの無いようになってすみません。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は7/5(火)更新予定です。


今週、疲労により久しぶりに平日休みをもらった。

ちょっとメンタルが安定しない状況ですが、ぼちぼち頑張っていきます。疲れた。では。

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