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栄える町と衰退する町4

ここまでのあらすじ


コウたちはこのエリア最後の村に住む村人たちを移住させるため部隊を整え、町を出発した。


町を出てからしばらくすると起伏のあるエリアが続く。

一団は補助要員のいる大きな風の板を本隊としており、その周囲は戦闘の得意な傭兵らが偵察のため小さな風の板に乗って周囲を飛び回っていた。


こうした起伏のあるエリアでは、本隊は低めに位置し各偵察要員は高めに位置取りして周囲を窺う。

進行方向で影になって見えない部分は偵察員同士で指示を飛ばし、実力者を先行させて見えない部分に魔物がいないかカバーしていた。


一見、本隊も含めて全員が高い位置に移動し無視して突っ切ればいいように思えるが、これは村人たちを乗せて帰る時の訓練も兼ねた行動だった。


もし村人たちが乗っている大きな風の板が魔物の魔法で攻撃された場合、耐久力のない風の板は割れて村人たちが落下し負傷しかねない。

そのため本隊の大きな風の板は低空飛行を余儀なくされ、偵察役の傭兵が乗った小さな風の板が高い位置から周囲を警戒する必要がある。


風の板は便利な乗り物だが耐久値の低さから無理な運用が利かず、村人を護衛しての移動の場合ほとんどこういった陣形になってしまう。

風属性を持つ魔法使いなら誰でも使えて便利な分、非常に弱点の多い乗り物なのだ。


先ほど先行した傭兵が視界の陰になる部分に魔物がいないことを確認し合図を送ると、一団は速度を上げつつ道なりに進んだ。


「うん、さっきはいい感じだったよー。その調子でいこーねー」


マナが声をかけると、先行した傭兵は少し照れた態度を見せつつ元の位置に戻る。

そんな様子をコウは本隊の大きな風の板に乗ったまま見守っていた。


しばらく進み今度はなだらかな平野地帯に出た。

視界が通ることで偵察の各員も少し気を抜きながら淡々と進む。


コウは前方で指揮を執るマナの背中を見ながら『頼りになるなぁ』と思っていた時だった。

前方にいた傭兵から本体に向かって<明かり>の魔法が2発飛んでくる。


1発であれば会敵…つまり魔物がいたということ。

2発であれば敵とは断定できない傭兵と思われる集団が見えたこと。


コウはすぐに後ろにいるシーラに指示を出した。


「防御と指示を任せる。俺は様子を見てくる」


そう言ったと同時にコウは<加圧弾>で体を空中へと飛ばして、飛ばされながら作った風の板に着地する。そして前方へと向かっていった。


「全員障壁をストックに。万が一に備えます」


シーラの指示の元、本隊の傭兵たちは大きな風の板を守るように縁へ移動し障壁の型を作り始めた。



コウが<明かり>の出元まで来ると、隣にはすでにマナが来ていて相手を観察していた。

ひとまず全体を止めようとコウは合図を送る。そして状況確認に入った。


「マナ、相手はあれか?」


「うん、かなり遠くではっきりしないけど…数が多いよ」


マナはいつもの陽気な雰囲気ではなく、真剣な表情でコウの方を見ずに答える。

発見した偵察係の傭兵はいつもと違うマナの雰囲気の方に驚いていており観察がおざなりになっていた。


彼に質問するのは無駄だと思ったコウは、引き続きマナと情報を交換する。


「近づいてくる様子はないな。ずっとあんな感じか?」


「うん。でも道の上にとまって待っている感じからして…狙いは間違いなく私たち」


最後の村を吸収しようとするのを妨害する多数の存在、おそらく傭兵。

となれば答えはすぐにわかりそうなものだが、安易な予想を元に軽々しく動くとこちらに大きな被害が出る可能性だってある。


安易な判断をせず冷静にコウを待ったマナの対応は、荒事に慣れていることを物語っていた。


「待っていたとなればおそらく村民団だと思うが、だとすれば向こうは総数60近く。最低限の戦闘ができるメンバーが半数居るとして

 …うーん、やけくそに突撃されたらこちらも被害は免れないな」


コウは光属性に切り替えてから<遠見>を使い、遠くの相手をより詳しく観察する。

格好からは盗賊の雰囲気が全くなく、ほぼ間違いなく傭兵団だと判断した。


今回は村人の移住を手伝うのが主な仕事なため、通常よりも補助要員が多く組み込まれている。

村人たちは移住を決めているとはいえ、護衛役がボロボロの状態で村に到着すれば心変わりする者も出るだろう。そうした事態だけは避けたいところだ。


村の外は魔物がいて安全ではないことくらい誰でも知っているが、到着時に護衛役が多数負傷者していると誰だって二の足を踏んでしまう。

ましてや死者が出てしまうとその雰囲気は隠せなくなる。たとえ隠そうとしても、仲間が死んだ雰囲気を完璧に隠せる傭兵などいやしない。


「まいったな、どうやら村民団総出でやってきたようだ。しかも一番嫌なタイミングで…。ここは一旦俺が話をしに行く。マナは少し離れてついて来てくれ。

 全体は少し前進しつつ今の半分の距離まで進んで待機。本体に連絡を」


「わ、わかりました!」


慌てた様子で傭兵は大きな風の板に向かっていった。

マナは真剣な表情でコウを見てただ頷くだけ。


それを見たコウは少し安心して待ち構えている彼らの元へ向かった。



向かう際中、コウは周囲にも気を配る。

待ち構えている以上、他の協力者が潜んでいる可能性は高い。

ただここは見渡す限りの平野であり、不意打ち要員が潜むのには不向きの場所。


「あるとすれば地面くらいか…」


コウはすぐに念話で土属性使いに地中を探知させるよう指示を出す。

それを受けたマナは後方の本隊に指示を出すと、すぐに土属性を使える傭兵が2名マナの左右にやってきた。


「1人は私の近くで地中の魔力反応を調べて。もう1人は本隊の近くで同様に探知。

 地中から近づいてくる魔力反応があったら迷わず攻撃して」


「はっ」

「はっ、はい」


慌てて1人は後方にいる本体へと戻っていく。

地中の探知が開始されると、コウは再び目の前にいる集団へ歩いて近づいて行った。


距離が縮まってくると相手の顔がはっきりとわかる。

まだ多少距離はあるが、背格好と雰囲気からその集団の先頭にいる者は間違いなくボルトネックだとわかった。


コウが視認できたことに気づいたのだろうか、ボルトネックは周囲に話しかけると村民団の集団を離れ1人でコウの方へとやって来る。


お互い魔法の射程だが声の届く距離まで近づいたところで、ボルトネックがアイテムボックスから魔道具を取り出した。

演説などによく使われる声を拡大させる魔道具。


設定は全方向になっており、この場にいる全員にお互いの会話を聞かせたいという意図がコウにもすぐにわかった。


「流星の願いのコウ。君に聞きたいことがある」


「わざわざ待っていてくれたようだし、今回は出来るだけ正直に答えよう」


コウの柔らかな返答に、ボルトネックは少しだけ口角を上げる。

だがコウはしっかりと感じていた。


ボルトネックは相当の覚悟をもってこの場に臨んでいることを。

その覚悟がどういった方向の覚悟なのかまでは判別できなかったが、最悪全滅覚悟でこちらに突進する可能性だってある。


それに村民団側にいる既にこちらに傾かせたメンバーたちも、ここでのコウの発言次第で天秤が向こう側に傾く可能性もある。

だがそんな不安など一切見せないままコウは堂々とボルトネックの質問を待った。


「1つだけ残った盗賊団…駿馬はお前たちとグルだな。お前たちは協力関係にある、で間違いないな?」


いきなり厳しいところを突いてきたが証拠の提示は何もない。

民への誓いが駿馬を調べていたのはわかっていたので、事前に彼らと戦闘になりそうなら流星の願いとの関係を話してもいいと伝えてあった。


コウにとっては両者とも仲間に引き入れたいと思っていたので、彼らが戦う事態だけは避けたかったのだ。

だがボルトネックの口ぶりからは証拠を手に入れた様子もないし、情報をあかさずこちらが罠にかかるのを待つ雰囲気も感じられない。


コウは少しだけ駿馬の忠実さに感心すると同時に、それでも堂々と聞いてきたボルトネックに好感を覚えた。

そしてそれに対して誠意を示そうと正直に話すことにした。


「違うな。協力関係ではない。彼らは俺たちの駒だ。彼らが俺たちに対して誠実であればこれから協力関係に発展するかもしれないが、現時点では多少有用な駒でしかない」


ボルトネックの少し後方で待機している村民団から驚きの声が漏れる。

おそらくいろいろな方向の感情が入り混じっており、少し距離のあるコウには上手く感じ取れなかった。


そして意外だったのはボルトネックの反応である。

てっきり激昂するかと思いきや、むしろ関心・感服に近い反応を示していた。


「であればエイコサスタウンへ合流するよう彼らが村を襲ったのも…コウ、君の指示というわけか」


「ああ、そうだ」


「なぜそんなことをした?」


いつもであれば掴みかかろうとするくらい怒りをぶつけてきそうな状況だったが、ボルトネックの問いに怒りは含まれていなかった。

全てをかける覚悟だけが感じられ、その覚悟によって感情が揺さぶられることなく落ち着いているようにも見える。


「多くの村人たちを不安定な状況から救うためだ。もちろん決めるまでに迷いはあった。だが、決めた以上は迷いなく実行させた。

 もちろんこれは村人たちを救うためだからな。駿馬には彼らを出来るだけ傷つけないよう指示していた」


「……恐ろしい程独善的なやり方だな」


「彼らを如何に早く確実に救うためにはどうすればいいか…それを考えた末の結論だ。村民団から来た義勇団や土壁、他にも協力してくれる傭兵団たちに相談してみた。

 最初は二の足を踏む者が多かったが、今も苦しんでいる村人をいかに早く救うかという点で協議を繰り返し…その後は迷いなく実行した。それだけだ。

 それでも独善的というのであればそうなのだろう。だがそちらにもあったはずだ。悩んだ末、多少強引な手、多少被害の出る手でもこれが住民を救えると信じて実行した事が」


「やはり君は面白いことを言う。薄々器の差だと思っていたが…なるほど、彼らが君の元に鞍替えするはずだな…」


強い反論を想定していたコウは、待ち構えていた言葉とは全くの反対で少し調子が狂う。

だが一呼吸してからボルトネックがより覚悟を強くした雰囲気を感じて、コウはすぐに気を引き締めた。


「確かに俺たちと村民団ではやり方が違う。だがお互い根本は同じであり、その熱意もまた同じなはずだ。

 だからこそ俺たちは協力し合える。ボルトネック、そうは思わないか?」


この期に及んで無駄かもしれないことはコウ自身よくわかっていた。

それでもコウは彼に手を伸ばす。協力しようと…手を握り共に進もうと。


そんなコウの言葉と態度に彼は笑顔を見せた。

だがコウはその時感じたものが彼の表情と同じ好感や和解ではなく、欲しい物すら捨てて命を張るかのようなガンギマリの覚悟だったことで、コウもまた覚悟を決めた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


いいねの機能が追加されたことに、今更ながら気が付いた・・。


次話は6/22(水)更新予定です。

では。

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