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栄える町と衰退する町1

ここまでのあらすじ


流星の願いとの交渉で村民団に所属する各傭兵団は、賠償という形で大金を手に入れた。

その後、村民団一行は住民たちの生活状況を見るという名分でしばらくエイコサスタウンにとどまった。

実際は買い物をしたかっただけなのだが…。


都市に入ることが難しい、または入れるが品ぞろえの豊富な店のあるエリアには入れない傭兵たちは、魔道具や珍しい調味料などを手に入れることが難しい。

手にするためには高額の手数料などを払ったり、危ない橋を渡る者さえいる。


だがこの町ではバブルスマイル社の協力と転移門があることで、いろいろな物が割と簡単に手に入る。

ちなみにバブルスマイル社から町中に商品を卸す際にはすべて流星の願いが仕切る商会が関わっており、彼らに背けば何も手に入らなくなると噂されるほどだ。


また都市でもあまり見られない注文受付もやっており、入手困難な貴重品でなければここに置いてない商品でも取り寄せてくれる。

しかも手数料さえ払えば町に所属していない傭兵団でも注文できるため、この一帯の傭兵団からはかなり重宝されているのだ。


これに関しては転移門が稼働してからしばらくして徐々に噂が広まっていき、今ではオクタスタウンに拠点を置きながらエイコサスタウンに入り浸っている傭兵団すら出てきている。

村民団もそのことは耳にしていたものの懐事情が厳しかったこともあり関わってこなかったが、今回大きな臨時収入を得たことでワクワクしながらこの町最大の商店街へとやってきた。


通りの左右は店・店・店と30件ほどの多種多様な店が並んでおり、ここまで店が揃っている町は他にはほぼ無いと言える。

酒屋・調味料屋・家具屋・肉屋と普段の生活に使うものから、高級料理店・魔道具屋・魔石屋・両替所・武器防具屋など主に傭兵向けの店まで並んでいる。


大抵の町であれば上記の3つ4つが一緒になった雑貨店が町の各地に点在している程度なのだが、ここでは個別になっているだけでなく各店の品ぞろえも豊富である。


「んー…さすがにこれはすごいな…」


「こりゃ、傭兵たちもここに入り浸るわけだ…」


ボルトネックを始め村民団に所属するリーダーたちも驚きを隠せない。

メンバーの傭兵たちは最初はどこから見てみようかと盛り上がっており、外から見える店の商品を物色し始めている。


「では4時間後にここに集合とする。各傭兵団で行動は任せる。もちろん町の住民の様子を見てもいいが…」


どう見てもそんな雰囲気ではないことが丸わかりなので、ボルトネックも言葉を途中で止めるしかなかった。



解散となり各傭兵団はそれぞれ分かれて行動する。

店の数もそれなりにあることで各自別の店へと入っていった。


今回の遠征には各傭兵団とも全員を連れて来ているわけではない。

流星の願いや魔物と戦闘になる可能性を考え、出来るだけコストをかけないためにも人員を厳選した結果、戦闘が苦手なメンバーはオクタスタウンに置いてきている。

その状況で流星の願いから分捕って山分けした数万ルピを各個人に分けるわけにはいかないので、団ごとの行動となっている。


各店ともオクタスタウンではなかなかお目にかかれない品が多く置いてあり、団員たちは興奮しながら色々な商品を見て回る。


ここの主要客層は町規模の仕事に関わっている傭兵団。

貯蓄が潤沢にある者などいないからか高級品はあまり置いてないが、どの店もお手頃価格でかつ思わず欲しくなる物が並べてあった。


それは民への誓いのメンバーであっても例外ではない。


「サンディゴさん!この肉買いましょーよ、肉っすよ肉」


「確かにあっちじゃ見ない肉だけどよぉ、買うの最後にしねぇ?」


「そ、そうっすね」


来ていないメンバーの事を考えつつも彼らは次の店、次の店へと歩みを進める。

そして5軒目、主に傭兵向けの魔道具を扱っている店へと入った。


「うわぁ、これ欲しい!」


「リーダー、これ買いましょー。絶対役に立ちますって」


魔石や他の人の魔力を使うことで特定の魔法を発動できる、それが魔道具である。

例えば長期遠征の際、水属性の使い手が居なかったら水の確保すら大変。そんなときでも魔道具があれば水を生み出してくれる。


ほとんどの者が単属性の使い手であるこの世界では、魔法使いである傭兵たちですらこうした魔道具を必要とする。

ちなみに発動する魔法が低レベルであれば、更に汎用性や需要の高い魔法効果を発動する魔道具であれば、価格は安くなる傾向にある。


「水を出す魔道具は絶対必要ですよ」


「いやいや、調理用の熱を生み出す魔道具の方がいいって。水の使い手なら既に居るじゃん」


「でもこうした戦闘絡みの遠征の時、彼は連れていけないでしょ?」


「エミリナさん、やっぱ水生成の魔道具ですよね」


「サンディゴさーん、調理用の魔道具なら普段も使えますよ」


部下たちにねだられて困った表情を見せつつも、2人とも悪くないと思っているようで一緒になって値段を見る。

そんな盛り上がっている中、突然流星の願いのマナが店に入ってきた。


「ん、あれ、民への誓いじゃん。お買い物中?」


先ほどまで敵対的にやり取りし金を分捕った相手である。

ボルトネックだけでなくサンディゴやルルキナも表情が厳しくなった。


「ああ、この際必要なものを買い足しておこうと思ってな。それより、何か用でもあるのか?」


分捕った金での買い物に文句でも言いたいのかと思い質問したが、返ってきたのは予想外の言葉だった。


「ううん、普段見かけない傭兵が多いって報告が上がったから様子を見に来ただけだよ。それより何買おうとしてるの?戦闘用の魔道具?」


少しばつの悪さを感じている民への誓い側の態度を気にすることなく、マナは興味深そうにぐいぐい来る。

どうあしらったものかと困っていると、マナの事を尊敬しているエミリナが店の奥から出てきた。


「どうしたんです…あっ、マナさん」


「ん?エミリナだね。やっほ」


「…えっと、どうしたんですか?」


「んー、見回りみたいなもんだよ。何買おうとしてるのかなーって世間話してたところ」


世間話って雰囲気じゃなかっただろうと思うボルトネックたちは気まずそうな顔をする。

早くどこか行ってくれと思いつつも言えずにいる彼らを尻目に、2人は徐々に話が盛り上がっていった。


「いっぱいあるから迷ってるんです。お勧めとかありますか?」


「んーそだなぁ…どういう系が欲しいの?」


「やっぱり遠征中に役立つ物が欲しいですね。前あったのが壊れてるので、水を生成するやつとか、スープを作る調理具とか。

 火の使い手は何人かいるんですけど、細かく火力を調整するのって難しいらしいんですよ」


「火属性は大雑把な人が多いからね。わかるわかる。だったら両方買ってもいいんじゃない?

 あっ、でもそれだったらこっちの店より向こうの店の方が安いよ。ここは戦闘補助系の魔道具はいいけど、生活系はちょい高なんだよね~」


そんな話が聞こえたのか、店長が店の奥から慌ててやってきた。


「ちょっ、マナさん。勘弁してくださいよ~」


「えー、事実じゃん。ここ生活で使う系はついで買いを狙って少し高めにしてるし」


「ま、ま、ちょ、それを言わないでくださいって。もう、今回はサービスしますから、ね」


「エミリナ、サービスしてくれるって。ちゃんと私が値段まで見てあげるから、安心してここで買っていいよ」


嬉しそうに話すマナに店長は頭を抱えつつ奥へと引っ込んでいった。

尊敬する相手とはいえ、先ほどまでは話し合いでバチバチとやり合っていたことから少し警戒していたエミリナだったが、すっと距離を詰めて親しくしてれたことで思わず笑ってしまう。


マナは何で笑われているのかわからないのか、不思議そうにエミリナを見ていた。

そんな2人の様子にボルトネックやサンディゴは警戒心を解き肩の力を抜く。


「マナ、アドバイス助かる」


「ん?いいっていいって。せっかくこの町で買い物してくれるのに、ぼったくられたんじゃ私だって申し訳ないもんね」


「ぼったくってませんってー」


マナの声が聞こえたのか、先ほどの店長の声が奥から聞こえた。

これにはボルトネックも思わず笑いが漏れる。


雰囲気も良くなったことで再び魔道具の物色を始めた彼らは、マナの交渉もあって1割弱割り引いてもらって購入できた。

店を出てはしゃぐメンバーたちと少し距離を置き、ボルトネックや幹部たちがマナと話をする。


「すこし、聞いていいだろうか?」


「いいよ」


「先ほどの話し合いの事だが…コウは見違えるほどしっかりと、そして強権的になったように見えた。

 部外者が余計なことだとは思うが、リーダーとはいえ1人の発言が重くなり過ぎると少し恐ろしさがある…特に彼は、暴走する懸念があるのではないか?」


「うーん…」


その質問にマナは答えるか迷っているようだった。

ただ痛いところを突かれたというよりは、どう答えていいのか迷っている風だった。


「私も、その…何度か話したことはあるんですが、あの時のコウ殿はいつもより厳しく恐ろしかったと…思います」


エミリナの言葉にマナは表情をころころと変えて、意を決して事情を話し始める。


「んー、今回は師匠を…あっ、コウ様をね、もうちょっと威厳のある感じに見せるために演出したというか…そんな感じなんだよね~」


「演出?」


「そうそう。師匠って変なところで優柔不断だから、今回は師匠を中心にまとまっているところを見せようって感じでね」


ボルトネックたちは反応に困った。

自分たちに向けられた演出なのはわかったが、それを堂々とばらすのはいまいち理解できない。


何を期待してマナが内情をばらしたのか、そこが気になってしまい思考が本題からずれてしまう。


「その、コウ殿が流星の願いのリーダーであり、あの場にいたメンバーをまとめているのは私たちだって知っています。なんで今更威厳だなんて…」


「エミリナがそう言うのはわからなくもないけど、あの場で師匠が『俺はこう思うんだけど、どうかな?』って周りに聞いてばかりだと

 なんていうかー、圧が全くなくなっちゃうじゃない?」


「まっ、まぁ…」


「今回こっちは責められる側になるだろうってことで、びしっと言い返すならそういう形の方がいいでしょ?」


エミリナはなるほどと頷いていたが、内情を平気で話しまくるマナに他の幹部たちは本当の事かどうか見極めがつかなくなっていた。


「納得した?」


「まっ、まぁな…」


マナの笑顔に対して微妙な返事を返すボルトネック。

それを見てマナはにこりと笑顔を返すと突然真顔になる。


「今回はあくまで関係改善を狙った師匠の対応だから。それでも敵対するというなら、私たちは容赦しないよ」


急に厳しい現実に引き戻すような言動に一同が言葉に詰まると、それを見越していたのかマナは再び笑顔を見せた。


「じゃーねー」


ボルトネックたちの言葉を待つことなく、手を振りその場を去っていく。

身の振り方に関して覚悟を持って考えろと言わんばかりの彼女の対応に、4人全員が手を振り返す余裕など無く、その場でこれからの事を考えざるを得なかった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は6/8(水)更新予定です。

時間が欲しい。もっと話を詰める時間が欲しい…。ぐぬぬ。

では。

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