成長のための剪定11
ここまでのあらすじ
流星の願いが村長らを残し住民だけを連れ去ったことを知ったボルトネックらは
他の村にも同様のことが起きていないか急ぎ見回りに向かった。
ボルトネックとルルキナが率いる一団は2つの風の板に搭乗し、目的地である村へ向けて進む。
途中までは風属性の使える魔法使いで風の板を維持してもらい、途中からは余力を残すため魔道具と魔石を使って維持した。
そうやって9時間ほどかけてようやく目的地である村が遠くに見えてきた。
外見では特に異常が起きているように見えない雰囲気だったが、ボルトネックは村の中央に掲げられている旗を見る。
「うむ、この村は大丈夫なようだな。どうやらすべての村で問題が起きたのではないようだ」
「えっと…まだ専属の傭兵たちは確認できないようですけど」
「ルルキナ、村の中央に掲げてある旗を見よ。1つだけ高く大きな旗が見えるだろう?あれは間違いなく流星の願いの旗だ。
彼らが庇護している証明を掲げるということは、この村では住民だけが連れ去れる暴挙など起きていないということだ」
「そうですね、さすがリーダー!村長たちだけが置いていかれたら、彼らの旗をそのままにはしないですもんね」
ルルキナの言葉に同じ風の板に乗る者たちも一様に納得する。
ここは通常対応で自分たちが村に近づいていることを知らせる為、ボルトネックは民への誓いの旗を掲げるよう指示した。
すぐ後ろをついて来ていたもう一つの風の板に乗る仲間も村側にわかるよう旗を掲げ、味方であることをアピールする。
その行動により村側も気づいたようで、しばらくすると村の入り口に傭兵たちが出てきた。
「これはこれは、民への誓い…いや村民団の皆様。はるばるこの村をお越しいただきありがとうございます」
「変わりがないようで何よりだ。それよりここしばらく、流星の願いは来ているか?」
「はい…ですが流星の願いの傘下の方が来たのは5日ほど前です。何かあったのですか?」
「いや…特に変わりはないか?」
「ええ、いつも通り周囲を見回っていただいき村長や村の住民たちと軽く交流をしただけですが…」
不思議そうに答える専属の傭兵たちに対して、ボルトネックは気にしないでくれと笑顔を返す。
だが内心では着実に下地を作りつつあるなと強い警戒心を抱いた。
ここで彼らにも移住の話を持ってきたか聞こうとしたが、下手に警戒されるきっかけを与えるとまずいと思い質問は思いとどまる。
防御の要である専属の彼らまで取り込まれていた場合、村の住民たちまで警戒心を上げることになり何の情報も得られなくなってしまう可能性が高い。
ましてやバレたことで移住計画を前倒しにされては藪蛇になってしまう。
仕方がないのでここはいつもの流れで村長に会うことにした。
「ひとまず村長と話がしたい。今は在宅かな?」
「ええ、すぐに案内します」
「よし、私とルルキナ、炎華のリーダーネリアスネルとで村長と話をしてくる。他の者はしばらく待機。彼らの周囲警戒をサポートしておけ」
ボルトネックは連れてきた他のメンバーにいつも通りの指示を飛ばし、警戒心を持たれないようにしながら村長の元へと急いだ。
村で一番大きな家に入ると、村長が今回の訪問に対して深い感謝を述べる。
現状村にとって一番大切な存在は流星の願いのグループだが、その他の傭兵団を軽んじていいこととイコールではない。
普通なら気をよくする場面だが、ボルトネックは急いでいるとして歓待を断ると席に座り村長と話をする。
もし流星の願いがここでも同じように住民を連れ去る下準備をしているのであれば、どうにかしてそれを止める、もしくは村長に対して対策するように助言しておきたかった。
本来は住民たちを説得して思いとどまらせたいところだが、計画がどこまで進攻しているかわからない以上下手に突くのは危険。
自分たちよりも流星の願いの方が住民たちとの距離が近いことは、悲しいながらも認めなければならない事実なのだ。
「村長。突然の質問で悪いが、流星の願いに町へ合流するよう誘われてはいないか?」
「えっ、いや…どうされたのです、突然」
一瞬かなりの動揺を見せたにもかかわらず、村長は答えようとせず質問をはぐらかそうとする。
流星の願いと民への誓いの仲がぎくしゃくしていることは、現存する村の村長であれば全員知っていることだ。
それくらいの情報はしっかりと把握しておかないと、この厳しい世界では生き延びられない。
だからと言ってどっちかを切り捨てて片方にオールインするのもまたリスクが大きすぎる。
だからこそ彼らは敢えて触れないことで、どちらかを敵に回すようなことにならないよう立ち回っていた。
そのことはボルトネックも当然理解していたが、今回は触れずに済ますわけにはいかない。
同じような被害を出さないためにも避けられないことだった。
だがボルトネックにも迷いはあった。これを話せば村長たちは厳しくても流星の願いの条件を飲む可能性が高くなる。
つまりは自分たちが流星の願いの作戦を後押ししてしまう結果になりかねないのだ。
だが現状は差し迫っている可能性が高い。たとえ向こうを手伝うことになったとしても、彼らの命を救わなければならない。
それを理解した上でボルトネック話を始めた。
「事情は分かるので敢えて答えは求めない。が、これだけは情報として頭に入れておいてほしい。
流星の願いは既に別の村で反対する村長や村の幹部だけを残し、住民全てを移住させる事件を起こした。移住した者には村専属の傭兵団も含まれる。
わかるか?残された村長や幹部たちは、盗賊や魔物から身を守る術もないまま放置されたのだ」
それを聞いた村長はさすがに青ざめる。
自分たちだけが村に残された場合、他への救援要請すら難しく死の危険が自分の足元にまで迫ってくることになる。
もちろん運が良ければ一月くらいは魔物が全くやってこないこともあるが…。
「ど、どうすれば…」
「こちらも出来るだけすぐに見回れるよう巡回を強化する。それと念のため、彼らはいつ頃どれくらいのペースでこちらに来ているのか教えて欲しい」
「そ、それは…」
対立している彼らに情報を流せば、それは流星の願いから裏切りと判断されかねない。
その懸念はかなり強かったが、それでも自分たちの村が奪われ死へと追いやられる恐怖の方が勝ったようだ。
後ろめたい気持ちがあるのか村長は視線を逸らしつつも重い口を開く。
「最近は…10日1度のペースで傘下の傭兵団や幹部の方が訪れています。最近は…5日ほど前に来られてたかと…」
「来るたびに町へ合流しないかと誘われているんだろう?」
「……それは、ですがお断りするとそれ以上その話は持ち出さず…特に不機嫌な様子を見せることもないので、あいさつ代わりの言葉なのかと聞き流しておりましたが…」
「村人たちの様子はどうだ?」
「どうと言われましても…。特に変わった様子はありませんが…」
「まだ未確認だが、今回被害にあった村長の情報をまとめたところ、彼らは村人のほぼ全員が移住を希望した場合動く可能性が高い。
有効な対策としては、住民の何割かを村長派もしくは移住反対派に引き込んでおくことが有効だと思われる」
それは村長にとって自分たちの利権を一部渡せという風に聞こえた。
流星の願いから聞く話では移住した方が村人たちの生活は良くなるようにしか聞こえない。
その状況で味方を作るとなると、それなりに美味しい思いをさせなければいけなくなる。
もしそれで一部の村人が自分たち側に寝返ったとしても、下手すると村を二分しかねない問題になる。
どちらにしても頭の痛い問題には変わりない。
「無理について行かずとも我々が必ず守る。それだけは覚えておいてほしい」
「わ、わかりました…」
「では我々は急ぎ次の村に行く。この情報を広めないといけないのでな」
歯切れの悪い村長の返事に仕方ないと思いつつ、ボルトネックたちは次の村へと向かた。
一方、エミリナとサンディゴ率いる一団もようやく1つ目の村が見えてきた。
長時間の移動で疲れも見られるが、ようやく目的地に着きそうということで全員に笑顔が見られる。
村は傭兵たちにとって休憩所にもなる便利な存在。
特に定期的に村を巡回して安全を守ってくれる傭兵たちは好待遇を受けられるので、村民団にとってはちょっとしたオアシスに感じられる。
そうした環境から村に着くぞと皆が気を緩める中、エミリナとサンディゴは遠くに見える村の様子に何か違和感を感じていた。
「何か…様子が変ですね」
「何だろうな、よくわからんが胸騒ぎがする。おい、少し速度を落としてくれ」
サンディゴの指示により風の板は速度を落としながら村へと近づく。
こうした違和感にいち早く気づくことはとても大事なことだ。
村が魔物や盗賊に襲われていた場合、それなりの戦力であれば突っこむのもありだが、今回のような戦力に乏しい場合は状況を確認して適切に対応しなくてはいけない。
例えば魔物に襲われて村人たちが逃げ出している時は、闇雲に突っ込むと村の中での戦闘となり建物などが滅茶苦茶になってしまう。
せっかく助けに来たのに村を破壊してしまっては、互いの関係にひびが入ってしまうので気をつけなければならない。
魔物は戦闘中でもないのにその辺の建物を適当に破壊したりはしない。脅威となる敵がいなければしばらく住み着くタイプもいる。
そうした魔物を相手にする場合、どの属性を使う魔物なのか逃げた村人に話を聞けば適切な対処を取ることができ、被害も最小限で済むというわけだ。
警戒心を上げ慎重に村へと近づいて行くと、この一団の指揮官である2人はすぐに村の異常に気が付いた。
「ないな…」
「ええ、流星の願いの旗がありません」
村の中心に他の旗よりも高く配置してあるあの旗がない。
この一帯の盗賊団を壊滅させてた傭兵団の旗が掲げられていないことがどういうことか、2人はすぐに察した。
「ちっ、ハズレを引いちまったか」
「もしかしたら、他の村も全部…」
焦りを覚えこぶしを強く握るエミリナ。
だがここで焦ったところでなにも良いことはない。彼女を落ち着かせようとサンディゴは注意する。
「エミリナ、今はこの村の事だけを考えろ。どうも村の雰囲気がおかしい」
遠目からは村全体が静まり返っており、中央にある傭兵団の旗だけが風にはためいているだけで他に動いている物が見られない。
村長やその取り巻きが置いていかれたとしても、商人や傭兵たちが来ればすぐに助けを求められるよう見張っておくのが普通だが、そうした様子も一切見られなかった。
「商人たちと一緒に村を出たのなら、面倒もなくていいんだがな…」
「魔物がいる可能性もあります。いったん隊を分けましょう」
「そうだな。戦闘が苦手な奴は後ろの風の板に移動して離れた場所に待機。戦闘組はこっちに移れよ」
めんどくさそうに指示するサンディゴだが、状況は明らかに緊急事態。
同行している傭兵たちの雰囲気が急にピリピリし出し、全員が急いで指示通りに分かれる。
弱い魔物が相手であれば待機組でも問題ないが、万が一他のエリアから来た盗賊団がいた場合、弱い者は足を引っ張る存在にしかならず待機させた方がましなのだ。
「待機組はここで様子を見て。もし盗賊や強い魔物との戦闘が始まったとわかれば、すぐにでもここを離れ最終合流地点の村へと向かうこと。
リーダーと合流したらすぐに援軍として来てもらって」
「了解です」
指示を終え、エミリナとサンディゴや戦闘向きの傭兵たちが乗る風の板はゆっくりと村に近づいて行った。
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次話は5/14(土)更新予定です。
では。




