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成長のための剪定4

ここまでのあらすじ


コウはエイコサスタウンの町昇格を祝って祝賀会を開催した。

その後は特に何事もなく祝賀会は進行した。

中央会場へと戻った後はコウが最後のあいさつで締め、祝賀会は幕を閉じる。


といっても終わったのは中央会場だけであり、町中は酒と料理の提供が続いていてお祭りの雰囲気は継続中だ。


一部の傭兵たちは警備へと戻るものの、多くはまだ浮かれっぱなしの状態。

そんな盛り上がる町中を賓客たちは帰ることになる。


コウと一部の傭兵たちが護衛役となって賓客をオクタスタウンへと送ることとなった。

護衛といっても賓客の大半はオクタスタウンの主要傭兵団幹部と傭兵ギルド職員。

全員が魔法使いであり多少の襲撃であれば簡単に返り討ちにできるほどの戦力。


その上この一帯の盗賊団も壊滅しているとなれば、もはや護衛など不要とも言える状況だが、賓客である以上勝手にお帰りというわけにはいかない。

コウたちは町を出発すると、複数の風の板で賓客らを何事もなくオクタスタウンへと送り届けた。




賓客らが出発してから2時間ほど経った頃、その後を追うようにエイコサスタウンから50名程の素体の住民が出発する。

彼らはここエイコサスタウンではなくオクタスタウンの住民だ。


招待したのはもちろん流星の願いであり、その狙いはオクタスタウンの住民に対するこの町の宣伝だ。

とはいえこれを大っぴらにやってしまっては、町長のホロイシンや町に所属する傭兵団に警戒される。


そのため噂程度に招待することを広めて、出来たばかりの町の見学を名目として彼らをこの祝賀会に参加させた。

出発時及び帰宅時の町の出入りは、流星の願いに肩入れしている連中の警備する門から出入りする手はずになっており、このことが明らかになる可能性は低い。



彼らがエイコサスタウンに到着したのは賓客らがやって来る3時間も前。

到着後、シーラとユユネネが町の中を案内し、新しくやって来る住民たち向けの住居やここでの仕事内容と報酬、住民たちの様子などを見せて回った。


「ここが一般的な住民の住む場所になります」


シーラが説明している途中、ユユネネは一部の者たちを中に入れて内装を見せる。

中の広さは多少物足りなさを感じるが、建物が新築という点を加味すれば、オクタスタウンでは中の上クラスの住居と言っても差し支えない。


オクタスタウンから来た者たちは感心し、少し羨ましそうに見ている。

村からこの町に合流してきただけの者たちが自分たちより良い暮らしができるのかもしれない。

そう考えれば嫉妬しない方が無理だと言えよう。


「このサイズの建物でしたら、使用料が月額100ルピになりますね。今募集している町からの仕事はどれも最低600ルピですので生活に困ることはありません。

 ちなみに最初の1月は物入りだろうということで、町長の指示で無料になっています」


「おぉー」

「ということは、ほとんど金がなくても何とかなるのか…」

「うーむ…すぐに行けるのか?この住宅の空きってどれくらいあるんだ?」

「生活に必要なものは水とか食い物とか…近くで揃うのか?」


彼らはずいぶんと興味が引かれたようで数名から質問が飛んできた。


「空きはその時々で変わるので、募集に一定数が集まれば私たちが移住をサポートする予定です。なんせ他の村からも移住が多いので、確保しておかないと埋まってしまう可能性がありますから。

 生活に必要な水は各区画の水溜め場から持ってくることになります。余裕があれば、水を出す魔道具と魔石を購入している住民もいますよ。

 食料関係は各区画同士の隣接する場所に市場があるのでそこから購入できます。今は…祝賀会のため閉まっているので、店の数だけしかわかりませんけど」


シーラはそう説明するが彼らは興味があるようで仕方なく案内する。

祝賀会のため昼からは全て閉まっているが、店の数はそれなりにあることが分かり彼らも満足していた。


他にも町から以外の仕事などを紹介し、シーラは特に人が足りないことをアピールする。

それからは傭兵たちが多くいる場所などを回り、今度はユユネネが祝賀会の内容を説明し始めた。


「あと30分くらいで祝賀会が始まります。えっと、事前に話があった通り、始まれば料理とお酒は自由に飲み食いしていいです。

 ただ、この提供所からは移動しないでください。バラバラに行動してしまうと、帰る時に町中を探す羽目になりますので…」


「了解だぜ」

「おう!」


「その、もし移動しようとする人がいたら…止めてくださいね」


ユユネネのお願いに任せろと言わんばかりオクタスタウンの住民が笑顔を見せる。

不安になりながらも、ユユネネはその笑顔に頼ることにした。


「しかし、お祭りなのに衛兵が少ないよねー」


「きょ、今日は…コウ様が出来るだけ全員を参加させたいということで、普段は町を見回っている人たちも楽しむ側に回ってるんです」


ユユネネの言葉を聞き彼らは驚いていた。


オクタスタウンでここまでの大規模な祭りが行われたことはなく、住民たちの内輪の盛り上がりではここまで盛り上がることはない。

そのため彼らは、兵士や傭兵たちと一緒になって盛り上がるような大規模なお祭りが羨ましかった。


町の住民たちは日頃から傭兵や兵士たちに感謝している。

自分たちの生活の目に入る範囲で活躍していないとはいえ、この一帯は魔物がいて彼らがいないと自分たちの命が危険にさらされることをわかっているからだ。


ただオクタスタウンでは、そうした傭兵たちと住民との交流の場は少ない。

町も出来るだけそうした交流の場を設けないようにしていたからだ。

そのためこうしたお祭りに彼らは強い興味を持った。



コウの挨拶で祭りが始まると、エイコサスタウンの住民たちが料理や酒の提供所に一気に群がる。

オクタスタウンから来た住民たちはゲストということで出しゃばらないように提供所が空くのを待っていたが、それを見たこの町の住民たちが声をかけてきた。


「ほらほら、並ばないと損だぜ」

「俺たちが皿に盛ってやるよ」

「いい酒がなくなるうちに取りに行こうぜ」


次々と声をかけられて、彼らも手を出したそうに思わずつばを飲み込む。

だが彼らはあくまで流星の願いの好意によって来訪したゲスト。大半の者はこの町の住民と同じような行動に出ることに気が引けた。


それにここは自分たちの町ではない。歩いて帰れと言われれば、おそらく無事に帰りつく者などいないだろう。

ここで問題を起こし流星の願いに見捨てられれば、町の外の放り出されるかもしれないという恐怖感があるのだ。


「まっ、まぁ、俺たちはゲストだからよぅ」


「気にするなって。ここが町に昇格した祭りなんだからさ。それに俺たちだってつい数日前にこの町に来たばっかりだ。大して変わんねえよ」


「えっ、そうなのか…」


意外な話に彼らは驚く。数日前に来た住民が遠慮してないのなら、俺たちだって…という雰囲気が一気に広がった。

そして彼らも抑えていた欲求を開放するかのように料理に群がった。


並べられていた料理や酒はオクタスタウンでまず手に入らないような食材を使ったものが多く、この町や流星の願いの交易ルートがいかに広いかを思い知らされる。

しかも酒のいくつかは傭兵たちじゃないとなかなか手を出せないような高級品。これがタダなんだから1度手を出してしまえば止まらない。


彼らもいつの間にやら遠慮が吹き飛んでしまったようで、酒や料理だけじゃなく雰囲気までも楽しみ始め、ここの住民と一緒になって盛り上がり始めた。


どうなることかと心配そうに様子を見ていたユユネネもほっと一息つく。

それを見た周囲の村人たちが一斉に声をかけた。


「ユユネネさんもどうっすか?」


「一緒に楽しみましょうよー」


招待客である彼らを楽しませるもの彼女の務め。

羽目を外し過ぎた者がいないかチェックしつつ、彼女もここに居る住民たちと一緒に楽しい時間を味わった。



帰りの時刻が近づき、シーラが戻って来た頃にはすっかり出来上がっていたユユネネだが、魔道具を使い一気に酔いを醒ます。

オクタスタウンから来た住民たちは一部酔いつぶれ気味の者もいたが、同郷同士肩を貸し合い何とか帰宅するための場所に集合した。


「おぉー、楽しんだみたいだね」


中には1人で立てない素体の住民がいるのを見てマナが笑いながら話す。


「羽目を外し過ぎないようにと言っていたんですが…仕方ないですね」


シーラも少し困った顔をしつつも笑顔を見せる。

それを見て彼らも申し訳なさそうにしつつ笑い、良い雰囲気のまま用意された巨大な風の板に乗る。


前方はエンデリンが座って風の板を操縦し、マナとシーラ、そして2人の流星の願い所属の傭兵たちが周囲を警戒、後方はユユネネが見張っていた。

そんな警備態勢でオクタスタウンへと進む途中、マナとシーラが最後のプレゼンを始める。


「みんなー、今日はどうだった?」


「うぃー、最高だったへぇー」

「楽しかったな」

「料理マジでうまかった。また食べたいわー」


オクタスタウンの住民たちは全員が満足そうに答えた。

そんな中、エイコサスタウンに惹かれた者たちがいたようで移住の件に触れ始める。


「ぶっちゃけ、俺はこっちに引っ越したいなぁ。んー、だが…」


「私も。あっでも、今日出た料理は特別なんだよねー」


移住の件は彼らが言い出さなくてもこの後マナとシーラが切り出すつもりだった。

だが彼らが切り出してくれたことで話の流れがスムーズになる。


ユユネネが事前に説明したとはいえ、具体的な話はまだしていない。

まずはこの町の雰囲気や祭りを先に楽しんでほしいというコウの願いから、突っ込んだ話は帰りにする予定だったのだ。


「移住は大歓迎だよ~。あー、でも条件があるんだよね」


「条件って何ですか?」


マナの言葉に女性が食いつく。

それに対してマナはシーラに目で合図を送った。


「私から説明しますね。流星の願いでは、私たちの町エイコサスタウンに移住してくれる人を募集しています。もちろん素体の住民の方も大歓迎です。

 ですが、現在この一帯の村からも移住者が多く、住居確保を確実にするために一定の条件を設けています。引っ越したその日から地面で寝るのはあんまりですからね。

 ただ条件といっても複雑じゃないですよ。オクタスタウンの私たちの拠点に移住を申請してくれた素体の方が30世帯に達した時

 30世帯丸ごと私たちの護衛の下お引越ししていただくことになります」


「おぉー」

「んー、旦那が賛成するかどうか…」

「30世帯か…いけそうだよな?むしろ今日の説明を話せば他にも乗る奴もいるんじゃ…」

「となると早い者勝ちか?」


シーラの話に対して住民たちが隣の者たちと相談し始める。


「30世帯で締め切るけど、家が確保出来たらすぐに二次募集もするから安心してねー」


マナがフォローを入れるが、その住宅の確保がどれくらいかかるのか不明なことから、誰もが早く申請したほうがいいのではと考えた。


とはいえ移住というのはかなりのリスクを負うことになる。良いとまでは言えなくとも、安定した今までの生活・仕事を捨てて新天地に行くことはいい事ばかりとは限らない。

家族が同意してくれるだろうか?職場の仲間から引き止められないだろうか?そんな不安がどうしても顔に出てしまう。


その様子は予想済みだったのだろう。シーラは笑顔でさらに別のプランを提案する。


「それと移住以外にも、1月の間だけ出稼ぎという形で私たちの町で仕事をしてくれる人も募集しています。こちらは100名で募集締め切りです。

 仕事はあるんだけど人員不足ですので、稼ぎたいって人は応募してくださいね。ただし、その1月の間は帰りたいと思っても、自費でないと帰れませんので気を付けてください」


今度は出稼ぎの話を持ち出されたことで、ここにいる多くの者たちの心が揺れ動いた。


「確か最低600ルピは稼げるんでしたよね?」


ユユネネが説明したことを覚えていた住民がすぐさま質問する。


「はい。ですが出稼ぎの方は1日最低20ルピの給与と、出稼ぎ者用の小部屋費用で毎日2ルピが引かれますので、月で最低630ルピですね。

 ただ食費も必要ですから、手元に残るのはもう少し少なくなります。あと、出稼ぎの場合は日単位で評価し給与を上げ下げしますので最終額は変動します。

 詳しくはオクタスタウンにある私たちの拠点で説明しますので、遠慮なく訪ねてください」


「出稼ぎかぁ、悪くないな…」

「月630ルピだったら、今の稼ぎより多いよ」

「100名となると、結構な奴に声をかけないと厳しいな」


再び風の板の上でざわめきだす住民たち。そしてそれぞれ意志が固まり始める。

エイコサスタウンに移住を決める者たちや様子見で出稼ぎに行きたい者たち、今よりもいい生活を求める者たちはこぞってこの話に乗る姿勢を決めていた。


だが応募したとしても、それぞれ定員が埋まるまでは移住や出稼ぎができない。

移住は30世帯と思ったより少なめでここにいる者たちの中で競争かという雰囲気もあったが、出稼ぎの話が出たとたん定員割れの線も出てきた。


であれば、ほかにオクタスタウンにいる隣近所や職場の仲間を引き込もうという動きで方向が決まる。

これこそが流星の願いの一番の狙いだった。


移住したいと思うことで、彼らがエイコサスタウンの宣伝をしてくれる。

これが広がれば、流星の願いが目をつけられることなく町の良い噂が広がり、移住者が増える可能性が高まるのだ。


こうやってオクタスタウンの土台である住民を徐々に引きずり込む作戦が、ゆっくりと確実に進み始めていた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

同じ漢字間違いとかをよくやらかしておりますが、いつもご指摘いただき感謝しています。


この作品が気に入っていただけたら、評価やブクマ、感想など頂けるとうれしいです。


次話は4/17(日)更新予定です。では。

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