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成長のための剪定1

ここまでのあらすじ


コウが村長を務める村が町へと昇格した。

翌日早朝、町はすでにお祭り気分に包まれていた。

今日は祝賀会ということで木材加工・住宅建設などの仕事は1日休み、商売関連や農業など維持に必要な仕事は午前中のうちに済ませることになっている。


町の各所には陽気な音楽の流れる小さな魔道具が置かれ、全体的に浮かれた雰囲気が漂っていた。

傭兵たちも今日は見張り以外ほとんどが依頼を受けずに、この雰囲気を楽しんでいる。


飲食店も昼までしかやっていないが、酒の入っている傭兵たちは一足先にお祭り気分になっていた。


楽しむ方はそれでいいが、用意する方は大変だった。

料理によっては昨日から大量生産を始めており、エニメットを始め普段から各職場に向けて料理を作っている100名程の人員だけでなく

それなりに料理のできる者にも手伝ってもらい、数百名体制で何時間も準備を続けている。


出来上がった料理は先ほど挙げた音の鳴る魔道具のそばに用意されたテーブルへと運ばれ、各所で食べられるようになっている。

ただ祝賀会開催までそのテーブルは周囲を布で覆い隠されているので、料理の内容を見ることはできないが。

ちなみに先に作り上げた料理は、冷えてもある程度大丈夫な物ばかりだ。


各地のテーブルには1人だけ見張りを置いており、祝賀会が始まれば彼らもその料理をつまんでいいことになっている。

まるで町全体が立食パーティーの会場になっているかのようだった。


これは、コウが『昇格したのはこの町に関わる全員のおかげだから、できるだけ全員が参加できるようにしたい』とのわがままを叶えるための苦肉の策でもある。

この町に3千近い人数が集まる広場はさすがに存在せず、言葉だけなら魔道具で伝えられることからこのような形になった。


「はいはい傭兵さんたち、今日の店は昼までだよ。必要なものはないかい?」


「夕方からは飲み食いタダだからなー」


「だったら二日酔いに効くこいつはどうだい」


「おいおい、こんな村…じゃねーな、町にそんな大層なものがあるのか?」


「今日のためにって、流星の願いがやってる業者から仕入れたんだよ。あの方が扱ってる商品だ、偽物なはずがないでしょ」


「んー、だったら効きそうだな…おばちゃん2つくれよ。しっかし準備いいなー、こんなものどこで仕入れたんだ?」


不思議そうにしながらも2人組の男は飲み薬を買っていった。


昼過ぎになると仕事を終えた人たちも増え、町の中は今までにない程住民であふれかえっていた。

雰囲気を楽しむ者、料理のおかれる場所の近くで布を敷き場所取りをする者、コウが挨拶をすると思われる場所を見に行く者

ほとんどの者がこの雰囲気に酔って浮かれており、思ったほどのいざこざは起きずに時間が過ぎていく。


そして夕方近く、料理を作っていた者達もようやく解放され、町中に配置された各テーブルに配送がいきわたった。


刻々とその時が近づいてきて、流星の願いの拠点内ではこれからやるべきことが再確認されていた。

そんな中コウも身なりを整えて、これから行う挨拶の内容を復唱している。


「師匠、いよいよだね」


マナがうれしそうに声をかけると、コウは少し緊張した表情で軽く頷いた。


「お祝いの席で師匠が緊張し過ぎていると、雰囲気が悪くなりますよ」


「そう言うけどさぁ、あまり締まらない挨拶するわけにもいかないだろ。話し方も指導してもらったし大丈夫だとは思うけど、全く緊張せずにってのはまだまだ無理だなぁ」


シーラが笑顔でコウの緊張をほぐそうとするが、さすがに緊張が解けるまでには至らない。


「コウ様、町の中45か所の料理提供所も準備が終わる頃です」


「そうか、じゃ、いよいよだな」


「住民たちは挨拶よりも料理に釘付けだと思うし、軽くすませる気持ちでいいと思いますよ」


「それはそれでなんだかなぁ……。まぁいい。メルボンド、メイネアス、ありがとう。

 今日は俺が皆に感謝を述べる日だ。シーラもマナも、エニメットも直前までご苦労だった。俺のわがままをサポートしてくれて、本当に感謝するよ」


流星の願いのメンバーたちがコウに対して笑顔を向ける。

それを見てコウは、いい仲間たちがついて来てくれたことに再度感謝し、拠点を出て会場へと向かった。




流星の願いの隣の空き地が今回の中央会場になる。

何かある時は良くここが使われているので、特に場所を書いてなくても町の住民たちはここが祝賀会のメイン会場だとわかっていた。


壇上のすぐ前は来賓席となっていて、この村を支えてくれている主要傭兵団のリーダー格、町運営の幹部たち、傭兵ギルドの関係者

そしてさらにはオクタスタウンから傭兵ギルドの副支部長ドゴスタや、緑壁と星の一振りと犬のしっぽはクルクル回るの各リーダーたちも参加していた。

なお、民への誓いからは欠席するという連絡があった。


そしてその中でも最前列のテーブルにいるのは、傭兵ギルドオクタスーエイコサスの支部長フューレンス、バブルスマイル社のリズリオール、オクタスタウン町長のホロイシンだ。


オクタスタウンの町長はほとんど町中に姿を現さないことで有名で、この場で顔を知っているのは傭兵ギルドのフューレンスとドゴスタくらいである。

そしてリズリオールに至っては、コウたち以外ほぼ全員が誰だかわからなかった。


参加者を確認して流星の願いの権力を確認する者や、壇上に最も近いテーブルにいる人物たちが誰だかわからず困惑する者がいる中、拠点から出てきたコウが1段高くなった壇上へと昇る。


会場の周囲から拍手が起こり始め、それが大きくなるにつれて来賓席からも拍手が鳴り始める。

コウは予想外の歓迎に困惑し少し照れながら、魔道具を起動させつつ口を開いた。


「流星の願いのリーダーであり、ここが村だった時は村長だったコウです。昨日、ついにこの一帯が町として認められました。

 今回は町への昇格を祝った祝賀会に参加していただき、心よりうれしく思っております。用意した料理や酒をすぐにでも振る舞いたいところですが、もう少しだけ私の話にお付き合いください」


コウの言葉は町の各地に設置された音楽の出る魔道具によって町の住人や傭兵たちに届けられる。

まだ料理のある場所は閉ざされており、各所で町の住人たちがコウの言葉に耳を傾けた。


「これは傭兵団、流星の願いの功績だという声があちこちから聞こえてくる。確かに私たちもこの村を発展させようと努力してきた。

 だが町への昇格を決定付けたのは流星の願いではない。この町に住んでいる住人達、この町で様々なことに協力してくれている傭兵たちこそが、ここを町へと押し上げたのだと思っている。

 人数・仕事・戦力、どれをとっても流星の願いだけでは町の規模には成し得ない。だからこそこれを聞いている皆に、自信を持って欲しい。

 ここに居る全員の力が揃ったから、ここがエイコサスタウンに、町になりえたのだ」


この会場は来賓席の周囲にかなりの人が集まっている。だがまだ歓声は聞こえない。

それでも全体の雰囲気から自分の言葉が好意的に伝わっていることをコウは感じていた。


「私はそのことをうれしく思い、感謝を示したいと思って、この祝賀会を開催した。だからこそ今日は思う存分楽しんで欲しい。

 この祝賀会は流星の願いから皆さんへの感謝であると同時に、自分たちで自分たちを褒めたたえる場にもなればとも思っている。

 皆それだけのことをやってきたのだと、私が自信をもって宣言しよう」


「少し話が変わるが、昨日町への昇格と同時に私はこの度町長として任命された」


ここで周囲から『おぉ~』という感嘆が漏れる。

だがそれが異例であること知る一部の者たちは、そのことを衝撃をもって受け止めた。


オクタスタウンの町長であるホロイシンも目を見開いで驚いている。

そんな様子を気にすることなくコウは言葉を続けた。


「ここが町に昇格したことは素晴らしいことだ。だが私は、ここで満足するつもりはない。

 私たち全員の力があれば、この町はこの状況に留まることなく、より大きくより素晴らしい町へと発展すると確信している。

 だからこそ、これからも皆の力を貸してほしい。今よりも更に素晴らしい町に…誰もがうらやむ町にしていこうじゃないか!」


コウが言葉を終えると、まだ続くのかなと思った住人や傭兵たちが少し間をおいて口を開き始める。


「そうだな」

「仕方ねーな」

「やろうぜやろうぜ」

「俺たちが育てた町だもんな」

「楽しくなってきたぜ」


「コーウ!コーウ!コーウ!コーウ!」


徐々に言葉が広がっていき、声も徐々に大きくなり、気が付けば大きな歓声になっていた。

壇上でちょっと心配していたコウも、歓声が大きくなったことでほっと胸をなでおろす。


その歓声の大きさに、この新興の町の勢いに、この町の外から来た来賓席の者たちも驚きを隠せなかった。


「今日は今までの苦労と未来の希望を語りながら、最高の時間を過ごしてく欲しい。

 それと、最後に一つ伝えておきたい事がある。暇があればこの町の中心地から少し北にある公園を一度訪れてみて欲しい。

 そこにはここが村から町へと発展する期間、私たちに未来を託して亡くなった者たちの名を刻んだ石碑を設置した。彼らもまた、町への昇格の立役者たちだ。

 この日をどうか、彼らと共に祝ってほしい…。以上だ」


それを告げた途端、来賓席にいる傭兵の数名がうつむいて涙をこらえ始めた。

盗賊を殲滅する最中、仲間を失った傭兵団は少なくない。流星の願いは仲間の命を第一に掲げてはいるが、犠牲をゼロにすることは不可能だ。


失われた仲間は弔って前に進むしかない。それに対してコウは一定の配慮を見せた。

魔法使いは兵器であるという感覚の薄いコウならではの異例の対応だった。


そんな犠牲となった彼らの功績を決して忘れないというコウの姿勢に、一部の者たちの心が揺さぶられたのだった。

うつむく彼らを少し寂しげな眼で見ると、すぐに気持ちを切り替えてコウは開始の合図を送る。


「さぁ、食事を酒を…存分に味わって欲しい!今日は祝いの日だ。思う存分楽しんでくれ!!」


コウの言葉で町の各所に設置された料理と酒の提供所が開放された。

各自皿を1枚貰い、大量に盛られた料理の山から好きなものを好きなだけ取るバイキング方式となっている。

これはできるだけ全員が食べて飲んで騒ぐ側に回ってほしいことから、人員を減らそうと選んだ方式だった。


なお流星の願いの隣の広場に設置された中央会場は来賓客がいるので、流星の願いのメンバーたちと一部のお手伝いさんたちが来賓客のいる各テーブルに料理を配る形をとっている。


もちろん挨拶を見に来た住民たちへの料理や酒の提供も万全だ。

来賓席の周囲には町の各所に並んだすべての種類の料理が設置されており、コウの挨拶を見に来た者たちは一斉に料理に飛びつく。

こうして中央広場を中心に町中が一気に騒がしくなり始めた。


町の中にある料理と酒の提供所はその場所場所により提供されるものが少しずつ違っており、それを目当てに多くの村人や傭兵たちが動き回る。

移動した先で話が盛り上がると今度は一緒になって移動し始めたりと、町全体がパーティー会場のようになっていった。



町中の対応で流星の願いのメンバーたちが奔走する中、コウは来賓客1人1人と話をする。


「ホロイシン殿。お会いできて光栄です。この町の町長に就任したコウといいます」

「流星の願いの噂は私の町にいるころから聞いていたよ。ずいぶんとできる人物が私の町からいなくなり残念だ」


そう言いながらもホロイシンは警戒した雰囲気を見せる。

その雰囲気を敏感に感じ取ったコウは、できるだけ警戒を和らげるべく下手に出る。


「いえいえ。私としても流星の願いとしても、オクタスタウンにはこれからもお世話になるつもりです。

 特に私個人としては、先達であるホロイシン殿にご指導いただければと思い、この度お招きしたのです。どうか、よろしくお願いいたします」


「むぅ、そうか。確かに町ともなれば、今までの村とは勝手の違うところもあるだろうな。何かあれば相談くらいは乗ろう」


「ありがとうございます」


「うむ。ところで…この料理は素晴らしいな。私の町でもここまでのものはなかなか見ない…」


「今回、お世話になったオクタスタウンの町長殿を招待するということで、特別な伝手を使って食材を取り寄せました。

 それと私の侍女が料理に対してかなりの情熱を持っており、今回腕を振るってもらったのです」


「ほぅ、コウは周囲の人材にも恵まれていると見た。羨ましい限りだ」


その人物を欲しいと言わんばかりの雰囲気にコウは内心イラっとしたが、笑顔を保ち平静に対応する。


「またお会いする時には、今回を超えるものがお出しできるよう精進させておきますので」


「ふふっ、それは楽しみだな」


オクタスタウンを飲み込む気でいるコウにとって、今彼を敵に回すのは一番の悪手。

下手に出ることで融和な雰囲気を作りつつ、一定の線引きをすることでどうにかこの場を乗り切った。



その後、各傭兵団のリーダーたちから町長就任に関して祝いの言葉が飛んでくる。

リーダー格ともなれば、コウが町長に就任することが如何に異常なことなのか理解している者もいたが、驚きよりもこれらかの期待の方が大きいのか笑顔を見せる者がほとんどだった。


星の一振りのリーダーであるシグルスはかなり不信感を抱いていたようだが、現状の雰囲気に押されてか突っかかって来るような真似はしなかった。

そうして話しながらテーブルを回っているうちに、傭兵ギルドの支部長・副支部長の2人のいる席にたどり着く。


「本日は出席していただきありがとうございます」


「当然のことですよ。我々はあなたに期待しているのですから」


「ここまでの派手なパーティーになるとは…正直驚いている。オクタスタウンでもこの規模の祝賀会は見たことがない」


「ドゴスタ殿、皆に楽しんでもらい今後も頑張ってもらうためです。お祝い事でけちけちしていては、住人達からも軽視されますから」


「ははは、さすがコウ殿。ホロイシン殿が聞けば表情が変わりかねない言葉ですな」


多少酔いが回っているのか、副支部長であるドゴスタは既にご機嫌なようだ。

だが彼の言葉に慌てたコウは、すぐに周囲の状況を確認しホロイシンが聞こえていなことを察してほっと胸をなでおろす。


「ドゴスタ、少し言葉が過ぎますよ」


さすがに上司に指摘されると酔っていてもやばいと感じたのだろうか。

渋い表情をしつつ軽く謝罪の意を示す。


「まぁまぁ、問題のない範囲にとどめてもらえれば、あとは存分に楽しんでもらえた方が主催者冥利に尽きるというものです」


「その言葉はありがたいですが、羽目を外し過ぎては元も子もありません。それよりコウ、今回はずいぶんと良い食材を用意したのですね」


「ええ、隣町の町長に傭兵ギルドの皆様、オクタスタウンの主要傭兵団のリーダーと、ゲストの質が高いので手を抜けないなと思ったんですよ」


「にしてもここまで揃えるとなると…流星の願いはそれなりの品を扱う商社と取引できるということですね」


さすがに鋭いなと思いつつコウは笑顔を見せる。

別のテーブルにいるリズリオールに一瞬視線を向けて、コウは再びフューレンスを見た。


「以前少し付き合いのあった商社と話ができ、何とか協力してもらえることとなったのです。感謝しかありませんよ、本当に」


「ふぅ。最近はあなたの人脈や後ろ盾を知り驚いているところです。我々もお役に立てないと捨てられるのではないかと思うほど、素晴らしい面々ですから」


「まさかまさか。これから協力をお願いする立場ですよ、こちらは。フューレンス、これからもよろしくお願いします」


「ええ、こちらこそ」


挨拶を終えコウが立ち去ると、フューレンスは大きく息を吐き疲れた様子を見せた。


「支部長、どうされたのですか?」


コウの後ろ盾を知らないドゴスタは不思議そうにフューレンスを見る。

そんな様子を見て彼女は呆れ気味に答える。


「彼の味方に付いた自分の判断を褒めたいところだけど、引き込まれた先が化け物揃いだと…さすがに躊躇もするものよ」


「はぁ、そのようなものですか…。まぁ、今日はコウ殿の厚意に甘えさせてもらいましょう。なんせ酒の品揃えがいい。

 これほどうまい酒が並べてある光景は生まれて初めてだな。さぁて、次はどれを…」


ドゴスタの喜びっぷりに呆れつつも、自分も彼くらい純粋に楽しめれば楽なのにと思うフューレンスだった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


2日ほど更新が遅れてしまい申し訳ありません。

連日、仕事から帰り即寝をしてしまったのが最大の原因です。

最近はいっぱいいっぱいですが、何とか更新を頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

評価や感想等頂けるととてもうれしいです。


次話は4/5(火)までには更新する予定です。

頑張ります。

では。

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