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交わることのない二つの道13

ここまでのあらすじ


都市の城内へと案内されたコウたちは、無事に町への昇格を認められた。

宿まで案内されたコウたちには、村人たち用とコウたち用の2部屋が用意されていた。

隣同士の部屋であり、扱いに差がないことにコウは驚いていた。


この宿の豪華さは周囲と比べて抜きん出ており、違和感だらけの謁見の件も含めてすぐにでも相談したかったが

兵士たちや村人たちがいる場所ではそのことを話せず、コウたちは部屋に入ってようやく落ち着ける。


「ここなら話せそうだな。だが念のためこれを使っとこう」


コウがアイテムボックスから魔道具を取り出し、<沈音>の効果が発動させる。

それと同時に部屋内の魔道具を魔力で感知し、盗聴できるようなものがないことを確認してからようやく会話が始まった。


「うーん。やっぱりこれはおかしいだろ」


「そうですね。この宿もですが、待遇がいくらなんでも良過ぎます」


「となると来賓室といい、最初からとなりますね。明らかにコウ様の身分を知った上での対応でしょう」


案内された宿泊所も周辺の施設より明らかに豪華で、しかも費用は都市側持ち。

さすがのコウたちも兵士たちに思わずここに泊まっていいの?と聞いたほどである。


「だがドービックは都市長という上の立場を示していたし…こっちのことを知ってるとはアピールしたくない感じだったよな」


「確かにそのようには見えましたが…この宿は露骨すぎます。どうにも思惑が計りかねると言いますか…」


「ちぐはぐな感じですよね」


皆同じように考えていたが、そのちぐはぐさから目的が見えず結論が出ない。

中立地帯は光の連合からは下に見られており、都市長といえども貴族と同等かそのちょっと下くらいだ。


対してコウは光の守護者2人の弟子であり昇格貴族なのだから、厳密には中立地帯の都市長より上の立場になってしまう。


「おそらくは連合からの圧がかかっているとは思うのですが…」


そこはこの場の全員が理解していたが、その割には都市長の対応が中途半端なのだ。

相手側はあくまで知らない風を装って少し偉ぶっていた割に、宿などの対応は全力接待。


何らかの思惑でもあるのかと思い思案していると、コウがクエスの言葉を思い出す。


「あっ…。そういや師匠がサプライズがあるとか言ってたな…。ボサツ師匠のはバブルスマイル社とハース魔動機械だったけど

 クエス師匠のは何もなかったんだよね。となると…これだよなぁ」


「なるほど。税の件といい、町長の件といい、エクストリムを追い出されたお詫びもかねて…といったところでしょうか」


「はぁ~。まぁ、そうだろうなぁ。露骨に肩入れしてないように見せるためにも、都市長はあんな感じの態度だったと思えば理解できるし。

 こうした宿とかは、町まで昇格させた者には好待遇していると嘘でも言っとけば、そんな奴はあまりいないらしいし、何とか誤魔化せる範囲だもんな」


コウがベッドに倒れこみ呆れた態度をとるが、シーラとメルボンドはそれをほほえましく見ていた。


「なぁ、これってさすがに過保護にされすぎだよなぁ?」


こんな状況だからか、コウから思わず『過保護』という言葉が出る。

コウは師匠たちの力をできるだけ借りずにそれなりの成果を出して、その功績をもって恥じることなく連合に戻りたいと思っていた。


他から見ればすでに転移門や技術支援をしてもらっているので今更感はあるが、それでもこれ以上は…という思いがあったのだろう。

だがそれに対してメルボンドが鋭く反論する。


「コウ様。過保護と言いますが、私が一光様や三光様のお立場であれば、すぐにでもコウ様を連合へと連れ戻しています。

 このような危険な地域でやりたいことをやらせていること自体、大きなリスクなのですから」


「……そうか。そう言われればそうだな。どちらにしてもやることは変わらないし、あの街を都市に向けて発展させるよう頑張るしかないか」


「師匠の頑張りは、一光様も姉様もきっと認めています。むしろ焦りすぎて大きな問題を起こさないことの方が大切だと思います」


「そうだな。あの振る舞いの疑問も何となく解けたし、今日はゆっくりするか」


「だったら、私は少し買い物に行ってきます」


「あぁ、昨日エニメットに頼まれていたもんな。だけどそろそろ夕食の時間だろ。明日じゃダメなのか?」


「明日はできるだけ早く出発して、早めに昇格した町へと戻りたいですし」


「そう言われればそうだな。だったら俺も一緒に行こうか?」


「いえ、師匠はお疲れのようですから兵士の方にでも案内してもらって行ってきます」


「……そうか。じゃあ夕食は少し遅く持ってきてもらうよう言っておくよ」


シーラはコウに感謝して笑顔を見せると部屋を出て行った。

ならばとコウが外に出ようとすると、メルボンドがそれを遮る。


「シーラ様の言っていたように、コウ様は今のうちに軽くお休みください。言伝は私の方でやっておきますので」


「いや、まぁ、確かに昨日は遅くまでホクティマートたちと話してはいたが…その作戦も無駄になったしなぁ」


「それはそうですが、エイコサスタウンに帰った際には意気揚々としていただかなければなりません。今は少しでも疲れをとってください」


メルボンドの言い分に渋々納得し、コウはベッドで横になった。

とにかく無事に昇格は果たした。それを思うとコウはどっと疲れを感じる。

シーラが戻って来るまで仮眠するかなと思っていると、メルボンドが視界の外から話しかける。


「それと申し訳ありません。部屋分けまで用意されているとわかっていれば、私も村人たちと同じ部屋にしてもらったのですが…」


コウが案内されたこの宿泊所では、すでに部屋割りまで準備されており、ベッドが各部屋3つずつになっていた。

元からなのか今回だけ3つにしたのかはわからないが、こうもきっちり用意されていては、さすがにメルボンドもコウやシーラと自分の部屋を分けてくれと言いにくかったのである。


「いやいや、別に問題ないだろ?」


「ですが、せっかくの旅先。シーラ様とのお楽しみを期待していたのではと思うと…」


「……あのなぁ。町への昇格が本当に問題ないか、相手の出方はどうか、いろいろ気にすることがあるのに、そんなことに気を回すほど余裕があるわけないだろ」


「そう言われるとそうですね。お二人の仲が進んだということで、こちらも気を使ってしまいました。では、夕食の件と村人たちの様子を見て来ますので」


「…ったく。頼むぞー」


そういってコウは近くに置いてあった魔道具を引き寄せて効果を切り、毛布をかぶって目を閉じる。

それを見たメルボンドは少し微笑みながら部屋を出た。




翌日コウたち一行は問題なく都市を出発出来た。

行きと同じく風の板に6名が乗って、通常の倍の速度で町として認められたエイコサスタウンへと向かう。


シーラは昨日相当の品物を買い込んだらしく、仕方がないのでコウが荷物の一部をアイテムボックスの中に入れてある。

今回は特に戦闘する予定もないので問題ないが、アイテムボックスを限界まで詰め込むと維持のため消費する魔力も多少は増えるので、本来であればよくない行為だ。


「随分と買ったよな。そんなにエニメットに頼まれていたのか?」


「い、いえ。私が買いたいものが多くて…。それにマナにも頼まれていたのです」


「マナが?珍しいな。マナは自分の目で欲しいと思ったものしか買わないタイプだと思っていたんだが…」


「武器とかはそうみたいですけど、ちょっとしたものは違うみたいですよ」


「そっかぁ。いいことを聞いた」


エクストリムで不足していた戦闘用の道具周りを見に行った時、マナがやけにこだわっているのを見て

コウは『2人で買い物とか行くと結構大変そうだなぁ…』と思い、それが印象に残っていた。


それで、小物の武器道具もこだわるのであれば、日常で使うものもかなりこだわるのだろうと勝手に思い込んでいたのだった。

それなら普通にデートできそうだなと安心するコウを見て、おおよその考えを見抜いたのか、シーラは笑顔でコウを見ていた。


「あっ、でも、戻ったら転移門を使ってある程度のものは揃いそうだよな…」


「ですね。でも日用品ならまだしも小物類とかは、ぱっと見で決めることも多いから品揃えの多い都市の方が選びやすいんですよ」


「なるほどなぁ。確かにカタログだけ見て決めるってのは、なんか違う気がするもんな」


「そうなんですよね。これからはエイコサスでも手に入るとは思いますが

 町に昇格したと言ってもまだまだ人口は少ないですし、商売上娯楽品とかの品揃えを豊富にってのは厳しいですから」


そんな他愛もない話で盛り上がったり、町に戻ってからの話で村人たちと盛り上がったりしながら、コウたち一行は少し前までノナリストコークと呼ばれた町へと近づいていた。

その時だった。コウが複数の魔力反応を感じて風の板の速度を緩める。


「師匠、どうしました?」


そう言いながらもシーラは既に愛用の杖を出して戦闘態勢へと移行する。

こうした即座に気持ちと態勢の切り替えができたのは、日頃のマナとの訓練のおかげだったりする。


そんなシーラの対応にちょっと感心しつつ、コウは速度を落としたまま風の板を前進させつつ話す。


「いや、不審な奴等かと思ったんだが…一応知っている奴だった。まぁ、おめでとうと言われる雰囲気じゃないことは確かだが」


その言葉を聞きながらシーラが前方を確認すると、少し先に10人程の集団がいた。

彼らもこっちには気が付いているようだが、向かってくる様子はない。


遠めでまだ誰かわからないシーラが不安そうにするのを見て、コウは落ち着きながら声をかける。


「大丈夫だ。いや、大丈夫とまでは言えないかもな。戦闘になるとは思えないが、肩の力を抜きつつも警戒した態度だけは見せておいてくれ」


「わかりました」


そうして見えてきたのは、民への誓いのリーダーボルトネックと、そのメンバーたちだった。

ご丁寧に幹部3名全員揃ってコウたちを見ていたが、雰囲気は軽めで争うつもりはなさそうだった。


コウが風の板から降りて歩きゆっくりと近づいて行くと、ボルトネックから声をかけてくる。


「結構早い帰還だったな」


「速度増しの風の板改良版だからな。で、こんなところでどうしたんだ?まさかお迎えってわけでもないよな?」


「少し話がしたいと思ってな。その様子だと町への昇格は問題なかったようだが」


「ああ、無事に昇格したよ。これからはエイコサスタウンという名になる」


「そうか。それで、君の権力はまた1段上へと昇ったわけだ」


「……何が言いたい」


コウの少し低めの声にシーラと民への誓いの幹部たちの警戒心が上がる。


「最初の頃、コウのことは不思議な奴だと思っていた。追放された貴族だと聞いていたが、慢心や傲慢さなどなくコツコツと丁寧に仕事をこなす変わった奴だと。

 もしかしたら貴族にだってこういう人物がいるのかもしれない…そう思ったんだがな」


ボルトネックの言葉をコウは淡々と聞いていた。

今更彼にどう思われようと、コウにとってはどうでもいいことだった。

だが、現段階では言われては困ることもある。そのワードが飛び出すか、コウはそれを警戒しつつ話を聞く。


「コウ、君は所詮貴族だな。どうやってここまで住民たちを集めたのかは知らないが、おそらく真っ当な手ではないだろう。

 彼らはそう簡単には自分たちの村を捨てない。普通のやり方ではここまで集めることはできないはずだ。それは我々が一番よくわかっている。

 だが君は何らかの手を使って集めた。そこまでして権力を欲するとは…やはり貴族は貴族でしかないというわけだ」


後ろでシーラが怒っているのを感じつつ、コウは冷静に言葉を返す。


「別にそちらにどう思われようが構わない。ただ俺は、村の住人たちを今よりもっといい環境に住まわせるためにも、力が…権力が必要だと思って動いたまでだ」


「自分の権力か、住民のより良い環境か、どちらが本意なのかは見ものだな…」


「この場ではっきり言っておくが、どちらも大事だと思っている。片方ではダメだ。片方では歪んでしまうからな」


「………」


ボルトネックがコウを睨む。コウのいったことの意味を咀嚼しているようで、時々疑問の感情が入り混じる。

これ以上説明する義理もないのだが…そう思いつつコウはため息をついて口を開く。


「権力とは別に他人を虐げるだけの力じゃない。簡単に言えばどれくらい広く力を行使できるかだ。多くの住民を守るためにはそれだけの力が要る。それだけだ」


「そういった者の全員がやがては権力におぼれ、住民たちをないがしろにする。その貴族的な傲慢な考え方が…その出発点だ」


「ならそちらはどうだ?力を増強せず目の前の事だけにとらわれ…限界を感じて村人がさらわれようが黙認する。清貧、と言えば実に聞こえがいいがな…」


「…失敗を繰り返さぬためだ。コウの立場では、見えないものもある」


「まるでこちらからの視点を見たことがあるような言い方だな」


「見たことはない。だがそうした知識を我々は得ている」


そう言ってボルトネックは背を向け仲間たちとその場から去ろうとする。

そしてコウたちのやり方を認めないと言わんばかりに背中越しに言葉を投げつけた。


「お前たちの真っ当じゃないやり方を、必ずや見つけて見せる。そしてそのことを白日の下にさらす。その時こそお前たちの本性と、本当の立ち位置がわかるはずだ」


やや語気を強めた言い方にボルトネックの怒りがはっきりと見えていた。

だが同時に、コウには民への誓い内のぎくしゃく感も見えていた。


彼らとはできるだけ協力関係でありたいが、あまり放っておくと自分たちの障害にしかならないとも感じさせる現状に、コウはただため息をつくしかなかった。

ここで動くにはまだ、コウの覚悟が足らなかったのである。


今話も読んでいただきありがとうございます。

いつもいつも感謝しております。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

感想や評価などなど、色々と頂けるとうれしいです。


次話は3/26(土)更新予定です。 では。

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