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交わることのない二つの道4

ここまでのあらすじ


流星の願いと民への誓いの話し合いは、共に村人たちの事を思うものの決裂に終わった。


一方、オクタスタウン内の拠点に戻った民への誓いは、先ほどコウの拠点を訪れた4人で再度話し合いをしていた。

厳しい表情を崩さないボルトネックだが、先ほどよりはずいぶんと落ち着いたようで、ゆっくりと席に座ると幹部たちの方を向いて口を開く。


「流星の願いとの話し合いに関して、皆が思った率直な感想を聞かせて欲しい」


先ほどの自分の行動を多少は反省しているようで、ボルトネックは各幹部と目を合わせないよう微妙に視線をずらしていた。


民への誓いは上限関係にそこまで厳しくなく、割と自由な発言ができる珍しい傭兵団だ。

ボルトネックも普段は周りの意見に耳を傾けることが多く、先ほどはよほど余裕がなかったことがうかがえる。


「私は、彼らの対応がそこまで悪くないように感じました。少なくともこちらから敵対する必要があるとは思いません」


自分の隣に座っていたエミリナがコウたちに対して好感触を見せても、ボルトネックはなるほどと関心を見せるに留めた。

肯定も否定もせず、あくまで一意見として自分の思考の中に放り込む。


「俺は(まつりごと)なんぞわかんねーし評価は任せてるから、別に感想はないかなー。ただ盗賊を減らしてくれたことは感謝してるぜ」


「サンディゴらしいな」


「えっと、私ですけど…ボルトネック様の意見に賛成というか…この地を無秩序に荒らされるのは好きじゃないです」


少し控えめに言いつつも必ずリーダー側につくのがこのルルキナだ。

彼女はボルトネックを心酔している面が見られることから、この感想は誰もが予想できた。


現にエミリナやサンディゴだけでなく、当のボルトネックもあまり重くは受け止めていないようで、自分に賛成してくれる意見にもかかわらず笑顔は見せない。


「確かに2人の言うように、私も評価している部分はある。だが今回の件はこのまま見過ごすわけにはいかない」


「その、理由を聞かせてもらってもいいですか?」


エミリナが真剣な表情で尋ねると、ボルティスは彼女を1度見た後、全体を見ながら答える。


「一番大きな理由はコウがこれ以上ここで力をつけること自体、危険だと思っているからだ。

 彼は正直言って優秀だ。連合からここに流れてくる貴族は皆も何度か見かけていると思うが、ここまで大きなことをやった者などいやしない。

 大抵は持ち金を使い偉そうにして、それに群がる奴等が味方をするが、しばらくすれば大して価値のない存在だと見限られるのがいつものパターン。

 多少できる奴は上手く傭兵たちの輪に溶け込むが、あそこまで突出して目立ったりはしない。だがコウは違う」


ボルトネックの言葉に全員がうなずく。


ここは連合に最も近い町の1つだからか、時々準貴族でありながら無価値と思われ追い出された者や、その追い込まれた環境から逃げ出した準貴族崩れが時折やって来る。

彼らのほとんどはそれなりの実力を持っているが、それと同時に傭兵たちを下に見る傾向が強く、多くの傭兵たちから反感を買い孤立しやすい。


が、手切れ金なのか何なのかそこそこの金は持っていることが多く、一部の傭兵たちはそのおこぼれにあやかろうと近づく者もいた。

だがしばらくすればこんな辺境の田舎生活が合わなかったのか、この町の傭兵たちから見限られた頃にはほとんどが都市へと移動して終わりになる。


だがコウたちはそんな準貴族たちとは大きく違った。

多少疎まれながらもしっかりとした本拠地を構え、ここに居る傭兵の誰よりも依頼をこなし、時には他の傭兵たちと共に行動し、終いにはその多くを率いる存在にまでなっている。


村人たちを救うのも積極的で、今までの落ちこぼれ準貴族たちとは比べ物にならない程だ。

だからこそ、ボルトネックは思うところがあった。


「ここまでコウが優秀だからこそ、俺は思う。コウはしばらくすれば必ず連合へと戻る。

 なんでも最近は闇の国との小競り合いも起きているらしい。そんな時にあれだけの人材を放置するとは思えないからな」


「でかい戦争になったら人材狩りがはじまるからなー。確かにあれをほっとくとは思えんね」


「だろう?その時あの村はどうなると思う?ホウカウ国から村長代理が派遣されるだろうが、所詮は小さな村、優秀な人材が送られるとは到底思えない。

 そもそもコウのカリスマで維持されている組織だろう。コウを含む直属の者たちが全員連合へ戻れば、従っていた傭兵たちはまたバラバラになり、残された村人たちは悲惨な目に合う。

 今だけを見ればコウのやっていることは正しいだろうが、長い目で見れば悲惨な結果を引き起こすだけに過ぎないのだ」


過去には今回ほどではないが、似たような事例があったことを記す記録が民への誓いに残っている。

幹部たちはある程度そうした情報を見ているので、ボルトネックの主張に表立って反対する者はいなかった。


「リーダー、だったらなぜあの場で感情的にならずそのことを言わなかったのですか?」


エミリナの指摘にボルトネックは顔をしかめる。


「力関係もあるし、コウも善意でやっていることだからな…。頭ごなしに過去の例を挙げても…素直に納得するとは思えなかったんだ…」


「それは、そうかもしれませんけど…」


「それにもう1つ。先日ノナリストコークを訪れた時、前回よりもずいぶんと人口が増えていた気がした。1週間ほどで目に見えて人口が増えるのは、はっきり言って異常だ。

 普通に説得しているだけではあるまい。おそらく金で釣っているとは思うが…駿馬の動きといいきな臭さを感じる」


「それは私も思いました。あの村人の集まり方は明らかに異常です。ボルトネック様の言ったように、失った権力を得るために強引な手を使っている可能性は高いと思います」


リーダー側につくルルキナの言葉に、流星の願いと仲良くやっていきたいエミリナは聞き流すことなく反論する。


「向こうも私たちも村人たちの事を考えて動いているんです。安易に反発せず、手を取り合い協力する道だってあるはずです」


「それはわかっている。だが彼らが裏で何をやっているか知った上で、協力するか判断すべきだ」


「それはそうですけど、今の流れじゃ最初から敵対的になってるじゃないですか!」


エミリナの言葉に思う部分もあったのか、ボルトネックも悩んだ様子を見せた。


敵対的になってしまう理由は彼自身よくわかっていた。

あまりにもコウが上手く、そして急速に物事を進めすぎているからだ。


それについていけない事と、自分たちが出来なかったことをてきぱきと進めている様を見て、ボルトネックは不安と嫉妬を感じていたのだ。

彼自身それをよくわかっていながら、それをあえて口には出さない。


「サンディゴ、お前はどう思う?」


「俺ですか?まぁ、敵をむやみに増やしたくはないっすね。主力がごっそり抜けた今、彼らと敵対すれば、最悪うちが潰れますよ。

 彼らが近い将来いなくなるのであれば、うちらがなくなることは一番避けるべき事じゃないっすか?」


「……確かにそうだな。だが、裏で何をやっているかは調査しておきたい。事と次第によっては釘くらいさすべきだろう。ルルキナ、その辺りを何人か使って調べてくれ。

 エミリナは時々ノナリストコークへ足を運び、様子を見つつ交流してくれ。我々も決して敵対したいとは思っていないからな。

 本来はリーダーである俺が行くべきだが…俺よりはエミリナの方が適任だろう。以上だ」


リーダーの言葉に幹部たちは同意する。

対立したくはないが素直に協力もしたくない。

将来的な問題要素もあり、自分たちが取りこまれた場合、外部から収拾をつける者がいなくては困る。


そんな立場だからこそボルトネックは流星の願いと距離を置き、まずは疑問点を片付けることにした。




流星の願いと民への誓いが口論となってから3日後、ノナリストコークは人口がついに2千名を超えることになった。


1週間はかかるだろうと思っていた2千名の達成は、コウが傭兵たちを総動員し移住を手伝ったことで、村人たちが積極的になったことも大きかった。


住民が移住する時は一般的に村人たちが移住先に歩いて来るのだが、今回は傭兵たちが魔道具で維持した風の板を大量に持ち込んだことで移動時間が劇的に短縮されたのだ。

また、移動の間傭兵たちがしっかりと護衛したことで、引っ越してくる村人たちも安心して決断できたことが大きかった。


こうした大規模な村人の移住は珍しいが、数名の村人たちが別の村に引っ越す場合、傭兵たちが護衛につくことはない。

それなりに金を払えばやらなくはないが、幹部でもない一般の村人が傭兵を護衛に雇えるほどの金を持っているわけがないからだ。


だが今回は違う。

旗振り役が流星の願いってこともあるが、ノナリストコークが1日でも早く町へと昇格すれば、そこに拠点を置いている傭兵たちもまた早く利が得られる。


そのため傭兵たちがむしろ積極的に護衛を買って出ているのである。

この情報もまた村人たちが移住を早める要因となっており、コウたちにとってはうれしい誤算だった。


そんな状況を、コウは拠点の屋上から村を眺めつつ迎えていた。


「今日中には目標としていた2千名を超えるか。まいったな…傭兵ギルドが移ってくる前に達成してしまったぞ」


「コウ様、その点は都市への申請と報告を遅らせれば問題ないかと」


「まぁ、そうだな。即日申請しなければならないわけじゃないし、そこは大丈夫か。だが住宅はどうだ?

 前々から資材を集め住宅を増やしまくっていて、村人たちからは大量の空き家を作ってどうするんだと囁かれていたが…これ、足りてるのか?」


「正直に言いますと、足りていません。村から少し離れた場所に、移住待機所としている元集落がありますが、そこを合わせても2千5百住めるかどうか、といったところです」


「マジか……。傭兵たちのやる気が落ちる前に一気に移住させたかったが、さすがにこれは間を置かないと…やばいな」


「傭兵たちのやる気はもうしばらくは維持できるかと思いますが…」


「師匠、それよりも食料の備蓄が足りなくなりそうです。1月後までには2千名を超えるという当初の目標を前倒しし過ぎたこともあって…」


メルボンドの返事に割って入ったシーラの懸念に、コウは眉間にしわを寄せるしかなかった。


「移住してくる村人たちには、食料も全て持ってきてもらっているんだろ?」


「ええ。ですがこちらの想定よりもその量が少なく…」


「まいったな…・転移門がない間は、他から買ってくるしかないか」


「ですが、オクタスタウンからはもう厳しいですよ。申請に行くついでに都市でかなりの量を買い足すしかありません」


「んー、頭が痛いな…目立ちすぎる行動は都市側にも警戒されかねないが、この際贅沢は言ってられないか…」


闇の国が食料を買いあさったこともあってか、各村に残っていた食料もかつかつで予想以上のペースで備蓄が減っていた。

慌てたシーラがさらに農業用地の拡大に着手しているが、用地を確保したからと言って食料が即座に沸いてくるわけではない。


成長促進関連の魔法を使えばそれなりに早くはなるが、そもそも使い手が1人しか確保できておらず、本人の能力の低さも相まって思ったほどの成果は出ていなかった。


「マナ、盗賊への指示はもう終わってるよな?」


「うん、駿馬への指示だね。いったん略奪行動をすべて停止するように指示書を出し、返事も確認してるよ。

 酒造りに専念できるってむしろ喜んでいた感じの文面だったし、大丈夫じゃないかな」


「そうか。まぁ、あいつらにも少し無茶させたからなぁ。あと、この間予定していた例の作戦は…延期した方がよさそうか?」


「あぁ、民への誓いにちらつかせてたあれ?受け入れるスペースがないならちょっとまずいかも。でもすでに村人たちの間に情報は流しちゃったし、あんまり長く待たせるのはまずいと思うよ」


「……そっか。むしろ移住希望に傾いている村を少し待たせた方がましかもな。あんまり長く待たせすぎると、それはそれで話をひっくり返されそうだが」


全てが順調というより、順調に行き過ぎたことで逆に問題が発生してしまっていた。

が、ここは一気に物事を進めた方が妨害したい者たちに対策を練る猶予を与えずに済む、という利点もある。


特に民への誓いと物別れに終わった以上、あんまり悠長にしていては何らかの手を打たれかねない。


「よし、マナとシーラはそれぞれが指揮する傭兵団に指示を出してくれ。シーラは農業関連の増産をメインに、マナは家の建設と資材の確保を。

 俺も出来る限り手伝うよ。ここを早く進めないとどうにもならないからな」


「わかりました」


「りょーかい」


真面目に返事をするシーラと楽しそうに返事をするマナ。

2人ともいくつかの傭兵団からかなりの信頼を得ていることから、コウが指示するより2人がそれぞれ直接指示した方が物事を上手く進められるほどになっていた。


本当に頼りになる2人に、コウは心の中でいつも感謝をしていた。

その瞬間はコウの表情がいつも緩むので、なんとなく2人も察してはいたのだが。


「予算に関しては、メイネアスで配分を頼む。都市に買い出しに行く際は、同行してもらうぞ」


「もちろんです」


「他の細かい点はメルボンドに一任するが、問題がある場合は俺に上げてくれ。話し合う時間は作る」


「わかりました。コウ様もあまり無理はなさらぬようお願いします」


「まぁ、ここが正念場みたいなもんだからな。多少は仕方ないさ」


「師匠って、いつも正念場な気がするんだけど…」


マナの突っこみにコウが戸惑っていると、そこそこ的を射ていたのか周囲の者たちから笑いが漏れる。

その笑いでコウもどう見られているのかわかったようで、あまり無理はしないよとアピールするしかなった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

これでも投降前に結構チェックしてるのですが、間抜けな誤字が後を絶たなくて…。


評価や感想、ブクマなど頂ければ励みになります。

いつも読んでいただきありがとうございます。


次話は2/15(火)更新予定です。 では。

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