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交わることのない二つの道3

ここまでのあらすじ


ボルトネックとコウが話し合いを行う。

話の途中、複雑に変化するボルトネックの様子を見て、コウはもっと理解し合えるのではと感じていた。

「おそらくすぐには分かり合えないと思うが、出来ればそちらにも理解してほしい。まず、なぜ村人たちは被害にあっているにもかかわらず

 こちらに助けを求めるだけで村から移動しないんだ?俺たちが来るのであれば歓迎すると伝えているにもかかわらず、だ」


先ほどまでの冷淡な雰囲気から一転して、コウは必死にわかってもらおうとする態度を見せる。

急に雰囲気が変わったことで、少し自分たちの言い分が少しは伝わったのかと期待を持ったボルトネックは、コウの質問に対して怒りをぶつけず素直に答えた。


「それは当然の事だろう。彼らにとって今いる村は自分たちで築き上げてきたものだからだ。いわば村は彼らの資産だ。

 それを手放してしまえばもはや流浪の民と同じ。生きて行けなくなってしまう」


「それは違うと思っている。もちろん、全部違うとまでは言わないが、彼らの守りたいものは…いや、村長や一部の村の幹部が守りたいのは村の利権だ。

 その強い立場、町へ昇格した場合に得られる利益の大きさ。それを守りたいからこそ、彼らは村を捨てずただ助けだけを呼ぶ。

 おそらく、命と同等…いや、それよりも大事なのだろう」


「そんなことはないはずだ。誰もが命より大事な物などあるはずがないだろう」


「大半の村人たちはそうだろう。だが、幹部以上は違う。民への誓いは、今まで村を救ってきた時どうしてきた?依頼を受け窮地を救い、報酬を受けて終わりか?」


「それはそうだ。それ以外に何ができる?」


「村人たちとの交流はどれくらいやってきた?色々な村人たちと直接話をしたことはあるのか?」


「まぁ立場上、歓迎されたことは何度もある」


だろうなと思いコウは唇を強く結んだ。

歓迎されたというのは、あの村独特の接待のことを指す。

あれは交流ではなく接待であり、一般の村人たちと話す機会はほとんどない。


だが流星の願いは救援に駆け付けた村に、自分たちが食料を拠出して全体の祝勝会をやっていた。

そこで色々な意見を耳にしていた。村の幹部以外の者たちの意見も。


「そこに出てくるのは幹部たちばかりで、一般の村人たちと交流する機会はほとんどなかったのだろう。

 一般の村人たちは命を懸けてでも村に居たいというものは少ない。彼らは得られる利益が多くはなく、命の方が大事だからな。

 だが幹部連中は違う。得られるものが大きければ命よりも利権の方を重視してしまう。俺はまずそこを変えるべきだと思ったんだ」


「だっ、だからと言って…それを理由にして助けないのは間違っている。犠牲になるのはコウの言う一般の村人だろう」


「ああ、確かにそうだ。だからこちらも何もしないわけではない。今1つの村で仕掛けをしている。その成否によってこちらも今後の動きを変えるつもりだ」


詳細を語らないことで相手を動き辛くしたつもりのコウだったが、ボルトネックは逆にろくでもないことをしようとしているのではと思い込んでしまう。

2人の間に存在していた亀裂は、一旦お互いの態度が軟化していたことで隠れていたが、再び大きな溝へと広がっていく。


「何をするつもりだ…コウ!これ以上、村人を苦しめるつもりなのか!」


再び語気が強まるボルトネック。

だがコウはここで引いてはならないと思い、受け流さずに押し返そうとした。


「そんなわけないだろう。それに、長い間苦しめられてきたのは傭兵たちも同じだ。彼らが利権にしがみつくばかりに、傭兵たちが犠牲になる。

 これを良しとし続けた結果が、少し前までのような状況を作り上げてしまったんじゃないか!」


「なっ!?何を言っている?俺たちが村人たちのせいで犠牲になってきた?馬鹿げたことを言うな」


「じゃあ聞かせてもらうが、ここの傭兵たちはなぜ村人を救おうとする者が少ない?」


「それは…危険な仕事のわりに、報酬があまり期待できないからだ」


「それは現実に目をそらし、上ばかりを見ていたからそう見えるだけだ。危険な仕事になったのは、村長や一部の幹部が自分たちの利益に固執し村を点在させた結果だ。

 守り手の傭兵たちが戦力を分散せざるを得ず、犠牲が拡大した結果に過ぎない」


「なんだと!俺たちの…先代や先々代のリーダーたちがやってきた努力を否定する気か!」


「当然だ。その結果盗賊たちの方が圧倒的戦力を持ち、村人が殺されようが手を打てない現状が続いていたのだろう。これを否定せずに何を否定するというんだ。

 その証拠に俺たちの村と傘下の傭兵たちを見ればわかるだろう。ある程度安全であれば、傭兵たちも村を守ることによろこんで協力してくれている」


「それは…そちらが金で釣った結果であって…」


「元々そちらにいた者達もうちへの傘下に入っているし聞いているだろうが、俺たちが払っている金はあくまで最低限生きていける程度だ。

 それでも彼らは俺たちに協力して盗賊と戦い、魔物を撃退している。それは最低限の金を得るためやってるのだと思うのか?」


ボルトネックはついに視線を逸らし始めた。


彼らだって薄々わかっていたのだ。今までのやり方ではすでに八方ふさがりになっており、あまり村人たちから感謝されることもなく犠牲ばかりが増えていく。


そんな結果が出続ければ、最初は村人を守ることに意欲を見せていた傭兵たちでさえ、心が折れて離反していく。

残った者たちも、もはややりがいすら擦り切れており、村人たちを何とか助けたいという信念のみが心の支えだった。


それをコウが金と力を使い、結果が出てやりがいを感じるやり方に変えた。

だがそれをボルトネックは素直に受け入れることができなかった。

信念を金で捻じ曲げられたように感じたのも1つの要因だろう。


それと、先代・先々代がこの『民への誓い』を指揮し、それに従い殉じていった仲間たちを見てきた彼にとって

自分たちが間違っていたと認めることは、彼らが無駄死にだと認めることのように感じたのもある。


リーダーという立場上、その引くに引けぬ重責がボルトネックを縛り続ける。


「……だが、金で釣ったという事実には…かわりあるまい」


理解してもらえそうな雰囲気が一転したことで、コウは驚きを隠せなかった。

ボルトネックの立場による重責など理解しようのないコウは、彼の態度が突然豹変したように感じ言葉を失う。


「上手く言い訳をしているが、実際のところ楽して感謝される状況をよろこんでいるだけ…ぬるま湯に浸っているだけではないか!」


「っ、ふざけるな!俺たちがぬるま湯に浸っているだと?盗賊たちを殲滅する過程で、うちの傘下にも犠牲は出ている。それなのにぬるま湯というのか!

 自分たちは失敗して多くの犠牲を出したことで努力したと感じ、こっちは犠牲を最小化すればぬるま湯だと!?そちらがただ無鉄砲なだけだろ!」


説得できそうな雰囲気が失敗へと転じたことで動揺したのか、ボルトネックの挑発気味の批判にコウは思わず噛みついてしまう。

なんとか着地点を探ろうとしていた雰囲気は瓦解し、隣に座るエミリナとシーラは慌てて両リーダーを落ち着かせようと腕や体を引っ張り始める。


だが2人ともなかなか止まろうとしない。

無鉄砲という批判がボルトネックに刺さったのか、話し合いが批判合戦へと転がりだしていく。


「そもそもコウは連合から来たのだろう。金を持っている辺り、準貴崩れとこちらは見ている。そんな人物が村長となり村を治めているあたり

 コウ自身の方が村長たちよりもよほど利権や権力に固執しているんじゃないのか?」


「なっ、ふざけるな!権力に固執するのであれば、この町で権力を奪った方が早いだろ!なんで村をせこせこと発展させてまで権力を手に入れなきゃならないんだ。

 それにこっちはそちらの失敗という山積みの負の遺産を、必死になって減らしてんだ。なのにそっちは遠くから見ているだけで協力すらしない。

 そんな調子だからこそ、そちらの傘下の傭兵たちがこっちに移ってきたんだろうが!現実を、足元をよく見ろよ!」


「言い過ぎです、リーダー。落ち着いてください」


「師匠、落ち着きましょう。これではただの喧嘩です」


席を斜めにしたにもかかわらず、睨み合うボルトネックとコウ。

ボルトネックも結構図星を突かれたことで、思わず口論に持ち込んでしまい引くに引けなくなっている。


一方のコウも権力に固執していたわけではないが、そう思われても仕方ないとは思っていた。

だがそれだけとも思われないよう努力してきた部分を無視され、権力部分だけを批判されたことで思わず我慢していた言葉が口から出てしまう。


一瞬うまく行きかけた流れが総崩れとなり、この話合いは溝を深めるだけの結果となってしまった。

マナも後ろでかなり腹を立てていたが、コウが予想外に怒ったことで何とか冷静に観察するだけでとどまり、手を出すには至らなかった。


最悪の形で終わり、ボルトネックが副リーダーたちを連れて帰る中、最後に残ったエミリナが申し訳なさそうに謝罪する。


「この度は本当に申し訳ありません。そちらの本意はリーダーにもちゃんと伝わっていると思います。ですのでどうか大事には…」


「大丈夫です。師匠もその辺は理解出来る方ですので」


シーラの言葉にほっと胸をなでおろすと、エミリナはリーダーを追いかけるように出て行った。



民への誓いが出て行って、コウはソファーに身を投げ出すかのようにして座る。

大きな溜息を吐き、先ほどの自分の行為を反省しているかのようだった。


「師匠、お疲れ。でも上手くいったと思うよ。向こうにも言いたいこと言えたし、良かったんじゃない?」


マナの言葉にコウは微妙な顔をした。


「後悔、されているのですか?」


エニメットの言葉にコウは再度ため息をついてから口を開いた。


「ここまで動き出しておきながら、今更後悔程度で立ち止まるつもりはないよ。ただ説得が出来なくて残念だっただけだ」


それは本音と言うより、自分自身に言い聞かせるような言葉に聞こえた。

もはや後戻りなど出来やしない。今更後悔してもどうしようもない程、物事は進んでしまっている。


これまでに出た多くの犠牲、これからさらに出るであろう多くの犠牲もまた避けることはできない。

でもそれを最小化したいとは皆が常々考えている。だからこそコウはここで民への誓いと協力できるきっかけを作れればと思っていた。


話の途中、そのわずかな糸口がつかめた気がしたのだが…がむしゃらに伸ばし掴んだ手のひらには…何も残っていなかった。


「言い辛いですが、リーダーのボルトネックは説得不可能だと思います」


「わかってるよ、シーラ。だが、彼らの今までの知識は…こっちも活かしたかったんだけどな」


「それでは、副リーダーの方々はどうでしたか?」


3人もそれぞれ感じていたものはあったが、まずは雰囲気を誰よりも鋭く察するコウにシーラが尋ねる。


「そうだな…エミリナは、ちゃんと話し合えば理解してくれそうだ。もう1人の女性、ルルキナだったか?彼女はどちらかというと内容よりボルトネックに味方する雰囲気かな。

 サンディゴは微妙だ。あまり興味がないって感じだった。ただエミリナのことを気にしていたようなので、彼女を引き込めば一緒に釣れるかもしれない」


「……さすが師匠ですね。エミリナさんは少し気を許している感じだと思ってましたが、後ろの2人はほとんど表情を変えず黙って聞いていただけに見えていました」


「俺としては協力してほしいんだがな…。一瞬そんな雰囲気を感じたが、あの様子じゃ無理だろうなぁ。俺のことを相当怪しんでいたようだし。

 村人たちの被害も減ったし、これからも安定的な状態を維持するためにも、村々を1か所に集めることの方が最善策のはずなんだが…。

 俺がどっか独りよがりで、見えなくなっている部分があるんだろうか……」


「師匠はちゃんと見えていると思うよ。逆に民への誓いはちょっと理想を求め過ぎてると思う。厳しいときは妥協策を連発しておきながら、余裕が出てきたら急に目の前の完璧を目指そうと騒ぐ。

 だから傘下の傭兵たちもこっちに鞍替えしたんじゃないかな。理想に酔っていたんじゃ、せいぜい目の前の問題しか解決できないよ」


「……そうか。まぁ、そうかもしれないな。だが、俺がおかしな方向に進もうとしていたら指摘してくれよ。

 少なくとも今は、このまま村人たちの生活を向上させるための方針を変えずに突き進もう」


「うんっ」

「はい」

「お手伝いいたします」


3人の快諾ともいえる返事を聞き、コウは少し笑顔を見せて天井を見た。



話合いで多少疲れたとはいえ、コウたちもここでゆっくりしている暇はない。

すぐにノナリストコークへと戻るためコウとマナは外で待ち、シーラとエニメットはもう少し中で持っていくものを吟味する。


先に外に出たことで2人だけになったその隙を狙い、マナがコウに話しかけた。


「大丈夫だよ、師匠は自分が思っている以上に立派にやってるから」


その言葉を受け、何度も慰められなきゃいけないくらい状態に見えたかと思ったコウは、気を取り直して笑顔を見せるとマナの横に立った。


「ありがとう。俺もこれが最善策だと信じてやっているし、迷っても立ち止まるつもりはないよ。

 ただ時々思うんだ。周りからの期待を受けて俺はとんでもない方向にみんなを連れて行ってるんじゃないかって…」


「ふふっ、もぅ。中立地帯に行くことになった時点ですでにとんでもない方向だよ、師匠。だから、い・ま・さ・ら」


「そっか。まぁ、言われてみればそうだな。こうなったらやるところまでやらないとな。村人たちのためにも、俺たちのためにも」


「うんっ」


ちょうどいいタイミングで、拠点からエニメットとシーラが出てくる。

2人ともアイテムボックスを使える魔道具を持っているので、見た目ではわからないがそれなりの量を回収していた。


「じゃあ、戻るか」


コウの言葉に3人は笑顔で答えると、そのままオクタスタウンの外へと向かって歩き出した。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

ブクマや評価など頂けるとうれしいです。


次話は2/11(金)更新予定です。 では。

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