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交わることのない二つの道1

ここから再びコウ側になります。

しばらくはこっち側が続くと思います。

光の連合の中枢でごたごたが起こっている頃、その原因となっているコウはそんなことなどつゆ知らず

クエスやボサツと約束した町への昇格に向けて、村人を集める作業を加速させていた。


コウがせっついたこともあり、流星の願いの支配下に置かれた数日後には盗賊団『駿馬』が村への襲撃を開始した。

盗賊団で一番の実力者の負傷が癒えてからすぐに動き出したのだ。


その効果はコウたちが考えていたものよりもはるかに大きかった。

このエリアのほとんどの盗賊たちが殲滅され、ようやく落ち着いた日々が送れると思い安心した矢先の襲撃。


駿馬に襲われた村はどこも混乱し、傭兵たちに助けてもらおうと傭兵ギルドに救いを求めた。

当然ながらその依頼先は、このエリア一帯の盗賊を殲滅して回っている流星の願いである。


だがその依頼を見たコウは無情にも村へと通達を出した。

その内容はこうである。


・今の住処を捨て、我々が構えている村へと合流せよ。こちらは数十名の傭兵が常駐しており安全が確保されている

・残り1つとなった盗賊団は他のエリアからやって来る盗賊団の防波堤にもなるため、殲滅すれば済む話ではない

・合流を拒むのは自由だが、その場合は各々で対処願いたい


これにより、各村は流星の願いが頼りにできないと判断し『民への誓い』に助けを求めたが

傘下にいた主戦力の傭兵団を奪われた彼らでは戦っても負ける可能性が高く、駿馬に村人たちを殺さないよう交渉するだけで精一杯だった。


もちろん駿馬側はコウとの約束もあり村人たちを殺すつもりはないので、その約束をすんなりと飲む。

代わりに民への誓いは駿馬の襲撃に関して、村に大きな被害が出ない限り関与できなくなった。


民への誓いはこの約束を村人たちへ伝えて安心させようとするが、もともと死者は出ておらず、2日おきにどこかの村が襲われるという過剰な襲撃に頭を悩ませていた村人たちは再度助けを求めた。

だが民への誓い側は約束した手前下手に動けなくなっており、誰も助けてくれない状況だと悟った各村の村長は頭を抱えることになった。


そして1週間ほど経った頃、襲撃を2度も受けた村1つと、その噂を聞き自分たちだけでやっていくことを諦めた村1つがノナリストコークへと合流することを決めた。


またかねてより進めていた村に常駐する傭兵団の引き抜きも進み、駿馬が襲撃頻度を高めている噂との相乗効果で、常駐傭兵がいなくなった村2つが

同じくノナリストコークへの合流を渋々決断したのである。


こうしてあれから10日ほどで、ノナリストコークは町への昇格条件である2千名の人口を超える算段が付いた。

この進捗状況を聞いて慌てたのが、オクタスタウンの傭兵ギルド支部長フューレンスである。


ひと月以内に支部を開設しようと準備を進めていたが、あまりの早さに大慌てで対応せざるを得なくなった。



オクタスタウン内、傭兵ギルドの支部長室。

ここ最近は2日に1度コウがフューレンスの元を訪ねている。


「これが最新の進捗状況ですね。うまくいけば5つ目の村も合流してくれそうな雰囲気です」


「こちらもようやく申請が通りました。今すぐにとはいきませんが、数日後にはそちらの村で支部を開設できそうです。

 何とか町になる前に開設でき、形式上の問題は回避できそうです。しかし、ここまで早いとは聞いていませんでしたよ」


「皆が一生懸命動いてくれてますから」


その言葉が盗賊の事も含んでいることはわかっていたが、フューレンスは敢えて触れない。

彼女もまたコウの作戦に一口噛んでいるのだ。今更正義面できないことくらい十分にわかっている。


「で、具体的にはいつになります?こちらがお願いして支部を作ってもらう以上、村への移動は我々が護衛すべきですからね」


コウの『こちらがお願い』という部分によく言うなと思いつつフューレンスは考える。

この件は誘われたとはいえ、フューレンス自身得になると思い乗った話だ。


そしてここはコウたちとフューレンスしかいない場。

建前など必要ないのにあえて建前を述べるあたり、コウが情報漏れに慎重になっていることが伺える。


「そうですね。4日後の昼前には移動の準備が完了するはずです。その時に護衛していただけるようお願いしておきます」


「了解しました。しかし支部の許可も出ているのに4日とは、結構準備がいるんですね」


「向こうに必要な物資などはすでに揃えているのですが、補充人員がまだ派遣されていないのです」


「えっと…そんな大所帯になるんですか?1階部分は以前お見せしたように完成していますが、2階以上はまだ建設中で…」


「もうすぐ町へと昇格する村ですよ。しかも常駐する傭兵たちは百名超え、職員が2,3名ではとてもじゃないですが回りません」


傭兵ギルドの賑わう時間は朝と夕方が多いとはいえ、いざという時のためにも夜でも最低限の対応は出来ないといけない。

魔物の来襲や盗賊たちの襲撃が必ず明るい時に起きるわけではないからだ。


夜間は事後処理になるとはいえ、緊急事態時にはある程度報酬の指針を出す必要がある。

いくらその村や町に常駐する傭兵とて、何の約束もない条件下では命を懸けてくれたりはしないからだ。


ある程度マニュアル化されてるとはいえ、傭兵ギルドの職員が報酬の発表をしなければ、傭兵たちだって二の足を踏んだり逃げ出す者も出かねない。

コウが管理しているノナリストコークではそのようなことは起きないと思われるが、それはそれでギルドの立場がなくなってしまう。


「それと、今回はそちらの依頼ということで1階部分の費用は一時的に出してもらいましたが、町へと昇格した際にはその費用もギルド側が支払ますのでご安心を。

 といっても、それもすぐの事なのでお金の準備はしておかなければなりませんね」


その後も細かい調整の話が続く。

お互い後でもめないように、決めたことを文字に起こしてその書類に互いの魔力をしみこませた。


「では、4日後にお会いしましょう。お待ちしています」


「ええ。あっ、そうだ。最近ここに来るたびに、1階の職員に村を救ってほしい依頼が来ていると押し付けられるんですよ。あれどうにかなりません?」


「裏であなたが動かしていることは、誰も知らない事ですし、知ってはならない事でしょう。でしたらそれは、仕方のないことでは?」


支部長権限で止めることは可能だが、それをすればその理由を探り疑う者が出てしまう。

コウもそれくらいはわかっていたが、来るたびに毎度毎度ギルド職員が必死に伝えてくるのを断り続けるのは良い気持ちがせず、ダメ元で言ってみただけだった。


「ですね、では」


そう言ってコウは席を立ち、マナとエニメットとシーラを連れて部屋を出て行く。

それを見届けたフューレンスは扉が閉まると同時に肩の力を抜き、大きなため息をついた。


本来傭兵ギルドの支部長となると、町に所属する傭兵団に指示を出したりしきる立場に近い。

だが村長であり将来的には町の実質的な支配者である相談役となるコウに対しては、その距離感と立場を測りにくいことから、こうした会談にはかなり気を使う羽目になっていた。



1階に降りると、待ってましたと言わんばかりにギルド職員が声をかけてくる。

いかついおっさんではさらりと断られることから、ギルド側も声をかける役目は女性にしていた。


職員の女性は慌てた様子でコウに近づいてい来ると、息を切らしつつ申し訳なさそうな表情で話し始める。


「流星の願いのコウ様。また別の村から盗賊退治の指名依頼が来ております。これでもう6件目です。今依頼を受ければ6件分の報酬と評価が得られますが…」


「悪いけど断らせてくれ。今は別のことでかなり忙しくて手が回らないんだ。それに残っている盗賊団もあと1つって言われてるし、被害もかなり減っていると聞いている。

 そういや民への誓いが村人たちを殺さないように約束を取り付けたと耳にした。実際、村人に死者は出てないって話だろ。緊急の案件とは思えないんだけど」


「そ、それはそうなんですが…。ですが村人たちがさらわれたり住宅が破壊されたりと、決して被害がないわけではなくて…。

 この一帯で50人規模の盗賊団を黙らせることが出来るのは、流星の願いの一団以外いないのです。

 ほかのエリアから…となればいるのですが、コストと時間、それに流星の願い程被害を出さず盗賊たちを片付けられる一団はなかなかいないんですよ。

 エリアごとに戦力バランスというのもありまして、軽々に頼ることも出来ず…」


他のエリアから盗賊退治に傭兵たちが来ることをすっかり失念していたコウは、それを指摘されて少し考えこんだ。


とはいえこのエリアから盗賊を殲滅したところで、新たな盗賊団が別の場所からやってくれば遠征討伐の意味も薄れてしまう。

大きなコストをかけてまでいたちごっこをするようなアホはいないだろうと思えば、その不確定要素も特に問題はないと判断し考えるのを止めた。


「人的被害が連れ去りくらいであれば、被害が拡大した時点でこちらが開放するよう圧をかけるようにするよ。

 どのみち今はあまり余裕がなくて他のことに手をつけられないんだ。申し訳ない」


コウが無難に職員の説得を回避して歩き出すと、他の職員たちも残念そうにしていた。

そのまま建物の外に出ようとすると、外から見知った人物が1名入ってきた。


コウたちが来るまでは村人たちを救う活動をしていた傭兵団の中でも最大規模の集団、民への誓いの副リーダーエミリナである。

彼女はコウたちの目の前で立ち止まると、ちょっと言いにくそうにしながら声をかけて来た。


「お久しぶりです。流星の願いのリーダー、コウ。その、申し訳ないのですが、少しお時間をいただけませんか?」


この状況が続けばコウたちが動かないことにいら立ち接触してくるだろうと思っていたが、思ったよりも早かったなと思いコウは少し不機嫌そうになる。

が、どうせ無視したところで付きまとわれるのが落ち。


下手に騒がれて町への昇格を妨害されるのが最悪のケース。

そう考えると相手せざるを得ず、コウは仕方なく返答した。


「ボルトネックは…外にいるのか?」


「はい。少しでもいいから話がしたいと」


彼の考え方や性格から少しでは済まないだろうと思いつつも、ここは話す機会を設けることにする。


「わかった。すぐ近くの俺たちの拠点で話そう」


「ありがとうございます、すみません」


エミリナはあまり乗り気でない様子だったが、それでもこうしてコウを呼びに来た。

そうせざるを得ないほどボルトネックが感情的になっているのだと考えると、コウはその厄介さを考え軽くため息をつく。


村人を守ろうとする出発点は同じだったかもしれないが、気がつけばリーダーである2人は全く違う方を向いていた。

既に賽は投げられた。多くの者を巻きこみ物事は進んでいる。


以前なら話し合うことも出来たかもしれないが、今更もう後戻りはできない。


多くの傭兵たちがボルトネックではなくコウの方を選びついて来ている。

村人たちは犠牲者を出しながらでも、コウを信じてついて来ている。

その信頼が、重圧が、コウに立ち止まって再考する機会を奪っていた。

今話も読んでいただきありがとうございます。


新章にしてもいいかなーと思いつつも、学園編まではこのままでもいいかなと思いました。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

感想や評価をいただけるとうれしいです。特に感想は色々な視点を感じられてありがたいですね。

ブクマもしてもらえるとうれしいです。


次話は、2/4(金)更新予定です。 では。

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